受胎告知・第二のマリア

四色美美

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アンビエンスエフェクトとは?

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 あのケーゲーは眞樹が中心となり、オカルト集団が洗脳目的で配信したサイトだった。
携帯ショップを経営している眞樹の家。
携帯を加工する位簡単なことだったのだ。
中古携帯。
余り携帯。
金やレアアースを獲得するために集められた大量の携帯電話。
それらの中から、まだ使える部品を集め製品にして機種変更の人に安く提供していたのだった。




 まず地域の学生をターゲットに選ぶ。
そして安く販売する。
運営費は、有事対策費が使われた。
本当の目的は、日本人に恐怖を植え付けるためだった。
何時攻撃されてもおかしくない。
そんな状況を知らしめるために。
だから完全無料のCMなしだったのだ。


『おそらく、どっかの宗教団体が洗脳目的で遣っているんだろうよ』
誰かがそんなこと言っていたけど、どうやら当たっていたらしい。




 でもアンビエンスエフェクトだけは違っていた。
高熱を発生させるために作られたソフトだった。
作ったのは勿論、天才眞樹だった。
サブリミナル効果をふんだんに使い脳にインプットする。
特殊電波で錯乱状態を一時的に作り上げる。
恋愛シミュレーションゲームに熱中させ、効果倍増も狙った。
ゲームを十八禁にしたのには理由があった。
ターゲットは、十八禁に慣れていない十八歳になったばかりの高校三年生。
彼らに刺激の強い恋愛シミュレーションゲームをやらて、高熱が出る実験をしていたのだった。
自分達の学校が舞台ならイヤでも興奮するだろう。
だから最新型インフルエンザの患者は、高校三年生のみだったのだ。
俺が十八歳になった時に遣らせるつもりだったらしい。
でも間違えて持ち帰った携帯電話のせいで、予想外のことが起きた。
俺が眞樹にかかってきたメールで、サイトにアクセスして遊んでしまったからだった。




 実験版『アンビエンス エフェクト』は、恋に不慣れな俺のためのゲームだった。
そうあくまでも、あれは実験版だったのだ。
眞樹はきっと、俺を抹殺する目的であのゲームを作ったのだ。
これは俺の推測の範囲なのだが、それ以外考えられなかったのだ。
俺が初恋さえも未経験な事実を知りながら、自分の作ったシミュレーションゲームを試してみたかったのだ。
俺はそれほど軽く見られていたのか?
それとも、抹殺したいほど俺と言う存在にビビっていたのだろうか?




 (あの『アンビエンス エフェクト』は、眞樹の腕試しの目的で開発されたゲームに違いない)
俺はそう感じた。
恋も知らない俺に
恋をさせる、そして。


『喬落ちて』
その書き込みを見て、俺が屋上から飛び降りる事を期待していたのだ。
俺が高所恐怖症だと知っていながら、眞樹は試したのだ。
それは二人が双子だと悟った時から始まった、父への報酬にほかよらなかった。
眞樹はそれほどまでに、氷室博士教授を憎んでいたのだ。
博士によって背負わされた運命に一人で立ち向かいながら。
そう眞樹も一人だったのだ。
俺と同様に。




 「何故俺の携帯で十八禁ゲームが出来るのか不思議だったろう?」
俺は頷いた。


「答えは簡単さ。俺様が作ったゲームだからだ。自分の携帯からアクセスして、ゲームの修正出来るようにしておいたんだ」


「そんなことが出来るんか!?」


「当たり前だ! 俺様に不可能はない。日本中の、いや世界中の薄汚い大人をこの世から抹殺するためのゲームにしたかった。その準備段階だった」


「何言ってんだぁ。自分のゲームで熱を出していたクセに。」
俺は皮肉たっぷりに言ってやった。


「本当に馬鹿だなお前は。どんなもんか試しただけだよ。そんなことも分かんないのか」


「あぁー分かんねえよ。オカルト教団の狂った考え方なんて」
俺は友人だと思っていた眞樹がどんどん離れて行くことを本当は悲しんでいた。
思わずオカルト教団だと言ってしまった。
でも眞樹は否定も肯定もしなかった。




 「もう一つ分からないことがある。何故学校だったんだ?それもリアルな」


「俺は本当にお前の死を望んでいた」


「何っ!?」
俺は思わず声を張り上げた。
薄々は感じ取ってはいた。
でも、こうもリアルに認められると。


「天才は俺様一人でいい。いつかお前に完成したゲームをやらせ、屋上から飛び降りて欲しくてな。まあ警察は自殺としか見てくれないと思うけど」


「お前が殺ったと証拠が残らないのが不満か!?」
眞樹は頷いた。


「卵巣を提供した母は……」


「提供!? そんなんじゃないだろう!? 強引に奪ったくせに!」
俺は身勝手な眞樹の言い分に腹を立てていた。


「まあ聞け。卵巣の提供者の母は五感を使って絵を描く人だったらしい。その上行ってもいない場所に意識を飛ばして、絵を描いてみせた」
眞樹のその言葉で、あの真っ白な部屋の映像で見た女性が本当の母であると確信した。
母が俺に示してくれた将来像。
それは、やはり父の思惑だったのだろうか?




 「どうやらお前には母の遺伝子が強く出たらしいな。父がこよなく愛したあの小松成実の」
俺は自分の手をじっと見ていた。
まだ宇都宮まこと感覚が残っていた。


「お前は母親と同じように意識を飛ばして、宇都宮まことに遭った。俺は丁度その頃退院して、ゲームの指導室に入った。そしてお前が俺の携帯で遊んでいる事を知った。だから直ぐに配信を止めた」


「ゲームオーバーか?」
眞樹は頷いた。


「本当にお前なのか確かめた。『喬?』『17』で本当だと分かった。それで作戦を変更した」


「作戦変更? 一体」
俺の頭の中で、話はこんがらがっていた。


「俺はお前の真っ白い部屋にある映写機にも、学校の映像を流せるように仕掛けをしておいた」


「何っ!?」


「まあ、そんなに怒るな。運良く生き延びたのだからな」
眞樹は余裕の表情だった。




 「俺は宇都宮まことに催眠術をかけ、お前家の真っ白な部屋にこっそり連れて行った」


(えっ!?)
俺は何故眞樹があの部屋のことを知っているのか分からず戸惑っていた。


(母が教えたのだろうか? 宇都宮まことはあの部屋に居たのか? だから俺達は一緒に落ちたのか?)
俺は隣で眠っている宇都宮まことを見つめた。
ただひたすら謝りたい。
そんな思いを込めて。


「其処に学校に仕掛けた隠しカメラの映像を流した。お前の意識は彼女を捜し、彼女の絵を描いた。そしてお前は部屋のドアを開け飛び降りた。お前は知らないと思うが、あの部屋は三階だった。運良くこの程度で済んだことを誇りに思え。全く惜しいことをしたよ。抹殺出来たのに」
眞樹は不適な笑みを俺に向けた。


「携帯で遊んでいるのがお前だと知った時、本当に天才かどうか試したくなった」


「だから美術室か?」
眞樹は頷いた。


「隠しカメラは三年生の教室。屋上。美術室に仕掛けておいた。もっとも、他の連中は殆どが教室だけのプレイだったけどな」




 俺は自ら彼処を選んだのか?
何がリアルゲームだ。
騙されていただけじゃないか。
俺は何て大馬鹿者なんだ。
俺はただカメラの映像の中で遊ばれているだけだった。


(ごめん……、本当にごめん)
俺は泣いていた。
未だに目覚めない宇都宮まことを思いながら。




 「坊ちゃま。私にはこの子が生きがいでした。だからこの子を助けてやって下さいまし」
代理母が懇願している。


(生きがい? そうかだから育ててくれたのか)
俺はこの代理母が、哀れでならなかった。
父である天才科学者を愛した為に背負わされた運命。
その大きさに押しつぶされそうになりながらも、母として守ってくれた兄弟。
俺にはこの代理母が聖母マリアのように思えていた。
俺は代理母の愛の深さに気付き、育ててもらったことを改めて感謝した。

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