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第七章
第四六一話 夢だよ。妄想かな?
しおりを挟むVLFSs計画の概要を聞かされた十人は唖然として黙り込んだ。皇帝まで呆気に取られたように固まっている。
「――という計画が現在進行中です。かなりカタチになってきているそうで、大使館職員の多くがそこで働いています」
「……はぁ。アルローを捨てて逃げる先を予め用意しておく計画とは……。アジュメイルとしては看過できない身勝手ですが……現状から見ればたしかに有効ですわ」
「ラナーお義姉さん。わかってもらえましたか」
「結果的に! ですわ! 本来なら許されざる背任ですわよ!」
「俺はアジュメイル家の人間じゃないし、大使館はアルローじゃないんですよ? 義理はあっても責任はありません」
「…………」
立場的に微妙なラナーは複雑な心境で悶々としていたが、他の賢者たちはトティアスの未来に一縷の希望を見出した。
「婿殿よ。メリッサはそれを知っているのか?」
「メリッサもVLFSsに居ますよ。替えの義手を空輸する仕事を頼みましたが、あっちに残ることにしたそうです」
「がははは……そうかぁ。あいつめ……おれにも隠しておくとは。本当に……嫁に行ってしまったのだな」
ノックスは寂しそうに笑いながら、希望の最前線に立っている愛娘を誇るように胸を張る。
「ミーレスお義兄さんも居ますよ?」
「なに!? ミーレスもか! やつは許さん!」
「わはははは。VLFSsでハーレム作ってますよ?」
「ぬん? 女ができたのか? なら……仕方ないか」
何が仕方ないのかよく分からないが、あの歳で童貞だったのだから親としては心配もするだろう。
そして、モノづくりの話になれば食い付いてくるのがヒラガーだ。浮体ブロックの建設には造船業のノウハウが大いに役立つ。
「図面を共有してもらえるかね? 早めにブロックの試作に取り掛かりたいのでな」
「構いませんよ。帝国なら木材も石材も豊富でしょうから、人材さえ揃えば何とかなると思います。クーレのヤード設備も流用できますし、母材はタミルさんが開発した素材を使ってますから」
「そうか。砲弾を持ってきた彼が……ノーマン卿。くれぐれも丁重に。頼みましたぞ?」
「あいつも隠しとったんだな。軍法会議に掛けてやろうか」
制御室に太古から続く陰鬱な空気は無くなっていた。
ここに居る誰もが、トティアスに生きる者のすべてが、骨身に染みて知っている。
海に覆われた世界の現実。
そこに一石を投じる壮大な夢が、人の意識を未来に向けさせた。
「姉上……トティアスは沈みません。そして、世界が一つになるには陛下のお力が必要です」
「陛下。今こそ万年の不屈を呑み干し、帝国の真価を示す時かと存じます」
ハンバルとエクレールに倣い、臣下たちが皇帝の前に平伏した。
「まずは魔人封じから始めねばなりませんがね」
「まぁ、これで皇帝が動くならいいんじゃないですか?」
「はわわわわ……!」
穂積とデント教皇は少し離れて見守り、ソフィーはワタワタと右往左往して、最後尾で平伏することを選んだ。
「「「「「「陛下。御聖断を」」」」」」
立ち上がった皇帝は背後の壁を振り返り、人生を奪われた老若男女を、先帝たち一人一人の顔を見詰めて、
「解放して……差し上げるべし」
最後のトティアニクス・ゼト・ムーアとして、一つの勅令を宣じた。
「遷都を命ず」
「「「「「「――っ! はっ!」」」」」」
他の四つは別として『結界魔法システム制御装置』だけは現在も必要な機能だ。それを止めるためには本船の自壊を受け入れるしかない。
インゲーンス・イミグランテスは帝都の地下で自沈することになる。
それは神聖ムーア帝国始まって以来の、まさに唯一無二の英断であった。
『ピ――――――――』
制御室に電子音声が鳴り響く。
**********
インゲーンス・イミグランテス機関制御室ニテ、キーワード『遷都』ヲ検知。
碧歴11793年ニオケル必然性トノ偏差ヲ計算中…………誤差範囲0.326%以内デ一致ヲ確認。
プロジェクト・トティアス――、ファイナル・フェーズ進行ノ是非ニ関ワル論理矛盾ノ洗浄ヲ開始…………完了。
人工冬眠カプセル零番器、覚醒シーケンスヲ開始。
規定ノプログラムヲ開始。
**********
「規定のプログラムを……開始……」
制御室に静寂が満ちた。
誰もその場を動けず、室内に木霊する理解出来ない古代語を穂積が同時通訳する。
『……人工冬眠カプセル零番器……上昇開始』
「人工冬眠カプセル零番器……上昇……危ない!」
漆黒の床が割れた。ちょうど皇帝と先帝たちの間に四角い穴が空く。
「陛下! お下がりを!」
「陛下をお護りしろ!」
「「――はっ」」
ハンバルとエクレールが皇帝を引っ張って下がり、代わりに飛び出したノックスとオルフェが前に立ち、魔法を準備し始めた。
デント教皇は動かず、静かに状況を見定める。
『シューン…………ガゴンッ』
先帝たちが納められているのと似たような透明の円筒が競り上がり、土台が床の穴を塞ぐ。
白く霜が降りていて中は見えないが、人工冬眠状態の何者かが目覚めようとしていた。
『……人工冬眠カプセル零番器……着床ヲ確認。覚醒シーケンスヲ実行中……』
女性の声だ。機械的な冷たい声。その声音には聞き覚えがある。ギャザリングルームに響いたような愛嬌が皆無のそれは、ヘクサ・オルターが発するものと同じだ。
「ホヅミ殿……っ! おい! 婿殿! 何と言ってる!?」
「じ、人工冬眠カプセル零番器……着床ヲ確認! 覚醒シーケンスヲ実行中ぅ!」
「なんと……古来種が甦るのか!?」
「おい!? どうする!?」
「皆さん動かないように。オルフェ・アルゴさんは身体強化の用意を」
「は、はい!」
突然の異変に皆が浮き足立つ中、デント教皇は冷静に指示を出して落ち着くように諭した。この場で一番頼りになるのが誰かは言うまでもなく、全員が教皇に従う。
『……録音魔堰ノ再生ヲ開始』
「……録音魔堰の再生を開始」
まさかキクリだろうか。
本船の行く末を見届けるために、一人だけ未来へ渡ることにした可能性も無くはない。
そう思った穂積だったが、直後に響いた男の声に予想はあっさり覆された。
『皆さん、こんにちは。プリンケス・ゼナトゥスです』
こんなふざけた話があるだろうか。
イソラを痛めつけ、世界を滅ぼした諸悪の根源が、キクリたちが民のために建造した方舟に実は潜んでいて、己一人だけ生き残っていたのだとしたら――、
『すぐに殺さないでもらえると嬉しいです』
許されるはずがないだろう。
「嫌だね」
オルフェが『火槍』を放った。減衰しない炎の槍がカプセルに迫り、後方から飛んできた別の『火槍』に相殺される。
「教皇様! 何故ですか!?」
「まだ元凶本人と決まったわけではありません。罠という可能性もありますし、そうでなくとも自称女神がどう動くかわかりませんよ」
本船の建造を含めて、すべてがこの男の掌の上だった事を考えれば、自称女神すら制御下に置いている可能性がある。
「猊下……ヤツの言葉が理解できてるんですか?」
「はい。先ほどのイントロなんとかと同じでしょう」
「そうですか……徹底的にやりましょう」
「ご協力を」
録音は思兼が自動翻訳するとしても肉声は古代語だろう。クソ野郎の尋問は言語理解の、拷問は教皇猊下の出番というわけだ。
『……とりあえず、黒幕っぽい感じを演出しておきます』
何を言い出すかと思えば。黒幕そのものだろうに。
『わっはははははは! わぁ~はははははははははっ! 勇者たちよ! よくぞここまで辿り着いた! 見逃してくれるなら世界の半分をくれてやろう!』
若干情けない台詞に静まり返る賢者たち。
『………………んんっ。え~、想像以上に恥ずかしいので、もうやめます』
なら初めからするな。
内心でツッコミを入れつつ、ふざけた男が復活するまでの繋ぎイベントに付き合ってやることにした。覚醒した後にゼトを待っているのは地獄の尋問&拷問だ。
『プリンケス・ウヌスのイントロ……聞きましたよね? 笑えたでしょ? あいつ何にも知らないくせに偉そうに。懺悔? 御安航? バカじゃねぇの? 本船の航海は百年ぽっちで終わってまーす』
キクリの言葉には心からの想いがあった。対して、なんだコイツは。ふざけている。
『俺がタミアラをどうにかするまでの間、規定の航路をくるくる回ってただけですから。あいつらはムーア大陸の存在も、既に大量のトティアス人類が入植して、タミアラ人と持ちつ持たれつやってたことも、な~んにも知りません。全部、俺の手配です。神民のほとんどは、俺が助けてやりました。世界中の主要な国の人間も、一割くらい助けてやりました。その手柄に免じて、ご清聴のほど、よろしくお願いします』
だったら何故もっと早く助けに行ってやらなかったのか。本船の進水は碧歴六四年。皺がれた声音から言って、録音した時のキクリは老人だ。
イソラを売った世代の評議会に直接関与していたわけでは無さそうだったし、彼女は人生のほとんどを本船の建造に費やしたことになる。
『必死こいて建造してくれたみたいだけど、本船の存在は必然だったから、やってもらわないと困る。しっかりお膳立てしてやった上に、運も味方に付くんだからやり遂げて当然。むしろ出来ない方がおかしい子供の使いだ。それを悲壮感たっぷりに語るんだから……久しぶりに聴いて笑ったのなんの。わっはははははは。あ~、今思い出しても笑えてくる』
何を言っているのか分からない。
必然だの、運だの、誰にも理解できない事を当然だと語り、知っていて救うことをしなかった己れを棚に上げ、あまつさえ彼女の努力と真摯な遺言を笑い飛ばす。
コイツのシンパ共は何を考えていたのか。信用に値するものなど、何一つ持ち合わせていない人間だろう。
『転移直後の大陸はエライ騒ぎだった。巨大地震に見舞われた直後に、大勢の変なチカラ持ちが好き勝手に暴れる様を想像してみてください。タミアラは超高度な人工知能が全部を取り仕切る拝神社会だったので、地球の地殻から切り離された天八意思兼の動力が切れたら何もできないお馬鹿さんばかりの国でした。よくもまぁ、あんな社会でアマラスみたいな天才が産まれたもんだと感心する……って、ちょっと喋りすぎたので黙ります。頭を整理していただくために、十分間のトイレ休憩を挟みます。機関室にトイレは無いので、その辺でテキトーにしてください』
馬鹿にしているのか知らないが、今までのくだりを録音魔堰がリピート再生し始めた。いちいちやる事が勘に障る男だ。
とはいえ、インターバルが設けられたことで、捲し立てられた言葉の意味を理解する時間ができた。
(コイツ……なんで地球を知ってる?)
転移してきたタミアラ人から異世界の存在を聞いたのだろうが、ゼトの言う『地球』という単語があまりにも自然で、どうにも奇妙な感覚が拭えなかった。
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