カナリアを食べた猫

端本 やこ

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第3章 猟ある猫は爪を隠す

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 パサリと、逸登君が部屋着を脱ぎ捨てた。
 引き締まった裸体にときめいて、下腹部もきゅんとする。

「綺麗」

 男の人にかけて喜ばれる言葉じゃないかもしれないけれど、整った体は美しくて憧れる。
 飲み会で見た腹筋のほか、腕回りや胸も均一に逞しい。
 やっと触れる。
 直に。
 お臍を掬うように中指の爪先を当てた。いつかグラスでなぞった腹部の溝をゆっくり辿る。触れるか触れないかの距離で、皮膚の感度を試す。
 行ったり来たりする度に、道筋が収縮して呼応した。

「ふふ。敏感」

 堅いボックス型の溝から更に上を目指し、分厚い胸板にたどり着く。ピクリと動いた胸筋の乳首の先を爪先で軽く引っ掻いた。

「っ、、、」

 見た目はいかにも力強そうな骨太の指が、爪で引っ掻く私の頼りない指先に繊細に絡みついた。
 私を見下ろす目が熱っぽい。
 先を期待しているのは私だけじゃないって分かっているけれど、あえて「平気?」ととぼけてみせた。
 
「けっこう限界」

 髪に指を通し、唇を寄せ、そっと覆い被さられた。啄むようなキスを落とし、借りたトレーニングウェアに手を忍ばして、体をなぞる。
 そのいちいちで、呆けたように繰り返される「タイセツ」という言葉。
 過去にも「大切にしたい」だとか「大切にするよ」なんて安い発言をした人はいた。けれど価値のない言葉たちは当たり前のように「嘘」になっていった。

 逸登君が呟く「大切」は願望でも約束でもない。
 丁寧に扱ってくれることは、言葉がなくても伝わってくる。
 唇、吐息、指、掌、絡められた脚。
 私に触れる彼の全てが切ないぐらいに刻みつける。

「私、大事にされちゃってるなぁ」
「そりゃぁ、もう。なんたって俺の詩乃様だもん」

 視線を合わせ恥ずかしげもなく発せられた言葉にくすくすと笑い合う。
 なんて穏やかで、
 なんて幸せなんだろう。
 逸登君が唱える呪文は、私に安心と自信を植え付ける。
 価値のある言葉を受け取るに恥じない、価値ある私でいたい。
 
 アナタガタイセツ
 
 私から伝えるにはどうしたらいいのだろう?
 考えても分からないから、真似をする。
 逸登君がしてくれるように、丁寧に彼に触れる。
 伝われと祈るほど緊張する。
 微かに震える指先にそっと柔らかいキスが落とされた。

「……上手く伝えられなくてもどかしい」
「大丈夫。伝わってるよ」

 「おいで」と、私を起こして座り直した。誘われるがまま、彼の首に腕を回して膝に跨った。
 半裸状態だったジャージを脱がされて心許ない。
 しがみつくようにしてべったり身体を寄せた。

「寒い?」
「そうじゃないけど」

 逸登君のように出来上がった体ならともかく、どう考えても抱き心地のよろしくない身体は見せられたものじゃない。

「詩乃さん髪も肌もめちゃくちゃ綺麗。触り心地いい。えっちだわー。全部俺の好みだわー」

 冗談めかした軽口が一瞬で私のコンプレックスを追い払ってくれた。何も言ってないのにどうして分かってしまうのだろう。

「全部見せて?」

 指を通した私の髪に口づける。さらさらと流れ落ちるのを見届けてそっと体を離し、私の出張った鎖骨に鼻を擦り付けて、胸に吸い付いた。胸の先をざらついた舌で転がされるたび、お腹の奥がソワソワと蠢く。
 ショーツの中に侵入を許した指がゆるやかに私の割れ目をなぞった。彼の指の動きで、ぐっしょり濡れたそこが粘り気を帯びているのが分かる。節くれだった太い指を簡単に飲み込んで、もっとかき乱して欲しいとまとわりつく。
 無意識の反応だと思っていたけれど、確実に感情が直結している。

「詩乃さん、腰浮かせられる?」
「ぅん……あ……ッ」

 左手でジャージの下穿きとショーツを脱がしながら、右手は器用に第一関節を曲げた中指で私のザラつきを撫で続けている。
 尿意を我慢するように腿に力が入る。彼の膝に跨っているから、閉じたくても閉じられない。
 ムズムズする感覚に翻弄されているうちに、足に力が入らなくなってくる。

「それ、だめ。私、もう」
「うん?」
「んあっ!」

 ふわりと体が宙に浮いた気がした。
 高いところから落ちる感覚とは全く別物の浮遊感が全身の力をもぎ取っていった。
 自分の体を支えることができず、逸登君の腿の上にどさりと落ちた。

「我慢しないで。何回でもイっていいから。ってか、その方が嬉しいし」
「ぇ、ぁ……逸登君?」

 臀部の溝に沿うように、彼の熱い杭がそそり立っている。
 私から抜かれた指が腰を支えて、ゆらゆら揺さぶる。
 私ばかり気持ちいいんじゃだめだから、右腕で彼の首にしがみつき、左手は背後に回して猛々しい逸登君をお尻に挟むようにして擦りつける。

「一生大切に抱くから、」

 いい? と胸元から見上げる逸登君の熱にあてられて、ヤケド覚悟で自ら誘った。
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