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第四節 The Finisher Take
第129話 Unique Deceiver Ⅲ
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「うわぁ、こういう事かぁ。これをクリスが1人でやったの?なんていうか……クリス、恐ろしいコッ」
「デバイス的には残りは2匹みたいだけど、1番奥かな?奥の部屋燃えてるし。ってか、ぬるぬるのグチョグチョで歩き難いわね。出力抑えてブーツで駆けた方がいいかしら?」
「えッ?!」
「何今のッ!?急いで行かないとッ!」
「ブーツオンッ」
少女は最上階に辿り着き、考えてもいなかったあまりの光景に驚嘆の声を上げていた。更には少女の視界に映る奥の部屋は大絶賛で燃えており、そこに向かうのも入るのも非常に億劫だった。
だがそんな時に炎の中から出て来ようとしていた1匹のSC化中鬼種が、何者かに「喰われる」のを遠目に見たのである。
その瞬間から少女の背中を冷や汗が伝っていく。いや、伝うだけでなく滝のように止まらなかった。
「クリスッ!無事ッ?」
「あ……アルレ……殿?」
クリスは遠くから聞こえて来た少女の声に我に返った。だが、身体に思うように力が入らない。そして脚にも同様に力が入らない。
要は全く動けないでいたのだった。
一方の固有個体はゆっくりと歩を進めていた。そして既にクリスの近くまで来ている。
「デバイスオープン、精霊石サラマンダー、ガンに宿れ」
「業炎嵐風ッ!」
ごあっごぉぉぉぉぉぉッ
少女は固有個体に対して火の上位精霊石で牽制を掛けていった。
汎用魔力銃から放たれた業炎は敵目掛けて疾走っていく。
そして固有個体は瞬く間もなく火に包まれていった。
「クリスッ大丈夫?立てる?ここから逃げるわよッ!」
「すまない、アルレ殿。此の身は大丈夫ない。何故か足に力が入らないのだ」
「ほら、しっかりちゃんと掴まってて」
「う、うむ」
「ブーツオンッ」
少女は動けないでいるクリスを立たせると自分の肩に掴まらせ、部屋から一目散に逃げていった。
ブーツの出力は最大だったので安定性は欠いていたが、それどころではなかった。
「デバイスオープン、ローポーション。それと、万能薬」
「さ、クリス、これを飲んで」
ぐびっぐびっ
「クリス、立てる?歩ける?」
「あぁ、もう大丈夫だ。アルレ殿、助かった。感謝する」
「それはいいけど、あれは一体何なの?あれがあの部屋にいた固有個体なの?」
「やはり、あれが固有個体なのだな」
「どういう事?まったく会話が噛み合ってないし、クリスは固有個体と闘ってたんじゃないの?」
ちゃきッ
「クリス待って、どこに行くつもり?」
「あれを倒さないといけない。此の身がちゃんと倒してくる」
少女はクリスを連れて階段まで逃げて来ていた。クリスは大した怪我もなかったが、話している内容は意味がよく分からなかった。
そしてクリスは長剣を鞘に納めると、先程まで重圧に圧し潰されかけていた者のセリフとは思えないセリフを吐いて、再び固有個体の元へと向かって行ったのである。
そんなクリスの豊満な胸元は少しだけ光を帯びていた。
「あれが本当に固有個体なの?ただの小鬼種よりもちっちゃいクセに……なんであんな重圧を放っているの?あの内側から溢れる重圧は何?」
「一体、その身の内に何を飼っていると言うの?」
少女の背中は大洪水のようにぐっちゃりとしている。あの固有個体から放たれる重圧が、大量の冷や汗を掻かせているからだ。
小さな身体であの炎龍ディオルギアをも凌ぐ、異質な重圧を放つ存在に恐怖しかなかった。歴戦のハンターである少女ですら、理解不明の敵としか言いようがなかったのである。
再び向かっていったクリスとの闘いに於いて、先制をしたのは固有個体だった。固有個体のその背後から不気味な黒い影が放たれ、クリスを襲っていく。
一方でクリスは先程までの震えが、まるで嘘であったかのように落ち付いていた。そして向かってくる影を、ただただ躱していた。
尚、クリスの長剣は鞘に収まったままだ。
決して広いとは言えない廊下での戦闘であって、自在に動く影の方がどう考えても有利なのは明白だった。だが、クリスはその不利を物ともせず、自分の方に向かってくる影に対して無駄な動きをせずに、ただ躱していく。
クリスに躱された事で影に襲われた壁は、抉ったような跡をその身に残していた。
「恐らく、先程のSC化中鬼種はこの影に喰われたのであろうな?ならば影に触れられ無ければ平気なハズだッ!」
「だが、不思議なモノだ。さっきまで此の身を襲っていた感情の奔流がなくなっている……。そして、身体が軽いッ」
クリスはひたすらに迫り来る影を躱し続けながら、その距離を詰めていった。そして遂に自分の間合いの内に、固有個体を捉える事が出来たのだった。
近付かれた固有個体はその影の数を更に増やしクリスを襲っていく。
だが、そのどれもがクリスに触る事は出来なかった。
クリスは体勢を低くし、鞘に収まっている龍鱗剣スライスナーヴァに手を掛けて一閃を放ったのだった。
「神閃ッ!」
-・-・-・-・-・-・-
嘗て、ある所に1人の天使族がいた。
その天使族は数多いる天使族の中で、主である神族の前に立つ事を許された1人であった。
更に、その天使族は「主」からの信頼がとても篤く、様々な「任務」を熟していった。
熟す任務が増えれば増える程、更に主からの信頼は篤くなっていく。そして、それと同時にそれを妬む天使族がいたのだった。
妬まれた結果、その天使族は罠に嵌められる事になる。そしてその罠に拠って、その額に意図しない1つの魔眼を埋め込まれたのだ。
その天使が埋め込まれた魔眼は、「邪視の魔眼」という悪しき魔眼だった。そしてその魔眼は、その眼が見た者を死に至らしめる能力を有していた。
その事を知らなかった天使族はその額に埋め込まれた魔眼に、主の姿を映してしまったのである。
その結果、主は魔眼に因って殺された。そして当然の事ながら、神族はその不祥事を納得するハズもなかった。
因ってその天使族は全ての責任を負って追放される事になる。
神族の住まう「神界」、天使族が住まう「天界」……。そのいずれを問わず、謂れのない迫害を受けて居場所を奪われたのだ。
その天使族は流離った。そして終には、かつて仲間だった者の手に掛かり、神殺しの汚名を着せられたまま絶命した。
その天使族の魂は、死んでもなお自由にはなれなかった。転生する事も罪も赦されず、「堕天」の封印を施され魔石へと変えられた。
小さな小鬼種はその魔石を体内に宿しており、その力に拠って固有個体足る力を得ていたのである。
「神閃ッ!」
ざんッ
クリスはその張り上げた声と共に、龍鱗剣スライスナーヴァを鞘の中で疾走らせ、横一文字に薙ぐ。
龍征波動を鞘ごと長剣に纏わせ、放たれた居合いの刃は目にも映らない速さで固有個体を薙いでいった。
その居合いをまともに受けた固有個体の身体は、上下二つに泣き別れていく。そしてそのまま、その一撃を以って屠られるハズだった。
しかし、泣き別れていた身体は影に拠って運ばれ、今にも戻ろうとしていた。
一方で遠目に見ていた少女はその光景を「はい、そーですか」と受け入れるつもりは毛頭無かった。元に戻る時間を与えるつもりは指の先、毛の先程にも無かったのである。
クリスは龍征波動をほぼ使い果たしていた。だからこれ以上の戦闘は避けたかった。これ以上闘えば、決め手を欠いた上に足手まといにしかならないからだ。
拠って、固有個体が元に戻ろうとしている今、更なる追撃を諦め、戦線を離脱する事を決めた。
「デバイス的には残りは2匹みたいだけど、1番奥かな?奥の部屋燃えてるし。ってか、ぬるぬるのグチョグチョで歩き難いわね。出力抑えてブーツで駆けた方がいいかしら?」
「えッ?!」
「何今のッ!?急いで行かないとッ!」
「ブーツオンッ」
少女は最上階に辿り着き、考えてもいなかったあまりの光景に驚嘆の声を上げていた。更には少女の視界に映る奥の部屋は大絶賛で燃えており、そこに向かうのも入るのも非常に億劫だった。
だがそんな時に炎の中から出て来ようとしていた1匹のSC化中鬼種が、何者かに「喰われる」のを遠目に見たのである。
その瞬間から少女の背中を冷や汗が伝っていく。いや、伝うだけでなく滝のように止まらなかった。
「クリスッ!無事ッ?」
「あ……アルレ……殿?」
クリスは遠くから聞こえて来た少女の声に我に返った。だが、身体に思うように力が入らない。そして脚にも同様に力が入らない。
要は全く動けないでいたのだった。
一方の固有個体はゆっくりと歩を進めていた。そして既にクリスの近くまで来ている。
「デバイスオープン、精霊石サラマンダー、ガンに宿れ」
「業炎嵐風ッ!」
ごあっごぉぉぉぉぉぉッ
少女は固有個体に対して火の上位精霊石で牽制を掛けていった。
汎用魔力銃から放たれた業炎は敵目掛けて疾走っていく。
そして固有個体は瞬く間もなく火に包まれていった。
「クリスッ大丈夫?立てる?ここから逃げるわよッ!」
「すまない、アルレ殿。此の身は大丈夫ない。何故か足に力が入らないのだ」
「ほら、しっかりちゃんと掴まってて」
「う、うむ」
「ブーツオンッ」
少女は動けないでいるクリスを立たせると自分の肩に掴まらせ、部屋から一目散に逃げていった。
ブーツの出力は最大だったので安定性は欠いていたが、それどころではなかった。
「デバイスオープン、ローポーション。それと、万能薬」
「さ、クリス、これを飲んで」
ぐびっぐびっ
「クリス、立てる?歩ける?」
「あぁ、もう大丈夫だ。アルレ殿、助かった。感謝する」
「それはいいけど、あれは一体何なの?あれがあの部屋にいた固有個体なの?」
「やはり、あれが固有個体なのだな」
「どういう事?まったく会話が噛み合ってないし、クリスは固有個体と闘ってたんじゃないの?」
ちゃきッ
「クリス待って、どこに行くつもり?」
「あれを倒さないといけない。此の身がちゃんと倒してくる」
少女はクリスを連れて階段まで逃げて来ていた。クリスは大した怪我もなかったが、話している内容は意味がよく分からなかった。
そしてクリスは長剣を鞘に納めると、先程まで重圧に圧し潰されかけていた者のセリフとは思えないセリフを吐いて、再び固有個体の元へと向かって行ったのである。
そんなクリスの豊満な胸元は少しだけ光を帯びていた。
「あれが本当に固有個体なの?ただの小鬼種よりもちっちゃいクセに……なんであんな重圧を放っているの?あの内側から溢れる重圧は何?」
「一体、その身の内に何を飼っていると言うの?」
少女の背中は大洪水のようにぐっちゃりとしている。あの固有個体から放たれる重圧が、大量の冷や汗を掻かせているからだ。
小さな身体であの炎龍ディオルギアをも凌ぐ、異質な重圧を放つ存在に恐怖しかなかった。歴戦のハンターである少女ですら、理解不明の敵としか言いようがなかったのである。
再び向かっていったクリスとの闘いに於いて、先制をしたのは固有個体だった。固有個体のその背後から不気味な黒い影が放たれ、クリスを襲っていく。
一方でクリスは先程までの震えが、まるで嘘であったかのように落ち付いていた。そして向かってくる影を、ただただ躱していた。
尚、クリスの長剣は鞘に収まったままだ。
決して広いとは言えない廊下での戦闘であって、自在に動く影の方がどう考えても有利なのは明白だった。だが、クリスはその不利を物ともせず、自分の方に向かってくる影に対して無駄な動きをせずに、ただ躱していく。
クリスに躱された事で影に襲われた壁は、抉ったような跡をその身に残していた。
「恐らく、先程のSC化中鬼種はこの影に喰われたのであろうな?ならば影に触れられ無ければ平気なハズだッ!」
「だが、不思議なモノだ。さっきまで此の身を襲っていた感情の奔流がなくなっている……。そして、身体が軽いッ」
クリスはひたすらに迫り来る影を躱し続けながら、その距離を詰めていった。そして遂に自分の間合いの内に、固有個体を捉える事が出来たのだった。
近付かれた固有個体はその影の数を更に増やしクリスを襲っていく。
だが、そのどれもがクリスに触る事は出来なかった。
クリスは体勢を低くし、鞘に収まっている龍鱗剣スライスナーヴァに手を掛けて一閃を放ったのだった。
「神閃ッ!」
-・-・-・-・-・-・-
嘗て、ある所に1人の天使族がいた。
その天使族は数多いる天使族の中で、主である神族の前に立つ事を許された1人であった。
更に、その天使族は「主」からの信頼がとても篤く、様々な「任務」を熟していった。
熟す任務が増えれば増える程、更に主からの信頼は篤くなっていく。そして、それと同時にそれを妬む天使族がいたのだった。
妬まれた結果、その天使族は罠に嵌められる事になる。そしてその罠に拠って、その額に意図しない1つの魔眼を埋め込まれたのだ。
その天使が埋め込まれた魔眼は、「邪視の魔眼」という悪しき魔眼だった。そしてその魔眼は、その眼が見た者を死に至らしめる能力を有していた。
その事を知らなかった天使族はその額に埋め込まれた魔眼に、主の姿を映してしまったのである。
その結果、主は魔眼に因って殺された。そして当然の事ながら、神族はその不祥事を納得するハズもなかった。
因ってその天使族は全ての責任を負って追放される事になる。
神族の住まう「神界」、天使族が住まう「天界」……。そのいずれを問わず、謂れのない迫害を受けて居場所を奪われたのだ。
その天使族は流離った。そして終には、かつて仲間だった者の手に掛かり、神殺しの汚名を着せられたまま絶命した。
その天使族の魂は、死んでもなお自由にはなれなかった。転生する事も罪も赦されず、「堕天」の封印を施され魔石へと変えられた。
小さな小鬼種はその魔石を体内に宿しており、その力に拠って固有個体足る力を得ていたのである。
「神閃ッ!」
ざんッ
クリスはその張り上げた声と共に、龍鱗剣スライスナーヴァを鞘の中で疾走らせ、横一文字に薙ぐ。
龍征波動を鞘ごと長剣に纏わせ、放たれた居合いの刃は目にも映らない速さで固有個体を薙いでいった。
その居合いをまともに受けた固有個体の身体は、上下二つに泣き別れていく。そしてそのまま、その一撃を以って屠られるハズだった。
しかし、泣き別れていた身体は影に拠って運ばれ、今にも戻ろうとしていた。
一方で遠目に見ていた少女はその光景を「はい、そーですか」と受け入れるつもりは毛頭無かった。元に戻る時間を与えるつもりは指の先、毛の先程にも無かったのである。
クリスは龍征波動をほぼ使い果たしていた。だからこれ以上の戦闘は避けたかった。これ以上闘えば、決め手を欠いた上に足手まといにしかならないからだ。
拠って、固有個体が元に戻ろうとしている今、更なる追撃を諦め、戦線を離脱する事を決めた。
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