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「それじゃ、かんぱーい!」
俺の合図に四人は杯を持ち上げ打ちつけた。
「律卒業おめでとう~!」
「ありがとうございます!」
全員風呂に入りあとは飲んで食って寝るだけだ。
いつもはテーブルの上で椅子に座って食事をするが、今はいつも四人が川の字になって寝るリビングのラグの上に、折りたたみテーブルを二つ置いて食べ物や飲み物を所狭しと配置している。
テーブル上だけじゃ全然足りないので床にも置いてある始末だ。
寿司にピザにホールケーキにサラダにスープ、肉数種類、惣菜たくさん。
どんだけ食うんだという量と種類に加え飲み物も各種そろえてある。
「やー大人は酒飲んで悪ぃねえ」
「すでに酔っ払い感があるぞ」
「まだ飲んでねえよ。まあこれから酔っ払うまで飲むんですけどね!」
「私のお祝いなんですから三人使い物にならなくなるとかやめてくださいね?」
にっこり笑んで忠告されるが俺には効果が無いだろう。
よっしゃー! と謎の掛け声とともに俺は缶ビールを開けた。
「そーいやさあ、話すの忘れてたけどなんでこの四人の同棲生活が始まったのか知ってる奴いる?」
ビールをあおり唐揚げを食べながら聞いても、案の定答える者はいなかった。
「だよなあ。やっぱ親父のなんかの画策か?」
「私が一人暮らししなくていいように、とかですかね?」
律はここに来る以前は実家に住んでいた。他三人はそれぞれ一人暮らしだ。大学進学に合わせ一人暮らしを始める予定だったようだ。
「それが一番ぽい理由だけど。それにしたって急だったな」
「そんなに気になるのか? こういうことはたびたびあったと思うが」
「あーね。急に旅行行ったり、修行連れてかれたり、あれやれこれやれととにかくおかしい親父たちだからな」
「おれたちはあの人たちの好奇心に振り回されているんだ」
「うん。いやでもさ、理由を知らないと唐突に終わりが来るかもだろ? また急に同棲もうやめていいよ、みたいなさ」
「それは困りますね」
律が瞠目する。朔もなるほどと頷いている。
公平はホールケーキを直接フォークで刺して食べて、次に野菜を食べて、次に寿司を食べている。
甘いものは後、とかは特に気にしないのね。
「理由をさー、それとなく探ったりしたいんだよね」
「秘密じゃなければ教えてもらえると思うんですけど。父上に聞いてみますね」
「うんうん、頼むわ」
「流石おれの弟だ、律は偉いな」
「兄上、そんなそんな。……て兄上? 顔が真っ赤です」
「酔ってなど、ないろ」
白い肌を朱色に染めて朔は大真面目に言うが呂律が怪しい。
「ぶは、早、早すぎ。相変わらず酒に弱すぎるこいつ」
けらけら笑っていると律はそっと兄に呆れながら水さしから冷水をコップにそそぐ。
さりげなく朔の前に置いた。
「笑うな、体質だ。仕方ないだろうこの馬鹿」
「うるせー、だいたいいつも俺にだけ律儀に罵詈雑言付け足すんじゃねえーよ」
「うるはい、貴様が馬鹿なんだから仕方ないだろう。悔しければ九九でも覚えるんだな」
「覚えてるわそれくらい! いんいちがいち! えーと」
「ほらばーかばーか」
「ばかって言ったほうがばーか! あ、それとって、なんか、美味しそうなの」
「二人とも小学生ですか?」
俺は律の手から春巻きをもらう。食べてみるとそんなに美味しくなかった。
手元にあったスープを飲む、美味い。
「これうまいなあー。公平が作ったんだっけ?」
「そうだ」
「なんで朔が答えるんだっつーの」
隣の公平は黙々と食べたり飲んだりしている。
飲んでいるのは、レモン系のなにかだろうか、炭酸がしゅわしゅわして綺麗だ。
「公平は、酔ってる?」
顔を覗きこんでみると公平はゆっくりこちらを一瞥する。
「うーん、わからん。お前は顔に出ないなあ」
「修十さん、近いです近いです」
おっと近いってのは顔かな?
向かいの律が身を乗り出して俺の肩を引く。
「わかったわかった。あ、そーいえばさ、ファーストキスってレモンの味っていうじゃん?」
「突然なんですか」
「いうじゃん?」
「はいはい、いいますね」
「だって律、まだしたことないんだろ? 高校卒業したのに。まだ。かわいそー」
「ぶん殴りますよ。別にいいでしょう! 早いから良いなんて誰も言いませんよ! ね! 兄上!」
「レモンの味なんか、しないだろう。事前に、レモン吸うやつなんか、いないろう」
「はいそうですね! 兄上にふってすみませんでした私が間違ってました」
「だからさー、こうへい、律にしてあげなよ」
「ぶっ!!」
律が口からお茶を吹き出した。
「あはは! やべえ汚ねえ! ぶって出たよ!」
俺がげらげら笑ってると律は睨みながら片付けをしている。
だがこちとらすでに酔っ払いに片足突っ込んでるのでもうなにも怖くないよ。
「何言ってんですか修十さん!」
「だって。こうへい、レモン飲んでるから、ちょうどいいじゃん?」
「ばっ、な、そんな」
どもりながら飲酒してないのに律の顔が赤くなる。面白い。
「ねえ、こうへいしてあげなよ。教えてあげないと律がかわいそうでしょ」
公平はどこかぼんやりしながら緩慢に首を横に振った。
「そっちのが、かわいそうだろ」
「あ。酔ってる? てか眠い? お前も弱いの?」
「久しぶりに飲んだから……」
「そーなんだ。こうへいもさ、ファーストキスはレモン味だった?」
「わかんない」
「そっかーわかんないかー」
あーもうなんかよくわかんなくなってきたがなんか面白くなってきた。
何本飲んだっけ?
と考えようとしても目が隣の公平に向いていてもう動かすのが面倒くさくなってきた。
唇が濡れている。レモン味っぽい唇になっているはずだ。
とりあえずそうだ、キスしよう。
「ん」
俺は公平の両頬を手ですくって唇を自分のそれでふさいでみた。
公平の驚いた目がすぐそこにある。
「ちょ! え! えええええええ!!!!」
「うるさ!」
律の絶叫に突っ込んだらまたまた律に肩を強く、今度は容赦なく引かれる。
「いだだだだ!」
「はな、離れて! 今すぐ離れて!」
「わかったわかった!」
公平から手を離して俺はくるりと律に向かう。
そして律の顎をとって、力任せに唇を押し付けた。
「んぶぅーーーー!?!?」
「ぷはっ、ほら、これでこうへいからのキスがまわってきたから。ね? よかったね?」
「あ、あばばばばばば!」
眼前で律が目を白黒させ顔を赤くしたり青くしたりしている。忙しい奴だな。
その顔に俺が大笑いしかけたところで頬を突然殴られた。朔が赤ら顔のまま膝立ちで叫ぶ。
「弟になにすんだこの色情魔!」
「いっだああ! 殴るか普通ー!」
「公平だけでは飽き足らず律にまで手をかけるとは! ほらおれにもやれ!」
「やるか! ボケ! お前にはぜってーやんねー! ばーかばーか! おまえの母ちゃんびーじんー!」
「そうですけどー!?」
「二人とも今はそれどころじゃないでしょう! ああもう公平大丈夫ですか!?」
「びっくりしたー」
「それだけか感想!」
ぎゃあぎゃあ騒いでいる中やはり公平はなにごとも無かったかのように飲食を再開する。
「なんだよこうへー、お兄ちゃんからのキスに対してそれだけー!? もっと感想ちょうだいよ」
「急には、よくないと思う」
面倒くさそうに言うその余裕さがなんか気に食わない。
俺はがっと公平の両脇に手をつけた。
途端、公平の目の色が変わる。びくっと身体を反応させるがもう遅い。
こいつは昔からくすぐられるのが大の苦手なんだ。
「ちょ、やめっ」
「やめろと言われたらやらざるおえない!」
「あ! だっ、ぶ、あははははは! やめっ、ほんとやめて!」
「ほーらほらいい気味だなー」
手をテキトーにわしゃわしゃ動かしてるだけなのに公平は悶絶して耐えきれず床に身体を倒して逃れようとしている。
「あっ、やめ、んー! や、だ!」
「なんでそんな弱いかねー」
「知らねっ、ばかほんと……っ!」
激しく抵抗して俺の手首を押し返すが全然力が入ってない。
いやいや、と首を振ってるが無視だ。
「しゅうとっ、やめて……!」
「やめなーい。ふ、かわいいな」
ぎゅっと強く目をつむって刺激に耐えているその顔に、俺は顔を近づけると、
「こらー!」
と律に後ろから首を羽交い締めにされた。
「なに、して、るんですか!」
「ぐわあー!」
首を後ろから腕で固めて仰向けにされて、足に関節技を決められる。
見事なルチャ・リブレのジャベだ、熟練された寝技だな! てか死ぬ!
「じぬじぬ!」
律の手をパンパン叩いてギブアップを伝えると律ははあはあ荒い息で俺を解放する。
俺も虫の息だが。
公平もぐったりと倒れて呼吸を整えようとしている。
酔っ払いの朔だけが全てを超然と眺めながら笑っていた。
「なんだこのカオスな空間は……」
「修十さんが! 一番おかしいんですよ! 最後なにしようとしてたんですか!」
「かわいい子にはキスをしろって言うじゃん?」
「言わない! です!」
そんなに力強く断言しなくても。
やれやれと上体を起こす。
やってる時は気づかなかったが起き上がった公平の服は乱れて鎖骨や脇腹の肌が露出していた。髪の毛もやや乱れて涙が目尻に残っている。
床に手をついて疲労感を逃す公平の姿を見て、俺は思わず横の律を見た。
やっぱりガン見してるじゃねーか。
てか朔も!
「なんか、ごめんね……?」
「あとで、殺す」
公平の低い怒声が床を這って俺に届く。
俺はあとで殺されるらしい。
それから人生ゲームのボードやトランプとかをやったら、三人が謎に協力体制を敷いてきて俺はこてんぱんに負けた。
そして、泥のようにいつのまにか寝て、朝。
頭痛に苦しむ朔をよそに俺たちはどこか気恥ずかしい思いで昨夜の片付けをしたのだった。
「俺、気持ちよく酔うとキス魔になるんだ」
「今更言ったって遅いんですよ!!」
珍しく本気で怒っているような律はそれから数日刺刺しくしか会話をしてくれなかった。
公平はとくに変わらなかった。
お前はもっと気にしろと。
そんな馬鹿騒ぎで、俺は律と、後で聞かされるのだが公平のファーストキスを奪ってしまったらしい。
その事実にこれからずっと律に恨まれるのであった。
俺の合図に四人は杯を持ち上げ打ちつけた。
「律卒業おめでとう~!」
「ありがとうございます!」
全員風呂に入りあとは飲んで食って寝るだけだ。
いつもはテーブルの上で椅子に座って食事をするが、今はいつも四人が川の字になって寝るリビングのラグの上に、折りたたみテーブルを二つ置いて食べ物や飲み物を所狭しと配置している。
テーブル上だけじゃ全然足りないので床にも置いてある始末だ。
寿司にピザにホールケーキにサラダにスープ、肉数種類、惣菜たくさん。
どんだけ食うんだという量と種類に加え飲み物も各種そろえてある。
「やー大人は酒飲んで悪ぃねえ」
「すでに酔っ払い感があるぞ」
「まだ飲んでねえよ。まあこれから酔っ払うまで飲むんですけどね!」
「私のお祝いなんですから三人使い物にならなくなるとかやめてくださいね?」
にっこり笑んで忠告されるが俺には効果が無いだろう。
よっしゃー! と謎の掛け声とともに俺は缶ビールを開けた。
「そーいやさあ、話すの忘れてたけどなんでこの四人の同棲生活が始まったのか知ってる奴いる?」
ビールをあおり唐揚げを食べながら聞いても、案の定答える者はいなかった。
「だよなあ。やっぱ親父のなんかの画策か?」
「私が一人暮らししなくていいように、とかですかね?」
律はここに来る以前は実家に住んでいた。他三人はそれぞれ一人暮らしだ。大学進学に合わせ一人暮らしを始める予定だったようだ。
「それが一番ぽい理由だけど。それにしたって急だったな」
「そんなに気になるのか? こういうことはたびたびあったと思うが」
「あーね。急に旅行行ったり、修行連れてかれたり、あれやれこれやれととにかくおかしい親父たちだからな」
「おれたちはあの人たちの好奇心に振り回されているんだ」
「うん。いやでもさ、理由を知らないと唐突に終わりが来るかもだろ? また急に同棲もうやめていいよ、みたいなさ」
「それは困りますね」
律が瞠目する。朔もなるほどと頷いている。
公平はホールケーキを直接フォークで刺して食べて、次に野菜を食べて、次に寿司を食べている。
甘いものは後、とかは特に気にしないのね。
「理由をさー、それとなく探ったりしたいんだよね」
「秘密じゃなければ教えてもらえると思うんですけど。父上に聞いてみますね」
「うんうん、頼むわ」
「流石おれの弟だ、律は偉いな」
「兄上、そんなそんな。……て兄上? 顔が真っ赤です」
「酔ってなど、ないろ」
白い肌を朱色に染めて朔は大真面目に言うが呂律が怪しい。
「ぶは、早、早すぎ。相変わらず酒に弱すぎるこいつ」
けらけら笑っていると律はそっと兄に呆れながら水さしから冷水をコップにそそぐ。
さりげなく朔の前に置いた。
「笑うな、体質だ。仕方ないだろうこの馬鹿」
「うるせー、だいたいいつも俺にだけ律儀に罵詈雑言付け足すんじゃねえーよ」
「うるはい、貴様が馬鹿なんだから仕方ないだろう。悔しければ九九でも覚えるんだな」
「覚えてるわそれくらい! いんいちがいち! えーと」
「ほらばーかばーか」
「ばかって言ったほうがばーか! あ、それとって、なんか、美味しそうなの」
「二人とも小学生ですか?」
俺は律の手から春巻きをもらう。食べてみるとそんなに美味しくなかった。
手元にあったスープを飲む、美味い。
「これうまいなあー。公平が作ったんだっけ?」
「そうだ」
「なんで朔が答えるんだっつーの」
隣の公平は黙々と食べたり飲んだりしている。
飲んでいるのは、レモン系のなにかだろうか、炭酸がしゅわしゅわして綺麗だ。
「公平は、酔ってる?」
顔を覗きこんでみると公平はゆっくりこちらを一瞥する。
「うーん、わからん。お前は顔に出ないなあ」
「修十さん、近いです近いです」
おっと近いってのは顔かな?
向かいの律が身を乗り出して俺の肩を引く。
「わかったわかった。あ、そーいえばさ、ファーストキスってレモンの味っていうじゃん?」
「突然なんですか」
「いうじゃん?」
「はいはい、いいますね」
「だって律、まだしたことないんだろ? 高校卒業したのに。まだ。かわいそー」
「ぶん殴りますよ。別にいいでしょう! 早いから良いなんて誰も言いませんよ! ね! 兄上!」
「レモンの味なんか、しないだろう。事前に、レモン吸うやつなんか、いないろう」
「はいそうですね! 兄上にふってすみませんでした私が間違ってました」
「だからさー、こうへい、律にしてあげなよ」
「ぶっ!!」
律が口からお茶を吹き出した。
「あはは! やべえ汚ねえ! ぶって出たよ!」
俺がげらげら笑ってると律は睨みながら片付けをしている。
だがこちとらすでに酔っ払いに片足突っ込んでるのでもうなにも怖くないよ。
「何言ってんですか修十さん!」
「だって。こうへい、レモン飲んでるから、ちょうどいいじゃん?」
「ばっ、な、そんな」
どもりながら飲酒してないのに律の顔が赤くなる。面白い。
「ねえ、こうへいしてあげなよ。教えてあげないと律がかわいそうでしょ」
公平はどこかぼんやりしながら緩慢に首を横に振った。
「そっちのが、かわいそうだろ」
「あ。酔ってる? てか眠い? お前も弱いの?」
「久しぶりに飲んだから……」
「そーなんだ。こうへいもさ、ファーストキスはレモン味だった?」
「わかんない」
「そっかーわかんないかー」
あーもうなんかよくわかんなくなってきたがなんか面白くなってきた。
何本飲んだっけ?
と考えようとしても目が隣の公平に向いていてもう動かすのが面倒くさくなってきた。
唇が濡れている。レモン味っぽい唇になっているはずだ。
とりあえずそうだ、キスしよう。
「ん」
俺は公平の両頬を手ですくって唇を自分のそれでふさいでみた。
公平の驚いた目がすぐそこにある。
「ちょ! え! えええええええ!!!!」
「うるさ!」
律の絶叫に突っ込んだらまたまた律に肩を強く、今度は容赦なく引かれる。
「いだだだだ!」
「はな、離れて! 今すぐ離れて!」
「わかったわかった!」
公平から手を離して俺はくるりと律に向かう。
そして律の顎をとって、力任せに唇を押し付けた。
「んぶぅーーーー!?!?」
「ぷはっ、ほら、これでこうへいからのキスがまわってきたから。ね? よかったね?」
「あ、あばばばばばば!」
眼前で律が目を白黒させ顔を赤くしたり青くしたりしている。忙しい奴だな。
その顔に俺が大笑いしかけたところで頬を突然殴られた。朔が赤ら顔のまま膝立ちで叫ぶ。
「弟になにすんだこの色情魔!」
「いっだああ! 殴るか普通ー!」
「公平だけでは飽き足らず律にまで手をかけるとは! ほらおれにもやれ!」
「やるか! ボケ! お前にはぜってーやんねー! ばーかばーか! おまえの母ちゃんびーじんー!」
「そうですけどー!?」
「二人とも今はそれどころじゃないでしょう! ああもう公平大丈夫ですか!?」
「びっくりしたー」
「それだけか感想!」
ぎゃあぎゃあ騒いでいる中やはり公平はなにごとも無かったかのように飲食を再開する。
「なんだよこうへー、お兄ちゃんからのキスに対してそれだけー!? もっと感想ちょうだいよ」
「急には、よくないと思う」
面倒くさそうに言うその余裕さがなんか気に食わない。
俺はがっと公平の両脇に手をつけた。
途端、公平の目の色が変わる。びくっと身体を反応させるがもう遅い。
こいつは昔からくすぐられるのが大の苦手なんだ。
「ちょ、やめっ」
「やめろと言われたらやらざるおえない!」
「あ! だっ、ぶ、あははははは! やめっ、ほんとやめて!」
「ほーらほらいい気味だなー」
手をテキトーにわしゃわしゃ動かしてるだけなのに公平は悶絶して耐えきれず床に身体を倒して逃れようとしている。
「あっ、やめ、んー! や、だ!」
「なんでそんな弱いかねー」
「知らねっ、ばかほんと……っ!」
激しく抵抗して俺の手首を押し返すが全然力が入ってない。
いやいや、と首を振ってるが無視だ。
「しゅうとっ、やめて……!」
「やめなーい。ふ、かわいいな」
ぎゅっと強く目をつむって刺激に耐えているその顔に、俺は顔を近づけると、
「こらー!」
と律に後ろから首を羽交い締めにされた。
「なに、して、るんですか!」
「ぐわあー!」
首を後ろから腕で固めて仰向けにされて、足に関節技を決められる。
見事なルチャ・リブレのジャベだ、熟練された寝技だな! てか死ぬ!
「じぬじぬ!」
律の手をパンパン叩いてギブアップを伝えると律ははあはあ荒い息で俺を解放する。
俺も虫の息だが。
公平もぐったりと倒れて呼吸を整えようとしている。
酔っ払いの朔だけが全てを超然と眺めながら笑っていた。
「なんだこのカオスな空間は……」
「修十さんが! 一番おかしいんですよ! 最後なにしようとしてたんですか!」
「かわいい子にはキスをしろって言うじゃん?」
「言わない! です!」
そんなに力強く断言しなくても。
やれやれと上体を起こす。
やってる時は気づかなかったが起き上がった公平の服は乱れて鎖骨や脇腹の肌が露出していた。髪の毛もやや乱れて涙が目尻に残っている。
床に手をついて疲労感を逃す公平の姿を見て、俺は思わず横の律を見た。
やっぱりガン見してるじゃねーか。
てか朔も!
「なんか、ごめんね……?」
「あとで、殺す」
公平の低い怒声が床を這って俺に届く。
俺はあとで殺されるらしい。
それから人生ゲームのボードやトランプとかをやったら、三人が謎に協力体制を敷いてきて俺はこてんぱんに負けた。
そして、泥のようにいつのまにか寝て、朝。
頭痛に苦しむ朔をよそに俺たちはどこか気恥ずかしい思いで昨夜の片付けをしたのだった。
「俺、気持ちよく酔うとキス魔になるんだ」
「今更言ったって遅いんですよ!!」
珍しく本気で怒っているような律はそれから数日刺刺しくしか会話をしてくれなかった。
公平はとくに変わらなかった。
お前はもっと気にしろと。
そんな馬鹿騒ぎで、俺は律と、後で聞かされるのだが公平のファーストキスを奪ってしまったらしい。
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