BAD DAY ~ついていないカエルの子~

端本 やこ

文字の大きさ
6 / 11

しおりを挟む
 トッシーの言うとおり、電話を終えてすぐ新たに警察官たちがやってきた。
 そのうちのひとりがブットンを見て「おまえか」と言ったような気がした。両脇を固められたブットンがにへらと汚く笑った。
 地域の警察署の職員は、校長とは顔見知りらしかった。校長に「こちらで引き受けます」と言い、初めからいる制服警察官に合図を送った。たぶん制服のひとたちも、同じ管轄の署員で交番勤務なのだと思う。
 リーダーっぽいひとが父さんに「尾野さんから指示を受けています」と敬礼した。父さんがスーツにつけているバッチは本庁の捜査一課員限定のものだ。一般人は知らなくとも、警察関係者ならぱっと見で父さんの所属がわかる。
 トッシーのおかげで説明を省けたみたいだ。
 おとなたちの横で、学校という場所でなければ事件直後に加害者と被害者は同席しないのだと、元からいた制服警官のひとりが椎名一家に話した。ブットンズを囲む警察官は、地域市民の安全を守る部署で青少年犯罪の専門だとも教えてくれた。
 そんなこんなで、あっという間にブットンズは連行されていった。
 職員室を出る直前、おれの前を横切ったブットンはなぜか誇らしげに胸を張っていて心底気持ち悪いと思った。後に続く龍が涙目で助けを求めたように感じたけれど、同時に莉子がおれの背中に隠れるようにしてぎゅっと縮こまるものだから何も言えなかった。莉子の様子を見た龍がこの世の終わりを見たような顔をした。
 莉子と龍どっちも……なんだかやるせない。

「父さん」

 他のひとと話していても関係ない。子どもだから、おれら当事者を置いて話が進められるのはしかたないにせよ、蚊帳の内にいさせてもらうべきだと思う。

「龍、逮捕されるん?」

 おれを見た父さんが、おれを通して後ろの莉子をも見ている。

「できる。ただ、未成年だからな」

 されるではなく、できる。まだされていないという意味だ。
 父さんは莉子に両親と一緒に話を聞くように促した。これまたびっくりなほど親切で意外だったけれど、もうキモいとは感じなかった。
 言葉足らずの父さんが、おれたちにもわかるように話してくれるつもりだ。

 少年法の中でも14歳未満か以上かで傷害事件の流れが違うこと、傷害そのものの被害者はおれであり莉子ではないこと、ただ莉子が精神的なショックを受けたと証明するならば……と噛み砕かれた説明はおれにもわかりやすい。おれより賢い莉子だから、当然理解している。
 今回のような場合、軽微な怪我だから加害者側が謝罪をし治療費や慰謝料の示談でまとまることがほとんだと結ばれた。

「ですが……あの様子では」

 と、莉子の父親と先生たちが苦笑いをする。下校前に校内で起きた怪我だから、おれには学校の保険が適用されるらしい。
 お金の問題か? と思うものの、落としどころになりえるのだろう。おれはそもそもお金をもらうつもりもなければ訴えるつもりもない。だからこそ、どうしたいと聞かれたら決着のつけように迷う。

「父さん。おれ、龍に捕まって欲しいわけじゃない」
「ああ」
「あいつどうなんの?」
「署でこってりしぼられる」

 龍はイキってるくせに小心者だ。至るところにその気質が見て取れた。警察に連行されて叱られたなら、それなりに反省するはずだ。

「それだけ?」
「今のところ」
「わかった。そんならいい。けど、あいつの父さんヤバそうっつーか面倒くさそう?な感じだから、それは気になる。りぃこんが絡まれなきゃいいんだけど」
「そうだな」

 さらりと言ってのけられた。おれが思いつくぐらいの危険はすでに想定されているに違いない。

「あのっ。わたしも。わたしもあっくんと同じで……」

 尻つぼみになった莉子にも、父さんは「そうだな」とおれに対してよりもっと優しく答えた。

「皆がそう望むならば、明日宇垣さんも普段通り登校できる」

 ほっとした。自然と莉子と顔を合わせて頷きあった。
 おれが被害届をださなければ、警察の説諭止まりで捜査はしないで終わる。
 懸念は、ブットンが執着しないとも限らぬことだ。それについては、うちも、椎名家も、学校も、なにかしら起きたらすぐに通報することになった。今日のことで警察のお世話になった事実は書類に残り、また学校と保護者から相談というかたちで記録される。万が一、今後嫌がらせがあったとき、記録の有無で動きが変わるらしい。書類仕事は交番と警察署および父さんでうまくやってくれるそうだ。
 これ以上、おれに言うべきことはない。後は丸っとおとなに任せるだけだ。
 おれと莉子はまた自然と話の輪から外れることになる。

「りぃこ、よかったん?」
「あっくんこそ」

 莉子がくすりと笑う。もう怖がっている様子はない。

「おれは……よくねえ」
「えっ」
「部活禁止令だされた。最悪」
「ごっ、ごめん。そっか、そうだよね。ごめん、あっくん。わたしのせいで……」

 莉子があわあわする。やっぱり小動物っぽい。

「べつにりぃこのせいじゃねーし」
「でも」
「んな顔すんなって」

 あまりに思いつめた顔をするもんだから笑えてしゃーない。

「あっくんが部活がんばってるの知ってる」
「一週間で治るらしい。だから平気。一週間ぐらい練習しなくても青葉にすら負けねえわ」
「うん。そうだ、次の試合見に行っていい? わたしお礼にお弁当とか差し入れする」
「は? んなもんいらん」

 せっかくにっこりした莉子が急に俯いてしまった。
 おれ、なんか間違った?
 けど、どう考えてもお礼をしてもらうようなことはしていない。見かねて止めに入ってけがをしたのはおれの勝手だし、龍の刃を避けきれなかったのなんて、それこそおれのミスだったわけで。ぶっちゃけ、あれぐらいの攻撃を咄嗟にいなせなかったのは剣士の名折れだ。すぐに剣道の練習に戻りたいのはそのせいでもある。

「あのさ、お礼……じゃなくてお詫びしなきゃなのおれなんだけどさ」
「なんで?」
「ハンカチ。ごめん。借りたやつ、もう使い物にならんと思う」
「そんなの! いい、ごみにして」

 顔を上げた莉子だけど、表情は硬いままだった。

「悪い」
「ううん。気にしないで」

 うーん。よくわからん。
 まいっか。

「じゃあさ、、、これでおあいこってことでいい?」

 莉子がこくりと同意をした。
 よかった。変にお礼なんてされても困る。ハンカチの弁償もどうしたらいいかわからん。お互い気にせずでいられたら平和ってもんだ。

「ありがとうございました」
 
 おとなの話も終わったっぽい。父さんたちが名刺交換をしている。父さん同士わざわざ連絡先を交換しなくても、母さん同士で繋がってるだろうに。母さんら、小学校のPTAとか一緒にやってくれてた気がする。
 事件関連のことは、母さんを通す必要がないといえばそうかもしれん。椎名家の安全のためになるならいっか。
 父さんの説明は簡潔だし、細かいことは制服警察官が請け負ってくれるっぽい。
 あとはよろしく、と心の中で父さんに念じる。
 おれの気配を察知したのか、父さんがおれを見た。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

Tの事件簿

端本 やこ
恋愛
 一般会社員の川原橙子は、後輩の森下亜紀と休日ランチを楽しんでいた。  そこへ恋人の久我島徹から電話が入り、着替えを届けて欲しいと頼まれる。徹は刑事という職業柄、不規則な勤務も珍しくない。  橙子は二つ返事で了承するも、今回ばかりはどうやら様子が違う。  あれよあれよと橙子たちは事件に関わることになってしまう。  恋人も友だちも後輩もひっくるめて事件解決まっしぐら! なお話です。 ☆完全なるフィクションです ・倫理道徳自警団の皆様や、現代社会の法や常識ディフェンダーとしてご活躍の皆様は回避願います。 ・「警察がこんなことするわけがない」等のクレームは一切お受けいたしかねます。 ※拙著「その身柄、拘束します。」の関連作品です。登場人物たちの相関関係やそれぞれの状況等は先行作品にてご確認くださいませ。 ※時系列は、本編および「世にも甘い自白調書」のあと、橙子が東京に戻ってからとお考えください。設定はふわっとしていますので、シーリーズの流れは深く考えずお楽しみいただければ幸いです。 ◆シリーズ④

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

処理中です...