海の彼方のトティアス 〜船員さん、異世界へゆく。海に沈んだ世界で絆を育み生き抜く、普通の男の物語~

万年ぼんく

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第二章

第九五話 聖根? すっごい立派です

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「ホヅミぃ、どうしたらいい?」

 翌朝、朝食の席で対面に座るビクトリアが情けない声で相談を持ち掛けてきた。

 なんでも、昨夜の穂積の仮説に思うところがあったらしい乗組員から、もう一回、鑑定をやり直したいという要望が殺到しているという。もちろん魔力容量の鑑定料は自腹を切るので、穂積の『鑑定の儀』に便乗させてほしいということだ。

「まぁ、気持ちはわかるな。教会の言う事はどれも曖昧で前提があやふやだ」
「それはオレもわかっている。いや、昨日のお前の言い分の方が納得できるというべきか」
「あまりにもテキトーだか……あ。ちょっと待って「あーん……」もぐもぐ」

 最近は四人のテーブルにメリッサがねじ込まれた。すごく狭いのでケンカが絶えないのだが、今朝はビクトリアとクリスの二人だけだ。穂積の隣はクリスがジャンケンで勝ち取った。

 ゼクシィとメリッサは朝風呂に入り浸っている。エロッサがいろいろと聞いてくるので大変らしい。

「真面目に考えてくれ。クリスも少し待て」

 教会は魔法や魔力に関して、女神の伝説を交えて各地で説法をしているのだが、彼ら曰く――、

『女神様の慈愛により、すべての人には生来、聖痕が宿っている』

『聖痕は心身の成長と日々の祈りによって磨かれる』

『十分に成熟した聖痕を持つ者には、やがて女神様からの魔力供給を受けられるようになる』

『魔力容量とは、それすなわち信仰心のあらわれであり、女神様との繋がりが深い者ほど大きな魔力をたまわる』

『誠に遺憾なことだが、長き歴史の中で正しき信仰が忘れられつつある。故に、偉大なる古来種の方々と比して我らの魔力容量は劣るのだ』

『魔力容量は生来の資質によるものが大きい。故に、偉大なる古来種の方々の血を色濃く受け継ぐ者には、より大きな力が与えられる』

『偉大なる力を継ぐ者には、相応の責任があるものと心得よ。大多数のささやかなる者は、日々の糧に感謝と祈りを捧げ、慎ましくあれ。さすれば魂は女神様のかいなに抱かれん』

『魔力容量と魔法適性は人の魂と同じく、生涯変わらぬたった一つのものである。女神様への祈りと共に大切にすべし』

『女神様の教えを世に広めるため、説法を聞いた者は教会への寄進を奨める。さすれば女神様の腕に抱かれん』

 このように、拡大解釈の余地を残しつつ、既得権益を優遇し、立身出世の夢を潰すような言い回しをしているのだ。最後の推奨事項はなんとも生臭い。どう考えても坊主が女の乳に抱かれるために使われているとしか思えない。

「ただの宗教法人の言う事なら無視してしまえばいい。言論の自由は守られるべきだ。しかしなぁ、このトティアスでは魔法がすべてだ。教会は魔法と魔力を説いているらしいが、社会の根幹を担う集団としては説明がお粗末すぎる」
「「「そうだそうだ! お粗末すぎる!」」」

 女神教の説法に対する痛烈なツッコミに乗組員が便乗する。

「大体、矛盾してるよね? たった一つのモノである? 二聖は二つじゃないの? 祈れば磨かれる? でも生涯変わんないの? どっちなの?」
「「「そうだそうだ! どっちなの!?」」」

 面白くなった穂積は更なるツッコミでみんなを煽る。

「正しき信仰が忘れられてる? じゃあ教えてくださいよ? アンタらの仕事じゃないの? ちゃんと布教活動しなさいよ? 寄進は何に使われてるの? 遊女めがみの乳ですか? 誠に遺憾です」
「「「そうだそうだ! 遺憾です!」」」

 本船に女神教の信者はいなくなっていた。元々、信仰心は高くないとは思っていたが、これほど簡単に廃れるものだったとは。しかし、それはそうだろう。

「神様の自分への評価がそのまま生活に直結するんだ。それはもう宗教じゃないよね? 信仰心なんて持てるわけないじゃん。とりあえず魔力寄越せって思っちゃうのが人情だよね?」
「ホヅミぃ~。わかってて言ってるだろ? それ以上煽るな」
「でも、女神は悪くないよ? 今現在、みんなに魔力を分配してる子も悪くないよ? 悪いのは誰かって? 俺は皇帝ゼトだと思う! 皇帝が教会と結託してるに違いないんだ!」
「お前は何を言ってんだ?」
「コッチの話だから。気にしないで。それより、どうするの?」
「それを相談してんだろぉ!」

 ビクトリアとしても思うところはあるが、さすがに希望者全員の『鑑定の儀』を手配するのは難しいらしい。

「一回、『鑑定の儀』をしてくれるように頼めばいいんじゃない?」
「いや、それはそうだが……。この人数の儀式はなぁ」
「人数は言わなきゃいい。当日に全員で押しかけてしまえば、向こうも受けざるを得ない」
「お前ぇ~! オレにも一応立場ってものがあるんだぞ?」
「どうせしょうもない連中なんだ。嫌われてもいいじゃない?」
「アルローにも教皇大使は駐在してるんだぞ? それに父上の面子めんつもあるんだ」
「お父さんの面子って?」

 アルロー首長の弟、つまりビクトリアの叔父は、アルロー女神教会の司祭と婚姻関係にあるという。政略結婚らしいが、仲睦まじいおしどり夫婦として有名だそうだ。

「へぇ~。宗教団体の関係者と国の代表が親戚ってことか。あんまり良いことじゃないな。政治に宗教が絡むと碌なことがない」
「お前も言ってただろう。女神教会は魔法と魔力の伝導者という立場だ。各国への影響力はあるし、政略の相手としては申し分ない」
「トティアスには女神教以外に宗教は無いんだっけ?」
「聞いたことがないな。そもそも、女神以外に神と呼べる存在は認知されていないはずだ」
「なるほどね。それなら宗教戦争とかも起きようがないか」
「宗教戦争?」
「聖戦ってやつだよ。信じる神が違うだけで人間は殺し合うんだ。俺のいた世界では今も昔もそうなってる」
「それは……確かに碌なもんじゃないだろうな。だが、トティアスでそれは起こり得ない」

 現実に魔法の力を示す女神の存在感が大き過ぎて、他に祈るべき対象が生まれない。

 本来、神とは人の頭の中にのみ存在するものだが、トティアスでは女神の実在が魔法によって証明されている。現代でも引き続き、魔力の源としてうやまわれ続けているのだから無理もない。

「うーん。要するに信じる者は救われないって、みんなが知っちゃってることが問題なんだ。実際、鑑定をやり直してどうにかなるもんじゃないだろう」
「信じるべき女神は女神教を通じてしか知りようがないからな。現存する女神関連の書物はすべて教会による検閲済みのものだ」
「じゃあ、この際だ。新しい神様を創ったらいいじゃない」
「は? 神を創る?」
「クリスを巫女としてまつり上げて、神託を授けてもらう」

 クリスが真紅の瞳をパチクリさせてポケッとしている。とても可愛らしい。

「なんだそれ? なんか意味あんのか?」
「特になんの力も効能もない。だけど、宗教というのは本来そういうものだ」
「ふむぅ~。オレにはピンと来ない。女神は奇跡を以て人を救ったから敬われるんだ」
「俺の世界では、神様は一人一人の心の中にしかいないんだ。別にいてもいなくてもいい。個人の自由だ。それに神様は特に何もしない。だけど、イザという時の神頼みという言葉もある」
「何もしない神に、何を頼むってんだ? 意味が分からん」
「俺に聞かれてもな。最近の日本人には無神論者が多いし、少なくとも俺は神を信じてないし」

 ビクトリアが参考までに聞かせろというので、穂積は自分の宗教観をベースに説明する。

「ニホン人は神を信じていないと言ったな? 宗教は無いのか?」
「そんなことないさ。俺の周りにはそういうタイプが多かっただけかも。それに日本はその辺が大らかというか、何でもアリな感じがする。八百万やおよろずの神とかもいる」
「やおよろず……? どんな漢字ですか……?」

 気になったクリスがすり寄ってくるので手帳に書いて見せると、

「えっ……? 『八百万』……!?」
「クリス? どういう意味だ?」
「『八百万やおよろず』は、8000000……です……」
「なに!? つまり日本には8000000の神が祀られているのか?」
「知らないよ。そんだけ多いってことでしょ? そういう文化なの」
「知らない神が山ほどいても気にしない民族だと……? 意味が分からん」
「何にでも神が宿るって考え方なんだ。一々気にしてたら切りがない。珍しい形の岩を御神体にして神様にする。男根の形をした岩が子孫繁栄の神様だ。しかも、いろんな形の男根岩の神様が国中にいっぱいいる。それぞれが別の神様だ」
「ナニ!? ニホンにはナニの神がいるのか!?」
「ホズミさま……。ボクはナニの神様の巫女……?」

 オモシロ神様ネタに周りで盗み聞きしていた女性陣が食い付いてきた。流石はキンタマ女子。ナニの話には反応が素早い。

「ナニナニ? ナニの神ってナニ?」
「ホヅミの国ではナニの神をおがんでるんだ! ナニに御利益ごりやくがあるの!?」
「デリーさん。そんなのナニの御利益に決まってるじゃないですか。子孫繫栄……つまりはナニのあらゆるナニが……。ひひっ!」

 マリー、デリー、チェスカの三人がナニナニと五月蠅い。何回ナニと言えば気が済むのか。

(わざと言ってないかい? なんか瞳の輝きが増して……聖痕の光もチラホラと……)

「ホヅミぃ! 創るならナニの神にしよう! それが一番いい! 女神すら手の届かん領域だぞ!」
「おお~っ! 船長! それいいわ! アルロー女神教会より全然いい!」
「船長っ! それ絶対に流行りますよ! 傾奇姫に新たな伝説が加わります!」
「船長っ……! ボクが巫女……! ナニの神の巫女は……ボクっ……!」
「クリスさまならぴったりですよ! 見た目が神秘的な感じがするし! 中身はエロいし!」
「御神体はどうします!?」
「ボクが……全身全霊を掛けて創ります……!」
「よしっ! クリス! モデルはホヅミのナニにしろ! 船長命令だぞ! カカっ!」
「はい……! お任せください……!」

 ビクトリア号の船上で、トティアス始まって以来の新興宗教が誕生しようとしていた。

 信仰の対象は女神すらも力の及ばぬ神性しんせい領域に燦然さんぜんとそそり立つ性の最高神。

 その御神体は真白の男根だんこん。女の妄執もうしゅうをこれでもかと詰め込んだ理想的な聖根せいこんである。

「最高神様の真名まなを決めなければ!」
「ふむ! それは重要だ!」
「ホズミさま……!」
「ホズミさまですか?」
「ホズミさん?」
「え~。ホヅミなの?」
「いや、待てクリス。あちこちの女がホヅミの名を連呼するのは好ましくない!」
「むっ……! たしかに……!」
「ホヅミ! お前が決めてくれ! 神の名はナニにする!?」

 このままではナニの神様の名前がナニになりそうなので、穂積は目を閉じて真剣に考える。

 神の力とは信仰の力であるという。信じる者の信仰心が強いほど、ご利益も強くなるのだ。

 ここトティアスは魔法が実在する異世界。ひょっとすると、自分のEDにも御利益があるかもしれない。ならば、トティアスにはED男子を代表してしかるべき立派な御仁ごじんが既にいるのだ。

「最高神スサノース! 真名はスノー様! だっ!」

「「「「「おお~っ! スノー様!」」」」」

 こうして、トティアスに性愛の最高神スサノースが爆誕した。

 スノー神は子宝に恵まれない女性たちから、女神を凌駕する圧倒的な信仰を集めることになる。

 巫女の祝詞のりとは般若心経に決まった。

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