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起きた瞬間から無かった
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……て…………きて……。
真っ暗な空間の中で唯一響く音と波に揺られているような感覚。
視覚が機能しないこの空間の中で聴覚だけが研ぎ澄まされていた。
何故自分がこんな場所にいるのか。いや、そもそも自分とは誰なのか。思い出そうとしても、思い出す記憶が見当たらない。
自分のことの記憶がリセットされたような頭では何もわからなかった。
……きて、おきて。
幼い少女が誰かに呼びかけている。
声の大きさ的に少女が近くにいるのは分かるのだが、この真っ暗な空間の中では少女の表情を見ることは出来なかった。全て声だけで判断することしか出来ないのだ。
おきて、おきて、と語りかけてくる少女の声は酷く焦っているように感じる。
誰に呼びかけているのだろうか。早く起きてあげないとその女の子が心配するだろう。か弱い女の子をそんな不安にさせてはいけないよ。
波に漂っているだけの自分が言えることではないけれど。
「起きてください!」
「……俺!?」
「まったく……魂の修復に失敗したかと思ったじゃないですか!」
間近になった声に驚いて目を開けると、そこにはおめめくりっくりの幼女が俺の顔を覗き込んでいた。
その表情はムスッとむくれていて、誰が見ても不機嫌です。今すごく怒っていますよ!と察する程だった。
何故彼女がここまで怒っているのか理解できない。それにあんなにしつこく起きろ起きろと言われていたのは自分だったのかという恥ずかしさに襲われて、俺は何も言えずに目の前の幼女をただじっと見つめていた。
「そんなにジロジロ見ないでください」
「え、あ、ごめんなさい」
「まったく……それよりも一刻も早くあなたの事をどうにかしないとですね」
「俺の事?」
「ええ。今、あなたの魂はここに来たばかりで不安定なんです。そんな状態な上に傷まで負ってしまった。このままではあなたの魂は人間の器に入る前に完全に消滅してしまいます。だからこれから貴方という人間を構成するんです」
わからん。この子は何を言っているのだろうか。
誰だ、こんないたいけな幼女にラノベを読ませたのは。ライトノベルなんてものは中学生頃から読ませればいいのだ。
小学生低学年の女の子に読ませていいものでは無いだろう。もっと他に読ませるべき本があったはずだ。
厨二病な言葉を並べていく女の子を黙って見つめる俺。
彼女の発した言葉のせいで今まで気づかなかったのだが、彼女が着ている服も少しやばかった。もしかして常にこの格好なのだろうか。
いや、世の中にはこういうファッションも出回っているのは知っている。だからそんなに引いてしまうことはないのだけれど……いやいやいや、待て待て。どこのお姫様だよ。てか、金髪なのかよ!親御さんはパリピか何かなのか!?
幼女の姿をまじまじと見る。
金髪の髪は腰あたりまであり、触りたくなってしまうほどの艶。髪の毛一本一本が丁寧にケアされているのかと思うほどのサラサラヘアー。その頭には結婚式とかで見かける純白のベールが乗っかっている。
そして彼女の服はフリルが大量に付いているドレス。ほんとにどこのお嬢様ですか?と聞きたくなるくらいの豪華な衣装だった。
そのせいか首元にあるチョーカーだけが異質だった。
彼女を縛っているように見える鎖のチョーカー。これも趣味だと言われたら、あぁ、ソウナンデスネ。と返すしかないけれど。
「君は一体誰なんだ?」
「私はアリス。この場所を守護し、彷徨う魂を解放し次の輪廻へと送るものよ」
「…………ごめん、もっと噛み砕いて話してもらってもいいですか……?」
「この場所は人間が死んだ後に通る場所。ここを通って人間の魂は全ての記憶を消し去って次の運命へと行くの。でも、稀にその魂を狙って天界の天使が奪いに来る。天使達からして人間の魂は不浄なものなの。次の運命に行く人間の魂を消滅させようとしてくるのよ。それを阻止するのが私の役目」
「人間が死んだ後に通る場所? じゃあ、俺は死んでるってことなのか?」
「ええ。貴方は死んでいる。それに先程貴方は天使によって魂を傷つけられているの」
彼女の話を鵜呑みにしているわけではないのだが、いやまず全部信じろというのがおかしな話なのだが。
彼女のあまりにも真剣な顔と、彼女の後ろに広がる血溜まりのようなものを見て、何も言えなくなった。
血溜まりの中にある白い翼のようなもの。その中に埋もれている人間のような腕。あそこに転がっているのが天使だとでもいうのだろうか。
「貴方の魂は1度消滅しかけたの。私の力で消滅した部分を補ったのだけど……今のままでは不完全な状態。そのまま還ったら貴方は確実に人間としては生まれかえれないわ」
「でも、魂の修復? みたいなのは済んでるんだろ?」
「そうよ。この場所で無理やりだけど、人間として形を作ったことでなんとか保っているの。不安定な魂を守るためにはそうするしかなかった。貴方をこのまま新たな運命の中へと送り届ける」
上手く理解できないがなんとか全部飲み込んでいく。
不安定な魂。本来なら完全な状態で次の人生へと送り出されるのだろうが、俺は天使とかっていう道の存在に魂をボコボコにされてしまったらしい。
彼女の力のおかけで俺は俺として存在しているのだが、それでもまだ不完全な状態。このまま次の人生へと飛び立とうとしても、生まれる前に死んでしまうということだろう。
多分、そういう説明であっているはず、な気がする。
ふと自分の今の状態が気になり、寝かされていた身体を起こそうと腕に力を入れる。
形としての人間というのに疑問を感じた俺は、自分の今の姿を確認しようと鏡を探した。
上体を起こして立ち上がろうと足に力を入れるが、腰を上げることができない。どうやら体を自由に動かすことも出来ない状態に陥っているらしい。
仕方ない。今はまだ形としての人間だと言われたのだ。この姿が次の人生での俺の身体になるとは限らないだろう。
「貴方はまだ不完全な状態だからあまり動かないで。私も初めてのことだから……こういう事には慣れてないの。何があるかわからないから変なことはしないで」
そう言って彼女は俺の額に手を当てて目を閉じる。それにならうように俺も目を閉じて彼女に身体を預けた。
彼女の手から流れ込んでくる温かい気のようなものが体の内側に染み入るように入っていく。
冷たかった体が温かみを帯びていくのを感じながら、これからの事を考えていた。
俺の人生もしかして最初からクライマックス?
真っ暗な空間の中で唯一響く音と波に揺られているような感覚。
視覚が機能しないこの空間の中で聴覚だけが研ぎ澄まされていた。
何故自分がこんな場所にいるのか。いや、そもそも自分とは誰なのか。思い出そうとしても、思い出す記憶が見当たらない。
自分のことの記憶がリセットされたような頭では何もわからなかった。
……きて、おきて。
幼い少女が誰かに呼びかけている。
声の大きさ的に少女が近くにいるのは分かるのだが、この真っ暗な空間の中では少女の表情を見ることは出来なかった。全て声だけで判断することしか出来ないのだ。
おきて、おきて、と語りかけてくる少女の声は酷く焦っているように感じる。
誰に呼びかけているのだろうか。早く起きてあげないとその女の子が心配するだろう。か弱い女の子をそんな不安にさせてはいけないよ。
波に漂っているだけの自分が言えることではないけれど。
「起きてください!」
「……俺!?」
「まったく……魂の修復に失敗したかと思ったじゃないですか!」
間近になった声に驚いて目を開けると、そこにはおめめくりっくりの幼女が俺の顔を覗き込んでいた。
その表情はムスッとむくれていて、誰が見ても不機嫌です。今すごく怒っていますよ!と察する程だった。
何故彼女がここまで怒っているのか理解できない。それにあんなにしつこく起きろ起きろと言われていたのは自分だったのかという恥ずかしさに襲われて、俺は何も言えずに目の前の幼女をただじっと見つめていた。
「そんなにジロジロ見ないでください」
「え、あ、ごめんなさい」
「まったく……それよりも一刻も早くあなたの事をどうにかしないとですね」
「俺の事?」
「ええ。今、あなたの魂はここに来たばかりで不安定なんです。そんな状態な上に傷まで負ってしまった。このままではあなたの魂は人間の器に入る前に完全に消滅してしまいます。だからこれから貴方という人間を構成するんです」
わからん。この子は何を言っているのだろうか。
誰だ、こんないたいけな幼女にラノベを読ませたのは。ライトノベルなんてものは中学生頃から読ませればいいのだ。
小学生低学年の女の子に読ませていいものでは無いだろう。もっと他に読ませるべき本があったはずだ。
厨二病な言葉を並べていく女の子を黙って見つめる俺。
彼女の発した言葉のせいで今まで気づかなかったのだが、彼女が着ている服も少しやばかった。もしかして常にこの格好なのだろうか。
いや、世の中にはこういうファッションも出回っているのは知っている。だからそんなに引いてしまうことはないのだけれど……いやいやいや、待て待て。どこのお姫様だよ。てか、金髪なのかよ!親御さんはパリピか何かなのか!?
幼女の姿をまじまじと見る。
金髪の髪は腰あたりまであり、触りたくなってしまうほどの艶。髪の毛一本一本が丁寧にケアされているのかと思うほどのサラサラヘアー。その頭には結婚式とかで見かける純白のベールが乗っかっている。
そして彼女の服はフリルが大量に付いているドレス。ほんとにどこのお嬢様ですか?と聞きたくなるくらいの豪華な衣装だった。
そのせいか首元にあるチョーカーだけが異質だった。
彼女を縛っているように見える鎖のチョーカー。これも趣味だと言われたら、あぁ、ソウナンデスネ。と返すしかないけれど。
「君は一体誰なんだ?」
「私はアリス。この場所を守護し、彷徨う魂を解放し次の輪廻へと送るものよ」
「…………ごめん、もっと噛み砕いて話してもらってもいいですか……?」
「この場所は人間が死んだ後に通る場所。ここを通って人間の魂は全ての記憶を消し去って次の運命へと行くの。でも、稀にその魂を狙って天界の天使が奪いに来る。天使達からして人間の魂は不浄なものなの。次の運命に行く人間の魂を消滅させようとしてくるのよ。それを阻止するのが私の役目」
「人間が死んだ後に通る場所? じゃあ、俺は死んでるってことなのか?」
「ええ。貴方は死んでいる。それに先程貴方は天使によって魂を傷つけられているの」
彼女の話を鵜呑みにしているわけではないのだが、いやまず全部信じろというのがおかしな話なのだが。
彼女のあまりにも真剣な顔と、彼女の後ろに広がる血溜まりのようなものを見て、何も言えなくなった。
血溜まりの中にある白い翼のようなもの。その中に埋もれている人間のような腕。あそこに転がっているのが天使だとでもいうのだろうか。
「貴方の魂は1度消滅しかけたの。私の力で消滅した部分を補ったのだけど……今のままでは不完全な状態。そのまま還ったら貴方は確実に人間としては生まれかえれないわ」
「でも、魂の修復? みたいなのは済んでるんだろ?」
「そうよ。この場所で無理やりだけど、人間として形を作ったことでなんとか保っているの。不安定な魂を守るためにはそうするしかなかった。貴方をこのまま新たな運命の中へと送り届ける」
上手く理解できないがなんとか全部飲み込んでいく。
不安定な魂。本来なら完全な状態で次の人生へと送り出されるのだろうが、俺は天使とかっていう道の存在に魂をボコボコにされてしまったらしい。
彼女の力のおかけで俺は俺として存在しているのだが、それでもまだ不完全な状態。このまま次の人生へと飛び立とうとしても、生まれる前に死んでしまうということだろう。
多分、そういう説明であっているはず、な気がする。
ふと自分の今の状態が気になり、寝かされていた身体を起こそうと腕に力を入れる。
形としての人間というのに疑問を感じた俺は、自分の今の姿を確認しようと鏡を探した。
上体を起こして立ち上がろうと足に力を入れるが、腰を上げることができない。どうやら体を自由に動かすことも出来ない状態に陥っているらしい。
仕方ない。今はまだ形としての人間だと言われたのだ。この姿が次の人生での俺の身体になるとは限らないだろう。
「貴方はまだ不完全な状態だからあまり動かないで。私も初めてのことだから……こういう事には慣れてないの。何があるかわからないから変なことはしないで」
そう言って彼女は俺の額に手を当てて目を閉じる。それにならうように俺も目を閉じて彼女に身体を預けた。
彼女の手から流れ込んでくる温かい気のようなものが体の内側に染み入るように入っていく。
冷たかった体が温かみを帯びていくのを感じながら、これからの事を考えていた。
俺の人生もしかして最初からクライマックス?
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