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第七章
第四三三話 勧誘だよ。割れたよ
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第四三三話 勧誘だよ。割れたよ
「ニイタカ・ルカ、デス」
「おい……流花」
「なんですかぁ? 穂積さん?」
「テメェはクミズルカだろ?」
「ダルマ四郎ハ、シャベル、ダメ、デス」
私服女性が増えて見た目は華やかになった食堂だが、空気は極度に乾燥していた。
もう分かっている黒服たちは食事を平らげ、マイ水筒 (1L)を小脇に抱えて退散していく。
「ゴホゴホ……! の、喉が渇くんだけど?」
「何これ……コホっ! 唇も乾く!」
「……なぁ~んかヤバぁ~い」
「面白そうです……ケホっ。身体強化して見てましょう……コホっ。渇きますね」
ハンバルたちが咳き込みキョロキョロしているが、外野を気にかける余裕はない。
聖堂に戻った穂積はナツを探した。
まずはご懐妊を言祝ぎ、ご機嫌伺いをしなければと思っていたのだが、彼女は見つからず、フィーアの姿も見当たらない。
『少女を手篭めにするとは何事ですか』
ナツの声が聞こえた気がして食堂を覗いたら、録音魔堰でスピードラーニングに勤しむ流花と目が合った。
覚悟を決めて食堂に入るとシオンがパッと現れて「ん……おかえり」と水を渡してきたので、ポンと肩を叩き「よくやった」と褒めてやると、「JCヲ、テゴメニ、スルトハ、ナニデスカ」と、謎のカタコトが聞こえて渇き始めたのだ。
(……いかん。いかんぞコレは)
乾燥は加速している。
食堂に女が入ってくるたびに、穂積に声を掛けるたびに、舌の根がカサカサになって、服がパリッとしてきた。
「おいコラ! クミズルカ! 渇くから砂のチカラ止めろコラ!」
「ダルマ四郎ハ! シャベル! ダメ! デス!」
流花テーブルの対面に着席した穂積の周りには四人の女がいた。
メリッサ、リヒト、ルーシー、シロウ。
シオンの姿はいつの間にか消えているが、何処かに緊急避難したのだろう。おかげで流花の側には誰もおらず、孤立無縁の可哀想な状況ではある。
しかし、本人は全く気にする素振りを見せず、孤独感に耐えている様子も無く、自然体だ。集団から外れることを嫌う気質の日本人とは思えなかったが、穂積としては非常に居心地が悪い。
(なんとかせにゃ……)
とりあえず、初顔合わせの女たちを紹介することにした。
「ナツとはもう会っただろ?」
「青髪の美人妻っスね。Gラーニングは助かってます」
「頼むから仲良くしてくれ」
空気が渇く。
「茶髪がメリッサ。熱血軍人家系の出だ。実家が米軍だと思え」
「USCGは厳しいから嫌いっス」
「コーストガードじゃねぇ。この世界の最強海軍だ」
また空気が渇く。
「赤髪がルーシー。俺が家を建てた国のお姫様だ。良識のあるマリー・アントワネットだと思え」
「革命が起きたら処刑されるんスね」
「処刑なんかさせねぇよ」
またまた空気が渇く。
「薄紫髪がリヒト。クスリ漬けにされた後遺症でたまに暴走するが良い奴だ」
「薬中キャラっスか? 新しいと思います」
「何がだ?」
どんどん空気が渇いていく。
「で? 新妻ヲ、放置シテ、ドコニ、イク、タ、デス?」
テーブルの下からカタカタカタカタと音が聞こえる。
「結婚してくれるって言ったのに籍入れようって言ってくれたのにあたしを一人で放置してひどくないですか? ひどいですよね? でも仕事行くみたいな感じで出ていったから妻は夫を待つものだし船員の妻なら尚のことちゃんとしなきゃって大人しくしてたのに達磨四郎はテンガだからしょうがないって見逃してあげたのに、なのになのに、当てつけみたいに美人妻送り付けてきて帰ってきたと思ったら三人も追加で連れてきて、なんなのホントあり得ないんですけど? どうせあたしの見てないところで散々ヤりまくってるに決まってますよね? プロポーズ直後にこれは無いでしょうよ? NPC相手にナニして遊んでんの? あたしはここにいるのにこんなに好きなのにスマホーチとかどういうこと? どうせ仕事じゃなかったんでしょ遊びに行ってたんでしょ女に逢いに行きたかっただけでしょ? だからあたしは邪魔だったんでしょ? わかってるもうわかってる穂積さんにとってあたしはメンドクサイんでしょ? 重たいんでしょ? でもどうしようもないじゃない好きなんだから。こんなに好きで好きであたしは死ぬほど愛してるのになんで? なんで愛してくれないの……そんなの…………おかしいよ」
食堂はカッラカラに渇き切り衣服が帯電して肌がチリチリする。あちこちで唾を搾り出して飲み込む音が響き、息を吸っては唾を飲む。
「あああああ…………喉が渇く」
『ザザァ――――ッ』
テーブルが砂になった。
同時に穂積は飛び出した。
流花の乳当てが弾け飛び、胸が煙管服から溢れそうになる。
正面から抱きしめて、身体を張って隠しつつ、怒鳴った。
「バカヤロウ! 乳首まで見せちゃダメだろが!」
流花の胸を他の男に見られたくないという、見当違いの理由で穂積は動いたのだ。
「あ……」
食堂の空気が一瞬で潤った。カッラカラの喉も何故かプルンと潤った。
「「「「「すぅ――――っ……はぁ~~」」」」」
全員が大きく深呼吸して安堵の溜息を吐く。
メリッサとリヒトは、もう一人の新参が持つ力についてシロウから聞かされて知っていたが、まさかこれほど危険で非常識なものとは思っていなかった。
ただそこにいるだけで全てが渇き、テーブルと椅子はあっという間に砂になった。
これが最大限に発揮された結果、地域の気候すら変化させ南方砂丘を急拡大したというのだから、厄介どころの話ではない。
機嫌を損ねれば島を丸ごと滅ぼしかねない魔女のような女に、ルーシーの額に汗が伝う。
「ダメだろう? 恥ずかしくなくても人前ではちゃんと隠せって言ったのに」
「へへへ……ごめんなさい。ちょっと深刻に考えちゃってましたぁ」
「俺のがあると言っても煙管服だけってわけにもいかん。露出狂だと思われていいのか?」
「以後、気をつけますから。それよりも……ただいまのキスがまだですよぉ?」
「しょうがないなぁ~」
戦慄する周囲を余所にイチャイチャする二人に畏れの視線が注がれる。
潤いすぎた空気に、全員の衣服がじっとり湿っていた。
**********
メリッサに割り当てられた客室に四人の女が集合していた。裏女子会の緊急臨時会議が開催されたのである。
「「我ら裏女子会……にいさん (おとうさん)を支える女たちの集いです」」
「何ですか。そのいかがわしい会合は」
「おれも良くは知らねぇ。ニイタカとヤりたきゃ入れって言うから……よっと! しゃあねぇだろ」
ベッドに寝転んでいたシロウが体幹のバネを使って器用に起き上がる姿を見て、ルーシーは出し掛けた手を引っ込めた。
「……アルローって国は、あんたみたいな連中が仕切ってんのか?」
「そうとも限りませんわ。わたくしが国政に手を出したのはつい最近のことですし、既にその席も無いでしょう」
「へぇ……そうかよ」
昔の自分なら、彼女を介助しようなどとは思わなかっただろう。それは優雅ではないと捨て置き、品性に欠ける現実に気付きもしなかったに違いない。
権威は人の精神を蝕み、子々孫々と受け継がれる病巣なのだと知った。それは帝国皇族にも顕著に現れていた。自分の病が軽かったのは、出自が異端の純粋培養だったからに過ぎない。
「ナツさんが不在の折に独断になるが、事は急を要する。ルーシー殿も入られよ」
「御免被りますわ。怪しげな集団を組織して何がやりたいのです? ホヅミ大使もご存じない様子ですし、秘密会議など百害あって一利なしではございませんこと?」
「海の魔女への備えにはなるかと。魔力を女子力で抑え込み、圧倒するためなので」
「はぁ~……裏女子会とやらのお考えは理解しました。やはり辞退いたしますわ」
「ルーシー殿! 今こそ決断の時! どのような思惑をお持ちか知らんが、魔女的な女が早くも出てきたのだ!」
猛るメリッサが放つ暑苦しい覇気になんとか耐えて「優雅ではございません」と嘯くルーシーは裏女子会に興味を示さない。
「何故だ!? あのクミズルカを見ただろう! 聖痕も浮かばせず埒外のチカラを撒き散らす! 大陸全土が砂になってはトティアスは滅ぶ! 一致団結して対処するべきだ!」
「あのお方はホヅミ大使と同じく異世界から飛ばされて来られたのですわよね?」
「そうらしいです。おとうさんの船で働く部下だったかと」
「クミズルカが狂ってるのは間違いねぇ。あいつは里の人間を襲って殺しまくった。ガキまで殺そうとした。おれの脚を目の前で食いやがった」
「……私よりパーかもしれません。ルーシー姉さん。密かに始末すべきかと」
穂積は凪海に、流花は砂丘に投げ出され、同じように遭難した。海と陸との違いはあっても、いずれも直死の体験だろう。
「あの女からは殺意も何も感じられん。なのに殺す。アレの正義は自分には不要だ」
「メリッサさんの感覚は正しいのでしょうし、わたくしもあの方からは危険な狂気しか感じませんでしたわ」
「ならば貴殿はどうなさるおつもりか? にいさんはあの女をアルローへ連れていくつもりだぞ?」
「帝国もアルローも同じですわ。腐りかかった……いいえ、もはや見るも無惨に腐りきり、底辺には膿が海のように溜まっております。これはトティアスの抱える業に他なりません」
それはメリッサにも分かっていた。
世界の澱みは溜まりに溜まり、今も上から下へ流れ続けている。
それを生み出しているものが何なのか。
単純に王侯貴族であれば分かりやすいが、それならとうの昔に破綻をきたしておかしくない気がした。
「お考えあそばせ。ホヅミ大使はお義姉様に拾われました。貴女様の目も手伝い、奇跡的に生きながらえたのです」
「その通りだが……何を仰りたいのか?」
「あのお方も同じでしょう。元はホヅミ大使と同じく、ただのニホン人。さて、言語理解も持たない彼女は、砂丘で誰に拾われたのでしょうか?」
「――」
単に水を求めて芽生える奇跡が、万物を砂に変えるチカラになるだろうか。
「異世界からの客人を膿に沈めたのは我らトティアスの民ですわ。ホヅミ大使と彼女を引き摺り込んだのはティルネス・イソラ・ラクナウ様とのことですが、その原因は当然、この世界の事柄でございましょう」
「……クミズルカが被害者だから許せと仰るか?」
「許すも何もございません。彼女はこの世界にとってのゲストに過ぎず、来て早々、客人に狼藉を働いたホストに応報の奇跡が芽生えたと、それだけの事でございましょう。いずれにせよ、わたくしはわたくしの品性によって立つのですから、砂にされるなら及ばなかっただけのこと。精々優雅に散ってみせますわ」
「…………アルローではどう迎えられるのか?」
「クミズ・ルカ様については、同じくゲストであるホヅミ大使がお相手をなさるのがよろしいかと存じます。既に馬脚を表したホストが何を今更とお思いでしょうが、わたくしには関わりの無いことでございますれば、成すべきを為すだけのことですわ」
「…………なんと。それがルーシー殿の正義か」
「何を仰っているのかわかりかねますが、恋敵が手強いからと徒党を組むなど全く優雅ではございません。女子力とは、どのような力のことを言っているのでしょうか? ともあれ、わたくしが裏女子会なる怪しげでいかがわしい会に入会することは今後もございませんのであしからず。しかしながら……ナツさんはどうお考えなのでしょう? そこは気になりますが、此度の貴女方は相当にお粗末でしてよ。この小心者。あなかしこ」
優雅に罵倒されたメリッサとリヒトは何も言えなくなっていた。
本来なら断ったら始末しなければならないのだが、よく考えてみると勝手に開陳しておいて、仲間にならなかったからと殺すのはどうなのか。
「……おれもやめとくわ。殺るなら来やがれ。ぶっ殺してやる」
シロウは裏女子会入会をやめた。毎晩のように4Pに明け暮れ、変な仲間意識が芽生えてしまっていたが、よくよく考えてみると他の女はどうでもよかった。
「ぬぬぬぅ……お、おのれ……! だが……完敗だ!」
「ルーシー姉さん。ナツ様には秘密にして欲しいかと」
「わたくしに何のメリットがございますかしら?」
ナツの指示を無視して突っ走った挙句、メリッサとリヒトは裏女子会内での立場を危うくすると共に、その存在意義に疑問を持ってしまった。
発足して早々にアルローと大陸に分かれた組織であり、最大目標である一人の男が片方の手中にある現状の危うさを、ナツは認識していたが、流花の出現によって焦ったメンバーが予期せぬ事態を招いた。
「ルーシー姉さん……今晩、混ざりませんか?」
「ま、混ざる? 何に混ぜてくださると?」
「ルーシー姉さん……そろそろ……妾のお勤めを果たされてはどうかと」
「ま、まさか五人でということですか!? そ、そんな……は、はしたない! はしたないですわ! なりません! なりません!」
「ルーシー姉さん……飽精の儀というものがありましてぇええ~」
「リヒトさんっ! なんという爛れた貌を……ごくっ……それで……どのような儀式ですの?」
そこから先の緊急臨時会議はただの猥談となった。シロウの獣のチカラにも話が及び、天井知らずに盛り上がるすごい夜会が赤裸々に語られる。
ルーシーは顔を真っ赤に染めながら「まあまあまあまあまあ!」と叫び続け、はしたない三人の女に引き摺り込まれていった。
その日の夜、聖堂に帰ってきたナツによって、ルーシーの貞操はギリギリで守られた。
半透明のネグリジェに隠された細い肢体と薄い胸を抱きしめて、プルプル震えるルーシーの目には涙が浮かんでいる。
まだ何もしてないのに少女のように怯えているのだが、貴族令嬢とは自ら脱いだ下着姿を見られただけでこんな感じになるのだろうか。チェーンは貴族令嬢ではなかったらしい。
「いい加減にしなんし!」
「しかしナツさん!」
「ナツ様も混ざりますかぁあ~?」
「ニイタカ……おれとしっぽりヤろうぜぇ?」
「てもせわしのうざんす! クミズにバレたらどうするでありんす!」
「…………ナツ?」
「ホヅミ大使……この責任は必ず取っていただきます……」
「あなた? いつ帰ってきたの?」
不死男をお手本にフィーアの指導で行われた坐禅体験には効果があった。しかし、せっかく整えられたナツのホルモンバランスは、一挙に崩れた。
「ニイタカ・ルカ、デス」
「おい……流花」
「なんですかぁ? 穂積さん?」
「テメェはクミズルカだろ?」
「ダルマ四郎ハ、シャベル、ダメ、デス」
私服女性が増えて見た目は華やかになった食堂だが、空気は極度に乾燥していた。
もう分かっている黒服たちは食事を平らげ、マイ水筒 (1L)を小脇に抱えて退散していく。
「ゴホゴホ……! の、喉が渇くんだけど?」
「何これ……コホっ! 唇も乾く!」
「……なぁ~んかヤバぁ~い」
「面白そうです……ケホっ。身体強化して見てましょう……コホっ。渇きますね」
ハンバルたちが咳き込みキョロキョロしているが、外野を気にかける余裕はない。
聖堂に戻った穂積はナツを探した。
まずはご懐妊を言祝ぎ、ご機嫌伺いをしなければと思っていたのだが、彼女は見つからず、フィーアの姿も見当たらない。
『少女を手篭めにするとは何事ですか』
ナツの声が聞こえた気がして食堂を覗いたら、録音魔堰でスピードラーニングに勤しむ流花と目が合った。
覚悟を決めて食堂に入るとシオンがパッと現れて「ん……おかえり」と水を渡してきたので、ポンと肩を叩き「よくやった」と褒めてやると、「JCヲ、テゴメニ、スルトハ、ナニデスカ」と、謎のカタコトが聞こえて渇き始めたのだ。
(……いかん。いかんぞコレは)
乾燥は加速している。
食堂に女が入ってくるたびに、穂積に声を掛けるたびに、舌の根がカサカサになって、服がパリッとしてきた。
「おいコラ! クミズルカ! 渇くから砂のチカラ止めろコラ!」
「ダルマ四郎ハ! シャベル! ダメ! デス!」
流花テーブルの対面に着席した穂積の周りには四人の女がいた。
メリッサ、リヒト、ルーシー、シロウ。
シオンの姿はいつの間にか消えているが、何処かに緊急避難したのだろう。おかげで流花の側には誰もおらず、孤立無縁の可哀想な状況ではある。
しかし、本人は全く気にする素振りを見せず、孤独感に耐えている様子も無く、自然体だ。集団から外れることを嫌う気質の日本人とは思えなかったが、穂積としては非常に居心地が悪い。
(なんとかせにゃ……)
とりあえず、初顔合わせの女たちを紹介することにした。
「ナツとはもう会っただろ?」
「青髪の美人妻っスね。Gラーニングは助かってます」
「頼むから仲良くしてくれ」
空気が渇く。
「茶髪がメリッサ。熱血軍人家系の出だ。実家が米軍だと思え」
「USCGは厳しいから嫌いっス」
「コーストガードじゃねぇ。この世界の最強海軍だ」
また空気が渇く。
「赤髪がルーシー。俺が家を建てた国のお姫様だ。良識のあるマリー・アントワネットだと思え」
「革命が起きたら処刑されるんスね」
「処刑なんかさせねぇよ」
またまた空気が渇く。
「薄紫髪がリヒト。クスリ漬けにされた後遺症でたまに暴走するが良い奴だ」
「薬中キャラっスか? 新しいと思います」
「何がだ?」
どんどん空気が渇いていく。
「で? 新妻ヲ、放置シテ、ドコニ、イク、タ、デス?」
テーブルの下からカタカタカタカタと音が聞こえる。
「結婚してくれるって言ったのに籍入れようって言ってくれたのにあたしを一人で放置してひどくないですか? ひどいですよね? でも仕事行くみたいな感じで出ていったから妻は夫を待つものだし船員の妻なら尚のことちゃんとしなきゃって大人しくしてたのに達磨四郎はテンガだからしょうがないって見逃してあげたのに、なのになのに、当てつけみたいに美人妻送り付けてきて帰ってきたと思ったら三人も追加で連れてきて、なんなのホントあり得ないんですけど? どうせあたしの見てないところで散々ヤりまくってるに決まってますよね? プロポーズ直後にこれは無いでしょうよ? NPC相手にナニして遊んでんの? あたしはここにいるのにこんなに好きなのにスマホーチとかどういうこと? どうせ仕事じゃなかったんでしょ遊びに行ってたんでしょ女に逢いに行きたかっただけでしょ? だからあたしは邪魔だったんでしょ? わかってるもうわかってる穂積さんにとってあたしはメンドクサイんでしょ? 重たいんでしょ? でもどうしようもないじゃない好きなんだから。こんなに好きで好きであたしは死ぬほど愛してるのになんで? なんで愛してくれないの……そんなの…………おかしいよ」
食堂はカッラカラに渇き切り衣服が帯電して肌がチリチリする。あちこちで唾を搾り出して飲み込む音が響き、息を吸っては唾を飲む。
「あああああ…………喉が渇く」
『ザザァ――――ッ』
テーブルが砂になった。
同時に穂積は飛び出した。
流花の乳当てが弾け飛び、胸が煙管服から溢れそうになる。
正面から抱きしめて、身体を張って隠しつつ、怒鳴った。
「バカヤロウ! 乳首まで見せちゃダメだろが!」
流花の胸を他の男に見られたくないという、見当違いの理由で穂積は動いたのだ。
「あ……」
食堂の空気が一瞬で潤った。カッラカラの喉も何故かプルンと潤った。
「「「「「すぅ――――っ……はぁ~~」」」」」
全員が大きく深呼吸して安堵の溜息を吐く。
メリッサとリヒトは、もう一人の新参が持つ力についてシロウから聞かされて知っていたが、まさかこれほど危険で非常識なものとは思っていなかった。
ただそこにいるだけで全てが渇き、テーブルと椅子はあっという間に砂になった。
これが最大限に発揮された結果、地域の気候すら変化させ南方砂丘を急拡大したというのだから、厄介どころの話ではない。
機嫌を損ねれば島を丸ごと滅ぼしかねない魔女のような女に、ルーシーの額に汗が伝う。
「ダメだろう? 恥ずかしくなくても人前ではちゃんと隠せって言ったのに」
「へへへ……ごめんなさい。ちょっと深刻に考えちゃってましたぁ」
「俺のがあると言っても煙管服だけってわけにもいかん。露出狂だと思われていいのか?」
「以後、気をつけますから。それよりも……ただいまのキスがまだですよぉ?」
「しょうがないなぁ~」
戦慄する周囲を余所にイチャイチャする二人に畏れの視線が注がれる。
潤いすぎた空気に、全員の衣服がじっとり湿っていた。
**********
メリッサに割り当てられた客室に四人の女が集合していた。裏女子会の緊急臨時会議が開催されたのである。
「「我ら裏女子会……にいさん (おとうさん)を支える女たちの集いです」」
「何ですか。そのいかがわしい会合は」
「おれも良くは知らねぇ。ニイタカとヤりたきゃ入れって言うから……よっと! しゃあねぇだろ」
ベッドに寝転んでいたシロウが体幹のバネを使って器用に起き上がる姿を見て、ルーシーは出し掛けた手を引っ込めた。
「……アルローって国は、あんたみたいな連中が仕切ってんのか?」
「そうとも限りませんわ。わたくしが国政に手を出したのはつい最近のことですし、既にその席も無いでしょう」
「へぇ……そうかよ」
昔の自分なら、彼女を介助しようなどとは思わなかっただろう。それは優雅ではないと捨て置き、品性に欠ける現実に気付きもしなかったに違いない。
権威は人の精神を蝕み、子々孫々と受け継がれる病巣なのだと知った。それは帝国皇族にも顕著に現れていた。自分の病が軽かったのは、出自が異端の純粋培養だったからに過ぎない。
「ナツさんが不在の折に独断になるが、事は急を要する。ルーシー殿も入られよ」
「御免被りますわ。怪しげな集団を組織して何がやりたいのです? ホヅミ大使もご存じない様子ですし、秘密会議など百害あって一利なしではございませんこと?」
「海の魔女への備えにはなるかと。魔力を女子力で抑え込み、圧倒するためなので」
「はぁ~……裏女子会とやらのお考えは理解しました。やはり辞退いたしますわ」
「ルーシー殿! 今こそ決断の時! どのような思惑をお持ちか知らんが、魔女的な女が早くも出てきたのだ!」
猛るメリッサが放つ暑苦しい覇気になんとか耐えて「優雅ではございません」と嘯くルーシーは裏女子会に興味を示さない。
「何故だ!? あのクミズルカを見ただろう! 聖痕も浮かばせず埒外のチカラを撒き散らす! 大陸全土が砂になってはトティアスは滅ぶ! 一致団結して対処するべきだ!」
「あのお方はホヅミ大使と同じく異世界から飛ばされて来られたのですわよね?」
「そうらしいです。おとうさんの船で働く部下だったかと」
「クミズルカが狂ってるのは間違いねぇ。あいつは里の人間を襲って殺しまくった。ガキまで殺そうとした。おれの脚を目の前で食いやがった」
「……私よりパーかもしれません。ルーシー姉さん。密かに始末すべきかと」
穂積は凪海に、流花は砂丘に投げ出され、同じように遭難した。海と陸との違いはあっても、いずれも直死の体験だろう。
「あの女からは殺意も何も感じられん。なのに殺す。アレの正義は自分には不要だ」
「メリッサさんの感覚は正しいのでしょうし、わたくしもあの方からは危険な狂気しか感じませんでしたわ」
「ならば貴殿はどうなさるおつもりか? にいさんはあの女をアルローへ連れていくつもりだぞ?」
「帝国もアルローも同じですわ。腐りかかった……いいえ、もはや見るも無惨に腐りきり、底辺には膿が海のように溜まっております。これはトティアスの抱える業に他なりません」
それはメリッサにも分かっていた。
世界の澱みは溜まりに溜まり、今も上から下へ流れ続けている。
それを生み出しているものが何なのか。
単純に王侯貴族であれば分かりやすいが、それならとうの昔に破綻をきたしておかしくない気がした。
「お考えあそばせ。ホヅミ大使はお義姉様に拾われました。貴女様の目も手伝い、奇跡的に生きながらえたのです」
「その通りだが……何を仰りたいのか?」
「あのお方も同じでしょう。元はホヅミ大使と同じく、ただのニホン人。さて、言語理解も持たない彼女は、砂丘で誰に拾われたのでしょうか?」
「――」
単に水を求めて芽生える奇跡が、万物を砂に変えるチカラになるだろうか。
「異世界からの客人を膿に沈めたのは我らトティアスの民ですわ。ホヅミ大使と彼女を引き摺り込んだのはティルネス・イソラ・ラクナウ様とのことですが、その原因は当然、この世界の事柄でございましょう」
「……クミズルカが被害者だから許せと仰るか?」
「許すも何もございません。彼女はこの世界にとってのゲストに過ぎず、来て早々、客人に狼藉を働いたホストに応報の奇跡が芽生えたと、それだけの事でございましょう。いずれにせよ、わたくしはわたくしの品性によって立つのですから、砂にされるなら及ばなかっただけのこと。精々優雅に散ってみせますわ」
「…………アルローではどう迎えられるのか?」
「クミズ・ルカ様については、同じくゲストであるホヅミ大使がお相手をなさるのがよろしいかと存じます。既に馬脚を表したホストが何を今更とお思いでしょうが、わたくしには関わりの無いことでございますれば、成すべきを為すだけのことですわ」
「…………なんと。それがルーシー殿の正義か」
「何を仰っているのかわかりかねますが、恋敵が手強いからと徒党を組むなど全く優雅ではございません。女子力とは、どのような力のことを言っているのでしょうか? ともあれ、わたくしが裏女子会なる怪しげでいかがわしい会に入会することは今後もございませんのであしからず。しかしながら……ナツさんはどうお考えなのでしょう? そこは気になりますが、此度の貴女方は相当にお粗末でしてよ。この小心者。あなかしこ」
優雅に罵倒されたメリッサとリヒトは何も言えなくなっていた。
本来なら断ったら始末しなければならないのだが、よく考えてみると勝手に開陳しておいて、仲間にならなかったからと殺すのはどうなのか。
「……おれもやめとくわ。殺るなら来やがれ。ぶっ殺してやる」
シロウは裏女子会入会をやめた。毎晩のように4Pに明け暮れ、変な仲間意識が芽生えてしまっていたが、よくよく考えてみると他の女はどうでもよかった。
「ぬぬぬぅ……お、おのれ……! だが……完敗だ!」
「ルーシー姉さん。ナツ様には秘密にして欲しいかと」
「わたくしに何のメリットがございますかしら?」
ナツの指示を無視して突っ走った挙句、メリッサとリヒトは裏女子会内での立場を危うくすると共に、その存在意義に疑問を持ってしまった。
発足して早々にアルローと大陸に分かれた組織であり、最大目標である一人の男が片方の手中にある現状の危うさを、ナツは認識していたが、流花の出現によって焦ったメンバーが予期せぬ事態を招いた。
「ルーシー姉さん……今晩、混ざりませんか?」
「ま、混ざる? 何に混ぜてくださると?」
「ルーシー姉さん……そろそろ……妾のお勤めを果たされてはどうかと」
「ま、まさか五人でということですか!? そ、そんな……は、はしたない! はしたないですわ! なりません! なりません!」
「ルーシー姉さん……飽精の儀というものがありましてぇええ~」
「リヒトさんっ! なんという爛れた貌を……ごくっ……それで……どのような儀式ですの?」
そこから先の緊急臨時会議はただの猥談となった。シロウの獣のチカラにも話が及び、天井知らずに盛り上がるすごい夜会が赤裸々に語られる。
ルーシーは顔を真っ赤に染めながら「まあまあまあまあまあ!」と叫び続け、はしたない三人の女に引き摺り込まれていった。
その日の夜、聖堂に帰ってきたナツによって、ルーシーの貞操はギリギリで守られた。
半透明のネグリジェに隠された細い肢体と薄い胸を抱きしめて、プルプル震えるルーシーの目には涙が浮かんでいる。
まだ何もしてないのに少女のように怯えているのだが、貴族令嬢とは自ら脱いだ下着姿を見られただけでこんな感じになるのだろうか。チェーンは貴族令嬢ではなかったらしい。
「いい加減にしなんし!」
「しかしナツさん!」
「ナツ様も混ざりますかぁあ~?」
「ニイタカ……おれとしっぽりヤろうぜぇ?」
「てもせわしのうざんす! クミズにバレたらどうするでありんす!」
「…………ナツ?」
「ホヅミ大使……この責任は必ず取っていただきます……」
「あなた? いつ帰ってきたの?」
不死男をお手本にフィーアの指導で行われた坐禅体験には効果があった。しかし、せっかく整えられたナツのホルモンバランスは、一挙に崩れた。
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彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
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