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飛空の章
第十五話 孤独な戦場
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済州島南部、補給部の仮設拠点に、ひときわ鋭い怒声が響いた。
「なぜだ! なぜ指示を仰がずに勝手に攻めかけた!」
秀信の声が、若干裏返っていた。
相手の足軽頭は目を伏せたまま、砂にまみれた草鞋の先を睨み続けている。
「……敵が動いていると聞き、待っては手遅れと……」
「貴様の勝手な判断で四人が死んだ! 補給の要を担うこの拠点で、何をしているのか分かっているのか!」
済州島南端、海岸線に程近い山間の谷地に設けられたこの補給拠点は、前線に物資を送り届けるための要衝の一つ。ここを落とされれば、九番隊は補給を絶たれ飢える。つまり、それは「兵を殺す」事と同義だった。
だが、この足軽頭が指揮する組が、指揮を仰がぬまま敵と交戦してしまった。
結果的に四人が死亡。敵にも損害を与えたものの、二人を討ち取ったのみ。
「殿、これ以上は……兵の士気にも関わります」
綱家が低く進言してきた。
秀信は拳を震わせ、ぎり、と唇を噛んだ。
「……処罰は後日、軍議にて決める。下がれ」
兵が頭を下げて退くと、残された空気はどこまでも重かった。
綱家ら供をする者たちが控える中、秀信は声を出すこともできず、ただ一歩後ろへと下がった。
これで何度目だ。
既に片手で数えるには余るほどの命令違反だった。
彼らは美濃の兵たちだ。ただ、各地のさまざまな村からかき集めた農兵である。俺は彼らを知らないし、兵たちも俺を知りはしないだろう。
今の足軽頭の態度も、将に対する礼を完全に失したものだった。
……ああ、自分は、無力だ。
九番隊の中で最も力のある武将であり、実質的な大将を務めていた細川忠興と長谷川秀一の不在が大きかった。
彼らは別動隊として、晋州城を陥とす為に出撃している。
本来なら自分も参加するものと思っていたのだが、結局留守居を任され補給線の維持が仕事になっていた。
防衛任務であるものの、しかし、重石を失った九番隊は最早烏合の衆と化していた。
指揮系統は混乱し、秀勝が築いた美濃衆の体制も崩れかけている。誰も彼もが秀信を見上げながら、内心では「まだ子供だ」と見下しているのが分かる。
――信長の孫、織田秀信。それが何だというのだ。
幼き大将。口だけで叱責するしかない、薄っぺらな器。
指先が冷え、喉が焼けるように乾いていた。
きつく歯を食いしばり、震える拳を抑える。
「綱家、厳しく罰するべきと思うか?」
「……難しいところですな。本来であるならば首を刎ねてもよいでしょう。しかし、現状それをすれば」
「更なる反感を買う、か」
「まさしく」
こういう時、綱家の濁さないもの言いは助かる。血が上った頭の整理ができた。
防衛を任された彼らもどこか膿んでいる。他の隊では各地で進撃を続け、将も兵も武功を上げているのだ。焦りもするだろう。
徴兵され嫌々戦っている者もいるが、軍功を上げて取り立てられたり、一旗掲げる機会を伺う血気盛んな者も多い。そんな者たちからすると、首級のいくつかでも上げたくて仕方ないのだろう。
だが、この済州島の補給拠点に留め置かれた大軍には敵が居ない。完全に在地の者が消えたわけではないが、一万近い軍に抗するような戦力は残っていなかった。
それでも散発的に船で渡ってきて攻めかけてくる事はある。前線に兵糧を送る重要拠点となっているのだから、その補給路を断つのは相手も考える事。
だからこそ防衛を任された。
……そう、思い込むしかないんだ。
兵たちの気持ちも理解できるからこそ、自分も苦しかった。
今回も、まとまった敵を見つけて独断で組を率いて襲い掛かったのだ。結果四人を死なせ、二つの首をぶら下げて戻ってきた。ただ、それだけだ。
本来なら追跡して敵の目論見を暴くところまでするべきだったが、その判断もできなかったのだろう。
血に飢えた獣に近い。
自軍の兵ですらこの様であるのに加え、もう一つ頭の痛い問題を抱えていた。それは――
◆
「……また牧村隊が、独断で夜警の交代時間をずらしました。岡本隊との交代が二刻遅れ、揉め事に……」
報告に来た兵の顔は曇っており、もう懲り懲りだとでも言いたげだ。
「なぜ連携を取れない……こちらから再三伝えているはずだろう」
「伝えております。しかし、牧村殿は“戦は経験がものを言う”と仰せで……」
秀信は眉間を指で押さえる。
「……分かった。下がっていい」
兵が去ると同時に、綱家が無言のまま湯茶を差し出した。だがそれに口をつける気にもなれなかった。
「……一万の兵がいながら、我らはただの烏合の衆だな」
口に出してみて、初めてその言葉が現実のものだと突き刺さる。
「どうして俺なんだ……」
呟きは、誰に向けたものでもない。
「牧村利貞殿は、かつて秀勝様に随行し朝鮮本土にも渡られた歴戦の将。若輩である殿に従うのは、内心、穏やかならぬことでしょうな」
綱家が静かに言う。
「岡本重政殿も同様。あれは参謀気質ですな。戦略のない軍など、盲目の獣と同じだと思っている。御命令が要点を得ておらぬ限り、動きませぬぞ」
「古田重勝殿は?」
「残っている三隊の中で最も兵数が少ない。海岸防備に長く回されている事で不満が募っております。――つまりは、どの隊も殿に不満を抱いておる」
はっきりと突きつけられ、秀信は言葉を詰まらせた。
「俺は……彼らにとって総大将ではないのだな」
「否。殿は“九番隊総大将”でございます。ただ、そのように見ようとはしていないというのが事実でしょう」
「どこまで俺を見下しているのだ!」
言った途端、喉が震えた。
遠く、野営地の外で、槍の訓練に励む兵たちの掛け声が木霊する。
――その誰一人として、自分に目を向けていないように感じられた。
「……殿、この綱家がどうにか致します。しばし、お耐えくだされ」
綱家が頭を下げ、俺の傍を離れていく。
これではまるで、駄々を捏ねる子供と宥める親のようなものだ。
しかし、何も言えない。
俺には何もできないのだから。
◆
『ぬるいな』
地の底から響くような、重苦しい声。
誰もいないはずの背後から、あの冷たい気配が立ち上る。
『まるで赤子よ。兵の顔色ばかり窺うその無様――将とは、恐れさせてこそ、支えられるものだ』
「……黙って見ていろと、言ったろう」
振り向かぬまま、吐き捨てる。
『哀れなものよ。兵も将も、貴様の背に何を見出す? 信長の血が流れていなければ、とうに見限られていよう』
「だから俺は、こうして足掻いてるんだ……!」
『その足掻きが無様なのだ。結局は己では何もしない。周囲に当たり散らすだけのうつけ者よ』
「なら、どうしろと……!」
唇を嚙み、己の膝に拳を打ち付ける。
具足ががしゃりと音を立てた。
『集めて話をしろ。我ならばそうする。言う事を聞かぬ者は問答無用で叩き伏せる。立場を分からせるのだ。相手が年寄りだろうが百万石の大名だろうが関係などない。ここにおるのは将と配下、それだけだ』
「俺に、それができると?」
『知らぬ。我ならそうすると言ったまでだ。お前にできるかなどどうでもよい』
「勝手なことばかり……」
血が昇り過ぎて目眩がしそうだ。しかし、だが亡霊の言葉に乗るのも一興かという投遣りな気持ちが大きくなってきていた。
秀信は立ち上がり、ふらつく足を叱咤しながら、外套を羽織る。
「おい、誰か綱家を呼び戻してきてくれ。軍議を開く。岡本殿、牧村殿、吉田殿ら将をすべて呼び寄せろ」
「……今から、でございますか」
「どうせ敵など来ない。寝てるなら叩き起こせ。いいな」
五人の兵が互いの顔を見遣り、しかし頷いて駆け去った。
「さて、話すはいいがどうするか、だな」
呟きながら胡床に腰を下ろす。
頭にある問題。
まず、美濃衆の統率が執れず命令違反や勝手な行動の横行。
これは俺の力不足に加えて、そもそも頭数が多過ぎるというのもある。
有力な大名である細川殿でも三千五百、長谷川殿で五千だ。これは自国の動員できる兵数の差もあるが、自身で指揮できる範囲として選定しているだろう。
八千人も連れてきてしまったのは、亡き秀勝の張り切り過ぎだ。
次に牧村利貞。この男は俺を侮り、まず命令など聞く気がない。
それに加えて自身より兵数が劣る相手にもそういった風潮が見られる。
現在美濃衆八千に次ぐのは牧村隊七百人であり、己が今の九番隊総大将とでも言いたげだ。
岡本重政には補給物資の差配と勘定方を任せている。年配であり経験も豊富だと聞いていたからだ。しかし、それ以外の事は最低限しかせず、分配についても怪しいもので、あちらこちらから不満が出ていた。
最後に吉田重勝については、動きの良さや年齢も若いことから、他の隊が避けた役を任せてしまっていた。これによる不満や、自身が不公平な扱いをされていると感じているらしい。
これらの問題を解決するなら、一つ一つを潰していくしかないのか。
しかし、実権が伴わない俺が口約束をしたところで信用を得られるのか、納得してくれるのか。
…否、無理だろう。
結局大して変わりはしない。
もっと根本的で、もっと確実な方法…
そもそもこの大軍を俺が指揮しているから問題になっている…
年配の将に見合った指揮権がない…
地元の八千人すら俺には御しきれない…
せめて、もう少し立場に公平さが生まれれば…
――と、そこで一つ、思いついた。
根本的な解決に繋がる案。閃けばそこから芋づるを引くように次々と思いつきが掘り出される。
「殿、お呼びですか」
と、呼び戻した綱家が息を切らせて歩み寄ってきた。
「ああ、綱家。至急相談があるのだが、これは可能か断じて欲しい」
神妙な顔つきで頷く綱家に、慎重に言葉を選び、考えを紡ぎ出す
……さぁ、ここからが、己の戦だ。
「なぜだ! なぜ指示を仰がずに勝手に攻めかけた!」
秀信の声が、若干裏返っていた。
相手の足軽頭は目を伏せたまま、砂にまみれた草鞋の先を睨み続けている。
「……敵が動いていると聞き、待っては手遅れと……」
「貴様の勝手な判断で四人が死んだ! 補給の要を担うこの拠点で、何をしているのか分かっているのか!」
済州島南端、海岸線に程近い山間の谷地に設けられたこの補給拠点は、前線に物資を送り届けるための要衝の一つ。ここを落とされれば、九番隊は補給を絶たれ飢える。つまり、それは「兵を殺す」事と同義だった。
だが、この足軽頭が指揮する組が、指揮を仰がぬまま敵と交戦してしまった。
結果的に四人が死亡。敵にも損害を与えたものの、二人を討ち取ったのみ。
「殿、これ以上は……兵の士気にも関わります」
綱家が低く進言してきた。
秀信は拳を震わせ、ぎり、と唇を噛んだ。
「……処罰は後日、軍議にて決める。下がれ」
兵が頭を下げて退くと、残された空気はどこまでも重かった。
綱家ら供をする者たちが控える中、秀信は声を出すこともできず、ただ一歩後ろへと下がった。
これで何度目だ。
既に片手で数えるには余るほどの命令違反だった。
彼らは美濃の兵たちだ。ただ、各地のさまざまな村からかき集めた農兵である。俺は彼らを知らないし、兵たちも俺を知りはしないだろう。
今の足軽頭の態度も、将に対する礼を完全に失したものだった。
……ああ、自分は、無力だ。
九番隊の中で最も力のある武将であり、実質的な大将を務めていた細川忠興と長谷川秀一の不在が大きかった。
彼らは別動隊として、晋州城を陥とす為に出撃している。
本来なら自分も参加するものと思っていたのだが、結局留守居を任され補給線の維持が仕事になっていた。
防衛任務であるものの、しかし、重石を失った九番隊は最早烏合の衆と化していた。
指揮系統は混乱し、秀勝が築いた美濃衆の体制も崩れかけている。誰も彼もが秀信を見上げながら、内心では「まだ子供だ」と見下しているのが分かる。
――信長の孫、織田秀信。それが何だというのだ。
幼き大将。口だけで叱責するしかない、薄っぺらな器。
指先が冷え、喉が焼けるように乾いていた。
きつく歯を食いしばり、震える拳を抑える。
「綱家、厳しく罰するべきと思うか?」
「……難しいところですな。本来であるならば首を刎ねてもよいでしょう。しかし、現状それをすれば」
「更なる反感を買う、か」
「まさしく」
こういう時、綱家の濁さないもの言いは助かる。血が上った頭の整理ができた。
防衛を任された彼らもどこか膿んでいる。他の隊では各地で進撃を続け、将も兵も武功を上げているのだ。焦りもするだろう。
徴兵され嫌々戦っている者もいるが、軍功を上げて取り立てられたり、一旗掲げる機会を伺う血気盛んな者も多い。そんな者たちからすると、首級のいくつかでも上げたくて仕方ないのだろう。
だが、この済州島の補給拠点に留め置かれた大軍には敵が居ない。完全に在地の者が消えたわけではないが、一万近い軍に抗するような戦力は残っていなかった。
それでも散発的に船で渡ってきて攻めかけてくる事はある。前線に兵糧を送る重要拠点となっているのだから、その補給路を断つのは相手も考える事。
だからこそ防衛を任された。
……そう、思い込むしかないんだ。
兵たちの気持ちも理解できるからこそ、自分も苦しかった。
今回も、まとまった敵を見つけて独断で組を率いて襲い掛かったのだ。結果四人を死なせ、二つの首をぶら下げて戻ってきた。ただ、それだけだ。
本来なら追跡して敵の目論見を暴くところまでするべきだったが、その判断もできなかったのだろう。
血に飢えた獣に近い。
自軍の兵ですらこの様であるのに加え、もう一つ頭の痛い問題を抱えていた。それは――
◆
「……また牧村隊が、独断で夜警の交代時間をずらしました。岡本隊との交代が二刻遅れ、揉め事に……」
報告に来た兵の顔は曇っており、もう懲り懲りだとでも言いたげだ。
「なぜ連携を取れない……こちらから再三伝えているはずだろう」
「伝えております。しかし、牧村殿は“戦は経験がものを言う”と仰せで……」
秀信は眉間を指で押さえる。
「……分かった。下がっていい」
兵が去ると同時に、綱家が無言のまま湯茶を差し出した。だがそれに口をつける気にもなれなかった。
「……一万の兵がいながら、我らはただの烏合の衆だな」
口に出してみて、初めてその言葉が現実のものだと突き刺さる。
「どうして俺なんだ……」
呟きは、誰に向けたものでもない。
「牧村利貞殿は、かつて秀勝様に随行し朝鮮本土にも渡られた歴戦の将。若輩である殿に従うのは、内心、穏やかならぬことでしょうな」
綱家が静かに言う。
「岡本重政殿も同様。あれは参謀気質ですな。戦略のない軍など、盲目の獣と同じだと思っている。御命令が要点を得ておらぬ限り、動きませぬぞ」
「古田重勝殿は?」
「残っている三隊の中で最も兵数が少ない。海岸防備に長く回されている事で不満が募っております。――つまりは、どの隊も殿に不満を抱いておる」
はっきりと突きつけられ、秀信は言葉を詰まらせた。
「俺は……彼らにとって総大将ではないのだな」
「否。殿は“九番隊総大将”でございます。ただ、そのように見ようとはしていないというのが事実でしょう」
「どこまで俺を見下しているのだ!」
言った途端、喉が震えた。
遠く、野営地の外で、槍の訓練に励む兵たちの掛け声が木霊する。
――その誰一人として、自分に目を向けていないように感じられた。
「……殿、この綱家がどうにか致します。しばし、お耐えくだされ」
綱家が頭を下げ、俺の傍を離れていく。
これではまるで、駄々を捏ねる子供と宥める親のようなものだ。
しかし、何も言えない。
俺には何もできないのだから。
◆
『ぬるいな』
地の底から響くような、重苦しい声。
誰もいないはずの背後から、あの冷たい気配が立ち上る。
『まるで赤子よ。兵の顔色ばかり窺うその無様――将とは、恐れさせてこそ、支えられるものだ』
「……黙って見ていろと、言ったろう」
振り向かぬまま、吐き捨てる。
『哀れなものよ。兵も将も、貴様の背に何を見出す? 信長の血が流れていなければ、とうに見限られていよう』
「だから俺は、こうして足掻いてるんだ……!」
『その足掻きが無様なのだ。結局は己では何もしない。周囲に当たり散らすだけのうつけ者よ』
「なら、どうしろと……!」
唇を嚙み、己の膝に拳を打ち付ける。
具足ががしゃりと音を立てた。
『集めて話をしろ。我ならばそうする。言う事を聞かぬ者は問答無用で叩き伏せる。立場を分からせるのだ。相手が年寄りだろうが百万石の大名だろうが関係などない。ここにおるのは将と配下、それだけだ』
「俺に、それができると?」
『知らぬ。我ならそうすると言ったまでだ。お前にできるかなどどうでもよい』
「勝手なことばかり……」
血が昇り過ぎて目眩がしそうだ。しかし、だが亡霊の言葉に乗るのも一興かという投遣りな気持ちが大きくなってきていた。
秀信は立ち上がり、ふらつく足を叱咤しながら、外套を羽織る。
「おい、誰か綱家を呼び戻してきてくれ。軍議を開く。岡本殿、牧村殿、吉田殿ら将をすべて呼び寄せろ」
「……今から、でございますか」
「どうせ敵など来ない。寝てるなら叩き起こせ。いいな」
五人の兵が互いの顔を見遣り、しかし頷いて駆け去った。
「さて、話すはいいがどうするか、だな」
呟きながら胡床に腰を下ろす。
頭にある問題。
まず、美濃衆の統率が執れず命令違反や勝手な行動の横行。
これは俺の力不足に加えて、そもそも頭数が多過ぎるというのもある。
有力な大名である細川殿でも三千五百、長谷川殿で五千だ。これは自国の動員できる兵数の差もあるが、自身で指揮できる範囲として選定しているだろう。
八千人も連れてきてしまったのは、亡き秀勝の張り切り過ぎだ。
次に牧村利貞。この男は俺を侮り、まず命令など聞く気がない。
それに加えて自身より兵数が劣る相手にもそういった風潮が見られる。
現在美濃衆八千に次ぐのは牧村隊七百人であり、己が今の九番隊総大将とでも言いたげだ。
岡本重政には補給物資の差配と勘定方を任せている。年配であり経験も豊富だと聞いていたからだ。しかし、それ以外の事は最低限しかせず、分配についても怪しいもので、あちらこちらから不満が出ていた。
最後に吉田重勝については、動きの良さや年齢も若いことから、他の隊が避けた役を任せてしまっていた。これによる不満や、自身が不公平な扱いをされていると感じているらしい。
これらの問題を解決するなら、一つ一つを潰していくしかないのか。
しかし、実権が伴わない俺が口約束をしたところで信用を得られるのか、納得してくれるのか。
…否、無理だろう。
結局大して変わりはしない。
もっと根本的で、もっと確実な方法…
そもそもこの大軍を俺が指揮しているから問題になっている…
年配の将に見合った指揮権がない…
地元の八千人すら俺には御しきれない…
せめて、もう少し立場に公平さが生まれれば…
――と、そこで一つ、思いついた。
根本的な解決に繋がる案。閃けばそこから芋づるを引くように次々と思いつきが掘り出される。
「殿、お呼びですか」
と、呼び戻した綱家が息を切らせて歩み寄ってきた。
「ああ、綱家。至急相談があるのだが、これは可能か断じて欲しい」
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