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第五節 The Towards Shining Take
第153話 Origin Fearer Ⅰ
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輝龍の左腹部に深々と大剣が突き刺さっていた。
「ごはッ……力を使わずして、これだけの力を出すか……。先程とは大違い……よな?」
「し、しかし、これでもまだ足りぬ。これしきの力では「アレ」には敵う……まい。拠って、これをキサマに託すコトにする」
「これは……光龍のお守り?」
「あれは、余が末裔達にこの宝玉を模して下賜したモノだ。だが、これ……は違う」
「違う?」
「これは余が星から託されたモノ。そして、余の力も……中に封じてある。余は力を持つモノに……これを授ける義務がある。受け取るが……良い」
「ねぇ、これはどうやって使うモノなの?」
「この世界に……この星に……再び齎される虚無の禍殃から……必ず護るのだぞ。「惑星の御子」……よ」
「さらば……だ」
「あのー、もしもーし、輝龍さーん。これって、どうやっ……て、ああぁ、はぁ。あぁもうッ!なんで大事なコトを教えてくれずに行っちゃうのッ!?使い方の分からない力なんて、どうしたらいいのよーーーッ!!」
「ってか、輝龍は結構ダメージ負ってたのかしら?結構、血を垂れ流してたけど、大丈夫かしら?龍種達から一斉に報復とかされないわよね?」
「……あ、なんか想像したら怖くなってきた。がくがく」
輝龍は苦しそうな表情で言の葉を紡ぎ、少女に1つの小さな「玉」を渡した。それはかつて龍人族の村でダフドから見せられた、光龍のお守りによく似ていた。
だがこれは、光龍のお守りとは違うと輝龍は言っていた。そして使い方も教えないまま、苦しそうな輝龍は去っていったのだった。
少女はアクスターリ市の沖合で1人、遣る瀬無い表情で佇んでいた。
「あ、そういえば、この姿って、どうやったら戻るんだろ?流石にこんなカッコじゃ、クリスのコトを悪しざまに言えないわね。そのうち、元に戻るかしら?ちゃんと戻ってくれるのよね?」
少女は闇を纏った光が形造ったそのままの姿だった。その姿は魔犬種の王の時や炎龍ディオルギアの時ほどに禍々しくも神々しくもない。
然しながら少女が気にしているのはそんなコトではないし、過去の姿は見ていないのでそれは知る由もない。
要するに、身に着けていたハズ装備は見えなくなってるし、身に着けているのかも分からないコトを気にしていた。そればかりか、身体のラインが見えるそのままの姿に、光と闇が纏わりついていると言っても過言ではないこの状態は、素に戻ると凄く恥ずかしいというのが大問題だった。
それは裸の少女のボディラインがそのまま丸分かりのカッコとも言えた。自分のスタイルに自信がなくコンプレックスを抱えている少女にとっては、他人事では決してない。
それこそ自分の生命にも関わると言っても過言ではないのだ。
「やっぱり、戻るまでこのままここにいよう。こんなカッコで帰ったら、サラとレミの教育に悪いものね……。それに、クリスもまだ目覚めてないし、クリスに心配かけちゃったから少しは面倒を見てあげないと」
「それにしても綺麗な石だなぁ。いや、綺麗な石にしか見えないなぁ。一応、ドクに見せて、それからどうしよう?」
独り言を呟きながら佇むその姿は、アクスターリ沖合で光と闇が同居した幻想的な姿を醸し出していた。
そして、オレンジ色の光がその情景をより一層幻想的に映えさせていた。
「ただいまぁ。あれ?誰も出て来ない。いつもなら誰かしらが迎えに来てくれるのに、何かあったのかしら?」
「こんな日もたまには……うん、今まで1回も無かったわね。本当にどうしたのかしら?勝手に出ていったアタシに愛想尽かして出ていったとかじゃないわよね?もしそうだったらどうしよう?がくがく」
「おかえりなさいませ、お嬢様。お出迎えが遅くなり申し訳御座いません」 / 「申し訳御座いません、マスター」 / 「あるじさま、おかえり」
「あぁ、良かったぁ。みんなアタシに愛想尽かしたワケじゃなかったのね。ほっ」
「はて?お嬢様、どうかなさったのですか?」 / 「マスター、大丈夫ですか?」 / 「あはは。変な、あるじさま」
「それよりも、何かしてたの?3人が3人ともいなかったから驚いたのよ」
「この2人に地下室整理の仕事を教えておりまして、お出迎えが遅くなりました。驚かせてしまって申し訳御座いません」
「地下室?ふぅん、そうなんだ」
少女は元気そうな3人の顔に表情が一気に和んでいった。更には先行きが見えない状況で、不安定だった心が和らいだ気がした。
さて、少女の屋敷の地下は、ある種の迷路のような廊下が入り組んだ作りになっている。それは迷宮と呼ばれるモノに似ている。
また、その入り組んだ迷路の出入り口は屋敷の中だけでは収まらず、敷地内のあちらこちらに配置されていた。なんでこんな作りになっているのか少女は知らないが、なんでこんな作りにしたのかを知る人は既に存在していない。
ちなみに、屋敷の地下1階にある数10にも及ぶ部屋には、少女と少女の父親が獲得した素材から作り上げられた装備品や、弾薬並びに、購入した武器なんかが所狭しと詰め込まれている。それらの中にはレア度が高く非常に希少なモノもある。
拠ってそれら全てを合わせると、1つの国の国家予算を大幅に超える程の金額になるのだ。
まぁ、詳細まで計算したワケではないので、少女としては幾らになるかは分からないのが本当のところなのだが。
しかしその為に、地下1階エリアにはトラップがあったり、廊下に幾重にも及ぶ頑丈な扉があったり、各部屋にもそれぞれそれと同じ扉があったりする。
それらのセキュリティ面は全て人工精霊が行っており、承認された者以外には開けられない仕組みとなっている。
その昔、この屋敷の地下に眠る装備品の話しがどこかから漏れ、盗難目的で侵入した者達もいた。だが侵入した者達は誰一人として装備品に触れる事も出来ず、更には諦めて逃げるコトも出来ずに捕まると言う程に、難攻不落で広大な地下迷宮なのである。
まぁ、少女が普段から使ってる地下室は、地下2階に広がるトレーニングルームがメインであり、装備品の保管室のある地下1階に立ち入る事は滅多に無い。その為、地下に広がる迷宮がどのようになっているのかは、少女でもまったく見当が付いていない。
もし仮に立ち入れば即時迷子になる可能性すらある。
とは言っても正確には少女はマスターとして認識されている。
拠って行きたい場所へと人工精霊が案内してくれるコトから、決してそうはならない。
まあ、これはモノの喩えだが、少女は好んで地下1階に立ち入ろうとは思っていなかった。
要するに全て爺任せにしているからだ。
ちなみに、この迷宮を作り上げたのは少女の父親であり、それも1人で最初から最後まで作り上げたので工法以前に材料や機巧など何から何まで全てが不明なのである。
「あれ?でも、爺が仕事を教える為とは言え、地下に連れていくなんて珍しいわね。人工精霊の承認手続きかしら?」
既にご存知だと思うが、少女が行った風龍イルヴェントゲート討伐戦から龍種の群れの殲滅及び、輝龍アールジュナーガ・ウィステリアルの撃退に至る全ての戦闘は通常の依頼とは異なるものである。
故に討伐に成功した魔獣の素材は、サポーター利用などの必要経費を除くと、そのほぼ全てを少女が手中に収める事になる。
拠って、風龍の素材と新生龍種及び、亜龍種の素材の全てを、少女が手中にする事になった。
ただし、新生龍種と亜龍種はその大半が海中に没した事から、頭数的にはそれほど多くない。
それに対して、風龍イルヴェントゲートは海中に沈む事なく少女が自力で持って来たので、その素材は破損している頭部とほぼ欠損した羽衣以外はまるまる1匹分で間違いない。
少女がワダツミの中で群れと対峙する前にマムに対して緊急要請かどうかを聞いていたのは、この報酬があったればこそだが、風龍に関しては半分くらいは密猟である。
だが、実害を被った海を渡った反対側の国からは抗議は来なかったのでお咎めは無い。
少女は今回獲得した風龍イルヴェントゲートの素材を使い、大剣の強化を真っ先にオーダーした。
それに拠って大剣ディオルギアは「大剣ディオルゲート」として改造され装いも新たに生まれ変わった。
更に強化する工程の中で少女は色々な注文を付けた。その中でも大きかったのがスロットを3つに拡張させた事だった。
スロットは装備品に精霊石や飾りを付ける為に必要なモノだ。そしてそれが3つと言う事は、精霊石も3つまで同時に宿せると言う事になる。
これは非常に冒険と言える。
精霊石は非常に強力な力を宿しているので、通常の武器ではスロットを解放できてもせいぜい1つが限界とされる。金属製の武器なら最低でも魔銀鋼以上の魔力親和性か、黒鋼以上の硬度がないとスロットを2個以上解放するのは危険だ。
魔獣由来の武器であればAランク魔獣の素材がスロット2個解放の目安になる。
だが、今回、3つ目のスロットを解放した事は、やはり異常なオーダーだったとしか言えなかった。
精霊石も属性を持っており、その属性には相性がある。五大属性は正五角形の頂点であり、隣り合う属性とは相性が悪い。
拠って、その2つは親和せず強大な斥力が生まれる。要するにここで生まれた斥力が武器破壊に繋がる要因となるのだ。
だから、親和性を考えれば2つが限界になる。
だがスロットが3つになると隣り合わない組み合わせは存在しない。必ず斥力を持つ何かしらの属性が隣り合うのだ。
それに加えて、上位精霊石は更に複雑だ。
上位精霊石は単一の属性とは限らず、複数の属性の統合によって成立しているモノもある。だからこそ、3つのスロットは武器の耐久力が非常に求められる事になるのだ。
しかし、同種の属性の精霊石や、飾りをスロットに入れるのであればほぼほぼ問題はない。
更に少女はデバイスも強化オーダーを出した。それは風龍の素材でデバイス本体の耐久性を上昇させた上で、精霊石を同時に2個まで扱えるようにするチューンナップオーダーだった。
これも上記の観点からすると異常としか言えない。しかも、デバイスはバックアップ機能がある為、チューンナップしても故障時にはデチューンされたモノが届く事になる。
そこら辺はASPも同じだが、レアな素材でチューンナップする手前、金銭だけで解決するASPとは比ぶべくもないだろう。
拠って、最初はドクもそれらの強化チューンには当然の事ながら反対した。ドクは少女の性格を理解していたし、そんなチューンナップをすれば無茶な使い方をする事が容易に想像出来たからだ。
戦闘中に武器破壊が起こればそれは最悪死ぬ事に直結する。ドクは自分が造った武器のせいで、少女を殺す事など容認出来るハズがなかった。
然しながら少女は諦めなかった。何故ならば、上位古龍種の討伐例は未だになく、その素材も未知のモノだったからだ。
要は中位古龍種の素材ではそれほどまでの強化チューンは無理でも、上位なら分からないと言う持論を展開したのだ。
拠って、ドクは折れた。だが、ドクも造るなら中途半端なモノでは納得しない事から本腰を入れて製作に取り組むのだった。
だがそれらのチューンナップだけでも、風龍1匹分の素材は余りに余った。そこで、風龍に因って斬られたハーフメイルの修理と強化もオーダーし、更にこちらにも追加スロットをオーダーした。
付け加えるとブーツの強化やらハーフメイルのインナー作成やら、お守りやら飾りの作成なんかもオーダーした。そんなこんなで少女は自分の装備一式フルセットのオーダーをした事になる。
それでも素材は余った。
フルセット以上に欲しいモノが考え付かなかった少女は、色々と無理なオーダーを受けてくれたドクに余った素材をプレゼントする事にした。
一方で新生龍種と亜龍種の素材は、少女の使う愛銃用の、9mm龍製徹甲弾の材料になった。
SMGであるウージーは連射性能はいいが、ARのブラックライフルと比べると、威力がだいぶ落ちる。
それは通常使用しているのがフルメタルジャケット弾だからと言うワケではない。元々の爆発力が火力の差として出ているだけだ。
徹甲弾と呼ばれる種類の弾丸でも、金属製のモノでは火力が落ちるのは実証済みだった。
一方でARのブラックライフルは大きい為に持ち運びが不便であり、その点SMGのウージーは持ち運びも便利で咄嗟に使う事が出来る。
要するに、そんなSMGのデメリットとも言える火力不足を補う為の、9mm龍製徹甲弾だったワケだ。
龍製徹甲弾の材料として使えるのは主に骨や牙、角や爪であり、それ以外の部分で風龍装備を超えるモノは造れなかった事から残りはやはりそのままドクにプレゼントする事になった。
ドクとしては貴重な素材が手に入り、大喜びだったというのは言うまでも無いだろう。
「ごはッ……力を使わずして、これだけの力を出すか……。先程とは大違い……よな?」
「し、しかし、これでもまだ足りぬ。これしきの力では「アレ」には敵う……まい。拠って、これをキサマに託すコトにする」
「これは……光龍のお守り?」
「あれは、余が末裔達にこの宝玉を模して下賜したモノだ。だが、これ……は違う」
「違う?」
「これは余が星から託されたモノ。そして、余の力も……中に封じてある。余は力を持つモノに……これを授ける義務がある。受け取るが……良い」
「ねぇ、これはどうやって使うモノなの?」
「この世界に……この星に……再び齎される虚無の禍殃から……必ず護るのだぞ。「惑星の御子」……よ」
「さらば……だ」
「あのー、もしもーし、輝龍さーん。これって、どうやっ……て、ああぁ、はぁ。あぁもうッ!なんで大事なコトを教えてくれずに行っちゃうのッ!?使い方の分からない力なんて、どうしたらいいのよーーーッ!!」
「ってか、輝龍は結構ダメージ負ってたのかしら?結構、血を垂れ流してたけど、大丈夫かしら?龍種達から一斉に報復とかされないわよね?」
「……あ、なんか想像したら怖くなってきた。がくがく」
輝龍は苦しそうな表情で言の葉を紡ぎ、少女に1つの小さな「玉」を渡した。それはかつて龍人族の村でダフドから見せられた、光龍のお守りによく似ていた。
だがこれは、光龍のお守りとは違うと輝龍は言っていた。そして使い方も教えないまま、苦しそうな輝龍は去っていったのだった。
少女はアクスターリ市の沖合で1人、遣る瀬無い表情で佇んでいた。
「あ、そういえば、この姿って、どうやったら戻るんだろ?流石にこんなカッコじゃ、クリスのコトを悪しざまに言えないわね。そのうち、元に戻るかしら?ちゃんと戻ってくれるのよね?」
少女は闇を纏った光が形造ったそのままの姿だった。その姿は魔犬種の王の時や炎龍ディオルギアの時ほどに禍々しくも神々しくもない。
然しながら少女が気にしているのはそんなコトではないし、過去の姿は見ていないのでそれは知る由もない。
要するに、身に着けていたハズ装備は見えなくなってるし、身に着けているのかも分からないコトを気にしていた。そればかりか、身体のラインが見えるそのままの姿に、光と闇が纏わりついていると言っても過言ではないこの状態は、素に戻ると凄く恥ずかしいというのが大問題だった。
それは裸の少女のボディラインがそのまま丸分かりのカッコとも言えた。自分のスタイルに自信がなくコンプレックスを抱えている少女にとっては、他人事では決してない。
それこそ自分の生命にも関わると言っても過言ではないのだ。
「やっぱり、戻るまでこのままここにいよう。こんなカッコで帰ったら、サラとレミの教育に悪いものね……。それに、クリスもまだ目覚めてないし、クリスに心配かけちゃったから少しは面倒を見てあげないと」
「それにしても綺麗な石だなぁ。いや、綺麗な石にしか見えないなぁ。一応、ドクに見せて、それからどうしよう?」
独り言を呟きながら佇むその姿は、アクスターリ沖合で光と闇が同居した幻想的な姿を醸し出していた。
そして、オレンジ色の光がその情景をより一層幻想的に映えさせていた。
「ただいまぁ。あれ?誰も出て来ない。いつもなら誰かしらが迎えに来てくれるのに、何かあったのかしら?」
「こんな日もたまには……うん、今まで1回も無かったわね。本当にどうしたのかしら?勝手に出ていったアタシに愛想尽かして出ていったとかじゃないわよね?もしそうだったらどうしよう?がくがく」
「おかえりなさいませ、お嬢様。お出迎えが遅くなり申し訳御座いません」 / 「申し訳御座いません、マスター」 / 「あるじさま、おかえり」
「あぁ、良かったぁ。みんなアタシに愛想尽かしたワケじゃなかったのね。ほっ」
「はて?お嬢様、どうかなさったのですか?」 / 「マスター、大丈夫ですか?」 / 「あはは。変な、あるじさま」
「それよりも、何かしてたの?3人が3人ともいなかったから驚いたのよ」
「この2人に地下室整理の仕事を教えておりまして、お出迎えが遅くなりました。驚かせてしまって申し訳御座いません」
「地下室?ふぅん、そうなんだ」
少女は元気そうな3人の顔に表情が一気に和んでいった。更には先行きが見えない状況で、不安定だった心が和らいだ気がした。
さて、少女の屋敷の地下は、ある種の迷路のような廊下が入り組んだ作りになっている。それは迷宮と呼ばれるモノに似ている。
また、その入り組んだ迷路の出入り口は屋敷の中だけでは収まらず、敷地内のあちらこちらに配置されていた。なんでこんな作りになっているのか少女は知らないが、なんでこんな作りにしたのかを知る人は既に存在していない。
ちなみに、屋敷の地下1階にある数10にも及ぶ部屋には、少女と少女の父親が獲得した素材から作り上げられた装備品や、弾薬並びに、購入した武器なんかが所狭しと詰め込まれている。それらの中にはレア度が高く非常に希少なモノもある。
拠ってそれら全てを合わせると、1つの国の国家予算を大幅に超える程の金額になるのだ。
まぁ、詳細まで計算したワケではないので、少女としては幾らになるかは分からないのが本当のところなのだが。
しかしその為に、地下1階エリアにはトラップがあったり、廊下に幾重にも及ぶ頑丈な扉があったり、各部屋にもそれぞれそれと同じ扉があったりする。
それらのセキュリティ面は全て人工精霊が行っており、承認された者以外には開けられない仕組みとなっている。
その昔、この屋敷の地下に眠る装備品の話しがどこかから漏れ、盗難目的で侵入した者達もいた。だが侵入した者達は誰一人として装備品に触れる事も出来ず、更には諦めて逃げるコトも出来ずに捕まると言う程に、難攻不落で広大な地下迷宮なのである。
まぁ、少女が普段から使ってる地下室は、地下2階に広がるトレーニングルームがメインであり、装備品の保管室のある地下1階に立ち入る事は滅多に無い。その為、地下に広がる迷宮がどのようになっているのかは、少女でもまったく見当が付いていない。
もし仮に立ち入れば即時迷子になる可能性すらある。
とは言っても正確には少女はマスターとして認識されている。
拠って行きたい場所へと人工精霊が案内してくれるコトから、決してそうはならない。
まあ、これはモノの喩えだが、少女は好んで地下1階に立ち入ろうとは思っていなかった。
要するに全て爺任せにしているからだ。
ちなみに、この迷宮を作り上げたのは少女の父親であり、それも1人で最初から最後まで作り上げたので工法以前に材料や機巧など何から何まで全てが不明なのである。
「あれ?でも、爺が仕事を教える為とは言え、地下に連れていくなんて珍しいわね。人工精霊の承認手続きかしら?」
既にご存知だと思うが、少女が行った風龍イルヴェントゲート討伐戦から龍種の群れの殲滅及び、輝龍アールジュナーガ・ウィステリアルの撃退に至る全ての戦闘は通常の依頼とは異なるものである。
故に討伐に成功した魔獣の素材は、サポーター利用などの必要経費を除くと、そのほぼ全てを少女が手中に収める事になる。
拠って、風龍の素材と新生龍種及び、亜龍種の素材の全てを、少女が手中にする事になった。
ただし、新生龍種と亜龍種はその大半が海中に没した事から、頭数的にはそれほど多くない。
それに対して、風龍イルヴェントゲートは海中に沈む事なく少女が自力で持って来たので、その素材は破損している頭部とほぼ欠損した羽衣以外はまるまる1匹分で間違いない。
少女がワダツミの中で群れと対峙する前にマムに対して緊急要請かどうかを聞いていたのは、この報酬があったればこそだが、風龍に関しては半分くらいは密猟である。
だが、実害を被った海を渡った反対側の国からは抗議は来なかったのでお咎めは無い。
少女は今回獲得した風龍イルヴェントゲートの素材を使い、大剣の強化を真っ先にオーダーした。
それに拠って大剣ディオルギアは「大剣ディオルゲート」として改造され装いも新たに生まれ変わった。
更に強化する工程の中で少女は色々な注文を付けた。その中でも大きかったのがスロットを3つに拡張させた事だった。
スロットは装備品に精霊石や飾りを付ける為に必要なモノだ。そしてそれが3つと言う事は、精霊石も3つまで同時に宿せると言う事になる。
これは非常に冒険と言える。
精霊石は非常に強力な力を宿しているので、通常の武器ではスロットを解放できてもせいぜい1つが限界とされる。金属製の武器なら最低でも魔銀鋼以上の魔力親和性か、黒鋼以上の硬度がないとスロットを2個以上解放するのは危険だ。
魔獣由来の武器であればAランク魔獣の素材がスロット2個解放の目安になる。
だが、今回、3つ目のスロットを解放した事は、やはり異常なオーダーだったとしか言えなかった。
精霊石も属性を持っており、その属性には相性がある。五大属性は正五角形の頂点であり、隣り合う属性とは相性が悪い。
拠って、その2つは親和せず強大な斥力が生まれる。要するにここで生まれた斥力が武器破壊に繋がる要因となるのだ。
だから、親和性を考えれば2つが限界になる。
だがスロットが3つになると隣り合わない組み合わせは存在しない。必ず斥力を持つ何かしらの属性が隣り合うのだ。
それに加えて、上位精霊石は更に複雑だ。
上位精霊石は単一の属性とは限らず、複数の属性の統合によって成立しているモノもある。だからこそ、3つのスロットは武器の耐久力が非常に求められる事になるのだ。
しかし、同種の属性の精霊石や、飾りをスロットに入れるのであればほぼほぼ問題はない。
更に少女はデバイスも強化オーダーを出した。それは風龍の素材でデバイス本体の耐久性を上昇させた上で、精霊石を同時に2個まで扱えるようにするチューンナップオーダーだった。
これも上記の観点からすると異常としか言えない。しかも、デバイスはバックアップ機能がある為、チューンナップしても故障時にはデチューンされたモノが届く事になる。
そこら辺はASPも同じだが、レアな素材でチューンナップする手前、金銭だけで解決するASPとは比ぶべくもないだろう。
拠って、最初はドクもそれらの強化チューンには当然の事ながら反対した。ドクは少女の性格を理解していたし、そんなチューンナップをすれば無茶な使い方をする事が容易に想像出来たからだ。
戦闘中に武器破壊が起こればそれは最悪死ぬ事に直結する。ドクは自分が造った武器のせいで、少女を殺す事など容認出来るハズがなかった。
然しながら少女は諦めなかった。何故ならば、上位古龍種の討伐例は未だになく、その素材も未知のモノだったからだ。
要は中位古龍種の素材ではそれほどまでの強化チューンは無理でも、上位なら分からないと言う持論を展開したのだ。
拠って、ドクは折れた。だが、ドクも造るなら中途半端なモノでは納得しない事から本腰を入れて製作に取り組むのだった。
だがそれらのチューンナップだけでも、風龍1匹分の素材は余りに余った。そこで、風龍に因って斬られたハーフメイルの修理と強化もオーダーし、更にこちらにも追加スロットをオーダーした。
付け加えるとブーツの強化やらハーフメイルのインナー作成やら、お守りやら飾りの作成なんかもオーダーした。そんなこんなで少女は自分の装備一式フルセットのオーダーをした事になる。
それでも素材は余った。
フルセット以上に欲しいモノが考え付かなかった少女は、色々と無理なオーダーを受けてくれたドクに余った素材をプレゼントする事にした。
一方で新生龍種と亜龍種の素材は、少女の使う愛銃用の、9mm龍製徹甲弾の材料になった。
SMGであるウージーは連射性能はいいが、ARのブラックライフルと比べると、威力がだいぶ落ちる。
それは通常使用しているのがフルメタルジャケット弾だからと言うワケではない。元々の爆発力が火力の差として出ているだけだ。
徹甲弾と呼ばれる種類の弾丸でも、金属製のモノでは火力が落ちるのは実証済みだった。
一方でARのブラックライフルは大きい為に持ち運びが不便であり、その点SMGのウージーは持ち運びも便利で咄嗟に使う事が出来る。
要するに、そんなSMGのデメリットとも言える火力不足を補う為の、9mm龍製徹甲弾だったワケだ。
龍製徹甲弾の材料として使えるのは主に骨や牙、角や爪であり、それ以外の部分で風龍装備を超えるモノは造れなかった事から残りはやはりそのままドクにプレゼントする事になった。
ドクとしては貴重な素材が手に入り、大喜びだったというのは言うまでも無いだろう。
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