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お客様の秘密
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「お父さん。これだけ聞かせて……。あの、お客様は誰? 私、体のいい売春だと噂されてていたの。だから教えて?」
「あ、あれは……」
そう言い出したのは彼だった。
「全員俺がチェックしたから知っているよ。所属は芸能プロダクションで……でも、俳優としての実績はなかったようだ」
「あぁ、そうだ。アイツ等は素人だ。彼処の社長が戦慄の橘遥と遣りたがっている奴を俺に引き合わせるんだ」
「やはり、戦慄ですか? あれは強烈だったからな。それが戦略なのかな? つまり、金が入るのは向こうのプロダクションってことですか?」
海翔さんの鋭い指摘に敵わないとでも思ったのか、父は素直に頷いた。
「売春じゃなかったってこと?」
「いや、本当は娘の言う通り、体のいい売春だったと思う。俺に一銭も入っては来なかっただけだ。ただ月に一度……」
言葉を詰まらせる父は、又あの顔をした。
私は思い出していた。
何が何だか判らないけど、監督も辛いんだと思うようなった頃をのことを……
父は本当に掴み所のない人だったんだ。
「俺も辛かった。はるかと同じ顔をした娘が目の前で……」
父は涙を流していた。
「お父さんも辛かったんだ」
「そりゃそうだよ。幾ら脅されたからと言っても、はるかの娘にあんなことさせて……。だから月ーで許してもらっていたんだ」
「ところで、そのプロダクションって、今は?」
「あぁ、今も健在だ。俺がお客様と呼んでいた人達はどうやら得意先のお偉いさんらしい」
「それで、名を売った訳ですか?」
「ハロウィンの日は俳優陣に頼まれて……。アイツ等は相当魚籠ついていたらしい。だけど、もう一度是非にって……」
「確か『それだけ、お前さんにぞっこんだったことだよ。一度遣らせてくれってお願いされたからにゃ、使ってやらない訳がない』っ言ってたけど」
「本当にお願いされたんだよ」
「解っているよ。アイツ等なら考えそうなことだから……」
「でもだからって、俺をクビにしなくても……」
「解っていたからさ。お前等が互いに思い合っていることが……あのプロダクションからみたら、ウザい存在だったようだ」
「皆知ってて、俺を排除した訳ですか?」
彼は辛そうに言った。
「全てはそのプロダクションの利益にってことですか?」
「あぁ、その通りだ」
「俺がいなくなったら、一々チェックしなくても済む……ってことですか?」
彼の質問に父は頷いた。
「強姦罪の時効も過ぎたからな。だから、誰に遠慮しないで好きに遣れるってことだったようだ。その手始めがアイツ等だったんだ。業界でもトップクラスだからな」
「そんな……」
私は言葉を失った。
「俺が……。俺達が彼処に居なかったなら、地獄の苦しみが橘遥さんに襲い掛かったって訳ですね。だったら、俺達のジレンマも少しは役に立ったってことかな?」
「少しどこじゃない。君達は私達父娘の恩人だ」
父は泣きながら、思い出したように私を見つめた。
「お前があんなこと言うからだぞ」
そして遂に言った。
「あんなことって、もしかしたらヴァージン?」
父は頷いた。
「ヴァージンって?」
「CMの……オーディションで、私言ってしまったの。私はまだヴァージンだって……」
私の発言に海翔さんは黙ってしまった。
「あのオーディションの時、アイツ等はお前に目を着けた。何故あんなことを言ったんだ」
「やはり私のせいだったんだ」
「『家の俳優に物凄くでかいのがいる。あの娘と遣らせたい』って言われた時は鳥肌が立った。『あの娘は素人ですよ』って言ったら『だから良いんだ。調べた限り、あの娘には身寄りがない。天涯孤独だから、後腐れがないだろう』って言ってた」
「後腐れが無いって。お父さんが言った訳じゃないんだ」
「ああ、そうだ。彼処の社長は、現役の大学生と生で遣らせてやるって、アイツ等を喜ばせたんだ。でも子供が出来たら大変だから、俺に健康管理表を盗ませたんだ。」
「それで事務所に行ったの。」
「其処で、本当の生年月日を知って驚いたいた。俺は……」
「解ってるよお父さん。自分の子供じゃないかと疑っていた私の生年月日が予想を外れていたから……、それに橘はるかさんを恋人だったはるかさんだと思い込んだのよね? でもお父さん間違えてるよ。お母さん、きっとあの時ヴァージンじゃなかった?」
「あっ、そうだった」
「だったら私がその前に出来ているはずなんかないじゃない」
「そうだったな。俺は何を思い違いしていたのだろうか?」
父は頭を抱えた。
「本当はお前のせいなんかじゃないんだ。俺が初めてお前を見た時のリアクションで社長は何かを感じたのかも知れないな」
思い詰めたように父は言った。
「恨んでいたんだよ。はるかを……俺より先にアイツに身体を開いたことを……アイツを受け入れたことを……」
自分の愚かさに気付いたのか、父は咽び泣いていた。
「でも、お父さん思い出したんでしょう。私と同じように印しがあったことを……」
「あぁ、ヴァージンだって証拠は確かにあったよ。でもそんなもん、すぐに再生出来るんだよ。俺はそんな取材も遣らされていたから解るんだ。だからはるかに其処までさせたアイツが許せなったんだよ」
「違うよ。きっとお父さんとが絶対に最初だよ」
「そうだ。絶対にそうだ。俺はあの時、夜叉になったのかも知れない。はるかとアイツとの関係を疑った時に……」
「だから、私にあんなことさせたの?」
「そうだ。でもそれだけじゃ復讐にならないと思って、社長の言い付け通りに巨根のヤツに遣らせたんだよ。お前の苦しむ顔が見たくって。でもお前と本当は初めに遣りたかったんだ。はるかとアイツに復讐するために……」
「だから、行っちゃったんですか? 俺の後で?」
「お前は、俺の彼女としこたま遣ってた。でもそれでも飽きたらなくて、被写体相手を思う存分堪能してた。カメラマンのお前が、商売道具のカメラを俺に渡して……好き放題に遣ってた。頭に来たんだよ。娘の声が変わっていたのが解ってな」
「えっ!?」
父は気付いていたんだ。
私が彼にイカされたことを。
だから余計許せなかったんだ。
「気が付いたら俺も遣っちまってた。だから……『もっと力を入れろ。俺は気が短いんだ。みんなと同じ思いをさせないと後が怖いぞ』って苦し紛れに言ってたんだ」
父はそう言った後で彼を睨んだ。
「お前の後は物凄かった。きっと初めて生でやったんだろう。そんなヤツを彼女は愛してるって言ったんだ。だから、いい拾い物をしたと言ったんだ。お前を地獄へ墜とす良い機会だと思ってな」
「いい拾い物って、やっぱり俺のだったんだ」
「他に何も無いだろう」
『あぁ、本当だ。マジに気持ちいい!! コイツはいい拾い物をしたな』
私は父の言葉を思い出していた。
「だからお前を苦しめたかった。はるかの娘と言う許嫁がいるのに、俺の彼女を寝取ったお前にも地獄の苦しみを味あわせたかったんだ。それが俺を裏切った二人への復讐になると思ってな」
「そんなに……そんなに恨んでいたんだ、お母さんを」
「あぁ。まさか、お前が本当の娘だったなんて知らずにな……」
「でも……幾ら復讐のためだと言っても、偽の借用書でがんじがらめにしなくても」
「何!?」
「社長に言われたの。私の借金はあのCMの契約金で無くなったんだってね?」
「えっ!? 嘘だろ?」
「監督、本当ですよ。だから監督が嘘を付いて彼女を縛り付けたって……。えっ!? 知らなかったんですか?」
「それじゃ俺が渡された物は?」
「彼女が所属していた事務所が保管していた物のようです。確かにその頃には借金はありました。でも完済寸前で……」
「あのCMの契約金で……後僅かだったんだって。完済の見通しが着いたので破棄寸前だったらしいの」
「嘘だ。だったら俺は何のために?」
「監督を金儲けの道具に使うためではないのかな?」
「会社に利益をもたらせてくれる得意先が、橘遥さんの御相手のようでしたから」
「あぁそうだよ。だから俺もお客様って言ってたんだ」
「どうしてそんなことになったのですか?」
「俺の映像で作り話を放映して番組に穴を開けたヤツがいる。その代償にAVを製作されられたんだ」
「例のヤラセですか?」
父は頷いた。
「確か……。密林の奥に新人類発見……とか、でしたよね?」
「良く前人未踏ってのがあるだろう? でも、鎖でやロープで降りて来るのを下から撮影したりして……。カメラマンが先に入っているとか批評があったりして……。俺のもそうだった。道も何も無い密林の奥の映像なのに車が映っていたんだ」
「流石にそれはヤラセだって言われますね。でももしかしたら被害者を装った。のかも知れませんね」
彼の言葉に、父は戸惑いを隠せなかった。
「故意か?」
「それ以外考えられません」
「そうだとしたら、あの時バッシングされたタレントは?」
「どうせ使い捨てですよ。落ち目になった人を使ったようですから」
「そんな……」
海翔さんの言葉に私は声を失った。
「あのプロダクションが大きくなったのは結局豚の寄生虫で亡くなった方のお陰なんですよね? だったら考えられます」
「其処まで調べてくれたのか? そうだよ。其処からの腐れ縁だ」
「保険金を騙し取る目的で二人共殺されかけたんですよね?」
「豚の生肉なんかを判らないように入れられてな……。発祥したのは俺達だけだった」
「監督だから特別料理だったと聞きましたが」
「其処まで調べたのか?」
父は驚きの声を上げた。
「だとしたら……」
「きっと俺は奴等にハメられたんだな。だからAV続行を要求してきた訳か?」
「つまり、私は本当に売春はしていないのね?」
「だから、頼みがある。告訴は取り消さないでくれ。俺はあのプロダクションの事態を裁判で明らかにするつもりだ。俺達父娘を地獄に突き落としたアイツ等にも責任の一端はあるんだから」
「責任の一端ではなくて、初めから嵌められた感が否めないのですが……」
「もうすぐ二十年だ。そんな前の出来事を……、それで脅されたのはあの撮影の少し前だったけどな」
「民事で時効は二十年だと聞きましたが……」
「それでも訴えるってことか? いや、俺もそれを考えた。でもそんな前のことを覚えている人がいるだろうか?」
「豚の寄生虫の犠牲者の方の救済も考えてください。あの人は、社長の家族でも無ければ会社の役員でも何でもなかったそうです。ただの社員で、保険金目的で現地に送り込まれたらしいです。その証拠に、保険金は全て会社に入ったようです。奥様に確認済みですから間違いありません」
「えっ、そうなのか!?」
「橘遥さんとの撮影で、素人に俳優をさせていた人達だよ。頭の中はお金のことばっかりじゃなかったのじゃないのかな?」
「奴はあの前に、別の取材で戦地に行かされたようだ。其処で死ぬかと思ったそうだ」
「だから今度は、生の豚肉でジワジワと殺そうとしたのですか? 豚肉には有鉤条虫と言う寄生虫がいて、脳に入り込ませたとか聞きましたが?」
「違う。今、思い出した。生の豚肉ではなく、生き血だった」
「生き血!?」
その場にいた全員が一斉に言った。
「俺達は騙されていたんだ。其処の儀式だとか言われて、何度も血を飲まされたんだ。それがきっと豚だったのだろう」
「そう言えば確か中国に豚の生き血が好きな人がいて……確か脳に沢山入り込んだと聞いたことがあります」
海翔さんは、ネットで有鉤条虫を調べたそうだ。
「監督の映像を勝手に使用して番組に穴を開けたのも、被害者を装ったのも……」
「そうか。全部あのプロダクションの企みだったってことか?」
「証拠は何一つありませんが……」
「イヤ、証拠ならある。すまんが考えさせてくれ」
父はそう言って、席を一旦立ってから又座った。
「南米のインカ帝国が滅亡した原因が何だか知っているか?」
父の質問に首を振った。
「スペイン人が持ち込んだ天然痘だそうだ。スペイン人は免疫があったけど、インカの人達はそのために戦えなくなったそうだ。だから未開の土地に行く時は充分の配慮をしなければならないのだ」
父はそう言うと、面会室から出て行った。
「あ、あれは……」
そう言い出したのは彼だった。
「全員俺がチェックしたから知っているよ。所属は芸能プロダクションで……でも、俳優としての実績はなかったようだ」
「あぁ、そうだ。アイツ等は素人だ。彼処の社長が戦慄の橘遥と遣りたがっている奴を俺に引き合わせるんだ」
「やはり、戦慄ですか? あれは強烈だったからな。それが戦略なのかな? つまり、金が入るのは向こうのプロダクションってことですか?」
海翔さんの鋭い指摘に敵わないとでも思ったのか、父は素直に頷いた。
「売春じゃなかったってこと?」
「いや、本当は娘の言う通り、体のいい売春だったと思う。俺に一銭も入っては来なかっただけだ。ただ月に一度……」
言葉を詰まらせる父は、又あの顔をした。
私は思い出していた。
何が何だか判らないけど、監督も辛いんだと思うようなった頃をのことを……
父は本当に掴み所のない人だったんだ。
「俺も辛かった。はるかと同じ顔をした娘が目の前で……」
父は涙を流していた。
「お父さんも辛かったんだ」
「そりゃそうだよ。幾ら脅されたからと言っても、はるかの娘にあんなことさせて……。だから月ーで許してもらっていたんだ」
「ところで、そのプロダクションって、今は?」
「あぁ、今も健在だ。俺がお客様と呼んでいた人達はどうやら得意先のお偉いさんらしい」
「それで、名を売った訳ですか?」
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「解っているよ。アイツ等なら考えそうなことだから……」
「でもだからって、俺をクビにしなくても……」
「解っていたからさ。お前等が互いに思い合っていることが……あのプロダクションからみたら、ウザい存在だったようだ」
「皆知ってて、俺を排除した訳ですか?」
彼は辛そうに言った。
「全てはそのプロダクションの利益にってことですか?」
「あぁ、その通りだ」
「俺がいなくなったら、一々チェックしなくても済む……ってことですか?」
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「強姦罪の時効も過ぎたからな。だから、誰に遠慮しないで好きに遣れるってことだったようだ。その手始めがアイツ等だったんだ。業界でもトップクラスだからな」
「そんな……」
私は言葉を失った。
「俺が……。俺達が彼処に居なかったなら、地獄の苦しみが橘遥さんに襲い掛かったって訳ですね。だったら、俺達のジレンマも少しは役に立ったってことかな?」
「少しどこじゃない。君達は私達父娘の恩人だ」
父は泣きながら、思い出したように私を見つめた。
「お前があんなこと言うからだぞ」
そして遂に言った。
「あんなことって、もしかしたらヴァージン?」
父は頷いた。
「ヴァージンって?」
「CMの……オーディションで、私言ってしまったの。私はまだヴァージンだって……」
私の発言に海翔さんは黙ってしまった。
「あのオーディションの時、アイツ等はお前に目を着けた。何故あんなことを言ったんだ」
「やはり私のせいだったんだ」
「『家の俳優に物凄くでかいのがいる。あの娘と遣らせたい』って言われた時は鳥肌が立った。『あの娘は素人ですよ』って言ったら『だから良いんだ。調べた限り、あの娘には身寄りがない。天涯孤独だから、後腐れがないだろう』って言ってた」
「後腐れが無いって。お父さんが言った訳じゃないんだ」
「ああ、そうだ。彼処の社長は、現役の大学生と生で遣らせてやるって、アイツ等を喜ばせたんだ。でも子供が出来たら大変だから、俺に健康管理表を盗ませたんだ。」
「それで事務所に行ったの。」
「其処で、本当の生年月日を知って驚いたいた。俺は……」
「解ってるよお父さん。自分の子供じゃないかと疑っていた私の生年月日が予想を外れていたから……、それに橘はるかさんを恋人だったはるかさんだと思い込んだのよね? でもお父さん間違えてるよ。お母さん、きっとあの時ヴァージンじゃなかった?」
「あっ、そうだった」
「だったら私がその前に出来ているはずなんかないじゃない」
「そうだったな。俺は何を思い違いしていたのだろうか?」
父は頭を抱えた。
「本当はお前のせいなんかじゃないんだ。俺が初めてお前を見た時のリアクションで社長は何かを感じたのかも知れないな」
思い詰めたように父は言った。
「恨んでいたんだよ。はるかを……俺より先にアイツに身体を開いたことを……アイツを受け入れたことを……」
自分の愚かさに気付いたのか、父は咽び泣いていた。
「でも、お父さん思い出したんでしょう。私と同じように印しがあったことを……」
「あぁ、ヴァージンだって証拠は確かにあったよ。でもそんなもん、すぐに再生出来るんだよ。俺はそんな取材も遣らされていたから解るんだ。だからはるかに其処までさせたアイツが許せなったんだよ」
「違うよ。きっとお父さんとが絶対に最初だよ」
「そうだ。絶対にそうだ。俺はあの時、夜叉になったのかも知れない。はるかとアイツとの関係を疑った時に……」
「だから、私にあんなことさせたの?」
「そうだ。でもそれだけじゃ復讐にならないと思って、社長の言い付け通りに巨根のヤツに遣らせたんだよ。お前の苦しむ顔が見たくって。でもお前と本当は初めに遣りたかったんだ。はるかとアイツに復讐するために……」
「だから、行っちゃったんですか? 俺の後で?」
「お前は、俺の彼女としこたま遣ってた。でもそれでも飽きたらなくて、被写体相手を思う存分堪能してた。カメラマンのお前が、商売道具のカメラを俺に渡して……好き放題に遣ってた。頭に来たんだよ。娘の声が変わっていたのが解ってな」
「えっ!?」
父は気付いていたんだ。
私が彼にイカされたことを。
だから余計許せなかったんだ。
「気が付いたら俺も遣っちまってた。だから……『もっと力を入れろ。俺は気が短いんだ。みんなと同じ思いをさせないと後が怖いぞ』って苦し紛れに言ってたんだ」
父はそう言った後で彼を睨んだ。
「お前の後は物凄かった。きっと初めて生でやったんだろう。そんなヤツを彼女は愛してるって言ったんだ。だから、いい拾い物をしたと言ったんだ。お前を地獄へ墜とす良い機会だと思ってな」
「いい拾い物って、やっぱり俺のだったんだ」
「他に何も無いだろう」
『あぁ、本当だ。マジに気持ちいい!! コイツはいい拾い物をしたな』
私は父の言葉を思い出していた。
「だからお前を苦しめたかった。はるかの娘と言う許嫁がいるのに、俺の彼女を寝取ったお前にも地獄の苦しみを味あわせたかったんだ。それが俺を裏切った二人への復讐になると思ってな」
「そんなに……そんなに恨んでいたんだ、お母さんを」
「あぁ。まさか、お前が本当の娘だったなんて知らずにな……」
「でも……幾ら復讐のためだと言っても、偽の借用書でがんじがらめにしなくても」
「何!?」
「社長に言われたの。私の借金はあのCMの契約金で無くなったんだってね?」
「えっ!? 嘘だろ?」
「監督、本当ですよ。だから監督が嘘を付いて彼女を縛り付けたって……。えっ!? 知らなかったんですか?」
「それじゃ俺が渡された物は?」
「彼女が所属していた事務所が保管していた物のようです。確かにその頃には借金はありました。でも完済寸前で……」
「あのCMの契約金で……後僅かだったんだって。完済の見通しが着いたので破棄寸前だったらしいの」
「嘘だ。だったら俺は何のために?」
「監督を金儲けの道具に使うためではないのかな?」
「会社に利益をもたらせてくれる得意先が、橘遥さんの御相手のようでしたから」
「あぁそうだよ。だから俺もお客様って言ってたんだ」
「どうしてそんなことになったのですか?」
「俺の映像で作り話を放映して番組に穴を開けたヤツがいる。その代償にAVを製作されられたんだ」
「例のヤラセですか?」
父は頷いた。
「確か……。密林の奥に新人類発見……とか、でしたよね?」
「良く前人未踏ってのがあるだろう? でも、鎖でやロープで降りて来るのを下から撮影したりして……。カメラマンが先に入っているとか批評があったりして……。俺のもそうだった。道も何も無い密林の奥の映像なのに車が映っていたんだ」
「流石にそれはヤラセだって言われますね。でももしかしたら被害者を装った。のかも知れませんね」
彼の言葉に、父は戸惑いを隠せなかった。
「故意か?」
「それ以外考えられません」
「そうだとしたら、あの時バッシングされたタレントは?」
「どうせ使い捨てですよ。落ち目になった人を使ったようですから」
「そんな……」
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「責任の一端ではなくて、初めから嵌められた感が否めないのですが……」
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「民事で時効は二十年だと聞きましたが……」
「それでも訴えるってことか? いや、俺もそれを考えた。でもそんな前のことを覚えている人がいるだろうか?」
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「えっ、そうなのか!?」
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「だから今度は、生の豚肉でジワジワと殺そうとしたのですか? 豚肉には有鉤条虫と言う寄生虫がいて、脳に入り込ませたとか聞きましたが?」
「違う。今、思い出した。生の豚肉ではなく、生き血だった」
「生き血!?」
その場にいた全員が一斉に言った。
「俺達は騙されていたんだ。其処の儀式だとか言われて、何度も血を飲まされたんだ。それがきっと豚だったのだろう」
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海翔さんは、ネットで有鉤条虫を調べたそうだ。
「監督の映像を勝手に使用して番組に穴を開けたのも、被害者を装ったのも……」
「そうか。全部あのプロダクションの企みだったってことか?」
「証拠は何一つありませんが……」
「イヤ、証拠ならある。すまんが考えさせてくれ」
父はそう言って、席を一旦立ってから又座った。
「南米のインカ帝国が滅亡した原因が何だか知っているか?」
父の質問に首を振った。
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