海の彼方のトティアス 〜船員さん、異世界へゆく。海に沈んだ世界で絆を育み生き抜く、普通の男の物語~

万年ぼんく

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第二章

第一二五話 身請け? 相談しましょう

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「ホヅミはん。どないな遊び方したらこうなんねん?」
「ホヅミ。アンタ、答えによっちゃあ……」

 ビクトリア号に戻ってすぐ、ラックを見つけて事情を説明し、さすがにパッサーに話を通す必要があるとのことで事務室を訪ねたら、こうなった。

 ビクトリアはまだ弔問から戻っていない。ジョジョは事務室の隅に座ってニヤニヤと傍観している。

 パッサーの目が吊り上がっている。セーラに至っては覇気まで滲ませていた。

(やっばー。ちびりそう……)

 オプシーに入港してからこれまで、ビクトリアの通貨魔堰でいろいろと買い物をした。

 説教モードの二人は何を買ったかまだ知らない。ただ、口座の残高だけは知っている。今日の昼前に確認したら残高が一千万を切っていた。

 まさか上陸三日目にしてこうなるとは思わなかったのだろう。好きに使えと言っていたパッサーの目玉が飛び出て戻らなかったらしい。

「えーと。何を購入したかと言いますと……」
「値段も吐きいや?」
「ネックレス四つ。締めて350,000ムーア」
「あー。三人にやってたさね」
「クリスが見せびらかしとるアレやな。そん値なら安いわ。それはええ」

 どうやら無駄に散財したのではないかと疑い、それを怒っているらしい。それなりの理由と費用対効果が見込めればいいと言うことだろう。

「レギオン奴隷。男子二名。締めて50,000,000ムーア」
「ニュルニュルさね」
「あん子らは船長も認めとるし、史上最安値の落札や。男やとしてもな。傾奇姫の評判も鰻上りやし、ええやろ」

 次のが問題だ。分かってもらえるだろうか。

「……船舶管理会社。締めて、200,000,000ムーア」
「「は?」」
「四名がビクトリア号に便乗。アルローへ移住して起業予定……です」
「「……」」
「それはいいぞぉ。船長も承諾済みだぁ」

 ジョジョが助け舟を出してくれた。そこにグランマがやってくる。

「ホヅミちゃんが言ってた四人分の糧食はなんとかなりそうよ。ちょっと買い足すけど、船食の割引に捻じ込めると思うわ」

 初耳の二人がポカンとしている。

「意味が分からへん。何をうてんねん」
「帝国からアルローへ移住ってのも分からんわさ。前例が無いさね」
「セーラさん。書類とか手続きが決まって無いなら、別にいいんじゃないです? 禁止されてるわけじゃないんですよね?」
「誰もやらないから、法も無いわさ。……まぁ、いいさね」
「船長が認めとるなら……ワイも構わへん」

 一応、パッサーが算盤を弾いて口座残高と照らし合わせた。

「銀行の手数料を込みで、帳尻はうてる。管理会社が謎やが……まぁ……なんか考えがあってのことやと思うとく」
「そして、さらにですね……」

 これから、遊女を七人。締めて、108,000,000ムーア。

「「はぁ!?」」
「どういうことだぁ!?」
「食糧が足りないわね。というか、アルローまで持つかしら?」

 穂積の行動によって、本船の乗員数が大幅に増えることになる。十三人も増える。グランマは計算し直すことになった。

「すみません」
「いいのよ。いいの……ホヅミちゃんのやることだし」
「……」
「どういうことや!? ちゃきちゃき吐かんかい!」

 チックとイーロの借金願い、チェスカが見つかったこと、ナツが創った養生処、ハルとマスターの関係、ここまでの経過を順を追って説明する。

 チェスカの事情はジョジョがその場で教えてくれた。

「なるほど。チェスカの乗船はそういう経緯でしたか……」
「あん時は、夜中に何事かと思ったがなぁ……うるさくてよぉ」
「うぐぅううう……チェスカぁ~。なんて気合いの入った娘なのぉ~。ホヅミちゃん! 幸せにしないと……殺「分かってますよー」……いいわ。クリスともども、可愛がってあげて」
「ハハハっ! 気に入ったさね! 残るつもりだったチェスカを関係者ごと奪って来ようってトコがいいわさ! まぁ……、そのハルって遊女に転がされただけなんだろうけどね……」

 周りが認める雰囲気の中でパッサーだけが怖い顔で目尻を吊り上げていた。ホヅミの隣で話を聞いていたラックが緊張している。

「それで、ラックンの取ってくれた玩具の特許を売れば、金になるかと思いまして。ご相談させていただきに参った次第です」
「玩具の特許は取れたで。将棋とトランプはいまいち理解を得られへんかったけど、他は役人も食い付きよったわ。特にコマには興味津々や。役所におった商人も、その場で売らんかて言うてたし」

 パッサーがラックを手で制した。

「オトン! 金なら心配いらへん! ぼくが「ラック! ぁとれ!」……すんまへん」

 海千山千の事務長は怒りに震えていた。

「……ホヅミはん。あんさんの買いもんに文句はあらへん。ワイが気に食わんのは身代金や」
「ナツさんはスラムの土地を購入するために借金をしました。その利子がかなりの割合を占めていると……」
「なるほどな……。せやけど、そもそもスラムの地価なんぞあってないようなもんなんやで」
「え?」
「ワイは遊郭のことは分からへん。せやけど、スラムの土地を売ったもんと、その金貸しはグルや。そんくらいは分かる」
「オトン……それって……」
「ホヅミはん。そん身請け交渉……ワイも行ってかまへんやろか?」
「もちろん構いません。というか、有難いですが……パッサーさん?」

 パッサーは一言「おおきに」と言って、ラックに目を向けた。

「……ラック。これはいい勉強になるで。ついてきい」
「はいっ!」
「パッサー。ワシも行くぅ。その手の連中なら、ワシがいた方がいいだろぉ?」
「甲板長。おおきに。たぶんそうなるわ」
「じょははっ! ……ぶっ潰してやる」

 ジョジョが獰猛な笑みを浮かべる。悪徳高利貸しの運命は決まった。

「グランマさん。墓造りにクリスを連れて行きます。念のため、お願いできますか?」
「もちろんよ。同行するわ」

 セーラを船番に残し、クリス、ジョジョ、グランマ、パッサー、ラックの六人を引き連れて養生処に戻ると、手押し車に大量の材料を載せて運んできたチックとイーロの出迎えに、ナツとカゲロが外に出て来ていた。

「お待たせしました」

 商人組合の宴で見知った顔ぶれもいたのだろう。ナツが前に進み出て、ジョジョたちに頭を下げ、しゃなりと挨拶した。

「ビクトリア号の皆さま。見知りおき頂いた方もおられますが、改めまして、わちきはナツと申します。このような所にご足労いただき、ありがとう存じます」

 ラックがポッと頬を赤く染めた。惚れっぽい息子に頭を掻いているパッサーを始め、それぞれが挨拶を交わした。

「は、はじめましゅって! ラララ、ラックです!」
「ふふっ。ラックさん。よろしくお願いします」
「ひ、ひゃい! 絶対、ぶっ潰します!」
「潰す?」
「ラック……。何を口走るんや、このアホ」
「オトン! ナツさん助けたらなあかん!」
「……こらあかん。まだまだや」

 ラックが先走ってしまったので、仕方なくパッサーがナツに講釈する。

「ナツはん。こん土地を購入したて聞いたんやが、そもそも――」

 スラムとは法がまともに機能していない区画であり、土地についても、登記や売買履歴が曖昧で、役所も把握していない場合が多い。

 即ち、やろうと思えば権利書の偽造や虚偽申告も可能。居住者の質も最悪でトラブルの温床となっているため、真っ当な不動産会社が取り扱うことはない。

 数多くの悪条件を考えれば土地価格は常にタダ同然の底値のはずだが、そうした事情により適正な地価など誰にも分からない。

 行政による区画整理計画が持ち上がった場合のみ、一部の特権階級による公開前取引により地価が跳ね上がることもあるが、終わったときにはスラム自体が縮小しているだけだ。

「ほんに……?」
「誰から買うたんや?」
「おかさん……」
「誰や?」
「わちきの務める店の女将おかみが紹介してくれた地主からです。おかさん……元遊女なのに……地獄を見たはずなのに……!」
「……金貸しともグルやで? せやないと遊女と個人的な金銭貸借なんぞ結ばん。このままやったら身請け話もご破産や。あんさんを死ぬまで手放さんやろ」

(遊郭という地獄が産んだ鬼か……危なかった……)

 あそこでハルの遺言を聞いていなかったら、パッサーに相談していなかったらと思うとゾッとする。

 ナツはハルと同じ道を辿り、チェスカも再び地獄に呑まれて、取り返しのつかない事になっていたかもしれない。

「学の無い遊女とお思いでしょうが、どうか、お助けください。……お願い申し上げます」
「パッサーさん。どうか力を貸してください。俺では力不足です。お願いします」

 穂積とナツに揃って頭を下げられ、少々困った顔をしているが、彼がそのつもりで来てくれたことは分かっている。

「墓を造るにも時間は掛かるやろ。ナツはんの身請けの方を先に墓行かすか」
「ありがとうございます……」
「パッサーさん。よろしくお願いします」
「ええて。ワイもええ勉強や。……遊郭はアルローにもあるんやで?」

 地獄は世界のあちこちに在り、今も貧しい者たちが呑まれて続けている。どうにもならない現実に言葉が出なかった。

「クリス。中にゼクシィとチェスカがいるから、二人と相談して敷地内に墓を造ってくれ。俺はパッサーさん達と店に行ってくる」
「はい……。ホヅミさま……気をつけて……」

 ついでに平屋の中身も改装すると張り切って、クリスは養生処へ入って行った。

 チックとイーロは墓造りと改装作業の準備を始めている。ヨハナの居場所になっていた養生処を少しでも良くして恩返ししたいのだろう。

「では、グランマさん。あとを頼みます」
「グスっ……任せなさい! 鬼ババアに負けちゃダメよ!」

 門を抜けて店に向かうのは、穂積、ナツ、パッサーにラック、ジョジョ、そしてカゲロだ。

 カゲロはいかっていた。

 あの養生処を創るために、ナツがどれだけ身を切ったか。ナツに協力した遊女も大勢いたし、金は出せなくとも、多くの遊女や若衆が応援していたのだ。

 そのすべてを踏み躙った店が許せなかった。

「ナツの姉さん……。いよいよとなれば、あっしが始末をつけます」
「やめなんし」
「しかし、姉さん! これでは筋が通りません!」
「……カゲロは養生処を守ってくれるんでしょう?」

 初めてナツに廓言葉以外で話し掛けられたカゲロは二の句を継げなかった。

 一行は店の前に立った。誘いの文句を言おうとした遊女が青褪めて口をつぐむ。格子越しに見える大男の筋肉と、そこから立ち昇る覇気に、もし買われたら死ぬとでも思ったのか一斉に遠ざかった。

「……あんさんらは遊女でありんせん。出直しなんし」

 ナツは辛辣な一言を浴びせると、一行を店の奥へと招き入れた。

 鬼ババアとの戦いが始まる。

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