不思議なカレラ

酸化酸素

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第三節 えっ?アタシ、ケンカ売られちゃったけど?

第13話 友達と手紙と涙と報奨 後編

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 玉座の間は当然のようにざわつき始めていた。前もって通達に書かれている内容は自身が勤めている家だけである。拠って他家の事は知らされていない。
 それ故に呼ばれていないモノが全て上位に入るのは分かっていたが、その中に軍属でないモノがいる事にザワザワしていた。

 現状で呼ばれていないのはアスモデウス、ルミナンテ、そしてヒト種の少女だけである。

 その軍属ではない2人の存在がその場にいる将兵に動揺を奔らせていたのは当然だった。


「さて、次からは上位武勲であるが、多少、ざわついておるな」

「うほんッ。では気を取り直して。上位3等、アスモデウス・ネロ・ヴァン・ルネサージュ」

「はッ!」

「「「「「おおぉッ」」」」」

此度こたびの反乱に於いて、迅速に反乱軍を潰走かいそうさせ、そして首魁の捕縛に貢献した功績を讃え、上位3等を与える。また、その功績により貴殿に侯爵の爵位を与えるものとする」

「おぉ、侯爵だってよッ!」 / 「それよりもアスモデウス侯爵様よりもあとの2人は功績が上なのか?」

 魔王からの報奨にアスモデウスは感極まった様子で頭を3度下げていた。
 ルミネはアスモデウスのその表情がいつも城の玉座で見せているものとは明らかに違っている事に気付いていた。


「いつも、あんな感じならいいですのに」

「次に上位2等。ルミナンテ・ウル・ルネサージュ」

「は、はいッ」

「おぉ、侯爵様のご令嬢だったのか」 / 「なんとお美しい」 / 「あれでは侯爵様も鼻が高いモノよな」

「ルミネよ、緊張しておるのか?」

「魔王陛下、と、当然で御座いますわ」

「そうかそうか、ならば早々に読み上げるとしよう」
「此度の反乱に於いて、反乱のきざしをいち早く察知し挙兵を促した事。また、反乱軍に対し潰走させる契機を齎した事。更には、首魁の捕縛並びに黒幕の男の撃退に貢献した功績は上位2等に相当する」

「素晴らしい功績だ」 / 「あぁ、お美しい」 / 「あれならご婚約の申込みが多いのではないか?」 / 「身分の違いが無ければ自分も立候補するモノをッ!」

「ルミネよ、モテモテのようだぞ?」

「魔王陛下、揶揄うのはお止め下さいませ」

「ルミネは初々しいな。善きかな善きかな」
「さて、そなたは貴族の子女しじょであり軍属でもない為、本来であれば武勲を讃える必要はない」
「だが、貴族の子女だからと言って武勲報奨も叙勲もなされないのでは功績を上げた者を軽んじる事となり信賞必罰の例にもとる考えになる。従って、王立研究所の管理官の役職に任じ、報奨品を授与するものとする」

「魔王陛下、滅相もございません。わたくしには過分に過ぎたる報奨でございます」
「どうか、もう一度ご再考賜りますよう」

「ルミネよ、観念しなさい。それにそなたが受け取らなければ、次に続かなくなる」

「わ、分かりましたわ。有り難く頂戴致します」

 ルミネは仕方無く報奨を受け取る事にした様子だった。でもまぁ、その表情はでもなかったように少女の目には映っていた。


「さて、最後に上位1等の武勲を発表する」

 その発言に拠って少女に向けて視線が集まっていったのは言うまでもない。だが、少女はそんな視線など気にする事なく飄々ひょうひょうとしていた。

 少女は魔王である父より名前フルネームを呼ばれた。


 現状に於いては存在を公にする事を伏せられている事もある。魔王ディグラスの血縁と知られるワケにはいかない事もある。
 拠ってこの場に於いて父親に対して甘えた感情を出さない様に考えていた。然しながら実の父親に名前フルネームで呼ばれた事は「面映おもはゆい」としか言えなかった。

 そんな考えを少女は、魔王である父親に呼ばれるとルミネと同様に魔王父親の前に向かって歩いていく。


「此度の反乱に於いて反乱軍を潰走させる契機をもたらした事。そして首魁を捕えた上、黒幕の男を撃退せしめた事。それらの功績は上位1等に相当する」
「だが、そなたはヒト種であり軍属でもない。そなたとて、この世界に領地や財があっても意味はなかろう?」

「それはその通りね」

「一方で、そなたはハンターであると話していたな?ハンターなら、狩った獲物の素材を報酬とする事が可能な筈だ。なので報酬としてこれを授ける」

「これは?すっごく怪しい雰囲気しかないんだけど?」

「この2つの、受け取るが良い」

「魔石?!魔石って言ったの?」

 少女は正直躊躇ためらった。魔王ディグラスが手に持つ石からただならぬ力が溢れているからだ。

 その故に断ろうかとも思った。だが断ろうと思いながらも「危ない物であれば父様がアタシに与えるハズがない」と考え直した上に、垂涎モノの石の正体を教えられ「喜んで頂戴致します」と受け取った。
 更に渡す際に魔王ディグラスは少女に対して一言付け足していた。

2であれば、ソレは有効に使えるであろうから、見事使いこなしてみせよ」

「えっ?!」

 「2つ星って何で?その話しはしてないハズ」と口にしようとしたが、その前に魔王ディグラスは皆に向けて話し出したので、少女は口にする事無く飲み込むしか選択肢は無かった。


「さて皆の者。主要な者達には先に伝えてあるが、この機会なので伝えておく。今回、上位1等を得たこのヒト種の娘は早々に人間界に送り返す予定である」
「それまではルネサージュ伯爵家に賓客として迎え入れてもらっている。よって、安易に近付く事を禁ずるものとする。とくと心得よ!」

「「「「「ははッ!」」」」」

 やはり魔王ディグラスは少女のコトを自分の娘とは言わなかった。主要貴族達だけの前回とは異なり今回は一般の兵士も混ざっているから当然と言えば当然の判断だった。



 全ての武勲及び叙勲の授与が終わり集まっていた将兵は玉座の間をそれぞれ辞していった。この後は王城の大広間にて酒宴が催され授与された者達はもてなされる様子だった。

 だが、その中にルミネと少女の姿はなかった。


コンコンっ

「開いている、自由に入って来て構わぬよ」

「失礼致します」

「ここが、父様の部屋なのね?想像してたより意外と質素なのね?でも、お屋敷の父様の部屋となんか似てるかも。ふふふ」

「さて、何か用かな?2人は早々にルネサージュ城に戻ったと思っていたが?」

 ノックに対するその声はいつもと変わらず威厳のある低い声だ。然しながら今日はその声の中に優しさが満ち満ちていた。

 少女はルミネに無理を言ってここまで連れてきてもらった。そして部屋に入るなり声を上げていた。
 それはまるで小さい子供がはしゃいでいる様子だった。

 逆に魔王ディグラスは本題をいているような話し振りで言の葉を紡いでいた。

「申し訳ありません、わたくしにはお止めする事が出来ずここまで連れてきてしまいました」
「ですので、わたくしが陛下に御用なのではなく……」

「父様、1つだけ質問があります」

「やはり、そうであったか。はぁ」
「よしッ、聞こう。質問とはなんだ?」

「何故アタシのコトを「2つ星」と仰ったのですか?」

「2つ星?一体なんの話しなんですの?」

 少女はさっきの叙勲式で聞けなかった事を聞きたいが為に、わざわざルミネに無理を言ってここまで連れてきてもらっていた。

 一方で魔王ディグラスはもっと別の質問が来るものと身構えていたが想定外過ぎる質問に少しだけ拍子抜けした。拠ってそれを表情にも態度にも出す事を盛大に躊躇ためらった。


「それはな、お前の剣を見れば分かる事だ。その大剣グレートソード古龍種エンシェントドラゴンの力を2体感じる。恐らくは火と風」
「火は今は炎か?だがそれだけならまだしも、風は上位の古龍種エンシェントドラゴンだ」
「上位の古龍種エンシェントドラゴンが人間界に被害を齎すとは到底思えぬが、何かが起きたのであろうよ?しかしな、そんな古龍種エンシェントドラゴンをも倒せる程のハンターならば、その功績からして星が2つ以上あってもおかしくない」
「だが、お前の年齢を考えれば星がそれ以上は考え辛い。だから2つ星と判断した」

「さっすが父様ッ!その洞察力には恐れ入るわね」

「はっはっはっ、それは光栄だな」

 魔王ディグラスは解説した。その内容はおおむねその通りだった。

 説明を受け少女は納得した様子だったが帰る素振りなど微塵みじんも見せなかった。そして今度は部屋の中を物色し始めていく。

 勝手な振る舞いにルミネはどうしたらいいか分からずオロオロしていた。

 そんな自由奔放な少女の振る舞いに対して魔王ディグラスは多少呆れ顔だった。然しながら、暫くぶりの愛娘の行動を微笑みながら見ていた。


「次の質問は…いや、今は話しよりも自由にさせておくのが一番か」
「詰まらぬ酒宴よりも、こちらの方が幾分もいい」
「故に娘にはこれが追加の報奨だな」

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