魔法しかなかったから物理で叩いた

麦茶畑の緑茶園

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起きた瞬間から無かった

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「はい。これで一応は大丈夫よ」
「ありがとう、アリス」


 手から伝わっていた温かみが消えると同時にアリスは俺の額から手を離した。
 目を開けてアリスを見ると、彼女はホッと安心したようだった。それほど俺の状態は危機的状況だったのだと嫌でもわかる。


「これから貴方を送り出す準備をするわね。ここでの記憶は全て無くなるから安心して次の人生を歩んで」
「わかった。助けてくれてありがとう」
「私が貴方を守りきれなかったことが悪いんだから。お礼なんていらないわよ」


 今更ながらに思うけど、彼女の言動と見た目が噛み合わないなぁなんて失礼な事を思っていた。
 一見、幼女なのに話始めれば大人の女性のような落ち着きと言葉遣い。これが俗に言うギャップというものなのだろうか。死んだ後にそんな萌えポイントなんていらないが。


「準備出来たからもう送り出せるわよ」


 手をひかれるがまま彼女に着いていくと、そこには大きな扉。どれだけ上を見上げても扉のてっぺんが見えないくらいに大きく、無駄にでかかった。


「ここを通ったら最後ね。もう二度と会うことは無いわ。寄り道しないでちゃんと次の人生へとまっすぐ進むのよ。貴方が幸せになれることをここで祈っているから」
「君も怪我とかしないようにね。なんだかここは物騒な場所みたいだから」


 彼女は一瞬、きょとんとした顔をしてから苦笑いを浮かべた。
 その顔はどことなく嬉しそうな恥ずかしそうなものを含んでいた気がする。


「余計なことは言わなくていいから早く行きなさい!」
「はいはい。じゃあ、また……」


 またね。と言おうとしたが口を閉ざす。
 この扉をくぐれば俺の記憶は全て消えるのだ。彼女のことなど直ぐに忘れる。また会うことなど決してないのに、またなんて言葉はおかしな話だ。


 俺の魂なんてただの通らるすがりの平凡なものだっただろう。そこら辺に咲いている雑草のようなものと変わらないほどの価値のものにここまで親切にしてくれた。消え入りそうなところを懸命に助けてくれたのだ。この恩は忘れたくはない。


「けどきっと忘れるんだろうなぁ」
「何か言った?」
「ううん、なんでもない。それじゃあ俺はそろそろ」
「ええ。いってらっしゃい」
「行ってきます!」


 大きい割に重さを感じさせない音で扉が開く。
 扉の先は真っ暗で何も見えない。一歩踏み出すのを躊躇ってしまうほどに何も無かった。
 この先に俺の新しい人生が待っているのだ。不安と期待が入り交じる中、俺はその闇の中へと足を踏み出した。


闇へと溶け込むように身体は失い自我を失い、俺という存在が消えた。

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