不完全な完全犯罪

四色美美

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駅に向かう道・原田学

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 俺は駅に向かう道を歩いていた。
商店街のウインドーにスキンヘッドが写り込む度に驚きおののき、心臓が縮こまる。
俺の首から上が木暮と同じだったからだ。
アイツの死に様があまりにも異様だったから余計に恐怖を駆り立てる。

だから出会う人全員が俺を付け狙っているように感じるてしまう。
スキンヘッドでピアスだらけの木暮が亡くなった日のことが脳裏を掠めて、袋でも被りたくなった。
何故か同じ運命が待っていると感じているからだ。
それともう一つ疑問がある。


(幾ら何でも、東京にいた人間を此処まで移動させるなんて……)
其処に思考は帰っていく。でも幾ら考えも解るはずがないのだ。

俺はあの時レコーディング中だった。
社長が俺のパートが気に入らずレコーディングをやり直されて、爆裂お遊戯隊としての次回作を演奏していたところだったのだ。
どうせライブでは箒で真似をするエアバントなのに……
俺のギターなんかどうでも良いだろう。



 俺はギター専門で、テクニックは誰にも負けてないと思っていた。
そんな腕前をライブでは封印しなくてらならないんだ。
悔しくて悔しくて、毎日泣いていたよ。

だからレコーディングの時だけが実力を見せつけられるチャンスだったんだ。
だからあの日も最高の演奏が出来たと自負していたのだ。
それを社長は否定した。

俺の演奏に個性がないからなのだろうか?
でも俺は力の限りぶつけた。
レコーディングだけが、俺の実力を試せるチャンスだったからだ。
だからふて腐れて業といい加減な演奏をした覚えもなければ、社長にダメ出しされる所以もないのだ。

木暮が死んだことを忘れた訳ではないけど、一歩を踏み出したかったんだ。
もう一度ロックバンドのギタリストとしてやり直したかった。
それがこれか?

何時か社長が言っていた。
『人気グループの真似をしたら売れる』
って……


(でも、だからって、エアーバンドはないだろう? 俺達はメジャーデビューしたCDがいきなり大ヒットしたロックグループだったのに……)
口惜しいから情けないから、何時までもうじうじしてしまう。


『もっと弾けろ!!』
社長の叱咤激励さえも遠くに聴こえ、俺はやり場のない怒りを抱えて生きていた。


(二匹目のドジョウなんてそう簡単になれる訳がない)

テレビなんかには面白がって呼ばれていたが、そんな上手い話ある訳ないと俺は思っていた。


(俺の代わりなんて五万といる。か? だったら連れて来いよ)
社長の前では言えないくせに、愚痴ばかり溢しながら歩いていた。




 又木暮と同じスキンヘッドにピアスだらけの顔が鏡に写し出される。その度に目を覆いたくなった。


(ピアスは何時開けたんだっけ?)
そうだ。あれはメジャーデビューが決まる前だ。
ライブハウスでの手応えを感じた時、木暮が言い出したんだ。


『ミュージシャンとして食って行こうと思う』
ってーー
その後で木暮は金髪になったのだ。だから俺も真似をした。
でも髪は染められなかった。
お袋が嫌がることだと思っていたからだ。
ただピアスの穴だけは開けたんだ。
それがいつの間にか増えていったのだ。




 やっと駅に着いた時は暗くなっていた。


(暮れなずむってのなかなか暮れないって意味だったよな。今は夕まみれかな?)
そんな下らないことでも考えていないと時間が持たない気がしていた。
俺は朝いた東京のスタジオに戻る決心をしていた。
きっとマネージャーが心配していると思ったからだ。


(それにしても解らない。俺は一体何で此処まで移動して来たのだろうか?) 
又同じことを考え出す。

俺は東京のスタジオにカンヅメにされていた。


『もっと弾けろ!!』
突然社長の声がした。
俺があまりにも不甲斐なかったんだろう。
でも、その後の記憶がない。


俺はただ眠くてしょうがなかったんだ。だから社長が怒鳴ったのかも知れない。
だって俺はマネージャーの電話で彼処に呼びつけらたからだ。




 でもことはそれだけでは終らなかった。
気が付いたら、あの美容院だったのだ。
そう……
俺の恐怖はあの時から始まったのだ。


(それじゃあ、此処に連れて来たのはMAIさんではない。きっとスタジオにいた爆裂お遊戯隊の関係者だ)


「一体誰なんだ!!」
俺は遂に、叫んだ。
でもすぐに押し黙った。
周りの人が数人見ていたからだ。
その中に、お袋の知人も混じっていたのだ。
もっともこの姿では気付かないとは違うけどな。


(ごめんな母ちゃん。すぐ傍に居ながら帰れないんだ。帰ればきっと母ちゃんが心配するからだ)
切符売り場の反対側の窓から見える景色に向かい、そこに居るはずの母に謝る。


(そうだ。この景色は間違いなく俺の故郷だ。何故俺は今此処に居るのだろう?)
不安が容赦なく俺を攻撃していた。




 母ちゃんは俺のテレビ出演を喜んでくれた。『アンタが元気に活躍してくれれば良い』って言ってくれた。『躓いたら何時でも帰って来ても良い』って言ってくれた。


そんな母ちゃんに会わずに帰る親不孝を詫びた。
俺の我が儘を何時も許してくれた。
でも本当は寂しい人だと知っている。
本当に俺はいい加減な奴だったのだ。


市のホームヘルパー講座で資格を取った時、自分のことのように喜んでくれた。
その系列の施設で働くことになった時、真面目な俺を誉めてくれた。


(母ちゃん。俺が真面目なのは、母ちゃんの背中を見て育ったからだよ。母ちゃん今までありがとう)
涙が溢れてきた。
どうしょうもなく零れてきた。
何故泣いているのか解らないけど、俺の深部が何かを感じていたのかも知れない。




 改札口で俺を見た人全員が避けているように感じ、さっき探偵事務所にいた男性を思い出した。


(爆裂お遊戯隊のボンドー原っぱだって言おうか? それとも……)
何だかそれも面倒くさくなっていた。
こんな薄ら寒い時期にデニムの上下だ。
スタジオの中ならまだしも、俺の産まれ育った場所では違和感あって当然だった。


(オマケにスキンヘッドだ。誰もがきっと俺を異常者だと思っているのかも知れない)
俺はその時、当たり障りのないようにするしかないと判断した。


(確か母ちゃんは『MAIさんに恋人が出来た』とか言っていたな。『何で美容院を閉めるのだ』って聞いたら、『MAIさんの仕事を助けるためだ』って言っていたな)


MAIさんの恋人は又ロックグループのボーカルだそうだ。
俺は今度こそ幸せになってくれることを祈った。




 ホームに入ってきた上り電車に乗る。
夕方の通学時間とも重なってかなり混雑していた。
一応座席を確認する。本当は疲れきった体を休めるためにも座りたい。
でもそのまま立っていることにした。
学生達に絡まれたくなかったからだ。
もっともドア付近にもかなりたむろしていたにはいたのだが……


(触らぬ神に祟りなしだな)
俺は妙に納得していた。




 (MAIさんじゃなくて良かった)
そう思いがら、MAIさんの実家を使った奴を許せなくなっている自分がいた。


一時にせよ、MAIさんを疑った俺にも非があったことを反省しながら電車が出発する時を待っていた。


プシュッとドアが締まる音がしたと思った瞬間、俺の体は電車の外に放り出された。
突き飛ばされたのか蹴っ飛ばされた解らないけど、俺の体はホームにあったのだ。
そして俺はそのまま引き摺られた。
あのゴールドスカルのペンダントヘッドがドアの隙間に挟まったのだ。




 俺は慌てて、首に手を回した。
それでもチェーンは外れない。


(もしかしたら、木暮もこのように死んで行ったのか?)
俺の首も落とされると思って恐怖に怯えた。
だから必死だった。


俺は遠退いていく意識の中で、ブレーキ音を聞いていた。


(俺は助かるのか?  それとも……)
その答えは神のみぞ知るだった。





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