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第三章
第一六八話 夢の造水器
しおりを挟む翌朝、ウォーターベッドで目を覚ました穂積は下半身の気怠さに耐えて身を起こす。
最近は毎朝こうだ。イソラと頑張っているのが現実の身体にも影響しているのかもしれない。
隣のベッドを見やると三人の女たちが素っ裸で寝息を立てていた。
日中の気温は高いが朝方は少し冷え込む。大中小の乳房を拝みながら毛布を掛けてやり、三人の額にキスをして洗面所へ。
顔を洗って身支度を済ませ、寝室の扉を開けて船長執務室へ入ると、ビクトリアが執務机で書類仕事をしていた。
「おはよう、ビクトリア。今日も早いね」
「おはよう、ホヅミ。ちょっとな」
元から勤勉な彼女だったがオプシーを出港してから特に忙しそうだ。
朝早くから夜遅くまで働き、寝るのはいつも一番最後。寝室で他の三人とニャンニャンしていても混じって来ない。
作業に区切りが付いた頃を見計らって机の後ろに回り込み、頬に手を添えておはようのキスを贈る。
軽く啄むだけのキスで、薔薇のように赤くなって微笑む彼女が新鮮で、思わず見惚れてしまった。
「ビクトリアが忙しいのって、もしかしなくても俺のせいだよね?」
「いや、ホヅミのせいというわけではない。新規事業を早期に開始するためにも、時間はいくらあっても足りんのだ」
「アルローに着いてからじゃ……遅いか」
「国に帰ったら更に忙しくなる。頭の硬い連中を動かす仕事もあるし、父上にお前を紹介して段取りを進めねばならん」
段取りとはビクトリアと穂積の正式な婚約の事である。王族ともなれば婚約するだけで大事だし、今回はイーシュタル公爵家との縁切りも視野に入れての話だ。
アルローという国にとって対外政策の大転換を迫られることは確実で、国内の反対勢力をねじ伏せることはビクトリアといえども容易ではない。
「ビクトリア。無理はしないで、俺にも出来ることがあるなら言ってくれ」
「ホヅミは既に出来ることをしてくれているぞ? ……たっぷりとなぁ」
「そうか? 婚約の段取りなんて聞いてないけど?」
「婚約は取り止める」
「……は?」
ニヤニヤ笑っているビクトリアの表情と今の台詞が合致しない。彼女は婚約しないと言ったのだ。
(え? なんで? 俺って嫌われたの?)
夜の生活がご無沙汰なのもそれが原因だったのか。やはりEDに自分の伴侶は相応しくないと思われたのかもしれない。
王族にとって最も大切なことは世継ぎを残すことであると聞いたことがある。ビクトリアはアルローの次期首長、つまりは次の王だ。否定できる要素はまったくない。
「……ぐすっ」
「何を泣いてんだ?」
「だって、やっぱEDは駄目なんでしょ?」
「ち、違う! 勘違いするな!」
「だって、婚約しないって言ったじゃん?」
「婚約はしない」
「やっぱりね!」
ビクトリアは穂積の顔を両手でグワシと掴むと熱烈なキスをしてきた。
「んぐっ!? むおっ……」
「んっ、んん~。ちゅっ、ぴちゃくちゅ。んちゅう……」
ビクトリアは長く深い口付けを終えると、穂積の口内から赤い舌を抜き出して唇の雫をペロリと舐め取り、嫣然と微笑んだ。
「……娼夫として飼おうって言うのか?」
「違う。なんでそうなる?」
「じゃあ、なんなの?」
「婚約は端折る。即、結婚だ」
「なんと!?」
手順をすっ飛ばして結婚まで強行するらしい。内外にビクトリアの覚悟を示し、退路を断つことでゴリ押しに箔をつける狙いだとか。
「そう上手くいくかな?」
「まったく問題無い!」
「ホントに?」
「そう心配するな。大陸棚から抜け出す方が余程難題だ」
「そりゃそうだけども」
「切り札もできるしな……」
「切り札?」
「あっ! いや! なんでも無いぞ!」
やはりビクトリアがおかしい。冷や汗をかいてパタパタと手を振っている。なんのジェスチャーかわからない。
「ビクトリア……なんか隠してない?」
「だから、なんでも無いんだ! 最近慣れてきたし、不意に漏らすことも無くなった!」
「漏らす?」
「それよりホヅミ! 朝飯にしよう! ほら行くぞ!」
左腕を抱かれ引き摺られるように食堂へ向かうと、まだ朝も早いというのにキサラが朝食の準備に勤しんでいた。
「あっ。ホヅミ様に船長。おはようございます」
「おはよう、キサラちゃん」
「ふむ。おはよう」
「もうすぐ出来ますから、座ってお待ちください」
急がせてしまっただろうかと謝ると、キサラは「いいえ」と言ってテキパキと二人分の朝食を用意してくれた。
「昨日はお見苦しいところを」
「アズラとの初遭遇はああなって当たり前だ」
「その通りだ。大型にあそこまで接近されたら普通は終わりだからな」
緊急出港から続くドタバタに加え、密航者の発見、トドメに大型海獣との邂逅と、この数日間はキサラにとって衝撃の体験の連続だった。
遊郭の常識は完膚なきまでに叩き壊され、本人の中でも意識の変化があったのか、廓言葉を使わなくなっている。
「本当に驚きました。世の中にはあんなに大きな生き物がいるんですね」
「そうだねぇ。トティアスならではだねぇ」
「……ホヅミ様。クリス様に取り次いで頂けませんか? 塩結晶生産を教えて欲しいんです」
「わかった。言っておく。まずは水桶一杯分から始めるといい」
「ありがとうございます!」
キサラは綺麗な礼をして厨房へ戻っていった。
新たな環境に順応するのに苦労しているようだったが、あの調子ならこれから上手くやっていけるだろう。
「どう化けるか楽しみだな」
「そうだね。クリスにはよく言っておかないと」
錬成魔法の可能性は無限大だ。新素材だけではなく、あらゆる分野で裾野は大きく広がっている。
新たな発見や革新的な技術は一握りの天才が齎すものかもしれないが、それを形にして社会に反映し発展させていくには大勢の人間の力が必要だ。
キサラやカンナには是非ともその先駆けになって貰いたい。
「今日はどうするんだ?」
「まずは造水器の図面を仕上げようと思う。原理や構造に各部品の詳細説明、運用方法と整備基準もまとめておかないとね」
「ふむ。最重要案件だな。VLTC計画の心臓と言えるものだ。情報はすべてオレが管理するから、船長室を使ってくれ」
「わかった。必要な情報は日本語で書いてあるから、クリス以外には読めない。情報漏洩はあまり心配してないけどね」
参考にしているのは浸管式舶用造水器。
下部の蒸発器と上部の凝縮器が結合した大きなキノコのようなドラム形状をしており、蒸発器で発生させた水蒸気を凝縮器で冷却して回収するだけの単純な構造だ。
海水をポンプで器内に給水すると共に、配管に設けたエジェクターによる吸引効果で器内の空気を抜き出し真空にする。
水を低圧環境下で加熱すると低温で沸騰する原理を利用し、連続的に給排水と真空引きを行うことで約50℃で蒸留する事が出来る。
これにより加熱源として80℃前後の主機冷却水を使うことが可能となるため、機関の排熱回収をしつつ真水を生産出来るのだ。
もっとも、これは地球の汽船の話。現在必要とされているのは精製魔法に寄らない真水の大量生産であるため、この運転諸元に拘る必要は無い。
想定しているシステムに必要となるのは加熱魔堰、送液魔堰、思兼魔堰であるため、適性者人口の多い熱量・運動魔法があれば真水が造れるようになる。
更に造水器からの排水であるブラインは塩分濃度が高くなっているため、塩結晶生産も捗るだろう。
運用面で言えば、給水とブラインの排水、真空度、器内温度、凝縮水面などの諸元を安定させることが難しいのだが、これは思兼魔堰の設定次第で制御可能だと考えている。
魔力消費と真水生産効率の最適化を目指さなければならないが、魔堰には電力量kWh(キロワット時)のような定量的な消費エネルギーの概念が無いため、これは難しいと言わざるを得ない。
魔力チャージの担当者によっても効率的な運転諸元は変わることが予想されるため、穂積無しで思兼魔堰の設定変更が出来なければならない。
造水器の取扱説明書は運転制御のやり方と設定変更時の操作手順でその多くが割かれることになるだろう。
「――と、あとはエバポレーターを取り外せるように設計しないとな。加熱チューブは真鍮が望ましいがこの世界で耐食性を持つ金属は希少だろうから新素材で代用するが、いずれにしてもチューブ内壁へのスケールの析出は避けられないからな」
「……おい」
「本来ならスケール付着防止剤の添加や定期的な酸洗いで対応すべきなんだが、薬剤の作り方なんか知らないから、取り外して物理的に除去するしかないんだ」
「……ホヅミ」
「スケールは熱伝導を阻害するし、めちゃくちゃ硬いからな。チューブ内径に合わせて長いドリルでも造っておくか。一括で対応する整備工場を建設した方が効率的かもな」
「……おーい」
「エバポレーターを同一規格でユニット化して交換出来るようにしよう。長期で運用するにも独自の技術が必要となれば、ハードを帝国に輸出してもアフターサービスとメンテナンス契約で丸儲けできるぞ」
「……まぁ、いいか。ホヅミだしなぁ」
興が乗ってくると専門知識と蘊蓄をひけらかすエンジニアの悪い癖が出てしまっている。
ビクトリアにはサッパリ理解できなかったが、楽しそうに語り続ける穂積を見て、適当に相槌を打ちながら聞いてやることにした。
因みにこれらの蘊蓄はクリス相手に散々語り尽くされたもので、恐ろしいことに天才少女はちゃんと理解して、既に試作品に使う新素材の準備を始めている。
(こういう馬鹿っぽいところもいいな。可愛くてキュンキュンするぅ)
穂積を見るビクトリアの視線は温かで、幼な子に向けるような慈愛に満ちていた。
そっと下腹に触れて奥に波打つ感触を確かめ、頬を染める彼女の様子に、造水器に夢中な穂積は気付かない。
(今夜も頼むぞ? 愛しのホヅミぃ♡)
最近のビクトリアはとても忙しい。
しかし、まったく辛くはない。
毎晩、最高のご褒美が彼女を待っているからだ。
ビクトリアは幸せな感触を抱えて、最愛の雄を蕩け切った瞳で見つめていた。
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