不思議なカレラ

酸化酸素

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第六節 えっ?アタシそろそろ疲れたんだけど?

第48話 終結と戦略的撤退と雷神の鎚と土星 中編

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 蛇は城に対して巻き付いて顕現けんげんしており、その赤い目は開かれている。だが何かをする事なくだけにも窺えていた。


…………ドクンッ………ドクンッ………ドクンッ……ドクンッ

 蛇から脈打つ音が領内全域に響き渡っていく。その不気味な音色は、これから始まる激しい戦闘を予感させるものでありながらも、今ならば好機チャンスと言い換える事が出来た。しかし一番近くにいたベルフェゴールはアヴァルティア達同様に、蛙になっており腰を抜かしたままだった。
 拠って、千載一遇の好機チャンスをモノには出来なかった。

 だが腰を抜かしていても気合いと根性で必死に城の外まで逃げ延びる事には成功していた。更には城に向かって来ていた、アヴァルティアとインヴィディアの2人と無事に合流を果たしたのだった。


 合流した3名は突如として現れた蛇の、どうやって対処をすればいいか分からず途方に暮れて右往左往していた。
 だが蛇の脈動が早まるに連れて、上空から一斉に攻撃が始まった事をきっかけに、自分達も便乗して攻撃を行う踏ん切りがついたのだった。


 ルシフェルは回り込んで蛇の後ろ側から…。
 イーラは蛇の左側面から…。
 リヴィエは蛇の右側面から…。
 それぞれ行っていた。拠って指揮系統などはなく、統率が取れていないのは明白だった。
 だがそれでもそれ以外の方法は無かった。元々魔族デモニアとはそういう種族だから仕方ないと言えば仕方ない。


 地上では3名がそれぞれ動き回り、蛇の身体のあちらこちらを縦横無尽にこちらもまた攻撃していた。


 魔術による爆発が至る所で起きる。
 剣による斬撃が蛇の硬い鱗とぶつかり火花を散らす。
 槍による突きが硬い鱗に弾かれ甲高い音を響かせる。


「「「「「「硬いッ!!」」」」」」

 それをこの場にいる全員が実感させられていた。魔術も斬撃も槍撃も…この場にいる全員の、攻撃手段のその全てが、蛇の硬く大きな鱗に拠って阻まれて傷1つ付ける事が叶わなかったのだった。


 一方で少女はディグラスから聞いた策を皆に伝えるべく空を駆けていた。


 蛇の脈動は時間を追うごとに更に活発になっていた。
 そして、その時は遂に来たのである。


 蛇はもたげた頭で空を仰ぐ。そして蛇の尻尾の先から徐々に頭に向かって、禍々しい光が収束していく。

 口元に収斂しゅうれんしたその禍々しい光は、その口の中で弾けて漏れ出していった。そしてそれは、大きく開かれた口から天空そらに向かって放たれていった。

 蛇の口から放たれたその禍々しい光は、上空で数多の光に極小に細分化された。細分化された光はその後、重力に引き戻されていく。
 拠ってそれら全てが放射状に地面に降り注いだのだ。
 それはまるで禍々しい光の雨だった。


 雨は蛇を中心点として半径200m程度に対して局地的に降り注いでいく。拠って雨は蛇に対して攻撃している貴族達の元へと降り注いだのだ。その局地的豪雨ゲリラ豪雨を全て躱し切る事など不可能だった。
 よって貴族達はそのゲリラ豪雨に因って否応なしに射抜かれる結果となる。

 結果としてゲリラ豪雨に射抜かれた者達は為す術無く一様にその場で気絶した。空から攻撃を行っていた者達は墜落し地面や建物へと叩き付けられ、地上から攻撃を行っていた者達はその場に倒れ込んでいった。


 少女が魔王ディグラスの作戦を伝えるべく、皆の元へと向かっている最中に起きた出来事だった。


「あれは、生命搾取エナジードレイン?!なんて事ッ!!」
「あんな規模で生命搾取エナジードレインを使えるなんて……」
「やっぱり、ヨルムンガンドも神族ガディアなのね。だからアレがアイツの概念ファンタスマ能力ゴリアスキルってトコかしら?」

 少女はまだ距離があったのでエナジードレインに射抜かれずに事無きを得ていた。だが、エナジードレインに射抜かれた者達がは、その目に焼き付いていた。

 そしてその事象は同時に、魔王ディグラスが立てた作戦の失敗を意味する事になったのだった。



 魔王ディグラスは驚愕していた。ディグラスの位置からでは配下の者達の様子の詳細は見て取る事は出来ない。
 だが次々に配下の者達の力が弱まっていくのだけは感じ取れた。

 しかし、彼の者6人の貴族らの協力がなければ蛇を封じる事考えた策は不可能なのだ。

 因って作戦を大幅に変更し、魔王ディグラスは持てる限りの力で巨大な魔術生物ゴーレム創造生成する事にしたのだった。



ごごごごごごごごごごごごごごごご

 大地を震わせながら、第二の策が実行されていく。それは魔王ディグラスの魔力に拠って、巨大な魔術生物ゴーレム創造生成されていく音だった。

 魔術生物ゴーレムの全高は頭を擡げている蛇に優るとも劣らない大きさだ。それ程までの大きさの魔術生物ゴーレムを、魔王ディグラスは作戦の変更に拠って魔術で創造生成していった。
 ただし、その造形などは一切の考慮をしていないのが明白だが、それは余談である。


 創造生成が終わった魔術生物ゴーレムは、蛇と対峙すると攻撃を開始していった。
 魔術生物ゴーレムは蛇を殴り付け、殴り倒し、ひたすら殴る。急造の為に殴るしか取り柄がないのだが、魔術生物ゴーレムはその大質量に任せてと言わんばかりに蛇を殴り続けていった。


 魔術生物ゴーレムの速度は、その大質量故に決して速くはない。しかし蛇自体の動きもまだ目覚め切っていないからか緩慢かんまんだった。

 その結果として魔術生物ゴーレムの拳は確実に蛇を捉えていた。魔術生物ゴーレムの拳は幾度となく蛇に直撃し、大きな衝撃音が領内に響き渡っていく。

 蛇は魔術生物ゴーレムから拳を浴びせられ続けている。その反動に因って、その巨体を領内にある城に建物に、そして地面など至る所に打ち付けていく。
 その度に城や建物は破壊され崩れ落ち、大地は揺れたのだった。



 少女は魔王ディグラス父親から聞いた作戦があの「雨」で失敗に終わった事を直感していた。そこで貴族達へ「伝言」を伝える事を取り止めると、貴族達の「回収及び保護」に回った。
 何故なら、あのまま貴族達が気絶した場所で寝ていたら、蛇と魔術生物ゴーレムの闘いの巻き添えになるから気を回したのである。

 そして少女はサークル転移魔術を駆使して、貴族達を無事に全員回収する事に成功した。安全と思われる場所(先の光の雨が降り注いだ半径外)に全員を置いてきた後で、魔王ディグラスの元に舞い戻っていった。


「伝言は伝えられなかったけど、全員保護したからこれ以上戦域が拡大しなければ平気なハズよ」

「助かる」

「辛そうね、父様…。大丈夫?」

 少女が魔王ディグラスに報告に戻ると、その表情には焦りが浮かんでいた。
 何故ならば先程から魔術生物ゴーレムの調子が思わしくない。否、逆だ。

 蛇の調のだ。
 最初は魔術生物ゴーレム攻撃殴打を為すがままに受けていただけの蛇だったが、徐々に魔術生物ゴーレムに対して反撃を始めた。

 蛇は魔術生物ゴーレム攻撃殴打に合わせて頭を加速させた。そして自身の胴体に攻撃殴打を入れていた魔術生物ゴーレムの腕に噛み付いたのだ。
 蛇はそのまま器用に魔術生物ゴーレムの腕をねじ切った。腕をねじ切られた魔術生物ゴーレムは、バランスを崩し大きな音を立てて盛大に街を破壊しながら倒れる事になる。
 造形美のカケラもないが故の事態だった。それは「大質量による重量バランスを考えないとこうなる」という事を如実に示していた。

 倒れた魔術生物ゴーレムはそのまま蛇に因って蹂躙じゅうりんされていく。
 蛇は「先程までの借りを返してもらう」と言わんばかりにと破壊の限りを尽くし、魔術生物ゴーレムは核と呼ばれる魔力の結晶を砕かれた事で「魔術生物ゴーレムだったモノ」へと変貌していった。
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