3秒の楽園

松竹梅猫

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 今日は疲れた。

 朝から公平の具合を心配し、昼間は兄上が公平になにかするんではないかとはらはらしていた。

 あまりにどんよりしていたのか、世良さんにまたまた察せられてしまい心配させてしまった。

「会長、恋煩いですね」
 
「もう会長じゃないですよ。学友なんですからそろそろ名前で呼んでください」

 希望を伝えると世良さんは顔をしかめる。

「やめてください、ただでさえ会長のファンクラブに目をつけられているんです。これ以上仲良くしたらわたし、殺されてしまいます」

「よくわからないんですけど。ファンクラブってなんですか……」

「それで結構です、そのほうが需要があります」

「需要が」

「あります。ファンクラブの方々は会長をどこかの貴族の御子息だと思っておられます、もしくはどこかの王子。そんなVIPがわたしなんてただの町娘と会話していたら、そりゃあ皆さんそろってハンカチをぎりぃっと噛まれ涙を流しますよ」

 ますますわからない。とりあえず私はそんな生まれの者では無いのだが、と言う前に世良さんに手でストップと制された。

「それで? なにかあったんですか」

「そりゃもういろいろと」

 肩を落とした後、周りを見渡す。誰もいないことを確認してから耳打ちした。

「実は」

「だめです! そんなに近づいて、口を耳に寄せるのもかなりの違反行為です! わたしはときめきませんが通りすがりに誰かに見られたらどんな噂がたつかわかりません!」

 全力で拒否されて思わず無表情になってしまった。
 理由もわからず友人に拒否されるのはいささか悲しいものがある。

 では耳打ちはしないで、声を潜めて言うだけにする。

「告白したんですよ」

 世良さんはかなりの素早さで周囲に人の気配がないかをもう一度確認した。

 いないので私は続ける。

「三人全員で同時にしたんですけど」

 世良さんはひっ、と息を呑む。

「それで?! どうなったんです!?」

「今まで通りですね。ほっとしてます」

「ほっとするところですか!? 誰か一人が選ばれるものでは!?」

「え? いえいえ、私は四人でずっと一緒にいられればいいので」

「はあー!? なんでそんな思考になるんです!? いえ大変美味しいのかもしれませんけど、現実そんな状態が続くなんて信じられない……」

「私たち仲良しなので」

 片目をつぶって微笑むと世良さんは真顔になった。

 ちょっと調子にのってしまった、反省。

「ま、まあそうですよね。普通は一対一におさまるものですよね。でも今はとりあえず気持ちを受け入れてくれただけで満足っていうか。えっと、でもですね……」

 言葉を濁す私に世良さんは首をかしげた。

「でも?」

「えっと。具体的には言えないんですけど、とにかくあの、その……」

 両手を組んだり擦ったりして言葉を探しながら私は恥ずかしい気持ちを逃すことができないまま続ける。

「がんがん攻めるぞって他の二人がやる気でして……」

「なるほど。争奪戦になってきているのですね」

「いやあ、そういうわけでは。でも、はい。二人においていかれたくはないんですよ」

「なるほど。攻め手に欠けると。そうですねたしかに会長は奥手な面があります」

 つまり男らしさに欠けるということだろう。図星なので胸に刺さる。

「ならばわたしにいい案があります」

「え!? 本当ですか!」

「はい。古今東西恋愛というものは人の歴史そのもの。それだけ人々の関心が尽きぬ素材であるといえます、つまりそういうものはエンターテイメント化されやすい。よって先人の知恵、恩恵が簡単に手に入るということです!」

「おお! たしかに。指南書とかってことですよね!」

「はい! 推奨されますのはBL漫画です! 今世にあふれておりますので会長と同じ境遇のものなど探すとよろしいかと! 片想いしているものなんてどうでしょうか!」

「びー、える?」

 世良さんは盛り上がってスマホを取り出し私にあれこれとおすすめ作品を紹介してくれる。

 その全ての肌色率に私はくらりとめまいを覚えた。

「ちょ、ちょっと待って世良さん! それって私が見ていいやつですか!?」

「そりゃあいいでしょう。BL作品は男性もたしなむともっぱら言われていますよ。腐った男子で腐男子と呼ばれるんです」

「くさ……」

 私はたしなんでいない、むしろたしなまれるほうか。そうか、私は腐っているのか。

 ゾンビのようになった自分を想像して身震いする。

 だが今はしのごの言っていられない。公平をその日までに救わなければいけないのだから。

「よ、読んで、みます」

「その心意気や良し!」

 世良さんは何故か強い口調になって私にスマホの画面をより一層見せてきた。

「わたしのおすすめでいいですか? まずは濡れ場が少ないほうがいいでしょうか。勉強なんだからそれともかなりきついものにしますか?」

 なに言ってるか本当にわからない。

「お任せします」

 私の言葉に世良さんは今までで一番の目の輝きを見せてくれた。

 この後私はかなり後悔することになる。
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