カナリアを食べた猫

端本 やこ

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おまけ2(続いたらしい)

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──こうして綺麗は作られる。
 美容関連のCMがぴったりの何かが繰り広げられている。詩乃さんは風呂上りにスキンケアをして、美脚にも何かを塗りこんで、髪を乾かす。風呂上りにやることのない俺からしたら、めっっっちゃ時間を掛けている。
 観察に余念なし。詩乃さんのやることならばずっと見ていられる。
 詩乃さんが動くたびにふわっといい匂いがする。その香りを浴びたくて、ドライヤーを操る詩乃さんの風下に移動した。俺の行動を察したらしく、右に左にドライヤーを持ち替える。その度に、俺も詩乃さんの周りをうろつく。
 ドライヤーの音で聞こえないけど、詩乃さんが喉を鳴らす気配がした。

「そういえば逸登君は乾かさない?」
「もう乾いた」

 それぐらいの時間は余裕で経っている。急がすつもりはなかったけれど、詩乃さんはスイッチを切ってコードを巻き付けた。ブラシを通すとサラサラと黒髪が落ちて、またふわっと香る。

「おしまい?」
「うん。お待たせ」
「やった!」

 詩乃さんを飛び越えて、後方のベッドに飛び乗って、布団の中に滑りこんだ。
 この間、体感コンマ数秒。

「身のこなしよ」

 詩乃さんが真面目に呆れる。そんなんお構いなしで、布団に隙間をつくって詩乃さんを呼び込む。

「ここおーいで」
「戸締まりしてくる」

 詩乃さんは「よっこいしょ」とわざとらしい怠慢な動きで立ち上がろうとする。咄嗟に上半身を伸ばして、詩乃さんの手首を掴んだ。

「戸締まり確認済み。ガスの元栓と電気とコンセント周辺の埃チェックもした」

 飲み物なら机に置いてあるし、手が届く位置にゴムも準備済み……だけど、これは黙っとこ。代わりに「防災大事」と、掴んだ手首を軽く引っ張る。

「それは、、、色々ありがとう」

 観念した詩乃さんはもういちど「よいしょ」と、ちゃんと部屋の明かりを落としてから、ベッドに上がってくれた。
 俺の横に座って、綺麗にしたばかりの髪を片側に集めながら、

「逸登君なんか変わった? 初めて会った頃って、もっとこう、あっさりしてたと思うんだけど」

 と見極めようとするような目つきでいるのが、薄暗がりの中ぼんやりみえる。

「好きな子の前でカッコつけてただけですぅ。でも詩乃さんが『自然でいろ』みたいなこと言ったから」
「あれこれ気を回さなくてもいいってことだよ」

 おおーっと。そうきたか。
 俺の考える自然体は、想いを隠さないでいることだから仕方ない。どうしたって溢れでちゃうんだな、これが。

「俺がしたくてやってんのー」

 詩乃さんの腰に両腕を巻いて抱きついた。
 やっと気兼ねなくイチャつける。
 俺の頭頂の短い髪を弄んで、鋤くように撫でてくれる。気持ちいい。もう一回をねだって回した腕をいっそう締める。

「逸登君はかっこいいよ」

 そう言って、詩乃さんは俺に覆い被さってきた。
 ヤバい。冗談だとしてもくっそときめく。
 詩乃さんのストレートの髪が流れ落ちて、俺の首にチクチクっと刺さる。
 黒髪のカーテンの中でそっとキスをして「カッコつけなくても」なんて言うもんだからあああ。

「はっず! ちょー好き。抱いて」

 とうていカッコつけてなんていられなくて、両手で顔を覆った。単純にも腰に血液が集中しはじめる。

「うまくできるといいんだけど」

 え。マジですか。
 意外にもねっとりしたキスをおっぱじめるもんだから、指の合間から詩乃さんを伺う。これまた意外にも真っ直ぐ視線をぶつけてきた。
 あー……。
 このひと、何でこんなに綺麗で真面目なんだろ。
 挑発的に目を開けてるなんて思わんじゃん。その目がとかく注意深く俺の反応を探ろうとしてるのまでわかっちゃう。

「もしかして……詩乃さん期待してくれてた?」
「してたというか、」

 一旦離れた唇を俺が追い求めたら、すぐに捕まえられた。
 それどころか脇腹を直に触る余罪つき。

「してる、かな」

 嘘だ。詩乃さんは真面目に抱こうとしてる。もしくは我慢比べを仕掛けている。攻防交代の期を狙うだろう俺との駆け引きをおもちゃにしようと。
 勝てる気しねえ。
 そうだよ、詩乃さんが詩乃さんである以上、俺が優位に立つことなんてありえない。それこそ体力勝負に持ち込まない限り。

「逸登君、バンザーイ」
「はい」

 素直に従って、上半身を脱がせてもらった。その流れで自主的に下も脱いだ。

「だから、その身のこなし」

 詩乃さんはうっすら笑った。
 消防官は着替えにだって素早さを求められる。って、そんなの知るわけないっか。
 知らないと言えば、俺も同じくらい詩乃さんのことを知らないでいる。悔しい。こんな風に思い知らされるとは思いもしなかった。
 受け身で奥手なはずの詩乃さんが肉食露に攻めてくれるなんて予想していなかった。
 俺の下唇を食む生ぬるい感触や、肩周りを滑って胸の先を引っ掻く爪先に、腹筋や脇腹を撫で回す指だって、堂々と圧をかけてくる。攻める場所を移動しても、必ず俺のどこか一部分に触れていて、安堵と期待の両方を誘い出す。
 詩乃さんの愛撫は隈無い。贅沢なマッサージそのものだった。
 詩乃さんの唇が、俺の顎、首筋、鎖骨と順に下っていく。胸に到達した頃には、俺は目を閉じて堪能していたし、鳩尾に吸い付いた感触とその直線上で起立したものに触れられて思わず体が跳ねた。

「あ、ごめん。嫌だった?」

 詩乃さんは反射的に俺から手を離してしまった。

「んなわけ!」

 ただビックリしただけ。俺の体をまさぐってもダイレクトに握ってくれるとは思ってなかった。

「見たい!」

 もう一回、と詩乃さんの手に手を重ねて誘導してみた。
 骨格ままな細い指が俺を包んだ。

「ぅっわ、すげー」

 興奮が思わず呟きになって口をついてでる。
 ある種、現実離れした光景だ。
 詩乃さんと体を重ねた数回のうち、ただの一度も彼女は主体的ではなかった。といっても、受け身がちってだけで、女の子らしい恥じらいだと好意的にみていた。

「大きいとは思ってたけど……ここまでなんて。これ全部入るわけない」

 挿れてる~。既にもう何回も。
 そりゃもう、ばっちりガッツリ根元までずっぽりよ?

「まだマックスじゃない」

 添えたまま動かない手から顔に視線を移す。
 もうちょい刺激が欲しい。物理的なやつ。そしたら完成品に育つんだけど。

「えっ」

 詩乃さんのほうが俺の下半身に釘付けになった。
 いや、恥ずいって。見るなとは言わんけど、臨戦状態を調える段階でガン見される心積もりはしてなかったわけで。

「どうしよ……無理かもしんない」
「毎回ちゃんと全部収まってますって」

 真剣に何を言うかと思えば。
 まったくもう、かわいいんだから。
 詩乃さんの真顔が初めて可笑しく思えた。
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