海の彼方のトティアス 〜船員さん、異世界へゆく。海に沈んだ世界で絆を育み生き抜く、普通の男の物語~

万年ぼんく

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第二章

第一二八話 守役? ほどほどにお願いします

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 ナツは支度を整えて三日後に身請けされることになった。さすがに、すぐ翌日、とはいかないようだ。

 新造の二人、キサラとヤヨイの紹介も受けたが、突然の身請けに二人とも戸惑っている様子だった。

 店主はまだ金貸しへのお礼参りから戻らないので、女将にだけ挨拶をして、一旦、養生処へ戻ることにした。

(マスターにも連絡しておかないとな。リスケだ)

 カゲロが護衛についてくる。スラムの一人歩きは危険が伴うので気を遣ってくれた。

「ニイタカ様。ナツの姉さんを、どうかお頼み申し上げます」
「承りました。今後、ナツがどう生きるか分かりませんが、しっかりとサポートすることをお約束します」
「……さぽーと、ですか。何となく意味は分かりますが、本当に変わったお方だ」
「ナツも変わってると思いますけど?」
「まったく、その通りです。あそこまでなさらずとも……」

 ナツは私財のほとんどを換金して店とカゲロに残すらしい。店と養生処の行く末を案じてのことなのだろうが、女将も「やっぱり、あんたは遊女に向いてないよ。まぁ、貰えるもんは貰っとくさ」と呆れていた。

「カゲロさんも、ありがとうございます。ナツが身請けを受け入れることが出来たのは、あなたがいるからだ」
「もったいないお言葉です。あとの事はお任せください」
「養生処の土地はカゲロさんの名義で正式に登記します」
「命に換えても、必ず守り抜きます」

 彼の覚悟は痛いほど分かるが、それでは本末転倒だ。彼もまた、ナツにとって大切な人に違いない。

 一つ、釘を刺しておこうと、「野暮なのは分かってますが」と前置きして、

「死ぬくらいなら逃げてください」
「それは出来ません」
「いいえ、逃げましょう。そして、また、どこかに創りましょう」
「――っ」

 カゲロは強い。歩き方や立ち姿がゼクシィのそれと似ている。おそらく、武芸の精通している。

「ですよね?」
「ナツの姉さんに仕込まれました。才能があると言っていただきましたが、未だに極まりません」

 謙遜しているが、その表情からは実力に裏打ちされた自信と自負が感じられた。暴力に屈するやわな男では無いのだろうし、だからこそ、ナツも養生処を託せる。

「でも、国を相手には出来ません」
「それは……そうですが……ニイタカ様……もしや?」
「今そういう話があるわけじゃないですが、将来的にどうなるかは分かりません」

 このトティアスでは、土地はそれだけの価値がある。例えスラムであっても土地は土地。

 今は放置されているが、必要になればあっさりと更地さらちにされる。スラム住民の都合など、考えるはずがない。

「そんな……どうすれば……」
「その為の正式な登記です。ビクトリアの名前も、商人組合へのコネも使って、確実に役所の記録にカゲロさんの名前を残します」
「すみません……学が無くて……」
「あー。俺はホント……頭が悪い……。つまりですね、スラムの区画整理や再開発を始めたくても、行政はカゲロさんと養生処を無視出来なくなります」
「……前以て知らせがあると?」

 スラムの区画整理計画は多くの有力者の思惑が入り乱れる一大事業。汚いインサイダー取引に走る富豪は言うに及ばす、役所、地主や名義貸しの貴族、不動産会社も巻き込んで人と金が大きく動く。

 あってないようなスラムの地権管理こそ、彼らが群がる旨味の根源だ。しかし、正規の手続きを踏んだ所有者が、開発予定地にポツンと土地を持っていたらどうなるか。

「ニイタカ様……貴方様は……」
「その頃には土地価格はとんでもなく跳ね上がっているでしょう」

 切り売りする元スラムの土地から、養生処だけ歯抜けになっても困るので、何としても売って貰わなければならない。敷地面積以上の価値ある土地になることは間違いない。

「あとは駆け引きと交渉次第ですが、あまりやり過ぎると地上げ屋が出てきます。さすがに魔力容量の大きい手練れが相手では分が悪いですし、やり合っても一ムーアも得になりません」
「ははっ……すごい……」
「信頼できる不動産関係者にコネを創ることをおすすめします。良く相談して、せいぜい高く売り付けてやってください」
「……それを元手に、新しく養生処を創ればいいのですね?」
「スラム以外がいいですね。出来れば遊郭の壁の内側がいい。梅毒患者の世話は禿や新造の研修に打って付けです」
「け、研修……? 忌わしい事を平然と……恐ろしいお方だ……」
「失敬な! 事前に梅毒の怖さを知ることは大事ですよ。性病予防の意識改革にも繋がります」
「……勉強させていただきます」

 穂積はこれまで多種多様な研修を受講してきた。その中でも一番よく覚えているのは危険体感訓練。

 実際にハーネスを着けて高所から落ちてみたり、救命胴衣を来て落水してみたり、微弱な電流に感電してみたりと、色々とやらかしてみる訓練だ。

 重量物の移送訓練では、講師がワザと研修生の指を詰めさせる。

(あれはビビった。指取れたかと思った)

 吊り上げワイヤーと重量物の間に指を入れる人間は、指詰め事故の洗礼を受けるのだ。発泡スチロール製の本物そっくりな極太配管を使っているので、実際に怪我をする事はないが、かなり怖い思いをする。

 そんな記憶を懐かしんでいたら、養生処の裏手からかしましい声が近づいてきた。

「クリスさま。絶対に張り過ぎですよ。おかしいですって」
「チェスカ……ホヅミさまのは……あんな感じ……」
「ええっ!? ちょ! マジですか……? ちなみにXXの方は……」
「ごにょごにょ……もにょもにょ……」
「ほぅ~。今度……私もいいですか?」
「しかたない……レギオンのよしみで……」
「やたっ! ひひひっ!」
「協力して……ちょっと手強い……」
「全力を尽くします!」

 白い二人組がニヤニヤと、愉しそうに笑みを交わして猥談に興じている。

「あ……! ホヅミさま……おかえりなさい……」
「おかえりなさいませ……ア・ナ・タ、きゃっ! ホヅミさま、すごいんですね? 楽しみ! お楽しみ! ひひっ!」
「はいはい。ただいま」

 聞こえてきた会話から、なんとなく予想はついていたが「まさか聖根?」と聞くと、コクリと頷くクリスはドヤ顔。いい仕事をした感じになっている。

(いいのかな? 遊女にとってアレは……)

 チェスカに目を向けると、「ひひっ! ハル姐さんもびっくりしますよ!」と満面のいやらしい笑みなので、きっと墓石としてアリなのだろう。

「まあ……、チェスカがいいって言うならいいけど、亡くなった原因でもあるわけで……」
「ホヅミさま。遊女にとってアレはおまんまの種なんです。御神体はアレじゃないと」
「御神体じゃなくて、墓石「ダメ……?」で……いいよ!」
「ホヅミさま。私にもそういうのください」
「チェスカはそういう感じじゃ「おくれなんし」……なくはない」

 クリスに続き、アンナにもおねだりされると嫌とは言えなくなっていた。普段はチェスカなので問題ないが、不意打ちのようにアンナ萌えを入れてくるのが堪らない。

 養生処の中は相変わらず薄暗く、内装のリフォームはこれから。クリスはゼクシィと相談しながら計画を練っている。

「お身請けは? どうなりました?」
「上手く行きそうだ。三日後に迎えに行くから」
「お~! あのおかさんをよく丸め込めましたね! で? カゲロ? お身代は?」
「アキの姉さん……それが……おかさんは要らんと……」
「――は?」

 初めはまったく聞く耳持たなかったのだが、土下座してハルの遺言のことを明かしたら、あっさり承諾してくれたことを説明するが、当のカゲロも首を傾げて、

「あっしにも訳が分かりません。……なんというか、突然、妙な感じがして」
「ホヅミさま! すごいです! お身代がタダになるなんて!」
「俺は納得いかないけどな。何で急に……?」
「あんな顔のおかさんは見たことがありません。とても穏やかな顔をされていました」
「え~? あの鬼ババアが?」
「アキの姉さん……。言い過ぎです。おかさんは……」
「あー。分かってるって。……私のために動いてくれてたんでしょ?」
「……ご存知でしたか」

 チェスカには店に迷惑を掛けた自覚はあったらしい。ビクトリアが身代金を立て替えたとはいえ、若衆の引き際が良過ぎた。女将が何か手を回したことは予想出来たという。

「私はおかさんのこと嫌いじゃなかったですよ。ハル姐さんを追い出した時は憎っくき鬼だと思いましたけど、実は前々から分かってて、姐さんとも話は付いていたようです」
「チェスカは目端めはしが効くからな。一緒に作業してれば分かる。グランマさんも褒めてたぞ?」
「ホントですか!? それは気づかなかったです!」
「アタシは褒めたことなんて無いわよ。ホヅミちゃんもテキトーなこと言わないでちょうだい!」
「あー。そうですね」
「ひひっ! そうですね!」

 グランマも素直じゃない。女将の場合は偏屈に過ぎるが、似たようなものだったのだろう。

 お茶を啜りながらのんびり休憩する。チェスカは史上初の身代金無料を実現した土下座はやっぱりすごいと力説している。

「やっぱり土下座は偉大です。流行ってますし」
「は? 流行り?」
「知らないですか? 本船では土下座が流行ってるんです。なんか許してしまう。なぜか言うことを聞いてしまうって」
「……なんてことだ! あれはここぞと言う時に繰り出すからこそ意味があるんだ。しょっちゅうやってたら挨拶と同じになるぞ」

 挨拶代わりに土下座が横行する職場は嫌だ。ヨハナの近くに座っているチックとイーロを見ると、「タダってなんだよ……」とブツブツ言いながら目を逸らされた。

 土下座の威力を理解した上での確信犯だったということだ。二人にとっては正に、ここぞと言う時だったのは分かるが、安易に流行りに乗っかられても困る。

 今後、不意の土下座に襲われた時の対処を考えていると、禿の少女たちを集めて何やら話をしていたカゲロが声を掛けてきた。

「ニイタカ様。少しよろしいでしょうか?」

 おかっぱ頭の禿が四人、横一列に並んでいた。

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