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蛍祭りの夜・木暮悠哉
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後日、あの日事件の全てを瑞穂が話してくれた。
俺は翔太が言っていた町田百合子が物凄く気になっていたんだ。
でも、みずほを殺した犯人は別にもいたんだ。
それは幼馴染みで、保育園に入る以前から瑞穂と遊んでいた福田千穂だった。
瑞穂って名前はみずみずしい稲穂と言う意味だ。
千穂は、先に誕生した瑞穂の一字をいただいた。
瑞穂と千穂は産まれた時から一緒だったんだ。
「実は、千穂は俺を好きだったようだ」
「それは感じていた」
瑞穂が千穂の自分に対する恋心を話した時、ダメ出しにそう言ってしまった。
その発言によって瑞穂がどんなにか傷付くか考えもしなかったのだ。
「ごめん、みずほが町田百合子に殺されたと解った時物凄く腹が立ったんだ。でも千穂も犯人だと解って、瑞穂にも責任の一端はあるのかなと思ったんだ」
慌ててそう言った。
それを聞いて瑞穂は焦ったみたいだ。
だからムキになって、全てがキューピッド様をもてあそんだ結果だったとも打ち明けていたんだ。
ことの発端は松尾有美の父親の死だった。
町田百合子が地区の迷信を実行したのだ。
それは三連続死だった。
三連続死とは地域の迷信みたいなものだ。
一人が死に、その後近い人が亡くなる場合がある。
それを死が死を呼んだ言い、不思議なことにもう一人に繋がるんだ。
だから三連続死を恐れたのだ。
町田百合子はそれを悪用して、試合会場に瑞穂を向かわせなくするためにみずほを殺したのだ。
有美の父親から繋がる三連続死とするために。
そして最後の仕上げとして、松尾有美にも自殺してもらおうと屋上に呼び出したのだ。
俺は町田百合子を……
橋本翔太をレギュラーにするためにみずほを殺す計画立てた町田百合子を憎くて堪らなくなっていた。
(千穂、何でそんな奴の計画に加担したんだ?)
千穂の瑞穂への恋心が解るだけに、振り向いてももらえない哀しみが俺の心を捕らえて放さなかった。
(橋本翔太はもしかしたら、町田百合子が事件に関与したのではと感じていたのだろうか? だから俺にあんなことを言い出したのか?)
みずほの告別式での橋本翔太のやり取りを思い出しているうちに、瑞穂に伝えなければいけないような気になっていた。
「あっ、その前に町田百合子の件もあったな? 橋本は百合子がストーカーだと言ってたよ」
俺はやっと切り出した。
「ストーカー!?」
案の定瑞穂は食らい付いてきた。
「そうだよ、百合子はストーカーだった。ところでお前達」
俺はその時、不謹慎だけと笑っていた。
「悪いけど有美に『あっ。そう言えば、みずほのおまじないの木って知ってるか? 確かその木の脇で『磐城がグランドに来なければ』とか言ったそうだ。『その独り言を誰かに聞かれたのかも知れないな』って言ちゃった。お前とみずほって本当にラブラブだったんだな」
「うん。その木は『瑞穂が初めてキスしてくれた場所に似てる』ってみずほが言っていた。『オハヨー』『好きだよ』『アイシテル』なんて言いあって……。あの日もそんな感じだった。みずほは何時も赤い糸を持っていて、サッカーグランドの見える木に結び付けるんだ。『サッカーが上達しますように』そう言いながら……『はい、私のおまじない効くのよ』みずほはその後でその糸を俺のスパイクの中に入れるんだ」
瑞穂は照れもせずに、俺に真実を語っていた。
「俺には、何でお前がもてるのか、よう解らん」
その後で俺は言った。
瑞穂は俺に秘密の場所を知られたことが本当はショックだったようだ。
俺は瑞穂とみずほだけの思い出を汚してしまった気がした。
でもそのことで、橋本翔太が町田百合子に岩城みずほの殺人を依頼した訳ではないと説明出来たのだ。
もしかしたら翔太は俺にそうしてもらいたかったのかも知れない。
瑞穂はやはり俺の親友だった。
だから俺は調子付いて有美から聞いたキューピット様の話しを始めていた。
「キューピット様って、四人以上でやったら災いが起こるらしいな?」
「うん。それでも俺は松尾有美を説得しようとしていたんだ。でも怖じ気づいた有美は首を縦には振らなかった」
「きっと有美もそのことを気にしていたんだな。だから俺に電話をくれたのかな? お前とは面と向かえないからな」
「本当に悪いことをしたよ。命を狙われているのを俺は知っていたのに……」
「でも、それがあったから転校したんじゃない?」
俺は少し得意になっていた。
本当は有美の狙いが何処にあるのか、薄ら薄ら気付いていたんだ。
もしかしたら有美は俺に語ってほしかったのかも知れない。
自分がエースを本気で愛している事実を。
「おい、知ってるか? 有美は普通のアパートに住むそうだ。何でも初めて家政婦なしで生活するそうだ」
俺は突然話を変えた。
どうせなら、有美の思惑通りの展開に持っていってやろうと考えたからだ。
きっと俺にそうしてもらいたくてあの日電話をしてきたのではないのかと勘繰り始めてたのだ。
「家政婦なし?」
案の定瑞穂は食い付いてきた。
俺は有美が大邸宅に住んでいたことは解っていた。
でも家政婦がいたまでは知らなかったのだ。
「有美んとこに新しい母親がいて、確か家政婦がわりに……なんて言ってたよ」
「えっ、そうなのか? 話しが大分違うな」
俺は少し慌てていた。
瑞穂は俺が可笑しなことを言い出したと感じたのかも知れない。
俺は少し焦りながらも冷静になろうと努力していた。
「有美は自分が今まで住んでいた家を慰謝料として渡して、アパートで例のエースと暮らすそうだよ。アイツら結婚したそうだから」
俺の言葉に瑞穂は更に驚いたようだ。
「だってアイツまだ十五歳だろうが……」
瑞穂は思わず言った。
そう……
俺はこれを待っていたのだ。
「ところがどっこい。有美は十六歳なんだよ。ホラ、日本では結婚出来る歳なんだよね」
得意気に俺は言ってやった。
「そんな馬鹿な!? 確か十八才で結婚出来るよう改めるって誰か言っていたぞ」
「それはまだ先だ。今は大丈夫なんだそうだ」
それも有美から聞いたことだ。だからかな? 俺は少し緩慢になっていた。
「有美の新しい母親と結婚するのはお前の担任なんだってな。だから二人に迷惑を掛けたくないそうだよ。有美って本当に優しな」
更にそう続けた。
「本当に悪いことをしたよ。命を狙われているのを俺は知っていたのに……」
「でも、それがあったから転校したんじゃない?」
「でもまさか、結婚するとは思わなかった」
「エースと愛してるからだよきっと」
「そうだよねきっと」
一瞬瑞穂は遠い目をした。
それが何なのか知らずに次の言葉を待った。
「結局、橋本翔太は無実だったか?」
瑞穂は急に話を変えた。
「えっ!? もしかしたら疑っていたのか。幾ら何でもそりゃないよ」
(あれ!? 有美はそれを俺に知らせようとして電話したのかな?)
疑問は残る。
何故そうしたのかがだ。
瑞穂もきっと何かを感じたのだろう。
だから話を反らせたのだと思った。
町田百合子がストーカーだったことは学校にも警察にも言ってないのかも知れない。
第一、本当にそうだったって証拠はないのだから……
俺は町田百合子を知らない。
でも橋本翔太をレギュラーにするためだけにみずほを殺した憎き犯人だと認識していた。
俺のハートは瑞穂以上に、イワキ探偵事務所のある熊谷以上に熱くなっていた。
「そう言えば、次の土曜日蛍まつりだったね?」
熱くなった心を冷やすため、俺はワザと話題を変えた。
「え、もうそんな時期か? みずほが毎年楽しみにしていたけど、すっかり忘れていたな」
「どうだ。みずほちゃんを偲んで二人で出掛けてみようか?」
「うん。野郎ばっかじゃ物足りないけどな。……良し決まった。ところで何処へ行く?」
「何処って、地元に決まっているだろう?」
「みずほを偲ぶためだったな。それもそうか?」
「俺はただ、蛍を見つめて感傷に浸りたくてな。あっ、瑞穂は好きにして良いぞ」
俺も死んだ兄貴との思い出がある。
蛍まつりは、地域や家族のコミュニケーションには欠かせないイベントだったのだ。
「なあ、知ってるか? 蛍まつりってアチコチでもやっているらしいよ」
「あぁ」
瑞穂の質問に頷いた。
(それくらいは誰でも知っている。瑞穂は何が言いたいんだ?)
俺は兄貴から色々と聞かされていたんだ。
実際には行ってみなかったけど。
「此処だけじゃない。熊谷だって、小川だって……他にも沢山あるよ。何時かみずほと調べたんだ」
「そんなにやっているのか? 知っていたら、もっと楽しめたな。あっ、確か小川は国道沿いの橋の下だったな。ところで瑞穂。蛍の鑑賞には幾つかのルールがあるって知ってた。それを守らないと小さな命の引き継ぎが出来なくなるから慎重に行動しなければいけないだ」
「そうだよね。人間の勝手な行動で蛍が全滅したら悲しいどころじゃなくなる」
「それにはまず、蛍の発生のメカニズムを把握しなければならないのだ」
俺は手に入れた資料で講義を始めた。
「蛍の光はプロポーズの合図だ」
「蛍の光。窓の雪ー」
「そっちじゃない!!」
瑞穂がワザとやっていると解っていた。それでも俺は声を荒げていた。
「オスの蛍は強い光でメスの蛍は弱い光を出して互いの居場所を確認するんだ。交尾を終えたら水辺の岩や木などに生息しる苔に産卵する」
「えっ!? 直接水の中に生み付けるんじゃないの?」
「お前、係りの人が説明してくれただろう。ま、聞いてないのは解っていたんだ。きっとみずほといちゃついていたんだろう」
俺の言葉に瑞穂は黙ってしまった。
「あっ、ごめん」
「いや、本当にその通りだった」
「やっぱりみずほちゃんとか? 本当に二人はラブラブだったらしいな」
俺が言った途端瑞穂は泣き出した。
俺達は蛍まつりの会場にいた。
「ルールその一。川の傍の草むらには無闇に立ち入らない。羽化したばかりの小さな命が失われてしまうかも知れないからだ。だったな?」
瑞穂は敢えて俺に言う。
小さな子供が夢中になって、今にも川に落ちそうになっていたからだ。
「えっ!? そうなのママ?」
「そうよ。だから此処から離れましょうね」
若いお母さん、助かったと言うような表情をした。
「そう言えば俺も落ちた経験がある。あのお母さんもそうかも知れないな」
「あ、お前もか?」
「もっ、て言うと?」
「あぁ、それもみずほと一緒の時だった。今から考えると、俺は相当子供だったな?」
「今頃気付いたか」
俺は笑っていた。
「みずほはそんな俺が好きだって言ってくれた」
「みずほは相当の物好きだったな。俺には、何でお前がもてるのか、よう解らん」
「又それかー。もてるんだから仕方なかっぺ」
瑞穂は舌を出した。
その姿が可笑しくて俺は声を出して笑っていた。
「きれいな水があり、カワニナが育つ環境が蛍を育む。でも餌になるカワニナが可哀想だな」
「うん。ドッチに重きを置くってことで、食物連鎖の問題でもあるな?」
「其処までは考えなくても……」
「そうだな。まずは蛍を愛することだ。みずほちゃんのように」
そのことで瑞穂は真っ赤になった。
でもそれは瑞穂に哀しい現実を思い出させてしまうことになると理解していた。
俺のそんな姿を見たためなのか解らないけど、瑞穂はおどけるように振る舞っていた。
「久し振りに笑ったよ。お前はやっぱり俺の親友だな」
兄貴の死以来、笑えなくなっていた。
瑞穂だってそうだと思った。
俺は瑞穂を誘って此処に来たことを正解だと思い始めていた。
「夏休みは親戚の経営する海の家が百周年なんだ。手伝ってくれないかって言われてる。お前も一緒にどうか?」
「いや、俺は止めておくよ。サッカーと叔父さんの手伝いがあるから」
瑞穂は暫く考えてから言った。
「そうかじゃ一人で行くか」
瑞穂と一緒だったら楽しくなると一瞬思った。
(だから誘ったのに……)
俺は考えもしないで、少し寂しい思いをしていた。
「そう言えば、お前の兄貴の事故、あれから進展あった?」
又だと思いながらも、瑞穂の質問に首を振った。
「何時かお前『あれは殺人事件だと思ってる』って言ってたな」
「そう言えばお前の叔父さん、元は凄腕の刑事だったんだよね?」
「何で知っているんだ」
「何言ってるんだ。お前が自慢していたんじゃないか」
「そうだ。何かあったらどうぞ」
瑞穂は俺に二枚目となるイワキ探偵事務所の名刺をよこした。
(きっとあの時は気が動転していた直後だったからな)
俺は初めての振りをしてその名刺を受け取った。
俺は翔太が言っていた町田百合子が物凄く気になっていたんだ。
でも、みずほを殺した犯人は別にもいたんだ。
それは幼馴染みで、保育園に入る以前から瑞穂と遊んでいた福田千穂だった。
瑞穂って名前はみずみずしい稲穂と言う意味だ。
千穂は、先に誕生した瑞穂の一字をいただいた。
瑞穂と千穂は産まれた時から一緒だったんだ。
「実は、千穂は俺を好きだったようだ」
「それは感じていた」
瑞穂が千穂の自分に対する恋心を話した時、ダメ出しにそう言ってしまった。
その発言によって瑞穂がどんなにか傷付くか考えもしなかったのだ。
「ごめん、みずほが町田百合子に殺されたと解った時物凄く腹が立ったんだ。でも千穂も犯人だと解って、瑞穂にも責任の一端はあるのかなと思ったんだ」
慌ててそう言った。
それを聞いて瑞穂は焦ったみたいだ。
だからムキになって、全てがキューピッド様をもてあそんだ結果だったとも打ち明けていたんだ。
ことの発端は松尾有美の父親の死だった。
町田百合子が地区の迷信を実行したのだ。
それは三連続死だった。
三連続死とは地域の迷信みたいなものだ。
一人が死に、その後近い人が亡くなる場合がある。
それを死が死を呼んだ言い、不思議なことにもう一人に繋がるんだ。
だから三連続死を恐れたのだ。
町田百合子はそれを悪用して、試合会場に瑞穂を向かわせなくするためにみずほを殺したのだ。
有美の父親から繋がる三連続死とするために。
そして最後の仕上げとして、松尾有美にも自殺してもらおうと屋上に呼び出したのだ。
俺は町田百合子を……
橋本翔太をレギュラーにするためにみずほを殺す計画立てた町田百合子を憎くて堪らなくなっていた。
(千穂、何でそんな奴の計画に加担したんだ?)
千穂の瑞穂への恋心が解るだけに、振り向いてももらえない哀しみが俺の心を捕らえて放さなかった。
(橋本翔太はもしかしたら、町田百合子が事件に関与したのではと感じていたのだろうか? だから俺にあんなことを言い出したのか?)
みずほの告別式での橋本翔太のやり取りを思い出しているうちに、瑞穂に伝えなければいけないような気になっていた。
「あっ、その前に町田百合子の件もあったな? 橋本は百合子がストーカーだと言ってたよ」
俺はやっと切り出した。
「ストーカー!?」
案の定瑞穂は食らい付いてきた。
「そうだよ、百合子はストーカーだった。ところでお前達」
俺はその時、不謹慎だけと笑っていた。
「悪いけど有美に『あっ。そう言えば、みずほのおまじないの木って知ってるか? 確かその木の脇で『磐城がグランドに来なければ』とか言ったそうだ。『その独り言を誰かに聞かれたのかも知れないな』って言ちゃった。お前とみずほって本当にラブラブだったんだな」
「うん。その木は『瑞穂が初めてキスしてくれた場所に似てる』ってみずほが言っていた。『オハヨー』『好きだよ』『アイシテル』なんて言いあって……。あの日もそんな感じだった。みずほは何時も赤い糸を持っていて、サッカーグランドの見える木に結び付けるんだ。『サッカーが上達しますように』そう言いながら……『はい、私のおまじない効くのよ』みずほはその後でその糸を俺のスパイクの中に入れるんだ」
瑞穂は照れもせずに、俺に真実を語っていた。
「俺には、何でお前がもてるのか、よう解らん」
その後で俺は言った。
瑞穂は俺に秘密の場所を知られたことが本当はショックだったようだ。
俺は瑞穂とみずほだけの思い出を汚してしまった気がした。
でもそのことで、橋本翔太が町田百合子に岩城みずほの殺人を依頼した訳ではないと説明出来たのだ。
もしかしたら翔太は俺にそうしてもらいたかったのかも知れない。
瑞穂はやはり俺の親友だった。
だから俺は調子付いて有美から聞いたキューピット様の話しを始めていた。
「キューピット様って、四人以上でやったら災いが起こるらしいな?」
「うん。それでも俺は松尾有美を説得しようとしていたんだ。でも怖じ気づいた有美は首を縦には振らなかった」
「きっと有美もそのことを気にしていたんだな。だから俺に電話をくれたのかな? お前とは面と向かえないからな」
「本当に悪いことをしたよ。命を狙われているのを俺は知っていたのに……」
「でも、それがあったから転校したんじゃない?」
俺は少し得意になっていた。
本当は有美の狙いが何処にあるのか、薄ら薄ら気付いていたんだ。
もしかしたら有美は俺に語ってほしかったのかも知れない。
自分がエースを本気で愛している事実を。
「おい、知ってるか? 有美は普通のアパートに住むそうだ。何でも初めて家政婦なしで生活するそうだ」
俺は突然話を変えた。
どうせなら、有美の思惑通りの展開に持っていってやろうと考えたからだ。
きっと俺にそうしてもらいたくてあの日電話をしてきたのではないのかと勘繰り始めてたのだ。
「家政婦なし?」
案の定瑞穂は食い付いてきた。
俺は有美が大邸宅に住んでいたことは解っていた。
でも家政婦がいたまでは知らなかったのだ。
「有美んとこに新しい母親がいて、確か家政婦がわりに……なんて言ってたよ」
「えっ、そうなのか? 話しが大分違うな」
俺は少し慌てていた。
瑞穂は俺が可笑しなことを言い出したと感じたのかも知れない。
俺は少し焦りながらも冷静になろうと努力していた。
「有美は自分が今まで住んでいた家を慰謝料として渡して、アパートで例のエースと暮らすそうだよ。アイツら結婚したそうだから」
俺の言葉に瑞穂は更に驚いたようだ。
「だってアイツまだ十五歳だろうが……」
瑞穂は思わず言った。
そう……
俺はこれを待っていたのだ。
「ところがどっこい。有美は十六歳なんだよ。ホラ、日本では結婚出来る歳なんだよね」
得意気に俺は言ってやった。
「そんな馬鹿な!? 確か十八才で結婚出来るよう改めるって誰か言っていたぞ」
「それはまだ先だ。今は大丈夫なんだそうだ」
それも有美から聞いたことだ。だからかな? 俺は少し緩慢になっていた。
「有美の新しい母親と結婚するのはお前の担任なんだってな。だから二人に迷惑を掛けたくないそうだよ。有美って本当に優しな」
更にそう続けた。
「本当に悪いことをしたよ。命を狙われているのを俺は知っていたのに……」
「でも、それがあったから転校したんじゃない?」
「でもまさか、結婚するとは思わなかった」
「エースと愛してるからだよきっと」
「そうだよねきっと」
一瞬瑞穂は遠い目をした。
それが何なのか知らずに次の言葉を待った。
「結局、橋本翔太は無実だったか?」
瑞穂は急に話を変えた。
「えっ!? もしかしたら疑っていたのか。幾ら何でもそりゃないよ」
(あれ!? 有美はそれを俺に知らせようとして電話したのかな?)
疑問は残る。
何故そうしたのかがだ。
瑞穂もきっと何かを感じたのだろう。
だから話を反らせたのだと思った。
町田百合子がストーカーだったことは学校にも警察にも言ってないのかも知れない。
第一、本当にそうだったって証拠はないのだから……
俺は町田百合子を知らない。
でも橋本翔太をレギュラーにするためだけにみずほを殺した憎き犯人だと認識していた。
俺のハートは瑞穂以上に、イワキ探偵事務所のある熊谷以上に熱くなっていた。
「そう言えば、次の土曜日蛍まつりだったね?」
熱くなった心を冷やすため、俺はワザと話題を変えた。
「え、もうそんな時期か? みずほが毎年楽しみにしていたけど、すっかり忘れていたな」
「どうだ。みずほちゃんを偲んで二人で出掛けてみようか?」
「うん。野郎ばっかじゃ物足りないけどな。……良し決まった。ところで何処へ行く?」
「何処って、地元に決まっているだろう?」
「みずほを偲ぶためだったな。それもそうか?」
「俺はただ、蛍を見つめて感傷に浸りたくてな。あっ、瑞穂は好きにして良いぞ」
俺も死んだ兄貴との思い出がある。
蛍まつりは、地域や家族のコミュニケーションには欠かせないイベントだったのだ。
「なあ、知ってるか? 蛍まつりってアチコチでもやっているらしいよ」
「あぁ」
瑞穂の質問に頷いた。
(それくらいは誰でも知っている。瑞穂は何が言いたいんだ?)
俺は兄貴から色々と聞かされていたんだ。
実際には行ってみなかったけど。
「此処だけじゃない。熊谷だって、小川だって……他にも沢山あるよ。何時かみずほと調べたんだ」
「そんなにやっているのか? 知っていたら、もっと楽しめたな。あっ、確か小川は国道沿いの橋の下だったな。ところで瑞穂。蛍の鑑賞には幾つかのルールがあるって知ってた。それを守らないと小さな命の引き継ぎが出来なくなるから慎重に行動しなければいけないだ」
「そうだよね。人間の勝手な行動で蛍が全滅したら悲しいどころじゃなくなる」
「それにはまず、蛍の発生のメカニズムを把握しなければならないのだ」
俺は手に入れた資料で講義を始めた。
「蛍の光はプロポーズの合図だ」
「蛍の光。窓の雪ー」
「そっちじゃない!!」
瑞穂がワザとやっていると解っていた。それでも俺は声を荒げていた。
「オスの蛍は強い光でメスの蛍は弱い光を出して互いの居場所を確認するんだ。交尾を終えたら水辺の岩や木などに生息しる苔に産卵する」
「えっ!? 直接水の中に生み付けるんじゃないの?」
「お前、係りの人が説明してくれただろう。ま、聞いてないのは解っていたんだ。きっとみずほといちゃついていたんだろう」
俺の言葉に瑞穂は黙ってしまった。
「あっ、ごめん」
「いや、本当にその通りだった」
「やっぱりみずほちゃんとか? 本当に二人はラブラブだったらしいな」
俺が言った途端瑞穂は泣き出した。
俺達は蛍まつりの会場にいた。
「ルールその一。川の傍の草むらには無闇に立ち入らない。羽化したばかりの小さな命が失われてしまうかも知れないからだ。だったな?」
瑞穂は敢えて俺に言う。
小さな子供が夢中になって、今にも川に落ちそうになっていたからだ。
「えっ!? そうなのママ?」
「そうよ。だから此処から離れましょうね」
若いお母さん、助かったと言うような表情をした。
「そう言えば俺も落ちた経験がある。あのお母さんもそうかも知れないな」
「あ、お前もか?」
「もっ、て言うと?」
「あぁ、それもみずほと一緒の時だった。今から考えると、俺は相当子供だったな?」
「今頃気付いたか」
俺は笑っていた。
「みずほはそんな俺が好きだって言ってくれた」
「みずほは相当の物好きだったな。俺には、何でお前がもてるのか、よう解らん」
「又それかー。もてるんだから仕方なかっぺ」
瑞穂は舌を出した。
その姿が可笑しくて俺は声を出して笑っていた。
「きれいな水があり、カワニナが育つ環境が蛍を育む。でも餌になるカワニナが可哀想だな」
「うん。ドッチに重きを置くってことで、食物連鎖の問題でもあるな?」
「其処までは考えなくても……」
「そうだな。まずは蛍を愛することだ。みずほちゃんのように」
そのことで瑞穂は真っ赤になった。
でもそれは瑞穂に哀しい現実を思い出させてしまうことになると理解していた。
俺のそんな姿を見たためなのか解らないけど、瑞穂はおどけるように振る舞っていた。
「久し振りに笑ったよ。お前はやっぱり俺の親友だな」
兄貴の死以来、笑えなくなっていた。
瑞穂だってそうだと思った。
俺は瑞穂を誘って此処に来たことを正解だと思い始めていた。
「夏休みは親戚の経営する海の家が百周年なんだ。手伝ってくれないかって言われてる。お前も一緒にどうか?」
「いや、俺は止めておくよ。サッカーと叔父さんの手伝いがあるから」
瑞穂は暫く考えてから言った。
「そうかじゃ一人で行くか」
瑞穂と一緒だったら楽しくなると一瞬思った。
(だから誘ったのに……)
俺は考えもしないで、少し寂しい思いをしていた。
「そう言えば、お前の兄貴の事故、あれから進展あった?」
又だと思いながらも、瑞穂の質問に首を振った。
「何時かお前『あれは殺人事件だと思ってる』って言ってたな」
「そう言えばお前の叔父さん、元は凄腕の刑事だったんだよね?」
「何で知っているんだ」
「何言ってるんだ。お前が自慢していたんじゃないか」
「そうだ。何かあったらどうぞ」
瑞穂は俺に二枚目となるイワキ探偵事務所の名刺をよこした。
(きっとあの時は気が動転していた直後だったからな)
俺は初めての振りをしてその名刺を受け取った。
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「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
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