無垢・Age28【AV女優橘遥の憂鬱】

四色美美

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再会

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 俺はすぐに、社長から聞いた住所を頼りに彼女の親友が経営していると言うモデル事務所に向かった。


其処からは笑い声が漏れていた。


『お前のチェリーを捨てさせてくれ。って彼迫られていたのよ。だから未経験だと思ったの。その通りだったでしょう?』

誰かが言った。

俺はその時、そのチェリーに反応していた。

それはあの時、ヌードモデルの彼女が言った、チェリーボーイだった。


『あの……、チェリーボーイって何ですか?』
その言葉に思わず仰け反った。


(ありゃー、俺が知りたいことを聞いてる)

だから俺は余計に聞き耳を立てていたのだった。


『ぷっ!!』
其処にいた全員が吹き出したようだ。


(そんなに可笑しいことなのか?)
俺はその時、自分自身が笑われているような錯覚を覚えていた。


『田舎の高校生が、普通知らないわよねー』

その声に聞き覚えがあった。
それは、俺が愛してやまない橘遥さんだった。




 『チェリーボーイって言うのはね。日本だと未経験者という意味かな?  でも英語では違うのよ。同性愛者での未経験って言う意味なのよ』


(同性愛? 未経験者? そうか……、そうだったのか。彼女は俺がゲイだと思って……だから彼処で誘ったのか? 同性愛者を彼女の魅力で墜そうとして。それを誇るために)

あのトイレは、そう言う人達の溜まり場だって聞いたことがある。

広いし滅多に人が来ないから好都合なんだって。


もしかしたら彼女は俺に飽きて、もっと刺激が欲しくて監督の仕事をさせようとしていただけなのかも知れない。


『週刊誌にゲイだと書かれていただろう?  それも未経験だからチェリーボーイってタイトルだったんだ。ま、知ってる者は知ってるって感覚かな?』


『みんな知っていたんですね』


『それが売りって訳ではないけど、誰が先に落とすかって賭けになっていたのかな?  だから、沢山指名されちゃった訳よ』

社長らしき人がが答えていた。


(週刊紙? チェリーボーイ? あっ、もしかしたらジン?)

俺はその時思い出していた。

疑惑のチェリーボーイと週刊紙に書かれていた、歌舞伎町のナンバーワンホストのことを……


(どうして彼が此処に居るのだろう?)
俺は首を傾げた。




*****
 私は大学時代の同期生が興したモデル事務所にいた。


その人は女子高の大先輩で、私とはかなり歳が離れてはいたが親友だったのだ。

私が大学生になれたのは、社長が前の事務所を紹介してくれたからなのだ。




 私はやっとハロウィンの悪夢や、監督の陰謀などから立ち直ったところだった。


其処へ懐かしい人達が訪ねて来てくれたのだ。

それが、あの日私の代わりにAV俳優達に拉致された少女だった。


「まさか、あの娘の口から『あの……、チェリーボーイって何ですか?』なんて出るなんてね」

私と社長は笑っていた。
やっと笑えるようになっていたのだ。




 その時、ドアがノックされた。


「はーい。社長、彼女おっちょこちょいだから忘れ物でもしたのかな?」

私は軽い冗談言ってドアを開けた。


(えっ!)
私は一瞬見間違えたかと思った。
其処に居たのは、神野みさと、海翔夫婦ではなかった。

懐かしい彼だった。
思い出す度に苦しくなるあのカメラマンだった。


「嘘……」

私は慌ててドアを閉めていた。

それでも、そっと覗きながら開ける。


見間違いではない。
それはやはりカメラマンだった。




 「愛してる」
彼はそう言うが早いか、いきなり私の唇を奪った。

その激しい息遣いが、私のハートをヒートアップさせた。


息継ぎのために離れては戻る唇。
その度に強く深く合わさる。


「もう……」

私は泣きながら、彼の胸を叩いていた。


「愛してる。愛してる。もう離さない」

もう一度唇が重なった時、息をする余裕もなくて、ただ彼に身を任せていた。


そっと薄目を開けると、ドアの隙間で海翔さんが目を丸くしていた。


「忘れ物しちゃった」

慌てて戻って行く海翔さんをすぐに追い掛けた。

そして、彼がいたから生きて来られたことと、私を守ってくれていたのが彼だと告げた。

その上で、監督が私を目隠しして遣らせようとした男性俳優陣が、私のヴァージンを奪った犯人だと言った。


海翔さんが驚いて、すぐに訴えようと言った。
協力してくれると言ってくれた。




 海翔さんは、弟さんからデビュー作品を借りて見たそうだ。

目を背けたくなるようなその余りの残忍さに、全身が鳥肌に覆われたと言った。

だから、私が立ち直ってくれたことが何より嬉しいと言ってくれた。




*****
 「訴えよう」
俺は彼女に言った。


「貴女の両親は借金を背負わされて自殺していた。でも生命保険で完済していると聞いた。その借用書が監督の手にあったは、事務所から盗んだようだ。だから、貴女が監督を恐れる必要はないんだよ」

俺はそう言いながら、彼女を抱き締めた。


「ホラ監督があの時、『あぁ、本当だ。マジに気持ちいい!!  コイツはいい拾い物をしたな』って言った後で言われたんだ。お前のが、物凄かったって。だから拾われたのは、貴女の中でイッタ時の物だと思ったんだ。でも違っていたみたいだね」


「うん」

彼女はそう言った後で笑いだした。


「後にも先に私の中で果てたのが貴方だけだったって言ったら、前の社長に抱き締めたられたよ」


「うん。俺も聞いて嬉しかったよ」


「社長を恨んでいたから……。でも、どうしても言いたくなっていたの。『最初は拒否したのよ。あの三人で撮影は終わったはずだから……。彼よっぽど気持ち良かったのか、私を堪能していたの。その時私の中でイッタの。後にも先に彼だけだった……』って言ってしまったの」

そう私は遂に告白していた。
彼の前で彼にも……


「私の中で果てたのは後にも先に貴方だけだった。私が受け入れた訳ではないけど……、それでも……それだけが救いだったから」


「俺は貴女と強引に遣ってしまった。それでも許してくれるのか?」


「あれがあったから私は辛い撮影にも耐えて来られた。私は他の男性に遣られている時にも、貴方の行為を思い出していたの」


「解っていた。解っていながら嫉妬していた。目の前で喘ぎ声を上げさせている男性達を……」


「社長がね『貴女、そのカメラマンを愛しているのね。でも良かったね。貴女の中で果てたのがその人だけで……。貴女はまだ誰にも汚されていない。私はそう思うよ』そう言ってくれたの。つまり不幸中の幸いなのよ」


「不幸中の幸い?」


「だって私は大好きだった貴方に又こうして会えた。社長に告白したから、貴方を解ってくれたと思うの」


「俺を理解?」


「そう……、貴方が私を守ってくれたから、又こうして会えたの。社長が此処を教えてくれたのでしょう?」

彼女の言葉に俺は頷いた。


確かに俺は社長に理解されたのかも知れない。
けれど俺は、訴えたられるのが怖くて逃げていただけだったんだ。





*****
 「『悪かったな。社長がいきなり遣れって言ったからだ』って俳優は言ってたけど、俺は何も聞かされていなかった。本当に何も聞かされていなかったんだ。ただ監督の指示通りにカメラを回しただけだった」

彼は私との出逢いを語り出した。
私の親友でもある美魔女社長も傍にいて聞いてた。

本当は聞かせたくない。
でも私の空白の八年間は彼に守られてきたのだ。
その事実だけは解って欲しかったのだ。


「グラビア撮影だけではないことを聞かされたのは、手錠で椅子に束縛された時だった。監督に『面白いものを見せてやる』って言われたんだ」


「面白いもの?」


「『いいか。これから彼女は苦痛に喘ぐ演技をする。お前さんはただその顔を撮影すれば良いんだよ。報道カメラマンになりたいんだってね。悪いようにはしないよ』監督は確かにそう言ったんだ」


「報道カメラマンが夢だったんだ。監督のせいでとんだ道歩かされたね」


「あら、でも監督って、確か報道関係者じゃなかったっけ?」

二人の言葉に頷く彼。


「もしかしたら貴方も騙されていた訳?」
それにも頷いた。


「俳優に無理矢理背後から遣られた時、貴女は悲鳴を上げた。初めは驚いて、監督を見たんだ。でも、撮影は続行されたんだ」


「その監督は何故其処まで?」


「監督にも借金があって、AVでも撮って来いって脅されていたようです」


「えっ、それで……そんなことで彼女の八年間は奪われたの?」

社長は本当はまだあの監督のことを良く理解していなかったようだ。




 「アルバイトだったけど、カメラマンとして初めて雇われた俺は夢中になって撮影していた。あの時は苦痛に喘ぐ貴女の姿を女優魂だと思っていたんだ」


「AVの現場はやらせも多いって聞くからね」

社長のその言葉にドキンとした。私も素人相手にやらされていたからだった。




*****
 「彼女がヴァージンだと知った時、通りで彼女が痛がるはずだ。と思ったんだ。でも俺は監督の言葉に反応して貴女を犯していた」


「でもね社長。それがあったから私は生きて来られたの。気が付いたら、私は彼を愛してた。苦しくて苦しくて仕方がなかったけど……」

私は彼への愛を、社長に告白していた。


「でも、良かったね。両思いで……」
それは社長の精一杯の賛辞だった。




*****
 「これはさっき社長にも告白したんだけど。俺は強姦罪で逮捕されるのが怖かったんだ。監督は、『一番罪深いのはお前だ』って言ったんだ」


「どう言うこと?」

彼女の言葉に思わず吹き出した。


「何よ」

口を尖らせる彼女って可愛い。
呑気にそんなこと考えていた。


「だって、今の社長と同じ反応だったよ」
俺は笑いながら……

そう、俺は笑っていた。彼女の傍で笑うことが出来るようになっていたのだった。


「AVは、体外放出なんだ。それさえ知らず俺は、『お前の後は物凄かったぞ。安全日じゃなかったら、出来た子供はお前の子だ』って言われて。『もしDNA鑑定したら、出てくるのはお前のだけだ』なんて言われたから、捕まるのが怖かったんだ」


「バカね。でもね、監督が言った通りだったら嬉しい。だって私は貴方意外受け入れていないことになるから……」

彼女は解っていたんだ。
もし検査をしていたら、全員のDNAが出てくることを……


でももし、俺のだけだったら嬉しいと思っていたなんて……


「俺は幸せ者だ」

不覚にも泣いていた。




 取り敢えず俺はその場で、事務所で住み込みのカメラマンとして働くことになった。


彼女の部屋を開けてくれるらしい。


「まさか、結婚前の男女を同じ部屋に住まわせる訳にはいかないでしょ?」

社長はそう言いながら笑っていた。


俺の部屋は三畳ほどの所謂納戸だ。


ハロウィンの悪夢の撮影以来気まずくなった彼女と監督の関係。


それでも行き場ない彼女はあのアパートで暮らすしかなかったのだ。

そんな時に彼女は社長と再会したのだった。




 モデル事務所のオープンに向けて、社長は自宅を自力で改装中だったのだ。

だから彼女も住み込みで……


「えっ!?」

俺は有頂天になっていて何も考えていなかった。


「あのー、さっきの言葉聞き逃したのですが、彼女も住み込みだったんですか?」


「そうよ。でも貴方を此処に縛り付けて置けば、彼女に手出しは出来ないでしょ?」


「あっ、そう言うことですか?   嬉しいけど、地獄だー」


「彼女は家のモデルなのよ。手出しは許されないわよ。さっきのキスの代金は後日請求しますので悪しからず」


「えっ、えっーー!?」

社長の声に反応して、俺は自分でも驚くくらいの突拍子のない声を上げていた。




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