“彼”

文字の大きさ
54 / 63

53.虚しくて苦しい

しおりを挟む
せっかくあっちゃんが“とっておきの話”をしてくれたのに、駿二とは連絡を取らなくなってしまっていた。
私もまた傷つくのが怖かったし、少し距離を置いて落ち着きたかった。
駿二からも連絡は来なかった…


秋も終わりに近づき、徐々に冬の気配がし始めた頃だっただろうか。
前回あっちゃんちに集まった地元の友達の一人、みなちゃんからメールが来た。

忘れもしない。
この時は、この日が人生で一番の厄日だと思えた。
今までのは何だったんだと、全部が否定された気持ちになった。


『礼ちゃん、いきなりメールでごめんね。私、東さんのこと好きになってしまった。付き合ってもいいかな?』

『そうなんだ!そんなのわざわざ私に聞かなくてもいいよ!どうぞどうぞ。』

『礼ちゃん東さんのこと好きだったんじゃない?礼ちゃんとはずっと友達でいたいから、ちゃんと話しておきたいなと思って。』

『そっか。連絡くれてありがとう。でもほんとにもう何とも思ってないから大丈夫だよ。私のことは気にしないでね。』

『ありがとう。急にごめんね!また遊ぼうね!』


とにかくみなちゃんに悟られないようにすぐに返信した。
でも本当は何とも思ってないなんて嘘。
息が上手くできないくらい苦しかった。


なんでそうなったのか、後日あっちゃんが話してくれた。
あっちゃん兄たちの飲み会にあっちゃんが友達数人を連れて参加していたそうだ。
そこで駿二とみなちゃんが連絡先を交換して、後々付き合うことになったらしい。

私も誘われたけど、大学が忙しかったこともあって断っていたやつだった。
めちゃくちゃ後悔した。
忙しくても絶対行けないわけではなかった。
まさかこんなことになるなんて…


しかも実は高校生の頃、駿二は私と付き合う前にみなちゃんのことを可愛いと気に入っていた。

結局そういうことか。



そう言えば、高校の頃も駿二とそんな会話したな。

(付き合ってしばらくした頃…)
「本当はみなちゃんが良かったんでしょ?でも無理だから妥協して私にしたんじゃない?」

「そりゃ最初は可愛いと思ってたよ。でも妥協とかじゃない。」

「なんでみなちゃんに言わなかったの?」

「いや、礼が誤解したらやだなと思って言ってなかったけど、連絡先は聞いたんだよ。でも断られた。」

「…そうだったんだ。じゃあやっぱり私はみなちゃんの代わりってことか。」

「ほら、そうやって誤解するだろ?だから言わなかったけど、元々可愛いとだけしか思ってなかったから断られても別に気にしてなかったんだよ。礼のことは可愛いとも思ったし、話とかもしてちゃんと好きになったから。」

「ほんとに?」

「俺がどんだけ好きかわかる?俺もわからんくらいだし!」


この会話が駿二の本音だったのか言い訳だったのか、今となってはわからない。
でもあの時は信じてたし、嬉しかったのにな。


結局こうなってしまったのなら、やっぱり私は代わりだったとしか思えなくなっていた。
虚しさと苦しさだけが残った。


<捕捉>
[51.衝撃の告白]で駿二が話していた“気になる人”はみなちゃんではありません。
わかりにくくてすみません。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...