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黒乃

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第三話

第四十六節 前途洋洋

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 新しい生活が始まる、4の月。ミズガルーズ国家防衛軍士官学校では、新しく入校してきた生徒たちが姿勢を正して並んでいる。彼らを指導する教官の一人が壇上に上がり、彼らに激励の言葉をかけていた。その教官は最後に、こう締めくくる。

「ミズガルーズ、ひいてはこの世界の平和と市民の安全を守る志を持って、三年間の厳しい日々を、どうか心折れずに。最後まで、諸君らには訓練に励んでほしい」

 教官の言葉に新入生たちは全員で返事を返す。そして一時間後より、第一講義室で座学の授業が開始されるとアナウンスを受けた。本日受けるのは魔力基礎構成学、だったか。マナの扱いに関しては、魔法学園でも習ってきた。それとはまた違うのだろうかと考えながら一度部屋に戻り、座学に必要なものを用意する。第一講義室での着席順は自由だが、なるべくならいい席で講義を聞いておきたい。一人そう考えていたが、不意にスグリに名前を呼ばれる。どうやら考えていることは、自分と同じだったようだ

「なぁヤク」
「わかってるよ。早めにいい席を確保しよう」
「本当、お前がルームメイトでよかったよ。行こうぜ」
「うん」

 第一講義室に到着する。どうやら、自分たちと同じことを考えていた士官学生は多かったようだ。すでに多くの士官学生が着席して、教科書を開いていた。その光景を目にして、士官学生たちの中でも競争があるのだと改めて実感させられる。
 ヤクとスグリも空いている席の中でも抗議が聞きやすい場所に着席して、教科書を開く。これから受ける魔力基礎構成学について記されているページに、目を落とす。

 魔力基礎構成学を知るにはまず、この惑星内での魔術の在り方について理解する必要がある、とページの最初の行に記されていた。

 この惑星カウニスの内側には、地上より遥か天上に聳え立つ世界樹──別名ユグドラシル──と謳われている樹が存在している。世界樹はこの惑星が生まれたときから存在しており、数百年経った今でも枯れることなく、青々と聳えている。そしてその樹の葉から世界中に注がれているエネルギー体のことを、マナと呼ぶ。
 マナは空気中の酸素と同じで、あらゆる生物の中に巡るもの。マナは作物に宿ると豊富な栄養素が育まれ、質の良い農産物の生産が可能になる。

 このマナは、鍛錬次第でヒトが自在に操ることが出来る、とのこと。マナは変化に弱い性質を持っているのだ。変化する属性には地水火風に加えて光と闇、そして地水火風の延長線ともいえる火炎、氷、雷などがある。またこれは存在が確立されているわけではないが、カウニスに存在する種族によってはどの属性にも属さない、無属性のマナへの変化を得意とする場合もある、とのことだ。
 自身の内側に巡るマナを活性化させ、空気中に存在するマナに衝撃を与えることで、マナを任意の属性へ変化させることが可能になる。しかし変化させるマナの属性には個人個人で適性があり、属性に適さないマナへの変化は原則として不可能である、と。
 そこまで目を通したのだろうか、スグリがぽつりと言葉を零す。

「つまりこれって、一人一人によって変化させることが出来るマナの属性が違うってことか……?」
「多分そうだと思う。ヒト一人が変化できるマナの属性には、限度があるってことだね」
「言われてみれば、学校でもマナは便利だけど万能じゃないって先生が言ってたもんな。なるほど、それってこういうことか」
「この魔力基礎構成学は、マナの性質を改めて理解するための教科なんだろうね」
「そうかもな」

 その後も互いに意見を出し合いながら教科書に目を通していたが、数名の教官が講義室に入室してきたことで会話が止まる。雑談の声がなくなったと判断した教官たちが用意してきたのであろうか──とある球体を、生徒一人一人に渡していく。
 球体は大きさは片手に収まるサイズであり、見た目は何の変哲もないただの水晶体。これで何をするのだろうかと考えていると、教官の一人が説明する。

「さて、本日の講義を始める。今お前たちに渡した球体は、お前たち自身の適正属性を知るためのものだ」

 適正属性。聞き慣れない言葉だ。教科書を開けと指示を受けてから、教官の講義を聞く。適正属性とは、マナの変化の中で己が最も得意とする属性のこと、だそうだ。先に教科書で見た通り、マナは衝撃を受けることでその性質を変化させるという特徴を持つ。人によってマナの変化の属性には得意不得意があり、それを知ることが軍人としての第一歩、とのこと。

 またこの適正属性にはいくらかのルールが存在するらしい。全ての属性は、それぞれに力の上下関係があるのだという。火が水で搔き消されてしまうように、マナとは言えども属性変化した後のその在り方は、自然界の掟に縛られてしまうのだそうだ。
 つまり火が適正属性である人物は、マナを水属性に変化させることは不可能である、と説明を受ける。むろん修練や鍛錬を重ねれば、その不可逆を超える可能性も高められる。しかし確率としてはあまりにも低いため、期待しない方が身のためだとも釘を刺されてしまった。いわゆる、適材適所だと。

「人それぞれに適正属性は必ず存在する。人によっては属性が一つに特化している者や、複数の属性の適性が存在している者もいる」

 教官のその説明に、士官学生たちは手に持っていた水晶体に羨望の眼差しを向ける。己の適正属性を早く知りたい、第一講義室内の空気が雄弁にそう物語っている。
 他にも教官は、己の適正が一つの属性だけだとしても、それを悲観することはないと語った。一つの属性に特化している場合は、属性の威力を高めてその性質をより強固なもの変化させることが可能だそうだ。つまり火の属性が火炎の属性になり、風の属性が嵐の属性に変化するようなもの、とのこと。むろん最初から火炎や氷の属性に適した者もいる。そこはやはり、千差万別なのだそうだ。

「ではこれから己の適正属性を調査する作業に移る。全員己の内に流れるマナを、水晶体に流し込むイメージを想像しろ」

 水晶体の中に最初に浮かんだものが、己の最も適した属性らしい。複数の属性に適正がある人物は、数秒間の間に景色が映り替わるのだそうだ。適正が高い順から景色が浮かび、適性が低い属性は映る景色も数秒間のみらしい。
 体内のマナを巡らせる練習は、魔法学園で習ったうえにルーヴァからも、マナは血液と同じように体内に巡るものだとコツを教わっていた。

 自分の体内に巡っているマナをまずは、掌に集めるようなイメージを膨らませる。イメージが固まっていくのに比例するかのように、両手がほんのりと温かみを帯びていく。この温度変化はマナが集束されているという証拠だ。
 手の温度──集束しているマナを、今度は球体の中に注ぎ込むようなイメージを想像していく。水晶体の中をマナで満たすようなイメージだ。そんなイメージが強固になった直後のこと。

「っ!?」

 水晶体の中に、凍てつくような氷が出現する。次いで氷の中に闇が浮かび、最後に一瞬だけ水が流れた。その水も、最後は氷に包まれ凍てついてしまった。この水晶体の結果を見る限り、己の最も適正した属性は氷だという判定になる。そんなヤクの水晶体を見たのだろうか、スグリが感嘆の声を漏らした。

「最初から氷属性に適正があるとか、やっぱりお前凄いな」
「そうなのかな……?それよりも、スグリは?」
「俺はまぁ、こんな感じ」

 スグリがヤクに、己の水晶体を見せる。スグリの水晶体の中では風が吹き荒れ、光が瞬いてから、一瞬だけ火が灯った。彼の適正属性は風と光が中心らしい。その結果にヤクは、スグリらしいと考える。彼のからっとした性格は確かに、風のような心地よさと安心感を覚える。

「水晶体は講義の最後に提出してもらう。その適正を基準に、訓練時の最初のグループ分けの参考にする。頭に入れておくように」

 その後も講義は続き、その日の魔力基礎構成学の座学が終了する。このあとは実技訓練に入るとのことで、一度準備のために寮の部屋に戻ることになった。水晶体はしっかりと提出した。

 士官学校に入学して初めての実技訓練は、それぞれの科でまとまって行うとのことだ。剣術専攻科は武器を持参するようにと、事前に言われていたらしい。スグリは訓練着に着替えた後、己の武器をチェックしていた。ちなみにヤクのいる魔術専攻科は、本日の訓練においては武器は必要がないと説明を受けた。武器を使わずにどうやって訓練をするのか、まったく想像がつかないが。

「今日はあとはずっと実技訓練だったよな?」
「うん。訓練を終えたら、今日はあとは自由行動のはずだよ」
「食堂が開いているうちにシャワーとか浴びれたらいいんだけど」
「そこは、やっぱり競争じゃないかな?」
「だよなぁ」

 支度が終わって軽く笑いながら雑談を交わすが、部屋を出た瞬間二人の表情が引き締まる。お互い目で会話してから、挨拶かのように拳を突き合わせる。

「そんじゃ、またあとで」
「うん。そっちも頑張って」
「ありがとな」

 それから二人は、それぞれの実技訓練に指定された場所へと向かうのであった。
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