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67 クレープの呪い?
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ホーンアリゲーターの数が減ったせいか、町はとても落ち着いてきた。
というより、最初から慌てふためくような住民が少ないのだろう。モンスターが路地を暴走しているなんて騒ぎでは、まったく日常なのだ。
「イチゴ一つ頼むわ」
体の大きなリザードマンが、聞き取りづらい声でクレープを注文している。
全身が光沢のある茶色い鱗でびっしり覆われていて頑丈そうだ。指は四本。親指一本、他が三本だろう。
爬虫類っぽい縦に長い瞳孔が、差し出されたクレープに向かってぐりっと動いた。
破天荒な光景だけど、さすがに慣れた。
このヴィヨンは多民族都市だ。
それも、人種どころか種族すら異なるモンスターが闊歩している。
中には言葉がまともに通じない者もいる。
私の前世に照らし合わせると、町の中で象やライオンや蛇が我が物顔で生活しているようなものに近い。
ゴリラやインパラがショッピングモール内でクレープを食べているようなものだ。
「私って意外に順応性高いのかも」
今では不可思議な異世界の光景になんの違和感もない。
銭湯があったとして、隣にウンディーネが浸かっていても、クジラがひっくり返っていてもさほど驚かないかもしれない。
まあ、オスとメスくらいは守ってほしいけれど。
「こりゃうめぇ、こっちのタコってやつも追加だ」
リザードマンが舌鼓を打っている。声が大きくて通りの全員が振り返った。
クレープ? クレープにタコ? 甘いの? タベタコトナイ。
ふらふらと吸い寄せられる。
「私も一つ」
自然な流れでクレープ屋の前に立った。
気難しそうなおじさんが、むっつりした顔でクレープに何かを包んでくれた。
硬貨と引き換えに無言で差し出されたそれを、手に持った。
ふぁっと目を見張る。正直に言えば、見た目がグロいのだ。
ふと、隣からの視線に気づいて首を回した。
ワニのような顔があった。ギョロ目が細められ、ぱかっと口を開けた。一瞬食べられるのかと思った。
「あんた、ちっこいヴァンパイアだなぁ。その年齢で誰かの眷属なんて、よっぽどドラマティックな話があったんだろうなぁ」
リザードマンは遠くを見るような視線を作る。
何か納得している風でもある。
私は首を傾げて答えた。
「全然ないよ。むしろ地味子って感じだったし」
「隠さなくていいって。別に聞かねえよ。俺にも言えないことくらい一つや二つあるしな」
「あの……」
「あっ、わりぃ。気にすんな。俺は昔から独り言が多いんだ。おかげでいつもうざいって言われててな、あっはははは」
とても前向きなモンスターだ。うざいというよりは面倒な感じだけど、なかなか周りにいないタイプだ。
リザードマンは大口を開けて笑ってからタコクレープをひょいっと口に放り込んだ。
一方的に始めた話は終わりになったらしい。
「おおっ、これもイケるじゃねえか。やばいわー、この店見つけた俺、ついてるわ」
「楽しそうだね」
「祭りを楽しまずにどうするよ。俺、ついさっきまで婚約者がいたんだぜ」
「へ?」
急な話の展開に、私は新しいジャンルのクレープにかぶりつこうとして止まる。
リザードマンは大きな片手を目頭に当てて、苦渋の声でぽつりと言う。
「ウエディングケーキまで買って祝おうって言ってた矢先だ。あいつなんて言ったと思う?」
「はあ……」
「祭りの最中に、俺より背が高くて尻尾の長いリザードマンを見つけたとか言いやがって、尻尾振って離れていったのよ」
「それは……災難」
「まったくだ。笑顔で睦言を言い合ったあの二日間は何だったんだ!? あんなに藁の上で抱き合ってごろごろしたのに!」
「あの、ちょっと生々しい感じやめてくれます? セクハラです」
「背が高くて尻尾が長いって、どう思う? それだけで乗り換えるとかありえるか!? おぉっ?」
「いや、聞いて。私にすごまれても。子供だし……ちょっと遠慮してほしいんだけど」
やばい。このリザードマン、やっぱりうざい。
周囲の視線がすごく痛い。声が大きいうえに存在感がすごいから注目の的だ。
タコクレープの呪いじゃない? 紫色のタコ足が不気味に飛び出ていて、見た目は今一つだ。
さっさと食べて退散しよう。
「って、からいっ!」
予想外に辛い。唇がひりひりする。
タコス寄りのクレープか。でも、何度も噛みしめるうちに自然と揚げたタコとマッチしていてだんだん美味しく感じるかも。
リザードマンが勝ち誇ったように笑って見下ろしてきた。
「子供にはきつかっただろうが、うまいだろ? タコと言えば、串だがこれもうめぇよな」
「タコと言えばタコ焼きでしょ」
「はぁ? タコは串であぶって塩に決まってるだろ。俺の婚約者が一番好きな食い物だぞ。知らねえのか。おこちゃまが」
「知らないし、婚約者とは終わったって言ってた。っていうか声大きい」
「まだわからねぇ! 明日になったら、やっぱり俺の身長と尻尾が良かったって泣きながらタックルしてくるかもしれねぇ!」
「愛情表現怖いよ。ってか、絶対ないね。その理由で離れていって、よりが戻ることはない。戻ってもすぐ離れるよ」
「はん、チビには大人の情事は理解できねぇよな」
「……あの、ほんとうざいですね」
「だからよく言われるって言ってるだろ、わはははっは」
ダメだぁ。このリザードマン、ほんとメンタル強い。
何言ってもダメな人だぁ。
クレープにほいほい吸い寄せられた報いとしか思えない。
思わず助けを求めて、周囲をぐるりと見回す。
と、見知った人物を見つけて私は瞳を輝かせた。
「エリザ!」
金髪のすらっとしたヴァンパイアは間違いなくエリザだ。
その隣にもう一人ミャンと同じくらいの身長の少女がいた。丸い耳を頭頂部に二つ乗せた、愛くるしい容姿。体は小さく、ふさふさの尾が垂れている。衣装はラフな茶色い胴衣。そして――目が紅い。
「死ねっ」
一瞬で表情を般若のように変えた少女は地面を蹴り、とんでもない速度で肉薄する。
え、いきなりなに!?
私の頭上からかかとが落ちてきた。
とっさに手のひらで止める。同時に、ぐしゃっとタコクレープが目の前で飛び散る。
さらに、がんっ、とにぶい音が響き、少女がその場にうずまくって頭を押さえていた。
エリザが素早く少女の後頭部を殴って止めたのだ。
ほんの一瞬の出来事だった。
「やめなさい、アイラン」
「だって、こいつ、姉さまのこと呼び捨てにするから」
「私がそう呼んでってお願いした人だからいいのよ。それと姉さまっていうのもやめて」
「えぇー、もう五柱辞めたんだし、姉妹になろうよー」
「いやよ、私は一人自由がいいの。突然蹴りを仕掛けるようなヴァンパイアの妹はいらないわ」
「姉さまには絶対しないって!」
私は、後頭部をさすりながら立ち上がったアイランという少女と、エリザを見比べながら、尋ねる。
「エリザの知り合い?」
きっ、と少女の鋭い視線が向いた。頭の上から、足の先まで、ぶしつけに眺めていたアイランは、「ふん、見た目は雑魚ね」と腕を組んで蔑む。
と、再びエリザの拳がその頭上に落ちた。
「アイランがかなう相手じゃないって最初に言ったでしょ」
「うわっ、姉さま、かかとになんかついてる!? 赤いソースが、もう最悪! なんか臭いし!」
「臭いとはなんだ、臭いとは! 俺が究極のタコと認めた一品に文句あんのか!? おおぉっ!?」
心底嫌そうな顔で自分の片足を眺めていたアイランに向けて、リザードマンがドスをきかせた声を向けた。
丸い耳がぴくっと反応し、冷たい視線を向けた。
「はい?」
アイランが問答無用でとことこと歩き出した。
小さい体から得体の知れない瘴気がにじみ出ている。
エリザの隣を歩くヴァンパイアで、姉妹を名乗る異様な気配のタヌキ似の少女。だいたい正体がわかってしまう。
リザードマンがさっきまでの態度を嘘のように引っ込めた。
「ちょ、ちょっと待て、俺はタコの件で抗議しただけだ。タコは……うまい」
「はいはい。聞いてないから」
「いや、ほんと……くっ、覚えてやがれ!」
リザードマンは本能に従って踵を返した。
同時にエリザがアイランの首根っこを捕まえてぶらんと空に吊り下げる。
「やめなさいったら。今日はお祭りなのよ。あなたも子供らしく楽しみなさい」
「ぶーぶー、子供扱いはんたーい。私、おとなー」
「そういうのが子供って言ってるの。あっ、リリ、騒がしくてごめんね。この子、一応――」
「ヴァンパイア五柱――女丈夫アイラン。タヌキ族。あっ、『元』五柱ね」
いつの間にぬけ出したのか。
タヌキ族を名乗った少女は、頭の後ろで手を組み、「へへ」っと八重歯を覗かせながら、私の隣で笑顔を浮かべていた。
「姉さまから聞いたけど、あんたが真祖なんだって?」
「そうだけど」
「伝説の真祖って強いんでしょ? 私とバトルゲーム出ようよ。どっちが強いか決めよ」
「面倒だから、やだ。強くなくていいし」
「私の領地さぁ、ダックワーズってお菓子が有名でさぁ」
ぴくりと眉が反応してしまった。
アイランは口端を上げてねっとり続けた。
「私に勝ったら、わけてあげる」
「…………その勝負、受ける」
私の弱点を看破するなんて、やるな五柱。
いや、バレるの速すぎない? エリザが明後日の方向を向いていて怪しい。
でも、まずは新たなお菓子を歓迎しないと。
お菓子は何種類でもウェルカムだ。
「そうこなくっちゃ」
「でも、バトルゲームはなし。適当な場所で一回勝負」
「いいよ、いいよ。姉さまもいいよね?」
「ほどほどにしてよ。この町、ガガントも来てるんだし。というか、プルルスのやつ、こんなめちゃくちゃになるようなことをして……だから嫌なのよ」
エリザは独白してからこめかみを押さえた。
何か心配事だろうか。じっと見つめると、彼女は小さく手を振って「何でもないの」と苦笑いを浮かべた。
「何か、手伝えることがあったら言ってね」
「ありがとう、リリ」
「あっ、姉さまに取り入ろうとすんな!」
「こらっ、アイラン!」
まるで本当に仲の良い姉妹だ。
私は二人のやり取りをぼんやり眺めつつ、デザートのチョコレートクレープを一つ注文してから、彼女たちと移動を開始した。
辛いタコクレープが中途半端だったからね。甘いもので口直ししないと。
というより、最初から慌てふためくような住民が少ないのだろう。モンスターが路地を暴走しているなんて騒ぎでは、まったく日常なのだ。
「イチゴ一つ頼むわ」
体の大きなリザードマンが、聞き取りづらい声でクレープを注文している。
全身が光沢のある茶色い鱗でびっしり覆われていて頑丈そうだ。指は四本。親指一本、他が三本だろう。
爬虫類っぽい縦に長い瞳孔が、差し出されたクレープに向かってぐりっと動いた。
破天荒な光景だけど、さすがに慣れた。
このヴィヨンは多民族都市だ。
それも、人種どころか種族すら異なるモンスターが闊歩している。
中には言葉がまともに通じない者もいる。
私の前世に照らし合わせると、町の中で象やライオンや蛇が我が物顔で生活しているようなものに近い。
ゴリラやインパラがショッピングモール内でクレープを食べているようなものだ。
「私って意外に順応性高いのかも」
今では不可思議な異世界の光景になんの違和感もない。
銭湯があったとして、隣にウンディーネが浸かっていても、クジラがひっくり返っていてもさほど驚かないかもしれない。
まあ、オスとメスくらいは守ってほしいけれど。
「こりゃうめぇ、こっちのタコってやつも追加だ」
リザードマンが舌鼓を打っている。声が大きくて通りの全員が振り返った。
クレープ? クレープにタコ? 甘いの? タベタコトナイ。
ふらふらと吸い寄せられる。
「私も一つ」
自然な流れでクレープ屋の前に立った。
気難しそうなおじさんが、むっつりした顔でクレープに何かを包んでくれた。
硬貨と引き換えに無言で差し出されたそれを、手に持った。
ふぁっと目を見張る。正直に言えば、見た目がグロいのだ。
ふと、隣からの視線に気づいて首を回した。
ワニのような顔があった。ギョロ目が細められ、ぱかっと口を開けた。一瞬食べられるのかと思った。
「あんた、ちっこいヴァンパイアだなぁ。その年齢で誰かの眷属なんて、よっぽどドラマティックな話があったんだろうなぁ」
リザードマンは遠くを見るような視線を作る。
何か納得している風でもある。
私は首を傾げて答えた。
「全然ないよ。むしろ地味子って感じだったし」
「隠さなくていいって。別に聞かねえよ。俺にも言えないことくらい一つや二つあるしな」
「あの……」
「あっ、わりぃ。気にすんな。俺は昔から独り言が多いんだ。おかげでいつもうざいって言われててな、あっはははは」
とても前向きなモンスターだ。うざいというよりは面倒な感じだけど、なかなか周りにいないタイプだ。
リザードマンは大口を開けて笑ってからタコクレープをひょいっと口に放り込んだ。
一方的に始めた話は終わりになったらしい。
「おおっ、これもイケるじゃねえか。やばいわー、この店見つけた俺、ついてるわ」
「楽しそうだね」
「祭りを楽しまずにどうするよ。俺、ついさっきまで婚約者がいたんだぜ」
「へ?」
急な話の展開に、私は新しいジャンルのクレープにかぶりつこうとして止まる。
リザードマンは大きな片手を目頭に当てて、苦渋の声でぽつりと言う。
「ウエディングケーキまで買って祝おうって言ってた矢先だ。あいつなんて言ったと思う?」
「はあ……」
「祭りの最中に、俺より背が高くて尻尾の長いリザードマンを見つけたとか言いやがって、尻尾振って離れていったのよ」
「それは……災難」
「まったくだ。笑顔で睦言を言い合ったあの二日間は何だったんだ!? あんなに藁の上で抱き合ってごろごろしたのに!」
「あの、ちょっと生々しい感じやめてくれます? セクハラです」
「背が高くて尻尾が長いって、どう思う? それだけで乗り換えるとかありえるか!? おぉっ?」
「いや、聞いて。私にすごまれても。子供だし……ちょっと遠慮してほしいんだけど」
やばい。このリザードマン、やっぱりうざい。
周囲の視線がすごく痛い。声が大きいうえに存在感がすごいから注目の的だ。
タコクレープの呪いじゃない? 紫色のタコ足が不気味に飛び出ていて、見た目は今一つだ。
さっさと食べて退散しよう。
「って、からいっ!」
予想外に辛い。唇がひりひりする。
タコス寄りのクレープか。でも、何度も噛みしめるうちに自然と揚げたタコとマッチしていてだんだん美味しく感じるかも。
リザードマンが勝ち誇ったように笑って見下ろしてきた。
「子供にはきつかっただろうが、うまいだろ? タコと言えば、串だがこれもうめぇよな」
「タコと言えばタコ焼きでしょ」
「はぁ? タコは串であぶって塩に決まってるだろ。俺の婚約者が一番好きな食い物だぞ。知らねえのか。おこちゃまが」
「知らないし、婚約者とは終わったって言ってた。っていうか声大きい」
「まだわからねぇ! 明日になったら、やっぱり俺の身長と尻尾が良かったって泣きながらタックルしてくるかもしれねぇ!」
「愛情表現怖いよ。ってか、絶対ないね。その理由で離れていって、よりが戻ることはない。戻ってもすぐ離れるよ」
「はん、チビには大人の情事は理解できねぇよな」
「……あの、ほんとうざいですね」
「だからよく言われるって言ってるだろ、わはははっは」
ダメだぁ。このリザードマン、ほんとメンタル強い。
何言ってもダメな人だぁ。
クレープにほいほい吸い寄せられた報いとしか思えない。
思わず助けを求めて、周囲をぐるりと見回す。
と、見知った人物を見つけて私は瞳を輝かせた。
「エリザ!」
金髪のすらっとしたヴァンパイアは間違いなくエリザだ。
その隣にもう一人ミャンと同じくらいの身長の少女がいた。丸い耳を頭頂部に二つ乗せた、愛くるしい容姿。体は小さく、ふさふさの尾が垂れている。衣装はラフな茶色い胴衣。そして――目が紅い。
「死ねっ」
一瞬で表情を般若のように変えた少女は地面を蹴り、とんでもない速度で肉薄する。
え、いきなりなに!?
私の頭上からかかとが落ちてきた。
とっさに手のひらで止める。同時に、ぐしゃっとタコクレープが目の前で飛び散る。
さらに、がんっ、とにぶい音が響き、少女がその場にうずまくって頭を押さえていた。
エリザが素早く少女の後頭部を殴って止めたのだ。
ほんの一瞬の出来事だった。
「やめなさい、アイラン」
「だって、こいつ、姉さまのこと呼び捨てにするから」
「私がそう呼んでってお願いした人だからいいのよ。それと姉さまっていうのもやめて」
「えぇー、もう五柱辞めたんだし、姉妹になろうよー」
「いやよ、私は一人自由がいいの。突然蹴りを仕掛けるようなヴァンパイアの妹はいらないわ」
「姉さまには絶対しないって!」
私は、後頭部をさすりながら立ち上がったアイランという少女と、エリザを見比べながら、尋ねる。
「エリザの知り合い?」
きっ、と少女の鋭い視線が向いた。頭の上から、足の先まで、ぶしつけに眺めていたアイランは、「ふん、見た目は雑魚ね」と腕を組んで蔑む。
と、再びエリザの拳がその頭上に落ちた。
「アイランがかなう相手じゃないって最初に言ったでしょ」
「うわっ、姉さま、かかとになんかついてる!? 赤いソースが、もう最悪! なんか臭いし!」
「臭いとはなんだ、臭いとは! 俺が究極のタコと認めた一品に文句あんのか!? おおぉっ!?」
心底嫌そうな顔で自分の片足を眺めていたアイランに向けて、リザードマンがドスをきかせた声を向けた。
丸い耳がぴくっと反応し、冷たい視線を向けた。
「はい?」
アイランが問答無用でとことこと歩き出した。
小さい体から得体の知れない瘴気がにじみ出ている。
エリザの隣を歩くヴァンパイアで、姉妹を名乗る異様な気配のタヌキ似の少女。だいたい正体がわかってしまう。
リザードマンがさっきまでの態度を嘘のように引っ込めた。
「ちょ、ちょっと待て、俺はタコの件で抗議しただけだ。タコは……うまい」
「はいはい。聞いてないから」
「いや、ほんと……くっ、覚えてやがれ!」
リザードマンは本能に従って踵を返した。
同時にエリザがアイランの首根っこを捕まえてぶらんと空に吊り下げる。
「やめなさいったら。今日はお祭りなのよ。あなたも子供らしく楽しみなさい」
「ぶーぶー、子供扱いはんたーい。私、おとなー」
「そういうのが子供って言ってるの。あっ、リリ、騒がしくてごめんね。この子、一応――」
「ヴァンパイア五柱――女丈夫アイラン。タヌキ族。あっ、『元』五柱ね」
いつの間にぬけ出したのか。
タヌキ族を名乗った少女は、頭の後ろで手を組み、「へへ」っと八重歯を覗かせながら、私の隣で笑顔を浮かべていた。
「姉さまから聞いたけど、あんたが真祖なんだって?」
「そうだけど」
「伝説の真祖って強いんでしょ? 私とバトルゲーム出ようよ。どっちが強いか決めよ」
「面倒だから、やだ。強くなくていいし」
「私の領地さぁ、ダックワーズってお菓子が有名でさぁ」
ぴくりと眉が反応してしまった。
アイランは口端を上げてねっとり続けた。
「私に勝ったら、わけてあげる」
「…………その勝負、受ける」
私の弱点を看破するなんて、やるな五柱。
いや、バレるの速すぎない? エリザが明後日の方向を向いていて怪しい。
でも、まずは新たなお菓子を歓迎しないと。
お菓子は何種類でもウェルカムだ。
「そうこなくっちゃ」
「でも、バトルゲームはなし。適当な場所で一回勝負」
「いいよ、いいよ。姉さまもいいよね?」
「ほどほどにしてよ。この町、ガガントも来てるんだし。というか、プルルスのやつ、こんなめちゃくちゃになるようなことをして……だから嫌なのよ」
エリザは独白してからこめかみを押さえた。
何か心配事だろうか。じっと見つめると、彼女は小さく手を振って「何でもないの」と苦笑いを浮かべた。
「何か、手伝えることがあったら言ってね」
「ありがとう、リリ」
「あっ、姉さまに取り入ろうとすんな!」
「こらっ、アイラン!」
まるで本当に仲の良い姉妹だ。
私は二人のやり取りをぼんやり眺めつつ、デザートのチョコレートクレープを一つ注文してから、彼女たちと移動を開始した。
辛いタコクレープが中途半端だったからね。甘いもので口直ししないと。
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