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第七話 能力鑑定 後編

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 二人と別れたアクセサリー屋の近く。石を積んで作られた階段の端に三人は居た。
 見ればニアとソフィーが疲れた表情を浮かべている。

「よう、お疲れさん」
「イクヤさん……本当に疲れましたよぅ」
 よろよろと立ち上がろうとするニアだが、腰が入らないようでまたすぐに座ってしまう。

「体中が気持ち悪かったです……何だか内側に手が入ってきてるみたいで」
 肩を両手で抱きかかえるソフィー。顔を青くしながら擦っている。
「あたし受けなくて良かったかも……」
 そんな二人の様子を見て呟くエミリーは引き気味の表情だ。

「二回か三回やれば慣れるよ、多分。それよりも結果はどうだった?」
「これです。私には意味の分からない単語が幾つかあったので、イクヤさん見てもらえますか?」
 ニアが懐から一枚の皮紙を取り出すと、同じようにソフィーも差し出してくる。

 別に俺も詳しくはないんだけどな、とぼやきつつ目を落とす。
 最初に書かれている内容はステータスと数値だ。

 鑑定士による能力鑑定と、ステ板の簡易鑑定では見られるステータスにも差がある。
 具体的には、ステ板ではHP、攻撃力、防御力、俊敏性、魔力の五項目しか見る事ができない。それもプラスマイナス十パーセント程度とまあまあアバウトな数値だ。
 だが能力鑑定ではこれらの他に、体の各部位の筋力や最大パフォーマンス時の数値、魔力においても細分化されたステータスを見てもらえる。魔法士はこちらでなければ詳しい値が見られない。

 ニアについては、出会ったばかりの頃に聞いた数値からすると既に三倍以上になっていた。取り分け攻撃力や筋力の値はもう少しで俺に届く。魔力関連についても、耐性は随分と高めだ。魔法攻撃に対してニアは強く出られるかもしれない。

 次のページには才能やスキルの項目が並んでいた。効果についての記載は無い。鑑定士によっては書いてくれる人も居るのだが、項目が多くなってると面倒くさがって書かない奴の方が多い。

「随分と強くなったな。スキルはやっぱり”剣の遣い手スキル”を取ってたか。他にも基本的に戦士職が持っていた方が良い攻撃や回避系のスキルは取れてる印象だけど」
「もうちょっと防御関連が欲しい……ですかね?」
「その通り。今度は盾での防御や剣で受け流したりを増やしてもいいかもな」
「はいっ」
 それにしても本当に羨ましい話だ。俺が望んでも取れないスキルをあっという間に取得できるんだから。次に目を落とすと、才能の項目だ。そこで思わず目を見開いてしまう。

「”英雄の才能”……それに”勇者の血”! ニア、お前」
「一応、シェラタン村の開祖の家系なので。多分勇者の血筋の人がどこかで居たんだと思います」
 珍しい話ではない事は分かっている。だが、この二つはアレクセイも持っていたものだった。アレクセイもただの木こりの息子と言っていたが、勇者の血を受けた筋だったのだ。

「才能の効果ってどんなものなんですか?」
「ああ。英雄の才能は人を惹きつける力とか、土壇場で発揮する才能らしい。それに勇者の血は”覚醒スキル”の取得に必須条件って聞いてる」
「覚醒スキル……」
「アレクセイも持ってた。使うと体中に青い魔力を纏って全部のステータスの強化と、使う技の威力が大きく上がるって感じだった」
「それは単純に強そうですね……!」
「一日に一回しかできなかったし、使うと酷く消耗するから最後の切り札って感じだったけどな。ただ、ニアは強くなるよ。稀な才能だと思う」
「そうなんですね……! ふふっ、頑張ろう……!」

 一人ガッツポーズを取るニア。顔色は優れないが本当に嬉しそうだ。自分に優れた力や才能があると聞いたら、それは嬉しいだろう。

「ただ、剣に関する才能は無いみたいだし他の武器を試すのはアリかもな。それに”生育の才能”とか”土の才能”とかどう考えても農家向きだけど」
「ええっ!? 剣は……手放したくないです」
「あんた鍬とか鍬で戦った方がいいんじゃないの?」
「エミリーまでもう!」
 顔を赤くして怒るニアに、三人で笑う。

 この三人娘の中ではニアが一番真面目でしっかり者ではあるが、反して一番子供っぽいのもニアである。そのチグハグさをネタにしている場面は多々あった。

「で、ソフィーさんはっと……おいおい、もう俺より上じゃねーか」
 同じように数値から眺めていくと、防御関連が心許ないのはニアと同じだが、それ以外が飛び抜けて伸びていた。具体的には二万越えなのでCランクでも上の方の数値を示している。ちなみにニアはまだ一万を超えるステータスが無い。
 純粋なアタッカーとしてなら、間違いなく俺よりも上だ。まだ一か月そこらの女性に抜かれてしまったのは正直悔しい。

 次にスキルと才能の項目を見ると思わず見入ってしまった。

「あの……イクヤ様?」
 俺の様子を訝しく思ったのかソフィーが訊ねる。目の前の大柄な長髪の女に、思わず嫉妬めいた感情を抱いてしまった。

「スキルは槍に関しては既に”名手”まで取れてる。回避系もほぼ取れてるし、防御が薄いのはニアと同じだけど……ニア以上に攻撃系が充実してる」
「じゃあ、ステータスが攻撃に寄ってるのもスキルに関係してそうなんですね」
「かもな。あと、才能に関してだけど……こんだけ多い人は初めて見た。”指揮の才能”、”隠密の才能”、”戦士の才能”、”騎乗の才能”、”予見の才能”、”直感の才能”、それに”武の才能”」
「武、ですか?」
 一つ頷き、強く残っている記憶を引き出す。
「これは正直、勇者の血や英雄の才能よりもずっと稀少だ。結構薄くなっても勇者の血が流れてたら才能として出たりするし、英雄の才能もカリスマ性に言い換えられるものだから。ただ、武の才能に関して言うとなかなかお目にかかれないものらしい。鑑定士も驚いてたろ」
「あ……はい、何歩か後退りして考えている仕草があったと思います」
 今頃報告書を書いてギルドに持って行っているかもしれない。そうなるとギルドからは注目される冒険者になる事だろう。

「武の才能は、どんな武器にも適性を示して使いこなせる才能だ。まだ日が浅いのに名手スキルまで取れてるのはそのせいだと思う。この国の”八大戦士”は分かるよな」
「えっと、名前までは存じませんがとても強い冒険者や騎士や剣闘士だとは……」
「全員が武の才能を持っている。武の才能はあらゆる武器を使いこなすし、並みの人間には到達できない域にまで辿りつける……俺はそう聞いてる」
「え……っと」

 思わずこのまま三人を放って消えたい気分になっていた。
 ニアに対しても嫉妬していたが、ソフィーに関して言えば別格だ。俺が欲しいと思っていた才能は全て持っているし、何よりも強くなる……最強となる為の道筋を持っているからだ。
 何の苦労も理解していないような駆け出しのこの女が。
 このまま挫折を味わう事なく、苦労する事もなく駆け上がれるのだろう。それができるだけの才能と素質を持っている。

 俺が血反吐を吐いて何度死にかけても手にできない才能とスキル。それをぽっと出のこの女が努力なしに手にしている。
 何よりも、その才能を引き出したのが自分自身だという事が一番腹立たしい。
 
こんなスキル要らなかった……寧ろ並みの人と同じように、努力でスキルを得られるような体の方がずっと良かった。
 どこまで行っても俺は、他人の引き立て役でしか無いという事か。俺がどんなに望んでも、自分が強くなる事は出来ないという事か。

「あんた、ソフィーを殺そうっての?」
 エミリーの声にハッと我に返る。
「本当にクズよねあんた。ルーキーに嫉妬とかダッサ」
 吐き捨てながら俺とソフィーの間に入って立ち、腰に手を当て俺を睨め上げる。
「言っとくけどソフィーが持ってるものはソフィーのものよ。あんたなんか関係ない。ソフィーだけのもの。あんたにはあんただけのものがあるでしょ。男として情けないと思いなさいよ」
「エミリーちゃん……」

 幼女と見間違える程に小さな少女が俺を強く見据える。
 大きな金色の瞳を見て、自分がどんな顔をしていたのかと顧みる気持ちになった。そしてすっかり癖になってしまった、左頬の欠損をなぞる。

「悪い……ごめん、ソフィーさん。怖がらせた、よな?」
「いえ、その……はい」
 コクン、と頷くソフィーに改めて頭を下げる。

「それでいいのよ、それで。さっさと総評しなさい地味男」
 去り際に俺の脛を一蹴りしつつ、踏ん反り返りながら階段を上り腰掛けるエミリー。この中で一番高い目線になる位置を選んでいる。
 ただの村娘のクセになんでこんな偉そうなんだよ……と苦笑いしつつ、内心で礼を言っておく。

「総評すると、ソフィーさんはアタッカーとしてまだまだ強くなる。多分急激に。そんで、この国の中でも指折りの実力者になれる可能性を持っている……と思う」
「思うって何なのよ」
「俺も詳しくは分からないんだよ。稀少なのは確かだけど、どれ位の確率なのかとか、どれ位強くなるかとかまでは。でも、現段階で一番伸びてるし、戦闘系の才能が目白押し過ぎてここまで戦士職に合った人間は見た事が無いレベルだよ」
「そ。らしいわよ根暗女」
「あ、ありがとう……ございます」

 普段は口を出すなだの根暗だのと馬鹿にしているエミリーだが、何だかんだ大切に思っているらしい。こんな風に庇う事もあるんだな、と微笑ましい気持ちになる。

「さて、いつまでもここに居ても仕方ないですし、少し狩りにでも行きませんか?」
「ニア様、多分ですけど知ったスキルとか試したいだけ……ですよね?」
「いやいや何の事かなっ? ほら、金貨使っちゃったし一稼ぎしないとね?」
 パン、と手を叩き立ち上がるニアにツッコむソフィー。
「あんた分かりやす過ぎ……まあいいわ。稼ぎたいのは同感」
 エミリーも立ち上がり尻に着いた埃を掃う。

「イクヤさんも行きましょ? ほら」
 と手を差し出すニア。

「これは教導に含まれないんじゃないか?」
「それは当然」
「おい」
「まあまあ、たまにはいいじゃないですか。可愛い教え子達とイチャイチャしましょ?」
「誰が教え子だよ……まあ、お前らにはメリットデカいだろうからな」
「あたしは別にこいつに教わってないけどね」
「エミリー! またそんな事!」

 そうしてギャーギャーと喚き出す三人に、思わず小さく笑ってしまう。
 無報酬になってしまうがまあいいだろう。

「そんじゃどこに行くんだ? リーダーさん」
 エミリーに両頬を引っ張られている格好のニアが束の間動きを止めて目を泳がせる。
「ひゃ、ひゃあ、にひのほとうひいひはひょう」
「何言ってるか分からないっての」
「西の古塔、ですよね? ニア様」
「よく分かるわねあんた……」

 まあまあハードな場所を選ぶもんだな。と思いつつ今の時間で日帰りするならどうするかとプランを考える。
 
 少し楽しく思っている自分に驚き、その気持ちはすぐに奥に押し返した。
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