不完全な完全犯罪

四色美美

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不安なままで・原田学

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 俺が探偵事務所に入った頃にはまだ陽がかなり高かった。
でも釣瓶落とし良く言ったもので、出てきた時には薄暗くなっていた。


(それにしてもさっきの男性おかしかった。スキンヘッドがそんなに珍しいかったのかな?)
俺は探偵事務所のドアを開け、そっと中を覗いた時のギョッとした男性の顔を思い出していた。


(そうだった。俺だって美容室の鏡にこの頭が写った時、度肝を抜いたのだ。男性だって同じようなものか?)
俺は妙に納得した。


(それでも嬉かったな。俺を知っていてくれた。ボンドー原っぱと言う名前も言ってくれた。確かに社長の言うように解りやすくて忘れ難い名前なのだろうな)
俺はあの男性のことを良く知らない。
あの探偵もだ。
それでも木暮の弟の元警視庁の凄腕刑事って言葉に頼ったんだ。
俺の携帯に唯一残っていた、木暮の奥さんの写真が手掛かりになってくれることを祈るしかないと思って……




 『この頃彼女が冷たくて……、解ってます。この名前がイヤだってこと。でもやっと得たチャンスなんです』
そう言った後でそうーっと男性を見てみた。
俺の発言を納得したような顔をしていた。


『この子の浮気現場を押さえてください』
だから俺はさっき、携帯電話の画像を見せながらやっとそう言ったのだ。


そんなことを依頼したくて探偵事務所に行った訳ではない。本当は俺を救ってほしかったんだ。




 俺は慌てて、彼処に行く前に携帯の画像を確認した。
何か証拠になる物がないのかと探し回ったのだ。
でも不思議なことにマイピクチャには何も残されてはいなかった。


(嘘だろ?)
俺はもう一度其処を開けた。


カメラ、自動お預かりなど次々とアクセスする。
それでも駄目だった。


ふと、名刺と言う箇所が気になった。
其処を開けて驚いた。


木暮の奥さんのヘアーメイクアップアーチストのMAIさんの写真が収められていたからだった。
それは俺が写した記憶もない代物だったのだ。




 『だからと言う訳でもないと思いますが、浮気を疑いまして……、この前も彼女につきまとう男性をストーカー呼ばわりしたって怒られたし……、ひょっとしたらその相手かも?  などと勘繰りまして』
とりあえず、ストーカーと言ってみた。
そうすれば、木暮の奥さんを調べてもらえると思ったのだ。

さっき俺がこんな頭にさせられたのは、間違いなくMAIさんの実家だったのだから……


だから俺は、木暮の奥さんを恋人だと言ってしまったのだ。



 名刺に入っていた写真を、マイクロSDカードにコピーしてから探偵に渡した。
その時に本当は確かめてみたんだ。其処に何かが写っていないかと……
でも駄目だった。
あの携帯は木暮のとは違って、それを変える場合はリアカバーを外さなければいけないんだ。
だから結構面倒なんだ。
携帯電話の中にそのカードが残されたままになった理由はこれだったのかも知れない。


(きっとソイツはその事実を知らないんだ)
そう思った時、その事実によって俺の頭の中に一人の女性を浮かび上がらせた。


マイピクチャに行けば全ての画像は消すことは出来る。
だけど、俺の携帯でアクセスした奴は名刺に画像があることを知らなかったんだ。


(ってなると、犯人は誰だ? 俺の頭をツルツルに剃り上げた奴は一体何処のどいつなんだ?)
もう答えは出ている。でも信じられないんだ。
俺の親友の奥さんがその人だと言う事実を。


(彼処は確かにMAIさんの実家だ……)
本当はそれだけで充分だったのだ。




 俺達はバンド活動を優先していたので、共に職に溢れていた。
其処で木暮が『ヘルパーの資格を取って働こう』って提案してくれたのだ。


俺達は早速、市の施設でやっている講座を受けた。
約三ヶ月で、しかも格安でヘルパー二級の資格が俺達の手に入れることが出来たんだ。
俺達は其処で働くことになった。


病院や施設内では携帯は使えない。
電気機器に狂いが生ずる恐れがあるからだ。だからピッチを探してみたんだ。


病院内で医者や看護士達が使用しているのがそれだ。
でもすぐに使用不可になった。
携帯電話の会社がピッチのサービスを辞めてしまったからだった。
それでも俺達は其処に拘って使い続けた。



だけど最後のサービスとして、携帯電話を無料で交換してくれたのだ。


ピッチも無料だった。携帯電話も無料だった。
それは願ってもいないチャンスだった。
だから俺達は金も払わずに、最新の横モーションタイプの携帯を手に入れることが出来たのだ。




 木暮はずっとそのまま使用し続けた。
でも俺は不注意で水の中に落としてしまったんだ。
その携帯には防水機能は付いていなかったんだ。


本当にしまったと思った。無料で手に入れた時に携帯保証を付けなかったから物凄い金額を払わなければいけなかったんだ。
それは貧乏ギタリストの俺にとって痛手となるほどの金額だった。


 もう一度名刺に入っていた写真を確認する。
MAIさんの顔に見覚えがあったからだ。


(こんな顔、あの時以来だ……)
何気にそう思った。




 それは俺が携帯電話を変えたことを木暮に伝えた時のことだ。
木暮は俺の携帯でMAIさんを撮影していたのだ。


(そうだ。あの時だ。こんなに弾けた笑顔、アイツが一緒じゃないと撮れないな。もしかしたらこれを此処に入れたのは木暮か?)
俺はそれで間違いないと思い始めていた。


(って言うことは? 俺の頭をこんなにしたのはアイツか?)
そう思った途端に震えがきた。
それはいくらアイツでも無理だった。
アイツはもうこの世に居ないのだから……


(それだったらMAIさんか? 確かに俺が良く行っていた美容院だ。間違いなく彼処だ)


俺はその時、『MAIさんのお母さんは美容院を畳んで、居抜きで彼処を売り出すそうだよ』とお袋が電話で言っていたのを思い出していた。


(ってなると、犯人は一体誰なんだ)
俺の心臓は今にも凍り付きそうになっていた。




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