不思議なカレラ

酸化酸素

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第三節 The Surface Take

第81話 Time Spinner Ⅰ

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 クリスは昏睡こんすいしていた。恐らくは「龍征波動ドラゴニック・オーラ」の意図的な暴走に因る反動だろう。

 そもそも龍征波動ドラゴニック・オーラは、龍人族ドラゴニアのみが使える固有能力ユニークスキルである。ただし龍人族ドラゴニアは世界の表舞台に出て来ている種族ではない為に、固有能力ユニークスキルの存在は知られていても詳しくは知られていない。

 そんな「龍征波動ドラゴニック・オーラ」をトレーニングルームの解析装置を使って、秘密裏に解析していた者がいた。
 その名も「ウィル」である。


 ウィルはトレーニングルームの自称管理者と名乗っている。種族はヒト種で、元々は国立研究所に勤める研究者だった。


 然しながら研究者はこの時代に於いては大別すると2種類の人間しかいない。それは「普通」か「マッド狂っている」かのどちらかである。
 「普通」の研究者は「研究が出来ればいい」では無く「必要に迫られて研究をしている」のだが「マッド狂った研究者」は違う。

 「マッド狂った研究者」は「研究がしたい」に始まり「研究の為なら手段を選ばない」となり、「目的を選ばない」が続き「寝ても覚めても、それ以前に寝る間も惜しんで研究がしたい」となる。

 ウィルは後者だった。その結果として国立研究所に居場所が無くなったのである。

 誤解を産まないように付け加えると、国立研究所に「マッド狂った研究者」がいないワケでは決して無いし「マッド狂った研究者」を排斥しているワケでもない。
 むしろ「普通」の割合がほとんど無く、「マッド狂った研究者」の割合が異常に多いとも言える。


 そんな感じなのではたから見れば、「人間らしい事を一切させずに奴隷の様に研究のみをさせているブラックな研究所」と思われるかもしれない。まぁごくごく一般的な人達から見れば批判されそうだが、中にいる研究者からすればなので文句が出る事はない。
 だがそんな中で「マッド狂っているヤツら」が主力な国立研究所の中でウィルは少女と出会ってしまった。

 そしてそれを契機にウィルの人生設計は狂っていったとも言える。何故ならウィルは見てしまったのだ。
 存在していないとされていた五大属性の使用者を。その者が放つ極大アルティメッ魔術ト・シリーズを。


 それからというものウィルは……
 まるでスピリチュアルな何かに取り憑かれたように……
 まるで頭がお花畑になってしまった恋する乙女のように……
 まるで高嶺の花に恋い焦がれるチェリーのように……極大魔術の研究に没頭していった。

 そしてそれ極大魔術の研究は一切成功するハズもないばかりか、幾度となく国立研究所を破壊したのである。

 結果としてウィルの居場所は失くなった。


 晴れて無職となったウィルは、少女が公安のハンターだという事をどこからか聞き付けると、公安のトップであるマムに半ば脅迫とも泣き倒しとも言える反則技を用いて公安のトレーニングルームに居座ったのだ。

 マムは居座られて困る事はなかったが、図に乗ってトレーニングルームを私物化した事は見過せなかった。
 だからウィルは、正式に公安の職員として採用された。
 そうする事で過度な私物化をした際には公安の規定に因って、問答無用で叩き出せるようにしたと言える。


 一方でトレーニングルームの主として収まったウィルは、まるでストーカーの様に事あるごとに少女に対しトレーニングルームを使うように迫った。
 更には私物化の一端として勝手に置いた解析装置で、秘密裏に少女の解析をしていた。


 そんなウィルの持つある種特殊な「性癖」とも言える「それ」を、マムは利用しようと考えた。
 その結果ウィルを手練手管てれんてくだを用いて籠絡ろうらくし、私物化されていたトレーニングルームをウィルの手で強化と発展を行わせ、更にはハンター達の経験値稼ぎの手段として改良させていった。

 結果、トレーニングルームは充実した。


 そんな特殊性癖持ちのウィルなので、今回の「龍征波動ドラゴニック・オーラ」はレアモノを求めるウィルの食指しょくしに触れていた。

 さて余談はここまでである。



 クリスが昏睡している事からマムは、決闘前に2人にした話しを実行する事が出来なかった。
 然しながら静岡国とは話しを付けていた。

 流石にクリスが「決闘」と言い出す事は想定外過ぎたが、どんな脅し文句を使っても少女が炎龍ディオルギア討伐に名乗りを上げる事は想定内だった事から、マムは先走って要請デマンドを受けていたと言える。


 静岡国側から提示されたクエストの期限は3週間だった。(マムが静岡国と話しを付けた時からなので既に数日は消化してしまっている)
 その間に討伐出来なければ依頼クエスト失敗となる。焦らせたくない事からマムは意図的に少女達には伝えていない「条件」だった。


 クリスの昏睡中に神奈川国から現地におもむ少女1人だけと正式決定し、要請デマンド先である静岡国に通達された。

 少女1人と正式に決定する前にマムは「パーティーを組むか?」と少女に聞いたが、それに対して「相手が相手だけに他人の面倒まで見ていられないし、それが原因で死なれても嫌だから」という理由で断られた。


 「武器弾薬で欲しい物は何かあるか?」とマムは改めて少女に聞いた際には、「上位の精霊石とLAMラムを出来るだけたくさん」と言われた事に多少なりとも頭を抱えさせられた。



 LAMとは「Light-weight Anti-tank Munition」と呼ばれる軍事兵器の1種である。「携帯対戦車兵器」と呼ばれる無反動砲であり、第2次世界大戦時に開発された兵器の1種としても知られている。


 第3次世界大戦に於いて地球サイドの兵器として数多の銃火器類と共に活躍し、テルースサイドに相当量の被害をもたらした事実もある。

 第3次世界大戦後には魔導工学のすいを集めて改良に改良を重ねられた事で「決戦用戦闘兵器」(「Light-weight Anti-material Munition」)として発展を遂げていくに至る。

 LAMはその貫通力と爆発力で、大型の魔獣の討伐にも有効打と足り得る「物理兵器」となっている。
 更に付け加えると弾頭に精霊石を取り付ける加工を行う事で、物理攻撃が効かない種に対して有効な「魔術兵器」(「Light-weight Anti-astral Munition」)として進化を遂げているLAMなども存在している。


 この世界に於いては一般的な「LAM」の呼称で通用するが、商品としては様々な商品名がある程に開発競争が進み各国の資金源となっている。然しながら神奈川国に於いては素材的な要因の為に生産体制は取られておらず、他国からの輸入で賄っているのだった。


 結論として群雄割拠している現在の世界に於いては新たな決戦兵器の開発はそのまま国益となる。そしてそれはまた同時に、周辺国家に対する牽制けんせいにも繋がる事から軍需産業の発展は目覚ましいと言えるだろう。



「精霊石のストックは上位のが各2個ずつくらいしかないかもしれないねぇ。あと、LAMは全部渡すワケにはいかないが、まぁ、アンタが負けたら、どのみち全部使う事になるだろうから、半分は持ってっていい」
「ドクには伝えておくから、後でドクの所に行って、引き取っていきな。あと、これはアタシからの餞別せんべつだ、受け取りな」

「ハーフメイル?」
「あっ!これってもしかして魔銀鋼ミスリル製?」
「それにスロット付じゃない!ありがと、マム!」

「アンタが今使ってるそのハーフメイルは魔犬種ガルムとの闘いで壊れてそのままなんだろう?そこにまだ穴が空いてるしな」
「これはアンタが使ってると違い、魔銀鋼ミスリルでドクに造らせた逸品だ。それに今度は相手が炎龍ディオルギアなんだ、受け取っておきな!」
「あとスロットは左右に1コずつ計2コあるから好きなモノを入れるといい」

「や、安物で悪かったわねッ!でもアタシは一流だから安かろうと高かろうと価値以上に使いこなせるから大丈夫なのッ!!」
「でも、これは有り難く受け取っておくわ!」
「そうだ!今ここで装備してみてもいい?」

「あぁ、モチロン構わないさね」

 少女はマムから受け取ったハーフメイルをその場で装備していった。だが多少胸の部分に隙間が空いている。
 更にはその姿を見てマムはニヤニヤしていた。

 少女はそれを見て「かっちーーーん」と頭に来たが何も言わず表情にも出さなかった。そのまま怒ろうモンなら負けた気がして嫌だったからだ。
 だからそのまま装備を完了させた。


「さすが星持ちだ、よく似合ってる。馬子にも衣装とはこの事だね」

ぴきっ
「そ、それじゃあ、ドクの所にいってくるねッ」

バったんッっっっっっ
どかッ
「くっそぉ、言いたいだけ言いやがってぇ!!くそッくそッくそッ!!!」

 凄くにこやかに笑顔のまま部屋を出ていった少女だが、その部屋のドアは大変勢い良く閉められていった。
 更には廊下の中腹あたりから鈍い音が響いたと思ったら、汚らしい言葉遣いの怒声がマムの元にも聞こえて来ていた。


「アンタの娘は、アンタを追っ掛けて、アンタを追い抜く為に必死だよ」
「だからあたしゃアンタの代わりにあの娘の行く末を見届けてやるさ」
「ま、口が悪いのは誰に似たか分からんがね。ふっ」
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