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第三話
第五十九節 永久不変の愛の象徴
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ヴァダースはこれまでのメルダーの告白で、もはや真っ直ぐに彼の表情を見ることはできなかった。顔を逸らし、唇を噛む。心の中で繰り返した。どうして、こんなことになってしまったのか。こうなる前に、どうしてもっと早く止めることが出来なかったのか。
「メルダー……」
どう言葉をかけていいのか分からない。こうして名前を呼ぶのがやっとだ。
カーサの最高幹部としてのヴァダースは、組織の裏切者であるメルダーを殺害しなければならない。しかしヴァダース・ダクターという一人の人間にとって、メルダーは初めて家族以外で愛せた、たった一人の恋人だ。恋人を平然と殺せるほど、ヴァダースは化け物染みてはいなかった。
そんな、身動き一つできない今なら簡単に自分を殺せるはずなのに。メルダーはその場から動こうとはしなかった。しばらく炎に見守られていた二人だが、やがてメルダーが口を開く。
「でも……俺はもう誰かを、ヴァダースさんを、裏切れません。裏切りたくない」
そう口にしたメルダーは手にしていた短剣を落として、両腕を広げた。何もかも受け入れるような体勢に、脳内で警鐘が鳴り響く。その先の言葉を聞いてはいけない。その言葉を聞いてしまったら、もう逃げ道がなくなってしまう。
「ちゃんと償います。だから……俺を殺してください、ヴァダースさん」
彼の告白に、ヴァダースは今度こそ指一本動かせなくなった。今の言葉の意味がどういうものか、わかっているのだろうか。なんで、こうも──。
「な、にを……なにを、言っているか……貴方は、わかっているのですか!?」
「わかってます。だからこそです。いつか言った俺の願いを、叶えてほしいんです」
──もし、もしもですよ?俺が貴方を裏切るようなことがあれば。その時はヴァダースさんの右目で殺されたいです。
最後に肌を重ねたあの日に言ったメルダーの冗談。
自分の目で殺されたいと言われ、あの時はふざけた冗談を言うなと叱責した。今にして思えば、あの時にはすでにメルダーは察していたのだろう。己がスパイだということをヴァダースに気付かれた、と。
メルダーの願いに、しかしヴァダースは歯を食いしばる。頭に手をやり、絞り出すように言葉を零す。
「そんなこと……出来るわけがないでしょう……!己を殺して欲しいなんて願う恋人が、どこにいるんですか……」
「でも俺は、カーサの裏切者ですよ。俺を匿えば、貴方も俺と同罪になってしまう。そんなの、俺の方が嫌です。ヴァダースさんには、俺みたいになってほしくない」
「それは貴方の都合だ。ヴァダース・ダクターは、貴方を殺したくない……!」
「……ヴァダースさん……」
「みんな勝手なんですよ!勝手に自己満足して、こちらの都合なんて考えようともしない。いつもそうだ、いつも誰もが私を置いて行ってしまう。少しは残される方の身にもなってほしい!」
それまでの感情が炎のように燃え上がり、ヴァダースの口をついて吐き出される。八つ当たりするかのようにメルダーに叫び、感情を噴出させた。
「償う?裏切りたくない?そんなの私には関係ありません!私の前にいる貴方は、私が愛したメルダー・ラフィネだけだ。それ以外の貴方の顔なんて、あるわけがないんです!」
己に言い聞かせるように紡がれる言葉の羅列。やがて炎が収まったかと思えば、燃え滓の中の、燻ぶった小さな火が弾ける。
「……うそつき……いなくなったりしないって、言ってたじゃないですか……」
「……、……ごめんなさい」
「……本当に、殺すしか……ないんですか……?」
「はい……。俺にはどのみち、生き残る道はない。だったら最後くらいは……自分の納得できる死に方で、死にたい。ヴァダースさんには、つらいことをお願いしてしまって本当に申し訳ありません」
謝罪したメルダーの言葉を聞いて、ゆっくりと顔を上げる。そこには申し訳なさそうに眉を下げながらも、笑顔で待っている恋人の姿。その姿を見て、メルダーはとっくに覚悟が出来ていたのだと察した。ヴァダースには足りなかったものだ。
メルダーがスパイであると──そんなことないと現実逃避して、勇気が出せないままの臆病者の自分とは、まるで違う。メルダーの姿を前に、本当に選択肢はそれしかないのだという現実を突きつけられ、ヴァダースの心は瓦解しそうだった。
崩れ落ちそうになる身体をどうにか支えて、ダガーを構えた。しかし手が震える。照準を合わせられない。こんな結末を迎えたくないと、本能が現実を拒否している。詠唱もままならない──やはり自分にはできないと強く感じた直後、慌てたようなメルダーの声が届いた。
「ヴァダースさんっ!」
その声のあと、自分の身体が押されたような強い衝撃。はっと我に返る。
視界の先では、数メートル先にいたはずのメルダーが今まで自分がいた場所にいて、彼の脇腹辺りに別の人物がいた。その人物は突進してきたような体勢で、メルダーはその突進を受けたような姿勢になっている。
ようやく状況が掴めた。メルダーが身を呈して自分を守ったのだと。気付いてからのヴァダースの行動は早かった。メルダーに突進をしたままの人物に対してダガーを投擲。それらは確かな軌道を描き、直撃。ヴァダースのダガーが直撃した人物はそのまま地面に倒れた。
「メルダー!」
地面に膝をついたメルダーの無事を確認するため、傍に寄る。メルダーはわき腹を抑えながら、地面を見ていた。そんな彼の肩を掴んで声をかけようとして、地面に転がった注射器が目に入る。
注射器には何やら液体が入っていたようで、筒の部分の内側が濡れている。外側に張られているラベルに記されてある文字を見ても、ヴァダースには成分が分からなかった。毒だろうか。一方のメルダーは何かを悟ったようで、小さく笑う。
「……ああ、これも因果応報、かな……」
「なにを打たれたんですか?」
「……俺が打たれたのは、世界保護施設で開発していた……ウイルス薬です。魔物の死骸を利用して完成を目指していた、人間を魔物に変化させる劇物……。それを、ヴァダースさんに打とうと……したんでしょうね。間に合ってよかった……」
「なっ……!」
衝撃の事実に、頭を鈍器で殴られたかのようだった。
彼の言葉が本当なら、メルダーは──。
「解毒薬は!?」
「貴方を殺そうとした奴が、打った薬ですよ……。あると思いますか……?」
「そんな……!いえそれよりも、どうして私を庇ったんですか!貴方の目的が私を殺すことなら、そんなことしなければ……!」
「言ったじゃないですか。俺はもう、貴方を裏切りたくないって……ッ……!」
メルダーは息を呑むと、自分の腕を掴む。薬は即効性のあるものだったのか、彼の腕が人間ならざるものに変化し始めてしまった。時折ビクリとメルダーの身体が痙攣を起こすたび、彼の身体が魔物の姿へと変わっていく。
「メルダー!」
「ッ……、ヴァダース、さん……。こんなこと、お願いするの……烏滸がましいってわかってる、けど……聞いてほし、イ……」
「嫌です、諦めないでくださいメルダー!こんなのって……!!」
「俺の、代わりに……あの子ヲ……コルテ、をどうか、おネがいしま、す……。結社にも、世界保護施設にも……渡さないで……!」
それから、とメルダーはまだ残されている人間の手でヴァダースのコートの襟を掴み、引き寄せた。メルダーの唇がヴァダースの唇に重なり、口づけが交わされる。その瞬間だけ、周りの時間が止まったかのようだった。
ゆっくり、唇が離れて。
目の前の恋人が、いやに幸せそうに微笑んで。
「ヴァダースさん……俺、貴方を愛してます」
さようなら。
それが、ヴァダースが聞いたメルダーの最後の言葉だった。メルダーはそれだけ言うとヴァダースを突き飛ばし、うめき声をあげていく。ヴァダースは必死に彼の名前を叫び呼び掛けるも、もはや彼には届いていない様子だった。
「メルダーッ!!」
ヴァダースの声に反応する者はいない。目の前のメルダーだった人物は発狂するような叫び声を上げて、完全に魔物へと変貌してしまう。そして呼びかけを止めないヴァダースの声を敵と認識したのか、そのままヴァダースに向かって襲い掛かる。
「っ!?」
反応が遅れたヴァダースはメルダーだった魔物の攻撃が直撃し、数メートル先まで吹き飛ばされた。地面を滑るかたちで受け身を取ってしまう。しかしメルダーは攻撃の手を緩めず、ヴァダースとの距離を一気に詰めた。
彼は凶悪な姿に変わった手を振り上げ、刃物のような爪でヴァダースを切り裂そうとする。どうにか立ち上がるも避け切れず、ヴァダースは右の横髪をバッサリと切られた。衝撃で眼帯も切れて、地面に落ちる。
魔物となり果てたメルダーは攻撃の手を緩めない。体勢を整えようとしたヴァダースの首を掴み、そのまま彼を瓦礫の壁に叩きつけた。そのまま、ぐぐ、と気道を絞められる。全身の痛みで反撃もままならず、首を絞めている彼の腕を掴むのがやっとだ。
ヴァダースの言葉は何一つ、魔物のメルダーには通じない。人間だったメルダーはもう、この世のどこにもいない。
脳内で走馬灯のように、彼との思い出がよみがえる。最初こそ嫌っていたが、失うことを恐れるまでに愛した、たった一人の人。
自分に殺されたい、メルダーの最後の願い。
そんな彼が、魔物の姿のまま苦しむのならば──。
「わ、たし、は……ッ……!」
彼の願いを、叶えよう。
涙を流しながら残っている力を振り絞り、ヴァダースは己の首を絞めていたメルダーの魔物の腕を力強く掴み、どうにか首から引き離す。ほんの少しだけでいい、この一言が言えるだけの時間さえあれば。
「私は、貴方の生命を否定するッ!!」
開眼した右目で魔物を睨む。
右目を通して見えた、視界に映る人物の魂の形はメルダーそのもので。
落とせば壊れてしまうガラス細工のようなその魂を、右目の力で砕いたのであった。
「メルダー……」
どう言葉をかけていいのか分からない。こうして名前を呼ぶのがやっとだ。
カーサの最高幹部としてのヴァダースは、組織の裏切者であるメルダーを殺害しなければならない。しかしヴァダース・ダクターという一人の人間にとって、メルダーは初めて家族以外で愛せた、たった一人の恋人だ。恋人を平然と殺せるほど、ヴァダースは化け物染みてはいなかった。
そんな、身動き一つできない今なら簡単に自分を殺せるはずなのに。メルダーはその場から動こうとはしなかった。しばらく炎に見守られていた二人だが、やがてメルダーが口を開く。
「でも……俺はもう誰かを、ヴァダースさんを、裏切れません。裏切りたくない」
そう口にしたメルダーは手にしていた短剣を落として、両腕を広げた。何もかも受け入れるような体勢に、脳内で警鐘が鳴り響く。その先の言葉を聞いてはいけない。その言葉を聞いてしまったら、もう逃げ道がなくなってしまう。
「ちゃんと償います。だから……俺を殺してください、ヴァダースさん」
彼の告白に、ヴァダースは今度こそ指一本動かせなくなった。今の言葉の意味がどういうものか、わかっているのだろうか。なんで、こうも──。
「な、にを……なにを、言っているか……貴方は、わかっているのですか!?」
「わかってます。だからこそです。いつか言った俺の願いを、叶えてほしいんです」
──もし、もしもですよ?俺が貴方を裏切るようなことがあれば。その時はヴァダースさんの右目で殺されたいです。
最後に肌を重ねたあの日に言ったメルダーの冗談。
自分の目で殺されたいと言われ、あの時はふざけた冗談を言うなと叱責した。今にして思えば、あの時にはすでにメルダーは察していたのだろう。己がスパイだということをヴァダースに気付かれた、と。
メルダーの願いに、しかしヴァダースは歯を食いしばる。頭に手をやり、絞り出すように言葉を零す。
「そんなこと……出来るわけがないでしょう……!己を殺して欲しいなんて願う恋人が、どこにいるんですか……」
「でも俺は、カーサの裏切者ですよ。俺を匿えば、貴方も俺と同罪になってしまう。そんなの、俺の方が嫌です。ヴァダースさんには、俺みたいになってほしくない」
「それは貴方の都合だ。ヴァダース・ダクターは、貴方を殺したくない……!」
「……ヴァダースさん……」
「みんな勝手なんですよ!勝手に自己満足して、こちらの都合なんて考えようともしない。いつもそうだ、いつも誰もが私を置いて行ってしまう。少しは残される方の身にもなってほしい!」
それまでの感情が炎のように燃え上がり、ヴァダースの口をついて吐き出される。八つ当たりするかのようにメルダーに叫び、感情を噴出させた。
「償う?裏切りたくない?そんなの私には関係ありません!私の前にいる貴方は、私が愛したメルダー・ラフィネだけだ。それ以外の貴方の顔なんて、あるわけがないんです!」
己に言い聞かせるように紡がれる言葉の羅列。やがて炎が収まったかと思えば、燃え滓の中の、燻ぶった小さな火が弾ける。
「……うそつき……いなくなったりしないって、言ってたじゃないですか……」
「……、……ごめんなさい」
「……本当に、殺すしか……ないんですか……?」
「はい……。俺にはどのみち、生き残る道はない。だったら最後くらいは……自分の納得できる死に方で、死にたい。ヴァダースさんには、つらいことをお願いしてしまって本当に申し訳ありません」
謝罪したメルダーの言葉を聞いて、ゆっくりと顔を上げる。そこには申し訳なさそうに眉を下げながらも、笑顔で待っている恋人の姿。その姿を見て、メルダーはとっくに覚悟が出来ていたのだと察した。ヴァダースには足りなかったものだ。
メルダーがスパイであると──そんなことないと現実逃避して、勇気が出せないままの臆病者の自分とは、まるで違う。メルダーの姿を前に、本当に選択肢はそれしかないのだという現実を突きつけられ、ヴァダースの心は瓦解しそうだった。
崩れ落ちそうになる身体をどうにか支えて、ダガーを構えた。しかし手が震える。照準を合わせられない。こんな結末を迎えたくないと、本能が現実を拒否している。詠唱もままならない──やはり自分にはできないと強く感じた直後、慌てたようなメルダーの声が届いた。
「ヴァダースさんっ!」
その声のあと、自分の身体が押されたような強い衝撃。はっと我に返る。
視界の先では、数メートル先にいたはずのメルダーが今まで自分がいた場所にいて、彼の脇腹辺りに別の人物がいた。その人物は突進してきたような体勢で、メルダーはその突進を受けたような姿勢になっている。
ようやく状況が掴めた。メルダーが身を呈して自分を守ったのだと。気付いてからのヴァダースの行動は早かった。メルダーに突進をしたままの人物に対してダガーを投擲。それらは確かな軌道を描き、直撃。ヴァダースのダガーが直撃した人物はそのまま地面に倒れた。
「メルダー!」
地面に膝をついたメルダーの無事を確認するため、傍に寄る。メルダーはわき腹を抑えながら、地面を見ていた。そんな彼の肩を掴んで声をかけようとして、地面に転がった注射器が目に入る。
注射器には何やら液体が入っていたようで、筒の部分の内側が濡れている。外側に張られているラベルに記されてある文字を見ても、ヴァダースには成分が分からなかった。毒だろうか。一方のメルダーは何かを悟ったようで、小さく笑う。
「……ああ、これも因果応報、かな……」
「なにを打たれたんですか?」
「……俺が打たれたのは、世界保護施設で開発していた……ウイルス薬です。魔物の死骸を利用して完成を目指していた、人間を魔物に変化させる劇物……。それを、ヴァダースさんに打とうと……したんでしょうね。間に合ってよかった……」
「なっ……!」
衝撃の事実に、頭を鈍器で殴られたかのようだった。
彼の言葉が本当なら、メルダーは──。
「解毒薬は!?」
「貴方を殺そうとした奴が、打った薬ですよ……。あると思いますか……?」
「そんな……!いえそれよりも、どうして私を庇ったんですか!貴方の目的が私を殺すことなら、そんなことしなければ……!」
「言ったじゃないですか。俺はもう、貴方を裏切りたくないって……ッ……!」
メルダーは息を呑むと、自分の腕を掴む。薬は即効性のあるものだったのか、彼の腕が人間ならざるものに変化し始めてしまった。時折ビクリとメルダーの身体が痙攣を起こすたび、彼の身体が魔物の姿へと変わっていく。
「メルダー!」
「ッ……、ヴァダース、さん……。こんなこと、お願いするの……烏滸がましいってわかってる、けど……聞いてほし、イ……」
「嫌です、諦めないでくださいメルダー!こんなのって……!!」
「俺の、代わりに……あの子ヲ……コルテ、をどうか、おネがいしま、す……。結社にも、世界保護施設にも……渡さないで……!」
それから、とメルダーはまだ残されている人間の手でヴァダースのコートの襟を掴み、引き寄せた。メルダーの唇がヴァダースの唇に重なり、口づけが交わされる。その瞬間だけ、周りの時間が止まったかのようだった。
ゆっくり、唇が離れて。
目の前の恋人が、いやに幸せそうに微笑んで。
「ヴァダースさん……俺、貴方を愛してます」
さようなら。
それが、ヴァダースが聞いたメルダーの最後の言葉だった。メルダーはそれだけ言うとヴァダースを突き飛ばし、うめき声をあげていく。ヴァダースは必死に彼の名前を叫び呼び掛けるも、もはや彼には届いていない様子だった。
「メルダーッ!!」
ヴァダースの声に反応する者はいない。目の前のメルダーだった人物は発狂するような叫び声を上げて、完全に魔物へと変貌してしまう。そして呼びかけを止めないヴァダースの声を敵と認識したのか、そのままヴァダースに向かって襲い掛かる。
「っ!?」
反応が遅れたヴァダースはメルダーだった魔物の攻撃が直撃し、数メートル先まで吹き飛ばされた。地面を滑るかたちで受け身を取ってしまう。しかしメルダーは攻撃の手を緩めず、ヴァダースとの距離を一気に詰めた。
彼は凶悪な姿に変わった手を振り上げ、刃物のような爪でヴァダースを切り裂そうとする。どうにか立ち上がるも避け切れず、ヴァダースは右の横髪をバッサリと切られた。衝撃で眼帯も切れて、地面に落ちる。
魔物となり果てたメルダーは攻撃の手を緩めない。体勢を整えようとしたヴァダースの首を掴み、そのまま彼を瓦礫の壁に叩きつけた。そのまま、ぐぐ、と気道を絞められる。全身の痛みで反撃もままならず、首を絞めている彼の腕を掴むのがやっとだ。
ヴァダースの言葉は何一つ、魔物のメルダーには通じない。人間だったメルダーはもう、この世のどこにもいない。
脳内で走馬灯のように、彼との思い出がよみがえる。最初こそ嫌っていたが、失うことを恐れるまでに愛した、たった一人の人。
自分に殺されたい、メルダーの最後の願い。
そんな彼が、魔物の姿のまま苦しむのならば──。
「わ、たし、は……ッ……!」
彼の願いを、叶えよう。
涙を流しながら残っている力を振り絞り、ヴァダースは己の首を絞めていたメルダーの魔物の腕を力強く掴み、どうにか首から引き離す。ほんの少しだけでいい、この一言が言えるだけの時間さえあれば。
「私は、貴方の生命を否定するッ!!」
開眼した右目で魔物を睨む。
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