魔法しかなかったから物理で叩いた

麦茶畑の緑茶園

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生まれた瞬間に決められた人生

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「いってきます」
「気をつけてな」
「うん、お土産買ってくるよ」
「物を買ってくるよりも、お前達が無事に帰ってくる方がお土産だよ」


 玄関先で靴紐を結びながら、じいちゃんと背中越しで会話をする。
 母は車の準備をしてくると言って、先に家を出ていた。じいちゃんと顔を合わせるのが気まずいのだろう。朝食を作ってから、出かけるまでの数時間はずっと自室に篭もっていた。じいちゃんに、行ってきますの一言も言わずに母はそそくさと家を出て、俺とじいちゃんだけが玄関に残された。


 俺は昨日の喧嘩を引きずっている。
 じいちゃんと母の今日のやり取りを見ているだけでも、申し訳なくなってしまう。
 別に俺が悪い訳では無いのだろう。先天的に魔力を持って生まれてこなかったのだ。お腹の中に居る時に自力でどうにか出来るものなのでれば、どうにかしていたけれど、そんなのは出来るはずもない。
 

 それでも、自分が悪いのではないか? もしかして後天的に魔力を得ることが出来たかもしれないのに、俺がそれに気づかずにここまで過ごしていたのか? でも、そんなのいつあった? そんなタイミングがあったのであれば、少なくとも魔道士が勘づくはずだ。魔道士が見過ごしたとでも言うのか?
 なんて無駄な自問自答、責任転嫁を繰り返していた。


 無いものは無いのだから諦めろ。それよりも、ないからこその生き方をすればいい。
 じいちゃんが昨日、母と喧嘩していた時にはっきりと言った言葉だ。その言葉で俺の先述の悩みは消え失せていた。
 悪く言えば突き放されたような感覚。だけど、昨日の俺からしたらそれは救いのような一言だった。


 その言葉で母が俺の魔力のことを諦めてくれたなら。
 何度も教会に行って魔力計測をしなくて済む。これ以上、母からの期待を受けなくてもいいのだと。魔法が使えなくったって、生きていけない訳では無いんだ。ただ少し不便な生活を送るだけであって、別に死ぬ訳でもないんだよ。
 じいちゃんがよく話してくれる昔の人達のような暮らしをしていればいい。昔の人には魔力なんてものはなかったんだから。


 だから、俺は大丈夫。
 魔法がなくたって、俺には母やじいちゃんがいるから辛くなんてないし、生まれてきた意味が無いなんて思わないよ、と。


 そう言って、いつものように元気に笑えたはずだった。また何事もなく普通の毎日がくるのだと、そう思っていた。


 そう思っていたのだが、俺の思いとは裏腹に、母はまだ諦めきれていないのか、教会には必ず行かせると言って、じいちゃんの言葉を突っぱねていた。
 そんな母の姿を見て呆れてものも言えなくなったじいちゃんと、俺の意思は尊重されることないのだと痛感した。


 靴紐を結んで立ち上がる。
 靴の先端をとんとんとん、とリズムよく地面に叩きつける。地面を蹴ることによって、行き場所の無い怒りを晴らしていた。
 俺を送り出すためにと、笑っているじいちゃん。そんなじいちゃんとは打ってかわって俺は不機嫌顔。


「そんな顔していたらかっこいい顔が台無しだぞ?」
「かっこよくなんかないよ」
「そうか?海は母さんに似て美形だと思うけどなぁ。母さんに似てるってことは、じいちゃんとも似てるってことだからな!」
「じいちゃんはそんなに美形じゃないじゃん」
「若い頃はじいちゃんも美形だったんだぞ? 毎日のように若い女子からあっちこっち声をかけられて——」


 じいちゃんの話を遮るように俺はドアを開けて外へと出た。背後ではじいちゃんがまだ話が終わってないぞ! なんて言っていたが、俺にはじいちゃんの昔の自慢話になど興味ない。てか、聞き飽きた。
 もう行ってくるから。話はまた今度聞くから。
 軽く投げやりな感じで話を無理やり終わらせて、ドアを閉めた。


 外に出るやいなや、容赦ない光が目に飛び込んでくる。お昼近い時間帯で、太陽は真上に位置している。照りつける太陽から逃げるように、日陰へと入った。
 少し歩いただけでもじとりと汗ばむ。
 これではすぐに汗のベタつきで気持ち悪くなるだろう。
 何度経験しても、夏という季節は苦手だった。

 夏だけが嫌いなのかと問われれば、冬も嫌いだと答えるけども。


 家の前には既に母が車に乗って待機していた。母が涼しそうな顔をしているところをみると、車の中は冷房が効いているのだろう。
 いつまでもこんな暑いところでじっとしているのも我慢ならない。
 太陽の直射日光を浴びることのないように、日陰を選んで歩き出した。


 車のドアを開けると零れるように足元に涼しい風が落ちてきた。
 外の暑苦しい熱気が車の中へと侵入してしまわないように、素早く車の中へと身を滑らせてドアを閉める。
 冷たい空気が肌に触れる。その心地良さに、「ふいーっ」と力が抜けた。助手席の背もたれに寄りかかりながら目を閉じる。
 このままずっと車の中で涼めたらどれだけ幸せなことか。いっそ、教会には行かずにこのままドライブでもいいのに。


 そんなことは口が裂けても言えないが。


「どこの教会に行くの?」
「隣街の教会まで行くわよ。少し遠いけど、とても魔力に詳しい魔道士がいるらしいの」
「そうなんだ」


 興味の欠片も感じなかった。
 教会なんて行かずにどこかへ出かけようと思ってるのよ。と言われるかもしれないなんて淡い期待を持った自分が馬鹿だった。
 母は昨日と変わらず、教会に行くことしか考えてなかったんだなと改めて再確認させられて、虚しさが込み上げた。
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