“彼”

59.たったの5分

駿二が私の職場に出入りしている時間は、ほんの5分かそこらだ。
なので、私がそわそわしている間に駿二は仕事を済ませて帰っていった。

ホッとしたような、残念なような…
きっと駿二は私に気づいていない。
そう思いながら、帰っていく駿二の後ろ姿をこっそり見送った。


その日の仕事はとにかく駿二を思い出さないように、浮わつかないようにと無駄に張り切ってやっていたと思う。
でも、家に帰るとどうしても考えてしまっていた。

これから毎月来るのか…

別に気にしなきゃいい話なのだけれど、気まずい反面また会えるかもしれないという嬉しさもあったのが本当のところ。


どうしてもやっぱり私は駿二を気にしてしまう。
考えると心臓辺りがぎゅーっとなる。

もう落ち着いたと思っていたのに、見てしまうと一気に引き戻された。
たったの5分で。
駿二との思い出は辛かったことの方が大きかったはずなのに。
いや、むしろ辛かった分ほんの短い間の幸せが沁みてるのかも？
なんて今なら思えるけれど。


駿二も少しは私を思い出しただろうか？
それとももう気にも止めないくらいなのかな？
もしかしたら新しい彼女がいるかも？

頭の中がぐるぐるしそうなほど考えたけれど、最終的にたどり着いたのは単純に“もう一度会って話がしたい”それだけだった。


彼女がいるかもしれないと思うと躊躇われたけれど、次に来るタイミングで私から連絡してみよう。
なるべく自然な感じで。
そう思った。