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第六節 えっ?アタシそろそろ疲れたんだけど?
第47話 終結と戦略的撤退と雷神の鎚と土星 前編
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魔王ディグラス達は西の山の上空の一部始終を、飛竜の背に揺られながら遠目に見ていた。
その様子から魔王ディグラス達は追い掛けてルミネに助太刀しようと画策したのだが、イーラが召喚した飛竜達の飛行能力を以ってしても距離はみるみる内に引き離され、その背の上で皆はヤキモキしていた。
そんな状況にイーラだけは申し訳無さそうに小さくなっていた。だが追い付けないのは決してイーラが召喚した飛竜達のせいではなく、追い掛けっこをしている2人が速過ぎるというのが結論だ。
そして逃げているルミネの背中から虹色の顎の様なモノが生え、その顎が追い掛けている敵と思しきモノを喰らう姿を飛竜の上から見た魔王ディグラス達は、何も言えず何も言葉を発せず一同が一様に絶句していた。
一行は偶然にも見てしまったその光景に「ルミネを怒らせたら怖い」と、心の中にトラウマと言えるモノを植え付けられるのだった。
フヴェズルングは最後の最後に悪足掻きをしていた。自分が追い掛けている者達が、今まさに放とうとしている魔術が何なのかを悟ったからだ。
だからこそ少女が放った「極大魔術」の顎に拠って飲み込まれる寸前に、悪足掻きをしてみせた。
フヴェズルングは自身の身体を半ば強引に2つに割り、片方はその手に持つ偽神征鎚を投げ、もう片方の半身は西の山へと向かって行った。
西の山に着いた半身は自身を贄とする事で「災いの蛇」の召喚を行ったのだ。
これらの事に因ってフヴェズルングは完全に消滅した。
「終わった…わね」
「あ、あの御子様?///」
「どうしたのルミネ?」
「い、いつまで、わたくしの胸を触ってらっしゃるんですの?///」
「えっ?!あ、いや、うん、ルミネのおっぱいって柔らかくて触り心地いいから、ちょっと手が離せないっていうか、アタシもこんだけあればなぁ…。うっ」
少女達はフヴェズルングが死の間際に何をしたのか知らない。だからこそ少女はルミネに抱きかかえられたまま安心してルミネとジャレつき、自虐していた。
ジャレつかれたルミネはまんざらではない様子で顔を赤く染めていた。
「漸く終わりましたわね」
だがしかしその時、上空にいた者達が絶対に知る由も無い事が地上では起きていた。
地上で探索にあたっていた3名の貴族達は大地が小刻みに且つ、何度も揺れているのを感じ取っていたのだ。
「あわわわわわわ、また地揺れだよぅ」
「なんでこんなに地揺れが頻発するの?大丈夫なのかなぁ?」
アヴァルティアは小刻みに何度も起きる地震に対してそれが起きる度に慌てている。
だがその一方で、魔力の流れが城に向かっているのを察知していた。
アヴァルティアは不穏な魔力の流れから、何やら嫌な予感がしたので早々に領内の探索を打ち切り、城に向かって走っていった。
同じ領内にいたインヴィディアもまた、アヴァルティアと同様のモノを感じ取ったが為に城に向かっていた。
ベルフェゴールは悩んでいた。城内の探索中に起きた地震に対して。
何度も身体を小刻みに揺さぶられるこの地震に対して悩んでいたのである。
更には刻々と城の中に集まり高まっていく魔力に、今まで培ってきた直感が「何かが起きる」とそう告げていた。
現在この城の中にはベルフェゴールしかいない。
拠って不気味な状況と度重なる地震から心細い事も相俟って、「ここは戦略的撤退です」と呟くと一目散に城から脱出していった。
ベルフェゴールは城から脱出した後で…。
アヴァルティアとインヴィディアは城に向かう途中で…。
魔王ディグラス達を乗せた飛竜組はその飛竜の背の上で…。
空中に留まり少女達は安堵していたその時に…。
城の中から禍々しく昏い光が、ウネウネと天空に向かって昇っていくのを見たのだった。
それはまるで、大きな大きな蛇の様な姿をした禍々しく昏い光だった。その昏い光は天に昇ると再び大地へと墜ちていった。
そして墜ちた光は城に纏わり付く様に蜷局を巻き、その先端はゆっくりと上がっていく。
それは頭を擡げた蛇に見えた。
上がりきった先端部分がその動きを止めると、赤く光る目が開く。
その目は鋭く怪しい眼光を放っていた。
「「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」」
それを見た全ての者達が言葉を失ってしまった。蛇の一番近くにいたベルフェゴールは腰を抜かし地面にへたり込んでいた。
城に向かっていたアヴァルティアとインヴィディアは、蜷局を巻いている蛇のその眼光に驚きその場に立ち尽くしていた。
それはまさに蛇に睨まれたカエルだった。
一方で魔王ディグラス達は一様に危機を察知すると上空で飛竜の背から飛び降りて散開し、各々が空を飛翔び蛇の元を目指していった。
少女はルミネが震えている事に気付いていた。だから地上に降ろしてもらう事をルミネに提案したのだった。
ルミネは少女の提案を受け入れると再び小高い山の上に降り立ち、こうして少女は地に足を付く事が出来た。さらに、この山の上からでも禍々しい蛇のその全容を確認する事が出来ていた。
だがその異様な光景に、ルミネはやはり震えている様子だ。
「ルミネ、アタシがオドを結構使っちゃったから疲れたでしょ?ちょっとここで休んでて。アタシがアイツをサクっと倒してくるからッ!」
「えっ!?あっ!!」
少女はルミネにウインクすると、ルミネの返事を待たずにブーツに火を点し空を駆けていく。
オドを消費し疲れているのも、強敵との連戦の末に満身創痍なのも少女の方なのは明白だった。
今回の一連の討伐戦はハンターとして正式に依頼を受けたワケではない。依頼として受けたのは北の辺境伯領の調査のみだ。
だから依頼自体は完結している。
だがそれでも、今が弱音を吐いていられる状況じゃない事だけは重々承知していた。それはハンターとして今まで死線を越えて来たからこそ分かるモノだ。
要するにこの状況は他人事ではなかった。
だからこそ多少強気な発言をしてでも、震えているルミネに心配をかけまいとしたのだ。
ルミネは余りにも突然の事で、「行かないで」と言の葉を紡ぐ事が出来なかった。だからこそ少女を掴もうと手を伸ばした。
しかし、その手は少女を掴む事は出来ずただただ空を掴んだだけだった。
何も掴めなかった手を握り締め、ルミネは項垂れへなへなとその場にへたり込んでいく。そして、オッドアイからただただ涙を溢して頬を濡らしていた。
城に向かって空を駆けていた少女は、直ぐに魔王ディグラスの存在に気付き近寄っていった。
「父様ッ!来てくれたんだ?ありがと」
「おぉ、無事だったようだな?」
「えぇ、おかげさまで。でも……」
少女はディグラスに対して言の葉を紡ぎ、ディグラスもまた娘が無事だった事に安堵していた。
然しながらそれは、表情に出してなどいない。
「恐らくアレ、ヨルムンガンドよ?何か策はある?それと、こっちの戦力は?」
「策はあるにはある。だが、それには時間が掛かる。こちらの戦力はアスモデウスを除く貴族6名と余だけだ」
「じゃあ、アタシも入れて8人ねッ!」
「策を教えて、父様」
魔王ディグラスは気丈に振る舞っている少女の疲弊が激しい事を見抜いていた。だが原状でかけ離れている戦力差を埋める為に、少女の力が必要なのも事実だった。
だからこそ父親としては娘を戦場に出したく無いのは当然の考えだったが、そうも言っていられない葛藤があったのも事実だ。
そんな魔王ディグラスの葛藤を知ってか知らずか…、少女は大人びた微笑みを湛えながら言の葉を紡いだのだ。
ディグラスは少女のその表情を見るや否や、色んな感情が心中に渦巻いており、決して心穏やかではなかったが、深く溜め息をついた上で少女に策を伝える事を決めた。
「一端の顔をする様になりおって……」
その様子から魔王ディグラス達は追い掛けてルミネに助太刀しようと画策したのだが、イーラが召喚した飛竜達の飛行能力を以ってしても距離はみるみる内に引き離され、その背の上で皆はヤキモキしていた。
そんな状況にイーラだけは申し訳無さそうに小さくなっていた。だが追い付けないのは決してイーラが召喚した飛竜達のせいではなく、追い掛けっこをしている2人が速過ぎるというのが結論だ。
そして逃げているルミネの背中から虹色の顎の様なモノが生え、その顎が追い掛けている敵と思しきモノを喰らう姿を飛竜の上から見た魔王ディグラス達は、何も言えず何も言葉を発せず一同が一様に絶句していた。
一行は偶然にも見てしまったその光景に「ルミネを怒らせたら怖い」と、心の中にトラウマと言えるモノを植え付けられるのだった。
フヴェズルングは最後の最後に悪足掻きをしていた。自分が追い掛けている者達が、今まさに放とうとしている魔術が何なのかを悟ったからだ。
だからこそ少女が放った「極大魔術」の顎に拠って飲み込まれる寸前に、悪足掻きをしてみせた。
フヴェズルングは自身の身体を半ば強引に2つに割り、片方はその手に持つ偽神征鎚を投げ、もう片方の半身は西の山へと向かって行った。
西の山に着いた半身は自身を贄とする事で「災いの蛇」の召喚を行ったのだ。
これらの事に因ってフヴェズルングは完全に消滅した。
「終わった…わね」
「あ、あの御子様?///」
「どうしたのルミネ?」
「い、いつまで、わたくしの胸を触ってらっしゃるんですの?///」
「えっ?!あ、いや、うん、ルミネのおっぱいって柔らかくて触り心地いいから、ちょっと手が離せないっていうか、アタシもこんだけあればなぁ…。うっ」
少女達はフヴェズルングが死の間際に何をしたのか知らない。だからこそ少女はルミネに抱きかかえられたまま安心してルミネとジャレつき、自虐していた。
ジャレつかれたルミネはまんざらではない様子で顔を赤く染めていた。
「漸く終わりましたわね」
だがしかしその時、上空にいた者達が絶対に知る由も無い事が地上では起きていた。
地上で探索にあたっていた3名の貴族達は大地が小刻みに且つ、何度も揺れているのを感じ取っていたのだ。
「あわわわわわわ、また地揺れだよぅ」
「なんでこんなに地揺れが頻発するの?大丈夫なのかなぁ?」
アヴァルティアは小刻みに何度も起きる地震に対してそれが起きる度に慌てている。
だがその一方で、魔力の流れが城に向かっているのを察知していた。
アヴァルティアは不穏な魔力の流れから、何やら嫌な予感がしたので早々に領内の探索を打ち切り、城に向かって走っていった。
同じ領内にいたインヴィディアもまた、アヴァルティアと同様のモノを感じ取ったが為に城に向かっていた。
ベルフェゴールは悩んでいた。城内の探索中に起きた地震に対して。
何度も身体を小刻みに揺さぶられるこの地震に対して悩んでいたのである。
更には刻々と城の中に集まり高まっていく魔力に、今まで培ってきた直感が「何かが起きる」とそう告げていた。
現在この城の中にはベルフェゴールしかいない。
拠って不気味な状況と度重なる地震から心細い事も相俟って、「ここは戦略的撤退です」と呟くと一目散に城から脱出していった。
ベルフェゴールは城から脱出した後で…。
アヴァルティアとインヴィディアは城に向かう途中で…。
魔王ディグラス達を乗せた飛竜組はその飛竜の背の上で…。
空中に留まり少女達は安堵していたその時に…。
城の中から禍々しく昏い光が、ウネウネと天空に向かって昇っていくのを見たのだった。
それはまるで、大きな大きな蛇の様な姿をした禍々しく昏い光だった。その昏い光は天に昇ると再び大地へと墜ちていった。
そして墜ちた光は城に纏わり付く様に蜷局を巻き、その先端はゆっくりと上がっていく。
それは頭を擡げた蛇に見えた。
上がりきった先端部分がその動きを止めると、赤く光る目が開く。
その目は鋭く怪しい眼光を放っていた。
「「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」」
それを見た全ての者達が言葉を失ってしまった。蛇の一番近くにいたベルフェゴールは腰を抜かし地面にへたり込んでいた。
城に向かっていたアヴァルティアとインヴィディアは、蜷局を巻いている蛇のその眼光に驚きその場に立ち尽くしていた。
それはまさに蛇に睨まれたカエルだった。
一方で魔王ディグラス達は一様に危機を察知すると上空で飛竜の背から飛び降りて散開し、各々が空を飛翔び蛇の元を目指していった。
少女はルミネが震えている事に気付いていた。だから地上に降ろしてもらう事をルミネに提案したのだった。
ルミネは少女の提案を受け入れると再び小高い山の上に降り立ち、こうして少女は地に足を付く事が出来た。さらに、この山の上からでも禍々しい蛇のその全容を確認する事が出来ていた。
だがその異様な光景に、ルミネはやはり震えている様子だ。
「ルミネ、アタシがオドを結構使っちゃったから疲れたでしょ?ちょっとここで休んでて。アタシがアイツをサクっと倒してくるからッ!」
「えっ!?あっ!!」
少女はルミネにウインクすると、ルミネの返事を待たずにブーツに火を点し空を駆けていく。
オドを消費し疲れているのも、強敵との連戦の末に満身創痍なのも少女の方なのは明白だった。
今回の一連の討伐戦はハンターとして正式に依頼を受けたワケではない。依頼として受けたのは北の辺境伯領の調査のみだ。
だから依頼自体は完結している。
だがそれでも、今が弱音を吐いていられる状況じゃない事だけは重々承知していた。それはハンターとして今まで死線を越えて来たからこそ分かるモノだ。
要するにこの状況は他人事ではなかった。
だからこそ多少強気な発言をしてでも、震えているルミネに心配をかけまいとしたのだ。
ルミネは余りにも突然の事で、「行かないで」と言の葉を紡ぐ事が出来なかった。だからこそ少女を掴もうと手を伸ばした。
しかし、その手は少女を掴む事は出来ずただただ空を掴んだだけだった。
何も掴めなかった手を握り締め、ルミネは項垂れへなへなとその場にへたり込んでいく。そして、オッドアイからただただ涙を溢して頬を濡らしていた。
城に向かって空を駆けていた少女は、直ぐに魔王ディグラスの存在に気付き近寄っていった。
「父様ッ!来てくれたんだ?ありがと」
「おぉ、無事だったようだな?」
「えぇ、おかげさまで。でも……」
少女はディグラスに対して言の葉を紡ぎ、ディグラスもまた娘が無事だった事に安堵していた。
然しながらそれは、表情に出してなどいない。
「恐らくアレ、ヨルムンガンドよ?何か策はある?それと、こっちの戦力は?」
「策はあるにはある。だが、それには時間が掛かる。こちらの戦力はアスモデウスを除く貴族6名と余だけだ」
「じゃあ、アタシも入れて8人ねッ!」
「策を教えて、父様」
魔王ディグラスは気丈に振る舞っている少女の疲弊が激しい事を見抜いていた。だが原状でかけ離れている戦力差を埋める為に、少女の力が必要なのも事実だった。
だからこそ父親としては娘を戦場に出したく無いのは当然の考えだったが、そうも言っていられない葛藤があったのも事実だ。
そんな魔王ディグラスの葛藤を知ってか知らずか…、少女は大人びた微笑みを湛えながら言の葉を紡いだのだ。
ディグラスは少女のその表情を見るや否や、色んな感情が心中に渦巻いており、決して心穏やかではなかったが、深く溜め息をついた上で少女に策を伝える事を決めた。
「一端の顔をする様になりおって……」
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