不思議なカレラ

酸化酸素

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第二節 The Primery Take

第67話 Penetrate Hunter Ⅱ

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 その遠吠えは魔犬種ガルム達に落ち着きを取り戻させ、少女から距離を取らせていった。


「帰ったらドクに、ウージーを更に改造してもらおうかしら?」
「もうちょっとマガジンに弾を詰め込みたいわよね」

 少女は先制攻撃の戦果に多少は満足していた様子だったが、最大で50発しか入らないウージーのマガジンには不服な様子でボヤいていた。

そんな余裕綽々でボヤいている少女と、魔犬種ガルム達の前に一際大きな個体が降り立ったのだった。


「あ、あれが、魔犬種ガルム達のリーダー…?」
「ここにいる魔犬種ガルム達とはどこか違う、何か別の何…か?」

 少女は一際大きな個体が放つ威圧感に少し様子だったが、それと同時に「ここで引く事は絶対に出来無くなった!」「こんなヤツを野放しにしてられないッ!」と考えさせられていた。



 魔犬種ガルム達は様子を窺っていた。仲間を半数近く失い、司令塔であるリーダー一際大きな個体までもがこの場に現れたからだ。

 一方でこれで魔犬種ガルムが採用するであろう戦術の幅は、失われたと少女は考えた。
 何故ならば目の前にいるリーダー一際大きな個体が、先程までは高みの見物をしながら戦況を把握し、群れの仲間達に指示を出していたと考えられたからだ。


 少女はそんな事を考えながらもデバイスにはウージーのリロードを命令し、更には複数の強化魔術エンチャントと複数の強化魔術レインフォースを重ね掛けしていった。

 魔犬種ガルム達はその絶好の好機チャンスとも言える状況に対し、何の反応も取らなかった。少女はその様子に多少なりとも訝しんでいたが、自身に対して強化エンチャント強化レインフォースを掛けさせてくれるなら、その方が助かる事から魔犬種ガルム達に甘えて魔術を掛けていった。

 とは言っても警戒を完全に解いてるワケでは無いので、途中で魔犬種ガルム達が向かって来た際にはキャンセルする事を決め込んでいたのは確かだが……。



 少女が全ての準備が終わった事を見計らったかのように、魔犬種ガルム達のリーダーが単身で少女の前に歩いてくる。
 その姿は実に威風堂々いふうどうどうとしている事から、やはり魔犬種ガルムというよりはむしろ別の種類の魔獣のようにも感じ取れていた。


「サシって事ね?」

グルルッ

「分かったわ」

 魔犬種ガルム達のリーダーは勢い良く少女に向かって特攻すると、鋭い爪撃を繰り出していく。
 その速さは先程の獣人を遥かにしのぐ速さだ。その為にを施した少女でも、紙一重で躱すのがやっとだった。


「なるほどそういう事ね。だからわざわざエンチャントとレインフォースを掛けている時に待っていてくれたのね?」
「お気遣いはありがたいけど、それって舐められてるってコトよねッ!!」

 少女は口惜しそうに言の葉を紡いでいく。その表情はとても悔しそうだ。

 少女は理解したのである。自身に対して何も魔術を掛けていなければ、今の一撃で確実にほうむられていた事を。

 この魔犬種ガルム達のリーダーは楽しんでいるのだ。獲物を「なぶる」のではなく、獲物と「闘う」事を。
 それならばそれで少女も考えを割り切り楽しむ事にしたと言える。


「それじゃあ、目一杯楽しみましょッ!」

グルルラァ

タララララッ

 少女はウージーのトリガーを弾き、その弾丸は軽い破裂音を掻き鳴らしながら飛翔していく。然しながら直線的な弾丸の動きで、魔犬種ガルム達のリーダーを捉えるのは難しくその全て弾丸は虚空に消えていった。


「これならどぉだッ!」
「流水の型ぁッ!」

しゅいんッ

 少女の身体が一瞬「揺れ」る。その少女の「揺れ」に対し魔犬種ガルム達のリーダーは、一瞬だけ何かを表情に出した様子だったが、直ぐに少女に合わせる形で爪撃を放ち、何もないハズの空間を斬ったのである。


きいぃいん

「ぐッ」

どぉッ

「痛ッぅぅ。やってくれるわね。虚すらなんて」

 軽い音と何かに耐えるような声を吐き出しながら、少女は弾き飛ばされていった。魔犬種ガルムのリーダーの爪撃は、正確な少女の位置を把握した上で放たれていたのだ。
 そこで少女は急遽ガードするハメになったが、その爪撃は非常に重く、汎用魔力刃ソードでガードしても吹き飛ばされてしまった程だった。


「仕方無いわね、奥の手を出させて貰うわッ!」
「破竜の型ぁぁッ!」

しゃしゃざんッ

ぎんぎんぎぃん

 少女はその身にダメージが蓄積していたが起死回生の不可避の一撃を放っていく。少女の汎用魔力刃ソードから放たれた刃は3本。
 然しながらその起死回生の刃は、魔犬種ガルム達のリーダーの爪と牙を以って全て撃ち落とされたのだった。


「そ、そんなッ?!デタラメ過ぎるわッ!不可避の刃を受けた上で撃ち落とすなんて!!」
「う、嘘でしょ?なんなのこの魔犬種ガルム……」

 流石に少女は焦っていた。自身の中で絶対の自信を持つ一撃が当たらなかったのだから。
 強化エンチャント強化レインフォースを重ねて放った「型」ですら届かないのだから。
 背中を冷や汗が止まらなかった。
 ウージーを握るその手は徐々に震え始めていた。


「勝てるの?これは本当に勝てる相手なの?」


 魔犬種ガルム達のリーダーは詰まらなかった。「この相手ならばもしや?」と、多少なりとも歯応えを期待していた感はあった。


「だが、どうやら期待外れだったようである」


 魔犬種ガルム達のリーダーはそう結論付けており、遊びは終わりにして一撃でほうむる事にした。


 目の前の殺気が一気に跳ね上がっていく。目の前から放たれている大きな殺気を浴びた少女の焦りは、心臓の鼓動を跳ね上がらせていった。

 この殺気は今まで出会ったどの敵よりもすごすさまじく、そして怖い。得体の知れない恐怖とも言える殺気。
 野生の魔獣が放つ事が出来ない、知性を兼ね備えた殺気とでも言うべき何か。


「恐らく次の一撃でアタシは死ぬわね」
「でもどうしよ?アタシは凄っごく死にたくないッ」

 少女は自身を捉えて離さない殺気を浴びせられながらも、を考えていた。それ程までの殺気であり、普通の者であればショック死する程であったかもしれない。
 今まで行ってきた魔獣との生命のやり取りは、多少なりとも恐怖心を麻痺
 何故ならば、今は余計な事を考えていられるだけの時間的余裕があったからだ。


 一方で少女は諦めたくなかった。諦め切れなかった。まだまだやりたい事はたくさんある。まだアタシは何にも追い付けていない。
 自分の父様とうさまに自分の兄弟子に。


「だからこそ、こんなところで諦める訳にはいかないッ!!」
「アンタなんかに負けてられないのよッ!」

 そんな少女に対し魔犬種ガルム達のリーダーは、非情にも容赦の無い一撃を繰り出していった。

 少女はその一撃に対して躱す事もガードも出来ず、無慈悲な爪撃を、まともにのだった。
 それ程までに速く一撃に、少女の思考も身体も反射ですら何も反応出来なかった。

 更に残酷な事に少女の腹に刺さった爪の先は、そのまま少女の身体を貫通し背中から飛び出していた。


ぼたたたたたたっ

「がふッ」
「う、嘘……?!」
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