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第七話 能力鑑定 前編

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「査定の結果……ニアパーティーはDランクとします。おめでとうございます!」
「ありがとうございますうううぅぅ」

 ギルド会館のカウンター、そこでニア達とアンナさんのやり取りを少し離れた待合ソファの位置から見ていた。
 アンナの手を握りぶんぶんと振って握手するニア。そんな姿を後ろの二人も微笑みながら見ている。

 あれから十のクエストをこなし、ステ板でのステータスの確認による査定を行った。
 随分とステータスも成長したろうし、実績も充分、Dランクにまで昇格できて当然だ。

「イクヤさーーーんっ!」
 俺の方を向いて大きく手を振るニアに、小さく右手を挙げて応える。

「おーおー、モテるねえ」
 近くで依頼板を眺めていたギースだ。
 くすんだ緑色の長髪をかき上げる。
「まあ、お前よりはモテるかもな」
 これ以上絡まれるのも面倒なのでカウンターへと移動する。
「ああ? ふざけんな”頬無し”! お前も俺らと組めこの野郎!」
「喧嘩売ってんのか俺を抱き込みたいのかどっちかにしろよ」
「じゃあ抱かせろ!」
「なんでそうなる」
 苦笑いしながらそのまま歩いていく。

「随分失礼な方ですね……っ!」
「気にしなくていい、いつもの事だよ。ああ見えて気が良い奴なんだ」
 あれぐらいの冗談は当たり前だ。
 真面目なニアにはあまり好まれないかもしれないが。

 ちなみに”頬無し”は最近の俺のあだ名だった。見た目そのままで付けられたものだが、不思議と嫌ではなかった。
 これまではスキルの事ばかりであだ名が付いていたので、今の方がずっとマシだ。

「それよりもおめでとう、一気に二つ昇格だな」
「はいっ! イクヤさんのお陰です!」
「何言ってんのニア。あたし達の実力が認められただけよ。地味男なんて居なくても変わらないっての」
「別に感謝して欲しくてやってるわけじゃないからいいっての」
「真似すんな!」
 怒鳴りながら俺の脛を蹴るエミリー。ちょっとダメージが入ったようで痛い。
 治癒魔法士とは言え、随分とステータスは高くなった。しかしノーコン治癒魔法は相変わらず。

「エミリーちゃん、どうどう」
「根暗女は引っ込んでなさい!」
「うう……」
 ソフィーも相変わらず、何と言うか腰が弱い。しかし戦闘に対する怯えは無くなり立派なアタッカーとなっていた。

「にひひ……見てくださいイクヤさんこれ! Dって書いてあります、Dって!」
 アンナに渡されたペンダントのプレートを俺に向けて満悦そうなニア。今までFランクだったので木製で作られた簡易プレートだったのだ。何せFランクなど前代未聞なのだから。
 正式なプレートを手に入れた事が余程嬉しかったしく、顔が緩みっぱなしだ。


「ところで皆さん、能力鑑定をそろそろやってみてはいかがですか?」
「能力鑑定、ですか?」
 騒ぐニア達の向こう側、微笑ましく見つめていたアンナさんが提案してくる。

「”鑑定”スキルを持つ鑑定士さんにステータスを見てもらう事です。ステ板を使うのと違って有料ですしそこそこ掛かりますけど、ステ板じゃ見れない部分や今の皆さんの持っているスキルや才能も分かります」
「ふうん……まあ、今のあたしら結構お金あるし? やってみてもいいじゃない?」
「一人金貨一枚です」
「金貨!?」
 金額を聞いて驚くエミリ―。稼いでいると言っても正直そこそこ程度な訳で、金貨という単位に驚いているようだ。

「結構痛い出費ですけど……イクヤさんはどう思います?」
「好きにすればいいさ。まあ、色々スキルが付いているだろうし確認はした方がいいかもな。才能もどれ位目覚めたか見ておけば、伸ばしたい方向性も固まるだろうし」
「ほうぅぅ……?」
「分かってないだろ」
「そ、そんな事ないですよっ?」
 あから様に目を逸らすニア。

「ニア様、やってもらいましょう。私は気になります」
「ちょっと根暗女! こういう時あんたいつも黙ってる所でしょ!」
「うう、でもエミリーちゃんは気にならないの?」
「そりゃ、まあ……でも金貨は高いでしょさすがに」
 今までの稼ぎを全部合わせても、精々一人頭金貨三枚程度だ。元々持っていた路銀は底をついたらしいので、現在の全財産は金貨二枚とちょっとの筈。

「さすがに金貨一枚出すのはなー……」
「今すぐとは言いませんけど、もう皆さん個人でもEクラスの上の辺りに来ているステータスですからね。そろそろと思いますよ」
 アンナさんの助言は尤もだった。伸び盛りの今の時期に、自分の持ち味を知って役割を決める事ができれば、この後が安定する。

 具体的には、前衛と後衛という基本配置。その中でも前衛ならメインのダメージソースとなるアタッカーになるか、パーティーの盾となるタンクとなるか。またはスカウト(偵察)やアタッカーの動きを補助するサポーターのポジションもある。
 後衛の中にも攻撃魔法をメインとするアタッカーであったり、治癒や防護・強化魔法で補助するサポーター。全体を指揮するコマンダーの役回りもある。
 これらを複数兼任しなければならないのが少数編成の弱点だが、自分の適役を見つけて集中して伸ばす事が肝要だ。

 何にも絞らず様々なポジションを経験する者も居るが、結局器用貧乏になってしまい自分のポジションを持てなくなってしまう。
 ……今の俺のように。

 現在の冒険者個人個人に求められるのは「一つ突出した能力」と「明確な役割を持つ」事だ。様々な人員を組み合わせる事で万能パーティーにしたり、更に攻撃力のみを伸ばしたりといった編成の組み合わせを試す事ができる。
 あいつらが俺を捨てた理由も、能力が足りない以前に自分だけのポジションを持てなかった事があると思う。俺が居なくてもパーティーが回るのであれば、口減らしするのは当然の選択だ。

「イクヤさん、どうしました?」
「ん? ああちょっと考え事」
 ボーっとしてたのかニアが気に掛けてくる。
「俺もアンナさんに賛成だけど、個人の話だからそれぞれで決めればいいと思う」
「ふーむ……」
 眉を顰めて悩み込むニア。そう言えば欲しい剣があるとか言っていたな。

 結局、ニアとソフィーの二人だけで能力鑑定を受ける事になった。
 エミリーはやめておくようだ。

「イクヤさんは受けた事あるんですか?」
「何回かは。でももう一年以上前か」
「ふーん……」
「正直、ステ板で確認して伸びなくなっちまったから受ける意味が無くなったんだよ。才能やスキルが取れた時に急に伸びたりするもんだからさ」
「なるほど」
 鑑定士がいる店に行く道すがら、ニアとソフィーと話している。どうせ暇だからとエミリーも後ろを着いてきていた。

「イクヤ様は他のスキルや才能はお持ちなんですか?」
「あるにはある。ただ、俺のスキルの弊害なのか、才能開花以外のスキルが取れないらしい」
「えっ!? そんな事あるんですか?」
「召喚人特有かもな。普通は適性があってちゃんと鍛えればスキルは取れるようだから。だからお前らは大丈夫だろ」
「そうなんですね、良かったあああ……」

 俺達”召喚人(しょうかんびと)”はこの世界ではイレギュラーな存在だろう。なんで召喚されるのかはよく分かっていないらしい。俺も、向こうの世界で何が起きてこっちの世界に落ちたのかは覚えていない。
 ついでに元の世界の記憶が朧気なものだから、帰りたいという欲求がまるで生まれなかった。

「話を戻しますけど、それならイクヤ様には別の才能があるんですよね?」
「あるよ。”整理整頓の才能”と”独り行動の才能”、あと”銃撃の才能”だとさ」
「それは何とも……」
 聞いた事を後悔しているのか、少し引き攣った表情のソフィー。

「ねえ、ジュウゲキって何よ地味男」
「あ? 銃ってのは……まあ俺達の世界の最強武器って所かな。例えるなら、魔法よりも速く飛んで、弓矢よりも遠くに届いて、槍よりも貫通力がある攻撃を指先一つの動きでできる。そんな武器だ」
「何それ意味分かんない」
 珍しく会話に参加してきたエミリーだが、どこか不貞腐れた口調なのは変わらずだ。
「こっちの世界では開発できないみたいだからな、誰かが作っていてもおかしくないと思ってたけど。まあ、銃が登場したら近接武器は全部置物になるし、冒険者や兵士の強さが数段上がるって言えるぐらいには強い武器だよ」
「へー……」
「っと、着いたな。そこのアクセサリー屋の二階だ」
 小道の右手側を指差すと古ぼけた看板を提げた、所々金の縁取りの装飾が施されている悪趣味な建物がある。

「この店かあ」
「なんだか不気味な感じですね」
「ちょっと変人だけど仕事はきっちりやってくれるから。まあ頑張れ」
「はい……って、頑張れ?」

 それ以上は何も言わず二人を送り出し、エミリーと二人小道に残される。

「じゃあ時間まで自由行動か?」
「この辺何もないでしょ。ちょっとさ、さっきのジュウの話とかあんたの世界の話とか聞かせなさいよ」
 本当に珍しい、どういう風の吹き回しだろうか。しかし、エミリーと話せる中々訪れないタイミングだ。
「おう。何か飲みながら話すか」
「ええ」
 少し離れた所だが酒場があったはずだ。
 この世界は細部は違うものの大筋は中世ヨーロッパに近い時代と文化なので、何か飲むなら酒場になる。飲食店と宿屋と飲み屋を兼ねているのが基本だ。



 銃についてはわりと知識がある方だった。
 戦争ゲームやFPSゲームを好んでやっていた時期があったし、コミュ障なりにサバゲ―にも参加したりした。薄れゆく元の世界の記憶だが、楽しかった事や辛かった事などはよく覚えている。

 そんな事もあって、銃については語れるレベルで話せたし、ともすれば語り過ぎて引かれた。所謂オタクの早口トーク炸裂だ。
 俺を嫌っている上に短気な女に対し、興が乗って専門用語やうんちくを並べていたので、終いには脛を蹴り上げられてしまった。

「はあ、マジでキモい」
「悪いとは思うけど蹴る事はねーだろ」
「うっさい。……まあ、あんたにしては面白い話聞けたけどね」
 ふむ。と内心頷く。俺の元の世界の話に興味があるという事か。

「召喚人って結構来てるんでしょ? 皆その銃ってのを知ってるなら、話が広まっててもおかしくないんじゃない?」
「時代がバラバラだから全員知ってるって訳じゃないけどな。でも作ろうとした奴は結構居たらしい」
「ふーん? じゃあ何で出来ないの?」
「想像だけど、銃や弾丸の製法の知識を持ってる奴が居ないからじゃないかな。俺もそうだけど、構造を知っていても材質や加工方法は知らないし。爆薬は作れても銃の弾丸や炸薬は作れてないみたいだし。それに、何か世界の仕組み的なものに妨害されてるって話もある」

 この世界に落ちてくる召喚人。年代はバラバラで、令和や平成以外にも昭和や明治、中には江戸時代や鎌倉時代の人物も居たらしい。更には俺よりも未来の時代から来た人間も。
 そんなバラバラな時代からやってくる召喚人の唯一の共通点は、全員が「日本人」である事。他の国籍の人間が来た例は今の所無いようだ。

 様々なSスキルを持って降りてくる召喚人。中には武器を自在に作り出したり加工できるスキルを持っている者も居るらしいが、そんな彼らでさえ銃を作れていない。
 どうにも作ろうとすると必ず失敗するらしいのだ。それも手指が吹き飛ぶという損害付きで。
 他にも電化製品を作ろうとしたり、蒸気機関を作ろうとしても失敗する。要は数段飛ばしの技術革新を許されない、という話だ。
 爆弾や鉄の塊を飛ばす大砲は作れても何故か「炸裂する砲弾」は作れない。でも火炎瓶のような構造であれば作れる、という微妙なラインを保っている。

 どれも伝え聞いた話なので半信半疑であるものの、禁忌であると口を揃えて注意されるので下手な事はしたくないと考えている。指や手が無くなったら困るし。


「よく分かんないけど、その銃ってのがあればあたしでも戦えるのにな」
 最後にエミリーはそう呟いて果実水を飲み干す。
 個人的には水と変わらないのだが、この世界の人からするとかなり甘く感じるらしい。薄味が基本であるので味覚の差があるようだ。
 多分、この世界の人間にポテトチップスやコーラを与えたら気絶するかもしれない。ああ、ジャンクフードが恋しいぜ。

「俺も銃があればと思うよ。少なくとも自分の才能開花で引き出せた才能の一つを、有効活用できた」
「あんたさあ……まあいいや。そろそろ行くわよ。ニア達待たせてたら悪いし」

 何を言いかけたのか聞こうとしたが、既に席を立ち足早に出ていくエミリー。
「ったく」
 店主に支払いを済ませて店を出ると、小さな背中は豆粒ほどにまで小さくなっていた。
 少しは打ち解けたかと思ったが俺の勘違いか。
 溜息を一つ吐き、ゆっくりとその背を追う。
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