無垢・Age28【AV女優橘遥の憂鬱】

四色美美

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時効の壁

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 俺は職を逸していた。

監督から突然の解雇命令。
つまりクビを言い渡されたのだ。


それは時効が成立して一年経った頃だった。

用心にもう一年様子を見ていたらしいんだ。

だから又暫くはアルバイトで食い繋ぐしかないと思っていた。


監督の元に行ったのは、専門学校時代に付き合っていた彼女の紹介だった。


俺には行方不明になっている許嫁がいた。

母の同級生で、出産のために地元に里帰りしていたそうだ。


同じ病院の同じ産婦人科病棟で二人同時に産まれたらしい。


だから何かの縁だと信じた二人はお互いの子供を結婚させることにしたそうだ。

だから母には、身体は何時もキレイにしておくように言われていた。




 でも俺も男だ。
誘わられたら行かなければならない場合もある。


トイレに行きたくなって急いでいたら、真ん中にある障害者用のトイレが開いていきなり引き摺り込まれた。


『早く出して』
って彼女は言った。
俺は慌てて、股間に手をおいた。


『馬鹿ね。オシッコよ』

彼女が何をしたいのか判らない。
それでも俺は、我慢していた尿道を開放した。




 手洗いが終わった後の水道の前で、彼女は俺の股間に手をおいて擦っていた。


『まだチェリーボーイなんだってね?』

その本当の意味も知らずに、俺は頷いた。


『だったらそれにサヨナラしない?  今此処で』

彼女は鏡越しにウィンクをした。


俺が童貞だってことを生徒達が噂していて、偶然耳にしたらしい。

ソイツ等の視線の先に俺がいたのだそうだ。


その時どうやら俺に一目惚れして、急に遣りたくなったらしい。


『時間無いんでしょ?  いきなりでいいよ。ホラもう、大きくなってる』

彼女はそう言いながら、俺の股間を彼女の局部に近付けた。


俺は彼女に急かされるままにそれを挿入させた。


『あぁ、思った通りだった。若いからビンビンきてるの感じる。凄いわー。ねえ、私の恋人にならない』

いきなり言われて面食らった。
でも俺は頷いていた。


その後で気が付いた。
俺の股間にゴム制の物が掛かっていることに。


『スキンって言うの。スキンシップのスキン。だからさっきのあれもスキンシップなのよ。私と遣る時は必ず付けてね。病気を移さないためよ』

彼女にそう言って、何食わない顔で障害者用のトイレから出て行った。




 彼女は写真や絵のヌードモデルをしていて、監督とも交流があったらしい。


『良い映像を撮る人を探しているのよ。彼処で腕を磨けばきっと何処でも通用するから』

彼女は確かにそう言った。


でも、行って驚いた。

それは、バースデイプレゼンショーと命名したグラビアの名前を借りたAV撮影だったのだ。


監督は報道では有名人だった。

だから、俺は喜んで新宿にあるスタジオまで行ったのだ。




 俺はあの後で、ヌードモデルの彼女と遣れなくなった。


あの夜。
監督達に見られながらも遣ってしまった行為が忘れられなくて、俺は同棲相手が堪らなく欲しくなっていた。

彼女もその日が安全日だったのだ。


心も身体も燃えていた。
だから俺はすぐに彼女を抱き付いた。


彼女は困惑しながらも、俺を受け入れてくれた。


『監督のトコで何かあった?』


『いや……、何も』
そう言ってみたが白状することにした。


『監督は……、AV監督になっていた』


『うん、解っていたよ』

彼女はあっけらかんと言った。


『彼処で刺激されたんだ……』

俺を見透かすように言う彼女を強引に押し倒す。

でも彼女は慌てることなく、スキンを渡した。




 でも、いざとなったらいきたがらない。

全てが煮えたぎっているのに……


その時気付いた。

俺の頭の中が、あの苦痛に満ちた悲鳴でいっぱいになっていることに。


『出来ない……』

俺は到頭泣き出した。


『あの時の声が忘れられない?  初めての時なんて皆あんなものよ。監督が後腐れのないヤツだって言っていたから大丈夫』


『後腐れ?  そうだ確かにあの俳優達も……』

『彼女の親は借金を苦に自殺したらしいよ。あっ、そうだ。監督ったらアナタが気に入ったんだって。仕事手伝うように言われたわ』

彼女は解っていて俺を行かせた……
そう思った途端に冷めていた。覚めてしまっていたのだった。


『母さん、身体はキレイにしとかなければ駄目だね』

俺は母に謝った。


同棲相手は、彼女がヴァージンだって言うことも、全員に犯されることも承知していた。


後腐れない娘。
それが答えか?
彼女が何をした?
自殺した親の借金を背負わされて……
だからって遣りたい放題遣られていいのか?


俺はこの時、彼女を守ろうと誓った。




 ハロウィンの悪夢の三人が、ヴァージンを奪った奴等だと後で知った。
だから俺を除外したのだ。

彼女の心の傷が増さないように、俺が反対するからか?


俺は強姦罪で逮捕されるのが怖かった。

だから監督にコキ使われても文句は言えなかった。


『一番罪深いのはお前だ』
って監督は言った。


『お前知らなかったのか。AVってのは体外放出なんだよ。皆で回すから、生で遣る時は中をキレイにしておかないといけないんだ』

監督が笑いながら言った。


『お前の後は物凄かったぞ。安全日じゃなかったら、出来た子供はお前の子だ。もしDNA鑑定したら、出てくるのはお前のだけだ』

そう言われて震え上がった。

だから捕まるのが怖くて、監督の言うがままに従うしかなかったんだ。




 悪質だった。
監督は彼女が処女だと知っていた。
それでもAV業界トップクラスの巨根を誇る俳優に遣らせたのだ。

監督の目的は苦痛に喘ぐ彼女の姿を撮影し、週刊紙に売り付けること。


後に、監督にも多額な借金があったと解った。
それを精算するために彼女を利用したのだ。


彼女の自殺した両親の借金だけではなかったんだ。

でも、それを知った時は既に時効が成立した後だった。

強姦罪も詐欺罪も共に七年だったんだ。

民事で訴える手もある。
時効は二十年で、犯人を知ってからは三年だそうだ。




 俺は自分が許せなくなっていた。

それと同時に、何としてでも彼女を救い出してやりたくなった。


『お前に何が出来る』
俺の中の俺が言う。


『そんなの解るはずがない……、でも彼女のために何かをやりたいんだ』


『お前のはただの護身だ』


『解ってる。自分の身を守りたいだけだって。だから監督に従ってしまったことも』


『それが護身だって言うんだ。何時も監督のせいにする。だからお前はあまちゃんなんだよ』


俺は本当は自分が甘いって自覚していたんだ。


ヌードモデルの彼女の時もそうだった。

成り行きに任せて遣っちまってた。
俺には許嫁がいる。

行方不明だが、俺と同じ誕生日の母さんの同級生の娘がいることも承知で、解っていながら遣っちまってたんだ。




 俺はその時、急に彼女の両親のことが気になった。
どうして彼女をおいて逝ったのか知りたくなったんだ。

でも其処で知ったのは、九ヵ月の乳児が六ヵ月しかなく逮捕。の育児放棄した実母のことだった。
その人の名前が橘はるかだったのだ。




 「申し訳ありません。解っていながら彼女を救い出せませんでした」

俺は彼女が以前所属していたタレント事務所を訪ねていた。


まず、バースデイプレゼンショーと銘打った彼女の二十歳の誕生日に何が起こったのかを受け明けた。


「『タイトルは決まっている。いいか、お前は今日から橘遥だ。戦慄!!  橘遥処女を売るだ!!』監督はそう言いました。『えっ!?  聞いてないよ。彼女処女だったのか?  だったら犯罪じゃないか!?』そう俳優は言いました。あの時は皆強姦罪が適応されることを知っていたんです」


「強姦罪って罪重いのよ。輪姦は特にね。あっ、ごめんなさい。貴方を責めているのじゃないわ」


「もしかしたら、俺のことも?」


「彼女ね。貴方に助けられたんだって。痛くて痛くて仕方ない時に優しくしてもらったって」


「『あ、妊娠するとか気にするな。事務所から安全日だって聞いている。だから生で遣らせたかったんだ』監督がそう言ったんです。俺はその安全日に反応して、気が付いたら彼女を犯してました」


「やはり、事務所から聞いているって言ってたのね」

社長の言葉が気になる。
それでも続けた。




 「俺は監督に脅されていたんです。俺のあの時に、……の」


「彼女から聞いているわよ。貴方あの娘の中で果てたそうね?」

驚きながら、頷いた。


「後にも先にも、貴方だけなんだって?」


「えっ、そんなことまで彼女言ったのですか?」


「私を恨んでいたのよ。だから、全部ぶちまけちゃったの。可哀想に彼女は、借金も無いのに身体で払えって言われていたみたいね。両親の借金は生命保険でほぼ完済してるのよ。あったのは大学の入学金くらいかな?」


「えっ。それっ本当ですか!?   彼女はそれで……、八年間も」
俺は泣いていた。
確かに監督にも借金があって、だから彼女を離さないと聞いたことはある。
でも彼女の両親の借金じゃなかったなんて……
完全に犯罪行為だ。詐欺だったのだ。


「あれっ、確か詐欺罪は、騙されたことが終わった時点で時効をカウントするみたいですけど」


「あっ、それでも検討中よ。貴方も調べたのね」


「強姦罪の時効は七年だそうです。俺は監督に、それを彼女に気付かれないように見張ることを言い渡されました。実は、監督に『いい拾い物をした』って言われて……。それがどうやら彼女の中で出した物らしいです」




 俺はその時、監督に脅された経緯を話す決意を硬めた。


「監督は俺の後で彼女と遣ったんです。その時俺の物に触れたようです」


「あら、違うわよ。監督の拾い物は、あの娘の自殺した両親の借用書よ。それも完済したヤツを悪用したのよ」
社長は驚くべき事実を話してくれた。


「あっ、それはりっぱな詐欺行為ですね」


「そう、だからそれでも検討中なのね」


「俺は強姦罪で逮捕されるのが怖かったんです。監督に『一番罪深いのはお前だ』って言われて」


「それって一体どう言うこと?」


「監督は俺の後で……『お前知らなかったのか。AVってのは体外放出なんだよ。皆で回すから、生で遣る時は中をキレイにしておかないといけないんだ』と言ってました。俺はそれさえ知らず……。監督が言った言葉にビビったんです。『お前の後は物凄かったぞ。安全日じゃなかったら、出来た子供はお前の子だ』って、言われて……。『もしDNA鑑定したら、出てくるのはお前のだけだ』って脅されていました」

俺はあの時の監督の言葉を思い出して又震え上がった。


「それは無いと思うわ。きっと全員分が出てくるはずね」


「何も知らないから騙されたのですか?」


「そうみたいね。刑事事件は七年、民事は二十年だけど、犯人知って三年なのよ。貴方の場合は、とっくに時効は成立よ。心配要らない。あっそうそう、彼女ね又モデルに戻るの。会ってみる?」


「いいんでかす?」


「勿論よ。貴方は彼女にとって一番大切な人みたいだから」

その言葉に俺は飛び上がりそうになった。
社長はそんな俺を見て笑っていた。




 「あっそうそう。思い出した。監督が此処に来たのは確か行方不明の何処かの社長さんの娘を探す番組だったわ。何でも高速バスから居なくなったとか?」


「もしかしたら、自動車会社のですか?  その娘だったら、俺の許嫁でした。俺達は同時刻に産まれたのです」


「へぇー、貴方の誕生日は?」


「十二月二十三日です。産まれた時はまだ昭和で、天皇誕生日ではなかったそうです」


「彼女は確かその三ヶ月前位かな?」


「そうです。あのバースデイプレゼンショーの時、俺は十九歳でした。彼女がその許嫁なら嬉しいんだけど、三ヶ月早いから……本当は辛いんです。母に紹介しづらくて」

俺の気持ちを察してか、社長は俺の肩を叩いて微笑んだ。




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