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第五節 The Towards Shining Take
第154話 Origin Fearer Ⅱ
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そして、日々は流れていく。
少女はその日、昼から公安に向かう予定でセブンティーンを走らせていた。
だがその途中でデバイスが着信を鳴らした。
それは病院からの着信でキリクが目覚めた事の知らせだった。少女は急遽公安に向かうのを勝手にキャンセルし、セブンティーンを急転回させるとキリクのいる病院へと向かう事にした。
ちなみに急いではいたが、途中でお見舞いを買うのは忘れなかった。
「無事に目覚めたようで何よりね、キリク!はい、お見舞い」
「あ、あぁ」
「リュウカ、行ってくる」
「ありがと、リュウカ。花瓶ありそう?」
「うん、大丈夫」
「可愛らしい女の子に付きっきりで看病されて、良いご身分ね」
「なんだ、憎まれ口を言いにワザワザ来たのか?」
「そんなワケないでしょッ!病院から「キリクが目覚めた」って連絡が来たからセブンティーン飛ばして急いで来たのに、失礼しちゃうわッ。ぷんぷんッ」
「そ、そうか。その、なんだ、ありがとうな。助けられた」
「うん……」
病室のベッドの上にはキリクが寝かされている。
その両腕と左脚にはギプスが取り付けられており、ベッド脇に置いてある点滴からはその雫がゆっくりと滴っていた。
「あの……さ」
少女は意を決して何かを話そうとしたが思うように口が回らず、考えていた言葉は空回りをした挙句、どこかへと旅立ってしまった。
こうして2人だけの静謐な空間に、無為な時間が流れていった。
「俺さ、起きてから医者に言われたよ。「生きてるのが不思議なくらいだ」って。それと腕も脚もちゃんとくっつか分からないって。だけど、ちゃんとくっついたとしても2度と刀は振るえないってさ……」
「——それだけは断言された」
「キリク……」
「笑っちまうだろ?俺はハンターだぜ?ハンターなんだぜ?だけど、ハンターなのに刀が振るえなくなるってコトは、そんなんじゃ、俺、俺、俺……。もう……」
「キリク……」
キリクは辛い胸の内を吐露していく。確かにハンターは生命を掛けて依頼に臨まなければならないコトもある。
時には生命を捨てなければならないコトもある。
でも、所詮は人間。
生命は、たった1つという限りがある。
だがキリクは助かった喜びを噛み締めるどころか、自分の生命より、ハンターとしての生命を奪われたコトの方が辛い様子だった。
少女はキリクの口から紡がれていくその内容に、名前しか言えずにただただ黙って聞いている事しか出来無かった。
そしてそんな中で、キリクの師匠である少女の父親が死んだ時、一切の涙も見せなかったキリクの瞳から涙が溢れ落ちていったのを見てしまったのだった。
「えッ?!キリク……アタシは……」
少女はキリクのその姿にいたたまれなくなっていた。
少女の胸はとても苦しくて今にも張り裂けそうだった。でも、掛ける言葉が見付からない。
なんて言っていいか分からない。
励ましの言葉なんて何を言えばいいのか見当も付かない。
「ッ!?」
ちゅぱっ
「んっ」
どんな言葉を紡いでも慰めるコトは疎か、救う事も出来ないと悟った少女は、気付けば寝かされているキリクの唇に自分の唇を重ねていた。
——どれだけの時間、唇を重ね合わせていた事だろう。
それは数秒かもしれない。
もしかしたら数分だったかもしれない。
はたまた数時間に及んでいたかもしれない。
それは少女にとって……その時間は無限にも等しい程に感じられていた。
そして「このままずっと時が止まってくれたらいいのに」と、考えてしまう程に幸福な時間だった。
そんな幸福な時間を感じている自分。一方でその状況に対して急激に冷静になっていく自分。
2つの矛盾する自分は、少女の中で葛藤として急成長を遂げていく。
要するに一言で言ってしまえば、急激に「恥ずかしくなった」のだ。
それの勝負は「冷静になった自分」に軍配が上がった。拠って敗者の願いも思いも、そこで全て失われた。
少女はキリクから慌てて距離を取った。少女は無言のまま顔を耳まで真っ赤にして、両手でパタパタと顔を扇ぎ、俯いていた。
当のキリクはキリクで、目を見開き驚いた顔をしたまま顔を若干赤く色付かせていた。しかし両腕が動かない事もあって、それを隠す事は叶わず少女から頭ごと目を背けた。
「そ、そうだッ///」
「ちゃ、ちゃんとリュウカにお礼を言っておきなさいよ?あの子がいなかったらアンタは今頃、死んでたんだからねッ!」
「あ、あぁ///」
「うわぁ///」
「何でアタシ、あんな事しちゃったんだろう?もう、キリクと顔を合わせられないよぅ」
「何かあった?」
「うひゃあ///」 / 「うわぁッ」
「2人とも変な声どうした?顔赤い。熱あるのか?」
「う、ううん、大丈夫、大丈夫だからリュウカ、気にしないでッ!」
「でも、キリク大切な……」
「ああぁ、リュウカ、花を活けてきてくれてありがとう。うん、ありがとう。ホントにありがとう」
「どした?大丈夫、本当?熱ある?キリクの横座って休む?」
「ええぁ/// @#$%&*☆\※〒ッ!?」
「あ、あぁ、そうねぇ。今日はあっちっちねぇ。うん、暑いアツい。だから、アタシはこのまま立っていようかなぁ、あははははは」
「変なの」
2人はドギマギして言葉が出せなくなっていた時に、唐突に話し掛けられ心臓が口から飛び出しそうな勢いで驚いていた。まぁ、正確には少女の奇声にキリクはつられて驚いたワケだが。
リュウカには何があったのかを悟られまいと必死に誤魔化そうとする少女だったが、その挙動不審っぷりはクリス以上だった。
何も知らないリュウカは普通に心配していたが、最終的に少女は乾いた笑いで誤魔化す事しか思い付かなかった。
要するに少女の経験の無さが災いした、喜劇のようだった。
「もきゅもきゅもきゅもきゅ、これ美味しい。もきゅもきゅもきゅ」
リュウカは少女がお見舞いに持って来たお菓子を食べている。それはリュウカにとって初めて食べる味であり、とても美味だった。
だから、手が止まらない止められない。
気付けば箱に入ったお菓子の半分は、既にリュウカの腹の中に収まっていた。
そしてこれは、少女が病室から出て行った後の余談だ。
少女はその日、昼から公安に向かう予定でセブンティーンを走らせていた。
だがその途中でデバイスが着信を鳴らした。
それは病院からの着信でキリクが目覚めた事の知らせだった。少女は急遽公安に向かうのを勝手にキャンセルし、セブンティーンを急転回させるとキリクのいる病院へと向かう事にした。
ちなみに急いではいたが、途中でお見舞いを買うのは忘れなかった。
「無事に目覚めたようで何よりね、キリク!はい、お見舞い」
「あ、あぁ」
「リュウカ、行ってくる」
「ありがと、リュウカ。花瓶ありそう?」
「うん、大丈夫」
「可愛らしい女の子に付きっきりで看病されて、良いご身分ね」
「なんだ、憎まれ口を言いにワザワザ来たのか?」
「そんなワケないでしょッ!病院から「キリクが目覚めた」って連絡が来たからセブンティーン飛ばして急いで来たのに、失礼しちゃうわッ。ぷんぷんッ」
「そ、そうか。その、なんだ、ありがとうな。助けられた」
「うん……」
病室のベッドの上にはキリクが寝かされている。
その両腕と左脚にはギプスが取り付けられており、ベッド脇に置いてある点滴からはその雫がゆっくりと滴っていた。
「あの……さ」
少女は意を決して何かを話そうとしたが思うように口が回らず、考えていた言葉は空回りをした挙句、どこかへと旅立ってしまった。
こうして2人だけの静謐な空間に、無為な時間が流れていった。
「俺さ、起きてから医者に言われたよ。「生きてるのが不思議なくらいだ」って。それと腕も脚もちゃんとくっつか分からないって。だけど、ちゃんとくっついたとしても2度と刀は振るえないってさ……」
「——それだけは断言された」
「キリク……」
「笑っちまうだろ?俺はハンターだぜ?ハンターなんだぜ?だけど、ハンターなのに刀が振るえなくなるってコトは、そんなんじゃ、俺、俺、俺……。もう……」
「キリク……」
キリクは辛い胸の内を吐露していく。確かにハンターは生命を掛けて依頼に臨まなければならないコトもある。
時には生命を捨てなければならないコトもある。
でも、所詮は人間。
生命は、たった1つという限りがある。
だがキリクは助かった喜びを噛み締めるどころか、自分の生命より、ハンターとしての生命を奪われたコトの方が辛い様子だった。
少女はキリクの口から紡がれていくその内容に、名前しか言えずにただただ黙って聞いている事しか出来無かった。
そしてそんな中で、キリクの師匠である少女の父親が死んだ時、一切の涙も見せなかったキリクの瞳から涙が溢れ落ちていったのを見てしまったのだった。
「えッ?!キリク……アタシは……」
少女はキリクのその姿にいたたまれなくなっていた。
少女の胸はとても苦しくて今にも張り裂けそうだった。でも、掛ける言葉が見付からない。
なんて言っていいか分からない。
励ましの言葉なんて何を言えばいいのか見当も付かない。
「ッ!?」
ちゅぱっ
「んっ」
どんな言葉を紡いでも慰めるコトは疎か、救う事も出来ないと悟った少女は、気付けば寝かされているキリクの唇に自分の唇を重ねていた。
——どれだけの時間、唇を重ね合わせていた事だろう。
それは数秒かもしれない。
もしかしたら数分だったかもしれない。
はたまた数時間に及んでいたかもしれない。
それは少女にとって……その時間は無限にも等しい程に感じられていた。
そして「このままずっと時が止まってくれたらいいのに」と、考えてしまう程に幸福な時間だった。
そんな幸福な時間を感じている自分。一方でその状況に対して急激に冷静になっていく自分。
2つの矛盾する自分は、少女の中で葛藤として急成長を遂げていく。
要するに一言で言ってしまえば、急激に「恥ずかしくなった」のだ。
それの勝負は「冷静になった自分」に軍配が上がった。拠って敗者の願いも思いも、そこで全て失われた。
少女はキリクから慌てて距離を取った。少女は無言のまま顔を耳まで真っ赤にして、両手でパタパタと顔を扇ぎ、俯いていた。
当のキリクはキリクで、目を見開き驚いた顔をしたまま顔を若干赤く色付かせていた。しかし両腕が動かない事もあって、それを隠す事は叶わず少女から頭ごと目を背けた。
「そ、そうだッ///」
「ちゃ、ちゃんとリュウカにお礼を言っておきなさいよ?あの子がいなかったらアンタは今頃、死んでたんだからねッ!」
「あ、あぁ///」
「うわぁ///」
「何でアタシ、あんな事しちゃったんだろう?もう、キリクと顔を合わせられないよぅ」
「何かあった?」
「うひゃあ///」 / 「うわぁッ」
「2人とも変な声どうした?顔赤い。熱あるのか?」
「う、ううん、大丈夫、大丈夫だからリュウカ、気にしないでッ!」
「でも、キリク大切な……」
「ああぁ、リュウカ、花を活けてきてくれてありがとう。うん、ありがとう。ホントにありがとう」
「どした?大丈夫、本当?熱ある?キリクの横座って休む?」
「ええぁ/// @#$%&*☆\※〒ッ!?」
「あ、あぁ、そうねぇ。今日はあっちっちねぇ。うん、暑いアツい。だから、アタシはこのまま立っていようかなぁ、あははははは」
「変なの」
2人はドギマギして言葉が出せなくなっていた時に、唐突に話し掛けられ心臓が口から飛び出しそうな勢いで驚いていた。まぁ、正確には少女の奇声にキリクはつられて驚いたワケだが。
リュウカには何があったのかを悟られまいと必死に誤魔化そうとする少女だったが、その挙動不審っぷりはクリス以上だった。
何も知らないリュウカは普通に心配していたが、最終的に少女は乾いた笑いで誤魔化す事しか思い付かなかった。
要するに少女の経験の無さが災いした、喜劇のようだった。
「もきゅもきゅもきゅもきゅ、これ美味しい。もきゅもきゅもきゅ」
リュウカは少女がお見舞いに持って来たお菓子を食べている。それはリュウカにとって初めて食べる味であり、とても美味だった。
だから、手が止まらない止められない。
気付けば箱に入ったお菓子の半分は、既にリュウカの腹の中に収まっていた。
そしてこれは、少女が病室から出て行った後の余談だ。
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