32 / 463
第一章
第三二話 胃袋
しおりを挟む
クリスが塩結晶を飾る。大小の塩結晶を上手く組み合わせて綺麗に並べていた。
「グランマさん。厨房にあれ以上の大きいタライはありませんか?」
「あれより大きいタライはないわねぇ。甲板部なら何か持ってるかもしれないわ」
「わかりました。ジョジョさんに聞いてみます」
今の時間帯、甲板部は船首楼で休憩中のはずだ。飾り付けに集中しているクリスに声をかけておく。
「クリス君」
「はい……。なんですか……?」
「ちょっと甲板部のトコに行ってくる。ここでお茶して待ってて」
「わかりました……」
船首楼に向かって甲板を歩いていく。空は快晴。波は穏やか。強い日差しが降り注ぎ、艏から吹く涼風が頬を撫でる。
本船は変わらず南東へ針路を取り航行を続けていた。港町オプシーに到着するまであと八日。ちょうど航程の半分ほどを消化したところだ。
船首楼に到着すると、甲板部のデリーが船楼の扉を開けて中に入るところだった。
「デリーさん。おはようございます」
「ホヅミじゃん。おはよっす!」
姉御肌のデリーは快活に笑う。幼い容姿とのギャップが実にチャーミングだ。
「ちょっとお願いがあって来たんですが、皆さん休憩中ですか?」
「ちょうど一区切りついたとこ。ほら! 入った入った!」
ブンブンと手招きするデリーに礼を言って船楼内に入る。船首楼の造りは船尾楼と大体同じだが、内部は舳先に向かって狭くなっている。両舷の壁際には棚が固定されており、工具やロープ、補修資材が収められていた。
「お邪魔しまーす」
「おぅ。ホヅミのあんちゃん。珍しいな。どしたぁ?」
「ジョジョさん。真水精製に使う資材を借りたいんですが」
船首楼には甲板部の面々が集まっていた。朝から日課である甲板の椰子摺りを終えて一服しているのだろう。
『椰子摺り』とは、甲板磨きのこと。木甲板に海水と砂を撒いて半割れの椰子の実で磨く。海上という過酷な環境に晒される暴露甲板を長持ちさせるために必要な作業である。
「そうかぁ。まぁ、とりあえず一服していけぇ」
「ありがとうございます」
「ホヅミさん。どうぞ」
ロブが液体の入った木製ジョッキを渡してきた。ゼクシィに振られたばかりで傷心とのことだったが。
「ああ。ロブ君、ありがとうね」
「のんびりしていってください。ホヅミさんが来てからクリスが楽しそうで、僕も嬉しいです」
爽やかなイケメンを笑顔に変えて、キランッと八重歯を光らせるロブ。屋内で薄暗いのになぜ光るのだろう。デリーがポっと頬を染めている。
「クリス君は本当に頑張り屋だからね。今日は新しい精製方法を試してて、それで使う資材が無いか聞きに来たんだ」
「どんなもんが欲しいんだぁ?」
「海水がたくさん入るタライのようなものはありませんか? 司厨部の持ってるのより大きいやつ」
「『聚雨方』で使ってるのより大きいタライですか? デリー姉さん、そんなのありましたっけ?」
「へ!? ロブ? えっと、どうしたの?」
唐突に話しかけられて、デリーがわたわたしている。
(微笑ましいな。早く、くっつけばいいのに)
「デリー姉さん。聞いてなかったんですか? 司厨部のより大きいタライですよ」
「あー。さらに大きいのは無いかなぁ。『聚雨方』用に特注したやつだし」
「タライじゃなくてもいいんです。海水を溜めておけるものならなんでも。何かありませんか?」
「デリー。アレはどうだ? 先航のラクナウで押し付けられたのあったろ?」
「あっ! 確かにアレならちょうどいいかも! 使い道が無くて困ってたのよー」
「アレ?」
「ちょっと待ってて。すぐ持ってくるから。ロブぅ、手伝って~」
「はい! デリー姉さん」
デリーが少し甘えた声でロブを呼びつけて船楼の階段を下段へ降りていく。ロブも子犬のように後を追って行った。
(さっさと付き合っちゃえばいいのに)
「あんちゃん。人のことはどうでもいいから早く覚悟を決めろぉ」
「そうだそうだ」
「次がつかえてんだよ」
「さっさと先生を開放してくれぇ」
穂積の考えを読んだかのように甲板部員からブーイングが飛ぶ。
「別に俺が引っ張ってる訳じゃないんですけどね」
「言い寄られてるじゃねえか」
「俺が望んだわけじゃありませんし、ゼクシィ先生から好かれる理由に心当たりがありません」
「先生にベタベタされて落ちないアンタがおかしい」
「……今まで断った人はいないんですか?」
「そんな畏れ多いことができるか!」
ゼクシィを巡るジンクスは信仰の対象となりつつあった。振られた後に確実にモテるという噂は本当のことらしく、実績が数多くあるらしい。
「持ってきたよ!」
穂積の肩身が狭くなってきた頃にデリーとロブが帰ってきた。折り畳まれた白いものを二人で抱えている。
「なんですか? それ」
「海獣の胃袋だよ!」
「へー! 海獣の! かなり大きそうですね」
みんなで協力して広げていくと、船首楼の床いっぱいの巨大なものだった。
「これが、胃袋ですか?」
「そうだよ。大型の海獣から採れたものらしいんだけど、ここまで大きいと本船では使い道が無いんだよね」
「えー? これが生き物の胃袋? 本体はどれだけデカいんです? ロブ君は見たことあるの? 海獣」
「僕はまだ無いですね。海で大型にあったら死を覚悟せよ、とは聞きました」
「…………」
「ワシは何回もあるぞぉ。全部、生き残ったぁ」
「……でしょうね」(今も生きてるもんね)
「この海獣はラクナウ近海に出て、そのまま住み着いちゃったのを第四艦隊が袋叩きにして倒したらしいよ」
「第四艦隊って、確か帝国海軍の主力じゃ?」
「そう! 帝国最強と謳われる天下の第四艦隊! 大型を駆逐できる限られた戦力だよ」
「へぇー。でも、そのためにわざわざラクナウ列島まで出張るんですか?」
「ラクナウ近海には魔堰回廊があるからね。探索者が近づけなくなると発掘が滞って帝国も困るんだよ。ラクナウには組合支部の寄り合いしかないから、救援を呼ぶくらいしかできないし」
「大型海獣……。一回、見てみたい気もしますね」(リアルゴ〇ラかも)
「万が一にも無いって。てか、出たらマジで死ぬし……」
「ワシは全部、生き残ったぁ! じょははは!」
甲板部のお茶休憩が終わると、デリーとロブに手伝ってもらって胃袋を踊り場まで運び、手摺りに沿わせて広げてみる。胃袋は分厚く、弾力があり、ちょっとやそっとでは傷もつかない。踊り場いっぱいにプールのような水溜めができた。
「デリーさん、ロブ君。助かりました。ありがとう」
「「どういたしまして!」」
(息ぴったり。付き合えばいいのに)
ロブと声がハモって、デリーが嬉しそうにニヤニヤしている。
「これ、本当に貰っていいんですか?」
「いいのいいの! これでクリスの補水が捗るなら、みんな助かるし!」
そこにクリスがやってきた。
「わっ……! なんですか、これ……?」
「クリス君。大型海獣の胃袋だそうだ。まだ試してないけど、かなり海水を溜められるはずだ」
「んじゃ! クリス! がんぱってね~」
「無理しちゃダメだよ?」
「デリーさん……ロブさん……。ありがとう……」
二人はヒラヒラと手を振って船首へ向かって歩いて行った。
(手、繋いじゃえばいいのに。また、あの二人でできる仕事を頼もう)
「すごくおっきいですね……」
「ああ。びっくりしたよ。海獣って本当に大きいんだな」
とりあえず海水を汲んでどんどん胃袋プールに入れてみる。一〇〇リットル入れても、まだまだ余裕があった。
「これで百っと。クリス君。どのくらいいけそう?」
「……。二百リットル……お願いします……」
「……わかった」
穂積はさらに一〇〇リットルの海水をプールに注ぐ。
「クリス君。わかってると思うけど、決して無理はしないように。ダメそうなら途中で中断していいから」
「はい……!」
「よし! じゃあ、精製よろしく」
「いきます……」
クリスが魔法を発動すると胃袋の中の海水が淡い真紅に光り始めた。徐々に結晶が成長していく。
(やはり時間がかかってるな。様子がおかしくなったら止めよう)
それから約五分後、穂積の心配を他所にクリスの精製が終了した。
「ふー。終わりました……」
「大丈夫か?」
「はい……。平気です……。魔力もまだ半分以上残ってます……」
「そうか。よかった。二百リットルを一挙に精製か。やるなぁ」
「えへっ……」
水面にはゴロリと大きな塩結晶と不純物の玉が浮いていた。
「すごく、おっきいのができました……」
「うん。素晴らしい」
パチパチと拍手を送るとクリスは赤くなって「えへへっ……」と笑った。
「午前中はここまでにしておこう」
「はい……!」
「俺はこの真水をタンクに補水して、午後一の精製分の海水を準備しておくけど、どうする? 二百でいいか?」
「いいえ……。もっと……五百リットルで……」
「ええ!? さっきの二倍以上じゃないか。大丈夫なの?」
「はい……。お昼寝の後なら余裕を持ってできると思います……」
「攻めるなぁ~。クリス君。ちょっと飛ばし過ぎじゃない?」
「一回でたくさん精製した方がいいと思います……。無理なら途中で止められますし……」
「まぁ、失敗は成功の母と言うし……挑戦するのはいいことだが」
「はい……! 一挙に大量生産……です……!」
「わかったよ。じゃあ、この結晶を飾ったら居室で仮眠しておきなさい。昼飯前に起こしに行くから」
クリスは両手で大きな結晶を持って裏口から厨房へ入っていった。
「こりゃあ、そのうち俺の方が追いつけなくなるかもなぁ。嬉しい悲鳴だが」
この日の午後、クリスは五百リットルを二回精製した。合計の補水量は千四百リットル。一日の補水量の最高記録を更新した。
出来上がったのは見事な塩結晶。ゴロゴロと飾られた塩結晶の美しさに女性陣は見惚れて溜息をついていた。
翌日には精製作業の最適化が成った。
朝一、午後一、夕食前の一日三回。五百リットルずつ精製するのが、最も効率的だと言う結果だ。
クリス自身は、まだいけそうだと言うが止めておいた。
空いた時間は睡眠や座学に当てることにしたのだ。前々から気付いていたことだったが、クリスは天才だった。九九をあっという間に覚えて四則演算をマスターした。
穂積の中途半端な授業よりはいいだろうと、ビクトリアから借りた書籍を使って二人で一緒に勉強し始めた。
(やばい。ものすごい学習意欲が高いし、記憶力も半端ない。……置いて行かれそう)
穂積が大人の威厳を保てなくなる日もそう遠くないかもしれない。
「グランマさん。厨房にあれ以上の大きいタライはありませんか?」
「あれより大きいタライはないわねぇ。甲板部なら何か持ってるかもしれないわ」
「わかりました。ジョジョさんに聞いてみます」
今の時間帯、甲板部は船首楼で休憩中のはずだ。飾り付けに集中しているクリスに声をかけておく。
「クリス君」
「はい……。なんですか……?」
「ちょっと甲板部のトコに行ってくる。ここでお茶して待ってて」
「わかりました……」
船首楼に向かって甲板を歩いていく。空は快晴。波は穏やか。強い日差しが降り注ぎ、艏から吹く涼風が頬を撫でる。
本船は変わらず南東へ針路を取り航行を続けていた。港町オプシーに到着するまであと八日。ちょうど航程の半分ほどを消化したところだ。
船首楼に到着すると、甲板部のデリーが船楼の扉を開けて中に入るところだった。
「デリーさん。おはようございます」
「ホヅミじゃん。おはよっす!」
姉御肌のデリーは快活に笑う。幼い容姿とのギャップが実にチャーミングだ。
「ちょっとお願いがあって来たんですが、皆さん休憩中ですか?」
「ちょうど一区切りついたとこ。ほら! 入った入った!」
ブンブンと手招きするデリーに礼を言って船楼内に入る。船首楼の造りは船尾楼と大体同じだが、内部は舳先に向かって狭くなっている。両舷の壁際には棚が固定されており、工具やロープ、補修資材が収められていた。
「お邪魔しまーす」
「おぅ。ホヅミのあんちゃん。珍しいな。どしたぁ?」
「ジョジョさん。真水精製に使う資材を借りたいんですが」
船首楼には甲板部の面々が集まっていた。朝から日課である甲板の椰子摺りを終えて一服しているのだろう。
『椰子摺り』とは、甲板磨きのこと。木甲板に海水と砂を撒いて半割れの椰子の実で磨く。海上という過酷な環境に晒される暴露甲板を長持ちさせるために必要な作業である。
「そうかぁ。まぁ、とりあえず一服していけぇ」
「ありがとうございます」
「ホヅミさん。どうぞ」
ロブが液体の入った木製ジョッキを渡してきた。ゼクシィに振られたばかりで傷心とのことだったが。
「ああ。ロブ君、ありがとうね」
「のんびりしていってください。ホヅミさんが来てからクリスが楽しそうで、僕も嬉しいです」
爽やかなイケメンを笑顔に変えて、キランッと八重歯を光らせるロブ。屋内で薄暗いのになぜ光るのだろう。デリーがポっと頬を染めている。
「クリス君は本当に頑張り屋だからね。今日は新しい精製方法を試してて、それで使う資材が無いか聞きに来たんだ」
「どんなもんが欲しいんだぁ?」
「海水がたくさん入るタライのようなものはありませんか? 司厨部の持ってるのより大きいやつ」
「『聚雨方』で使ってるのより大きいタライですか? デリー姉さん、そんなのありましたっけ?」
「へ!? ロブ? えっと、どうしたの?」
唐突に話しかけられて、デリーがわたわたしている。
(微笑ましいな。早く、くっつけばいいのに)
「デリー姉さん。聞いてなかったんですか? 司厨部のより大きいタライですよ」
「あー。さらに大きいのは無いかなぁ。『聚雨方』用に特注したやつだし」
「タライじゃなくてもいいんです。海水を溜めておけるものならなんでも。何かありませんか?」
「デリー。アレはどうだ? 先航のラクナウで押し付けられたのあったろ?」
「あっ! 確かにアレならちょうどいいかも! 使い道が無くて困ってたのよー」
「アレ?」
「ちょっと待ってて。すぐ持ってくるから。ロブぅ、手伝って~」
「はい! デリー姉さん」
デリーが少し甘えた声でロブを呼びつけて船楼の階段を下段へ降りていく。ロブも子犬のように後を追って行った。
(さっさと付き合っちゃえばいいのに)
「あんちゃん。人のことはどうでもいいから早く覚悟を決めろぉ」
「そうだそうだ」
「次がつかえてんだよ」
「さっさと先生を開放してくれぇ」
穂積の考えを読んだかのように甲板部員からブーイングが飛ぶ。
「別に俺が引っ張ってる訳じゃないんですけどね」
「言い寄られてるじゃねえか」
「俺が望んだわけじゃありませんし、ゼクシィ先生から好かれる理由に心当たりがありません」
「先生にベタベタされて落ちないアンタがおかしい」
「……今まで断った人はいないんですか?」
「そんな畏れ多いことができるか!」
ゼクシィを巡るジンクスは信仰の対象となりつつあった。振られた後に確実にモテるという噂は本当のことらしく、実績が数多くあるらしい。
「持ってきたよ!」
穂積の肩身が狭くなってきた頃にデリーとロブが帰ってきた。折り畳まれた白いものを二人で抱えている。
「なんですか? それ」
「海獣の胃袋だよ!」
「へー! 海獣の! かなり大きそうですね」
みんなで協力して広げていくと、船首楼の床いっぱいの巨大なものだった。
「これが、胃袋ですか?」
「そうだよ。大型の海獣から採れたものらしいんだけど、ここまで大きいと本船では使い道が無いんだよね」
「えー? これが生き物の胃袋? 本体はどれだけデカいんです? ロブ君は見たことあるの? 海獣」
「僕はまだ無いですね。海で大型にあったら死を覚悟せよ、とは聞きました」
「…………」
「ワシは何回もあるぞぉ。全部、生き残ったぁ」
「……でしょうね」(今も生きてるもんね)
「この海獣はラクナウ近海に出て、そのまま住み着いちゃったのを第四艦隊が袋叩きにして倒したらしいよ」
「第四艦隊って、確か帝国海軍の主力じゃ?」
「そう! 帝国最強と謳われる天下の第四艦隊! 大型を駆逐できる限られた戦力だよ」
「へぇー。でも、そのためにわざわざラクナウ列島まで出張るんですか?」
「ラクナウ近海には魔堰回廊があるからね。探索者が近づけなくなると発掘が滞って帝国も困るんだよ。ラクナウには組合支部の寄り合いしかないから、救援を呼ぶくらいしかできないし」
「大型海獣……。一回、見てみたい気もしますね」(リアルゴ〇ラかも)
「万が一にも無いって。てか、出たらマジで死ぬし……」
「ワシは全部、生き残ったぁ! じょははは!」
甲板部のお茶休憩が終わると、デリーとロブに手伝ってもらって胃袋を踊り場まで運び、手摺りに沿わせて広げてみる。胃袋は分厚く、弾力があり、ちょっとやそっとでは傷もつかない。踊り場いっぱいにプールのような水溜めができた。
「デリーさん、ロブ君。助かりました。ありがとう」
「「どういたしまして!」」
(息ぴったり。付き合えばいいのに)
ロブと声がハモって、デリーが嬉しそうにニヤニヤしている。
「これ、本当に貰っていいんですか?」
「いいのいいの! これでクリスの補水が捗るなら、みんな助かるし!」
そこにクリスがやってきた。
「わっ……! なんですか、これ……?」
「クリス君。大型海獣の胃袋だそうだ。まだ試してないけど、かなり海水を溜められるはずだ」
「んじゃ! クリス! がんぱってね~」
「無理しちゃダメだよ?」
「デリーさん……ロブさん……。ありがとう……」
二人はヒラヒラと手を振って船首へ向かって歩いて行った。
(手、繋いじゃえばいいのに。また、あの二人でできる仕事を頼もう)
「すごくおっきいですね……」
「ああ。びっくりしたよ。海獣って本当に大きいんだな」
とりあえず海水を汲んでどんどん胃袋プールに入れてみる。一〇〇リットル入れても、まだまだ余裕があった。
「これで百っと。クリス君。どのくらいいけそう?」
「……。二百リットル……お願いします……」
「……わかった」
穂積はさらに一〇〇リットルの海水をプールに注ぐ。
「クリス君。わかってると思うけど、決して無理はしないように。ダメそうなら途中で中断していいから」
「はい……!」
「よし! じゃあ、精製よろしく」
「いきます……」
クリスが魔法を発動すると胃袋の中の海水が淡い真紅に光り始めた。徐々に結晶が成長していく。
(やはり時間がかかってるな。様子がおかしくなったら止めよう)
それから約五分後、穂積の心配を他所にクリスの精製が終了した。
「ふー。終わりました……」
「大丈夫か?」
「はい……。平気です……。魔力もまだ半分以上残ってます……」
「そうか。よかった。二百リットルを一挙に精製か。やるなぁ」
「えへっ……」
水面にはゴロリと大きな塩結晶と不純物の玉が浮いていた。
「すごく、おっきいのができました……」
「うん。素晴らしい」
パチパチと拍手を送るとクリスは赤くなって「えへへっ……」と笑った。
「午前中はここまでにしておこう」
「はい……!」
「俺はこの真水をタンクに補水して、午後一の精製分の海水を準備しておくけど、どうする? 二百でいいか?」
「いいえ……。もっと……五百リットルで……」
「ええ!? さっきの二倍以上じゃないか。大丈夫なの?」
「はい……。お昼寝の後なら余裕を持ってできると思います……」
「攻めるなぁ~。クリス君。ちょっと飛ばし過ぎじゃない?」
「一回でたくさん精製した方がいいと思います……。無理なら途中で止められますし……」
「まぁ、失敗は成功の母と言うし……挑戦するのはいいことだが」
「はい……! 一挙に大量生産……です……!」
「わかったよ。じゃあ、この結晶を飾ったら居室で仮眠しておきなさい。昼飯前に起こしに行くから」
クリスは両手で大きな結晶を持って裏口から厨房へ入っていった。
「こりゃあ、そのうち俺の方が追いつけなくなるかもなぁ。嬉しい悲鳴だが」
この日の午後、クリスは五百リットルを二回精製した。合計の補水量は千四百リットル。一日の補水量の最高記録を更新した。
出来上がったのは見事な塩結晶。ゴロゴロと飾られた塩結晶の美しさに女性陣は見惚れて溜息をついていた。
翌日には精製作業の最適化が成った。
朝一、午後一、夕食前の一日三回。五百リットルずつ精製するのが、最も効率的だと言う結果だ。
クリス自身は、まだいけそうだと言うが止めておいた。
空いた時間は睡眠や座学に当てることにしたのだ。前々から気付いていたことだったが、クリスは天才だった。九九をあっという間に覚えて四則演算をマスターした。
穂積の中途半端な授業よりはいいだろうと、ビクトリアから借りた書籍を使って二人で一緒に勉強し始めた。
(やばい。ものすごい学習意欲が高いし、記憶力も半端ない。……置いて行かれそう)
穂積が大人の威厳を保てなくなる日もそう遠くないかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる