不思議なカレラ

酸化酸素

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第三節 えっ?アタシ、ケンカ売られちゃったけど?

第14話 散策と襲撃と修行と型 前編

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 叙勲式が終わり数日経った頃の事。


 ルミネは任命された管理官としての職務の為にルネサージュ城にいない事が多くなった。拠って少女は
 余りにも
 友達と遊べず暇を持て余す子供なみに
 大事だったので3回言うくらいに


 少女は暇を持て余し挙句、面白い事を求めてルネサージュ城の中を、リビングデッド生ける屍の如く彷徨さまよい歩く事に…、いや、単純に散策する事にしたのである。

 ちなみに当主であるアスモデウスには許可は一切取っていない。だから、という傍若無人な散策方法を採用した。

 何も部屋の物を盗らないから、強盗にはならないのでそこんトコは悪しからず。


 少女は咎められたら「謝ればいっかー!てへッ」などと安直な考えの上での行動であった。そして少女はかれこれ2日の間、城内の散策をして彷徨っていた。然しながら誰からも未だにとがめられてなどいない。


 擦れ違う者はたまにいるが誰かは分からず名前も知らない。

 何故ならば、皆一様に下を向き少女と目も合わせず一言も発しようとしないからである。

 こちらから何かを話し掛けても当たり障りのない返事すら来る事なく、困った表情で終始無言を貫かれるばかりだった。それはそれで、フラストレーションが溜まる。

 少女の扱われ方は、目の上の大きな「たんこぶ」をといった感じだ。
 うん、よく分からない。
 要はそういったという事だ。

 何故こんな対応をされるのか、少女は分かっているのだが、少女なのだった。


 少女はコミュ力には自身があった。だが「ここまで拒絶されると人間不信。いや、魔族デモニア不信になるかもしれないな」などと自虐的に自答していた。

 なので「アタシはそういう扱いなんだ」と、完全に割り切るコトにした。だから自ら積極的に城の中の人達魔族に関わる事をせずに散策に集中するように行動を変えていったのだ。


 その結果、「人間界にこれ程の城はもう存在していないかもしれないなぁ」とも悠長に考える余裕が出て来ていた。

 ルネサージュ城は確かに荘厳そうごんで立派なたたずまいである。一言で言えば「優雅」と言った言葉がしっくりくる造型だ。

 一方で王都ラシュエの魔王城は「優雅」というよりは、「無骨」と言った感じだった。
 城は主の趣味嗜好に拠るのかもしれない。



 少女はそんな散策の最中さなか、次第に視線を感じるようになっていった。

 最初は「ヒト種が物珍しいからだろう」くらいに考えていた。しかし、視線の中に含まれる微妙な殺気に気付いてからは、視線を感じる度に視線の持ち主が同一人物だと考える様になっていった。

 そんな殺気に気付きながらも少女は「向こうから動かなければこちらから無闇に動く必要はない」と考え、気にしないようにしていた。の・だ・が、日を追うごとに視線に対して意識をする様になった。
 決して、見られているのが気持ち良いなどとナルな感覚に囚われていたワケではない。拠って、興味と気持ち悪さを覚えた事で、自分から動く決意をしたのだった。

 そして、動く時は「迅速に」である。


「ねぇ、アナタ、何をしてるの?アタシに何か用?」

「なッ?!」

「あら?アナタ、どこかで見た様な…?あぁ、そうだそうだ確かこの前。えっと名前は…ハラルド…?ハロラド…?ハロルド!そうだ、ハロルドだったわね」

「ッ!?」

「で?アタシに何か用なの?ファンってワケじゃないわよね?でも、ストーカーされる側の気持ちを考えたコトあるかしら?」

 少女は自分に向けられているその視線の持ち主に気付かれない様に、見えないところで転移していた。更にはその背後に回り込み声を掛ける事にしたのだ。


 少女はここ魔界に来たばかりの時は転移系の魔術を使えなかった。だがルミネから借りた書物の中に魔導書があり、暇を弄んだ結果、簡単な転移魔術を取得する事に成功していた。

 とは言え魔族デモニアの筆記文字は最初から読めなかった。
 口語の発音はヒト種の言葉と同じなのに筆記文字だけが違う事には腹が立っていた。だからルミネの助力に拠ってデバイスを調整してもらったのである。
 拠って魔族デモニアの筆記文字も解析が可能となり、デバイスで読める様に諸元の書き換えをしてもらっていた。


 そんなコトとは露知らず、声を掛けられた視線の主はあからさまに動揺していた。

 視線の主からしてみれば、少女はさっきまで自分の視線の先にいた。だが今はその少女が自分の背後にいるのだ。
 混乱もするし動揺しない理由もあるワケが無い。

 しかし、視線の主が名前を言い当てられたコトで空気は変わる。


小生じぶんと勝負してもらおう!」

「勝負?ここで?この狭い廊下で?しかもその剣で?」
「アナタ、剣を使って闘ったコトがあるの?」
「槍ならいざ知らず、狭い場所で剣は不利よ?よっぽどの使い手でも無い限りねッ」

「な、ならば、あそこでだッ!」

「中庭?ふぅん、まぁ、いいわよ?アタシとしては何がしたいか分からないけど、どうせ暇だしね。付き合ってあげるわッ」
「じゃ、行きましょッ!決まったなら善は急げよッ!とっとと行ってちゃっちゃとりましょッ!」

 ハロルドは少女に対して一方的に勝負を挑んだ。バツが悪かったからかも知れないし、何か意図があったのかも知れない。
 だが、少女には
 それよりも何よりも、唐突に勝負を挑まれたコトに対して少女は驚きの表情をしていた。要は、場所を弁えず勝負ケンカを吹っ掛けてきた無謀さに驚いたのだ。

 ちなみに城の廊下だ。
幅の狭い廊下は剣での戦いに不向きなのは当然と言える為、少女の驚きは至極しごく真っ当なものだった。


 2人は紆余曲折を経て中庭に向かって歩を進めていく。
 少女は念の為、後ろを付いて来ているハロルドを警戒していたが、不穏な動きは何1つとしてなかった。
 「勝負」と言った手前、それを気にしているのだろうか。
 ハロルドは意外と真面目なのかもしれない。


 到着した中庭は広くオブジェなどは1つも無い。剣で戦うには最適な場所だが、魔術を使うとなると戦略の幅が減る。
 そんな場所だ。
 だが、少女の勘が言うにはそんな戦略すらも

 こうして2人は中庭で対峙したのである。


「アナタの得物えもの長剣ロングソードかしら?ならば、アタシも剣でお相手しましょうか。と言ってもアタシのは大剣グレートソードだけど」

 そう言うと少女は背中に格納してある自身の愛剣を手に取った。だが、その表情は余裕綽々で手にとった愛剣を


 対するハロルドは両刃の片手剣を右手に持ち、腰を低くし半身の構えで自分の身体より剣を後ろに引いて、切っ先のみを少女に向けている。
 それは要するに初手でと言ってるのと同じだった。
 突きの後で連撃を狙っているか、突き自体が不可避の一撃でも無い限り、剣士なら取らない構えだ。だがもしも、そんな初手でりに来るコトを狙っているなら「勝負しろ」などとは言わない。
 中庭に向かっている途中で後ろからバッサリやれば済む話しなのだ。

 拠って、少女は。構え1つで相手の力量は分かるモノだ。
 相手が強者ならそれ相応の心構えがあるが、相手がでは、少女をその気にさせるコトは無理だと言える。

「いつでもどうぞ。アナタのタイミングで始めていいわよ!」

「か、構えもしないのか?いいのか?本気で殺しにいくぞ?」

「えぇ、どうぞ?」

「本気の本気だからな?斬られれば痛いぞ?死ぬぞ?いいんだなッ!」

「あぁ、もうしつこい!るならとっととる!るなら、とっととりに来なさいッ!」

だッ

 ハロルドは少女に急かされ無言で突撃し、鋭い突きを繰り出していく。だが所詮は鋭い突きなだった。

 拠って少女はその突きを足のステップだけで躱した。この程度、愛剣を使うまでもなかった。
 むしろ、手に持っている愛剣はハロルドになのだ。

 ハロルドは渾身こんしんの突きを躱されて二の足を踏んだ。だがその後で横薙よこなぎ、切り上げと連撃を放っていった。
 当然の事ながら少女はその全ての攻撃を躱していく。

 結果ハロルドの剣撃は空を斬るばかりだ。



 少女と対峙しているハロルドは貴族の出ではない。そればかりか騎士の家の出身でもない。

 ハロルドは身売り同然に幼い頃よりルネサージュ家に奉公に出されており、軍属になってからまだ月日は浅い。

 軍属になれば奉公人の仕事からは外されるので武術の腕を磨き日々研鑽けんさんを積んでいた。

 軍属の者は専業軍人になる。拠って有事の際は兵として戦場に赴くが、それ以外の時は城内外の見廻りや要人の警護などがメインの仕事となる。
 要は時間を持て余す事が多い仕事なのだ。その為にハロルドは暇な時間を全て武術の訓練に充てていた。


 しかし今回の反乱軍討伐の際にハロルドは討伐軍には組み込んでもらえず待機組だった。それが凄く不満だった。
 日頃から研鑽を積んでいるのに何故、戦地に行かせてもらえないのか…と。

 だから「自分の実力を示してみせる!」そんないきどおりともつかない感情に左右されていた。
 更には1少女に八つ当たり的に勝負を挑んでいたのだった。


どさぁッ

「はぁ、はぁ、はぁ…。あれだけ訓練して、武術を磨いたのに当たらない。いや、当てられない。何故だ?」

「まだ続ける気かしら?」

「まだだ、まだ一太刀も入れられていない。それに剣を使わせてもいない」

「あっそう。じゃ、アタシから行った方がよさそうねッ」

 ハロルドの中で疑問が渦巻いていた。渦巻いた疑問は解決する為の解答を見出す事無く更に大きくなっていく。

 そんな疑問にハロルドが囚われていると少女が動いた。
 回避にてられていた少女の全ての動きは、回避から攻撃に転じハロルドに向かっていく。


 ハロルドは向かって来る少女に対して剣撃を放つが、どうやっても当たらない。
 必死になって少女を近付けまいと剣撃を繰り出していくが先程までと同様に虚しく空を斬るだけだ。その時の少女の動きはまるで流れる水の如しだった。


「覚悟はいいかしら?」

「ッ?!」

きぃんッ

ざくッ

 勝負は一瞬だった。
 焦りから切羽詰まったハロルドが、上段から長剣ロングソードを振り下ろしたが、一瞬、少女の姿が揺れるとハロルドの視界から消えた。

 少女の姿を見失ったハロルドは、本当は消えずに少女からの剣撃を見舞われたのであった。

 少女は敢えてハロルドの長剣ロングソードを狙って斬り付けた。その逆袈裟斬りは重くハロルドの長剣ロングソードは弾かれ甲高い音を立てながら宙を舞っていた。
 その手を離れ宙を舞った長剣ロングソードは弧を描き中庭の地面に突き刺さった。


「ご要望通り剣を使ってあげたわよ。これで満足かしら?」
「そして、これでアタシの勝ちね。まだやるとは流石に言わないわよね?」

「くっ……」

「ハロルド貴様!一体何をやっておるかあぁぁぁ!!」

「えっ?!誰?」

 少女は笑顔でハロルドに言の葉を投げていった。その大剣の切っ先はハロルドの喉元に置かれたまま。

 一方で笑顔の少女に対してハロルドの表情はくらい。然しながらその空気は闖入者により一気に壊される結果となる。
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