ルームシェア・危険な二人

四色美美

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 美紀ちゃんのお祖父さんはその後何も書いてこなかった。


(私のこの赤毛が気になるのかな? 何か謎めいているな? 美紀ちゃんのお祖父さん)


私は気にしつつも、直樹君の傍から離れることが出来なくなっていた。




 「実は、報告しなければならないことがある。まだ美紀のことは話してなかったね」

パパさんはそう言いながら、私に美紀ちゃんを紹介してくれた。


「実は俺達は結婚したんだ」


「はい。聞き及んでいます」


「だったら話が早い。二人とも同世代だから仲良くやってほしい。それにしても……」

パパさんは私と直樹君の手を掴んだ。


「いやー、驚いたよ。いきなりこれだからな」

パパさんが話し出すと直樹君が困惑している素振りを見せた。


「まさか直樹が……」
だからなのか、パパさんも探りを入れるように話題を変えた。


「俺の初恋のことはパパに話したことがあったろ?」


「ってことは、この人が例の忍冬の君か?」


「そうだよ。この人が中村詩音さんが、あの時出逢った人だったんだ」



「そう言えば直は言っていたな。赤毛でとっても可愛い子だって。その通りだね」


「今も可愛いよ。物凄く俺を愛してくれてる。俺が生徒会長に立候補した時から惚れていたと告白してくれたんだ」


「これは又……」
パパさんは声を詰まらせた。
でもその後で大きな声で笑い出した。


「素晴らしい。こんな偶然があるなんて……。実は俺達もそうだったのかも知れない」
パパさんは目を細めながら、暫く私達を見つめていた。




 「美紀、中村さんにもあのことを知っておいてもらいたいから此処においで」
パパさんはそう言いながら美紀ちゃんを傍に座らせた。


其処で語られた真実。
それはあまりにもショックで、それでいてロマンチックな話だった。


「あれは珠希の誕生日だった。朝起きてキッチンを見たら珠希が居たんだ。俺は驚いて、ドキっとした。俺は珠希が忘れられずに魂になってでも逢いたい。そう思っていたからね。だけどそれは束ね髪をほどいた美紀だったんだ」


「私は悩んでいたの。小さい頃からパパが大好きだったから。どうしてだか解らないの。ただ愛されたかったの。でも何時もパパの隣にはママがいた。苦しくて苦しくて仕方なかったの。それが、ママの死後もっと苦しくなったの」

美紀ちゃんは何故だか、ママさんに憑依された一部始終を語り始めていた。




 (でもさっきパパさんは『これは又……』って言ってた? ねえ、その又って何? 私に関係があるの?)

私はそれが聞きたくてウズウズしていた。


「それは珠希が美紀に憑依したからだった。珠希は俺を天国に逝かせなくするために美紀の体に入り込んだんだ」


「私は花火大会の日にそれに気付いたの。だから美紀ちゃんとお義兄さんを結び付けようとしたのよ」


「それでも俺は決意出来ずにいたんだ。大君に託すのが一番いいと思って……」


「やっぱり。それなら何で結婚したんだ。俺は今でも美紀ちゃんが大好きなのに!」

突然大君が吠えた。


「大辞めろ、みっともない」
直樹君が大君を止めた。


「直。お前はいいよなー、中村さんがいて。そうだ中村さん。直なんか辞めて、俺と結婚しよう。まだ籍にも入ってないんだろう。今からでも遅くはない」

大君は更に吠えまくっていた。




 「大君辞めて。みんな私の責任なの。恨むなら私を恨んで」
美紀ちゃんが仕方なく大君を受け止めた。


「美紀ちゃん!!」
大君は美紀ちゃんにとりすがって泣き出した。


「俺がこんなに好きなのを知ってるクセに」
大君はそのまま美紀ちゃんを離そうとしなかった。


「あぁー、やーめー」

美紀ちゃんのお祖父さんがうめき声を上げる。

遂に堪忍袋が切れたようだ。


「お祖父ちゃんいいの。今大君を受け止めたのは私じゃないと思う。きっとママよ。ママだと思うの」


「違う!!  今美紀の中にママは居ない!!」

直樹君が叫んでいた。


(えっ!?  それってどういうこと?)

私はただ直樹君の一言を待っていた。
それが試練のような気がして……




 「今ママは美紀の中には居ないんだ。ママは……」

直樹君はそう言って急に辞めた。
そしてその後パパさんに耳打ちしに行った。


「美紀!  大君から離れて!」
パパさんは言うが早いか、すぐに大君の前に立ちはだかった。


「掛かって来い!」
パパさんは本気モードだった。


「知っていて汚いぞ」
パパさんは大君の背後に回り、プロレス技を掛けようとしていた。


「わぁー!!」
大君はそれを間一髪で交わした。
そしてそのままスタスタ逃げ出した。


「驚かせてごめん。あんな奴でも俺の親友だ。中村さんとのことを祝ってほしくて呼んだんだ」
直樹君が申し訳なさそうに項垂れていた。




 「ママも又大変な人を選んだものだ」
パパさんはそう言いながら笑っていた。


その後で坊主頭をグリグリしながら直樹君と私を抱き締めてくれた。


(『ママも又大変な人を選んだものだ』って何のこと?)
私はまだ本当に何も知らずにいた。




 私は今日……
思いがけず直樹君の花嫁になった。


『心配要らないよ。中村さんのことは俺が何とかするから』

出発前の謎の言葉の意味はこれだったのだ。


美紀ちゃんのお祖父さんは私を信頼して、庭師として雇ってくれることになった。


花でも野菜でも好きに作ってもいいと言ってくれた。

嬉しいクセに戸惑う。
美紀ちゃんのお祖父さんの娘さんのために用意した木製ブランコ。

その溢れる愛を私が壊してはならないと思ったのだ。


大君は悪ふざけが過ぎたと後で謝りに来た。
大君は本当に美紀ちゃんが大好きだったんだ。

だから傷心のまま大阪にいたのだ。


三人でのラブバトルの末に脇からパパさんに持っていかれた。
それは美紀ちゃんにママが憑依していて……
だから美紀ちゃんはママの夢を追ったのだ。


美紀ちゃんはこれから二年かけて中学の体育教師の道へと進む。

全ては珠希さんの夢。
でも本当のところは、中学なら軟式テニスが教えられるからだった。
高校では硬式テニスが主流だったからだ。

旦那様を支えながら、自分も頂点を目指す。

直樹君の言う通り、珠希さんはスーパーママだったようだ。
その夢を美紀ちゃんは受け継いでいると感じた。
血の繋がり以上の何かに突き動かされて……




 『今ママは美紀の中には居ないんだ。ママは……』

直樹君の言葉の意味は何?
もしかしたら私に関係あるの?


(珠希さんは美紀ちゃんから抜け出してる? そうなの? でも、それってどういうこと?)

そんなことを考えていたら寝られなくなった。


二段ベッドの上段を見つめる。
何時も直樹君が眠っていた場所のようだ。

直樹君は其処にたどり着いた後下りても来ない。
仕方なく私は下のベッドに入った。


それでも上が気になる。
私はそっと梯子を上った。


よっぽど疲れたのだろう。
直樹君は既に寝息をたてていた。

だから私は下段の、秀樹君が使用していたであろうベッドに又潜り込んだのだった。




 朝の光を感じ目を開ける。
でも、それは煌々と着いた電気光だった。


(ん!?  此処一体何処?)
私は一瞬我を忘れていた。


眠気眼で横を見ると直樹と目が合った。


(えっ!?)
私は思わず仰け反った。


直樹君は秀樹君のベッドの横で私の目覚めるのを待っていたようだった。


(ヤバい。パジャマがはだけてた。お願いアッチ向いてて……)


でも直樹君はそんなことはお構い無しで、私の横に潜り込んできた。


「直樹君、お願い。電気を消して……」

嬉しいクセに気恥ずかしい。
私は思わず、直樹君の体を拒否していた。


「ずっと捜していた初恋の人が傍にいるんだ。電気を消すなんて勿体無い。俺に君の全てを見せてくれ」


「ダメ……」

私は必死に身体を死守した。
それでも直樹君は強引だった。
それでなくても狭い二段ベッドに強引に潜り込んで来た。




 何度か軽く触れ合うキスを交わして行く内に、次第に深くなる。
私は何時の間にか直樹君とのキスに溺れていた。

狭くてきしむ二段ベッド。
ちょうど真下は珠希さんの仏壇。
罰当たりだと思う。
でも止められない。


昨日は初めての夜なのに何もなかった。
直樹君は普段通りに?
二段ベッドの上段で眠ってしまったんだ。

仕方なくて私は、秀樹君が眠っていたという下段で眠ることにしたのだ。

だから嬉しい。
直樹君とのキスが嬉しい。


(あれっ!?)

私は電気が付いていたことを思い出していた。


「今、何時?」


「ぷっ!!」

直樹君が思いっきり吹き出した。


「朝なの?」


「いや、夜だよ。これから本当の初夜の儀式が始まる。だから覚悟してね。俺、無茶苦茶に中村さんを愛したい」


「えっー!?」

私は思わず声を張り上げた。
空かさず直樹君の唇が私の声を封鎖した。


「しっ!!」
直樹君は指を私の唇の上に乗せた。


「親父達に聞かれてもいいの?」

意地悪な直樹君の質問に首を振った。


「あーん、ズルいよ直樹君」


「あれっ!? 結婚してまでも直樹君か?」


「だって恥ずかしいんだもの」
私はそう言いながら直樹君の胸で甘えていた。




 直樹君がやってくるまで、私は必死に声を押し殺していた。
でももう限界だった。


大好きな直樹君と一つになれた喜びが、私の身体の中で爆発しそうだったのだ。


「あぁー!!」
私は遂に口から漏らしていた。
その声に自分自身で驚いて直樹を見た。


直樹君は泣いていた。
泣きながら微笑みを浮かべていた。




 「ママをもっとびっくりさせてやろう」
直樹君はそう言いながら、更に激しく私を揺さぶった。

直樹君は悪戯っ子のような目をしていた。


「でも、仏壇から『やめろ』って言われそうね」


「あぁ、中村さんとこんな風になれるなんて……、本当に本当なんだよ。中村さんは俺の初恋の人なんだ。だからママだって許してくれるはずだよ」

直樹君は又ウィンクをした。


(えっ!?  ママだって許してくれるはずだよ。って、一体何?)

私はまだ何も知らないまま、直樹君に身を預けていた。




 夢の中にいるような心持ちだった。
だからなのか、幸せ過ぎて意識が薄れるような気がしていた。


その途端に、全てがどうでもよくなった。

もう何も考えられない。
何も考えなくてもいい。

私は、ただ大好きな直樹君と一緒に暮らしていけばいいんだ。

そう思った瞬間。
身も心も体軽くなった気がした。


でもそれと同時に大切な何かを思い出した。


「ヤバい。今日は日曜日だった。陽菜ちゃんが待ってる」

私は慌ててベッドから飛び起きた。




 「どうしよう直樹君、陽菜ちゃんの引っ越し手伝うの忘れていた」

急いで洋服を着替え荷物を纏めた。


慌てて玄関に行ったら、其処にはパパさんが待っていてくれた。

直樹君が先回りして、パパさんに車で送ってもらえるように言ってくれたのだった。


「忙しい人だ」
パパさんが笑っていた。


「だろ。流石ママ憑きだね」


「うん、こりゃ間違いないな」
パパさんが笑っていた。


(ん、もうパパさんまで。私はママ憑きなんかじゃないって)

そう考えながら頭を振る。


(私もママさんのように旦那様に尽くしたい)

私は死しても尚愛され続けられているパパさんを羨ましく思っていた。
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