魔法しかなかったから物理で叩いた

麦茶畑の緑茶園

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生まれた瞬間に決められた人生

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 車で2時間ほど移動した所に目的の教会へとついた。
 車のドアを開けると、再び暑い日差しが体に突き刺さる。上からは太陽の、下からはコンクリートからの熱を感じる。
 暑さだけでなく、湿度もあるため気持ちの悪い熱気だった。
 こんな場所にずっと立っているのが拷問にしか感じられない。早く涼しいところへと避難しないと、この暑さで溶けてしまいそうだ。


 入りたくはないが、入らざるおえない教会。苦虫を噛み潰したような顔で建物を見据えた。
 アンティーク調のフェンスに囲まれた教会。教会の門を開け、教会の外装や入口手前の庭を見やる。


 人が歩く道の左右には多種多様な花が咲き誇っていた。咲き乱れる花の中にはいくつか見知った花もある。
 一輪としては小さめな花だが、密集して咲いているため、賑やかに見えるマリーゴールド。こんな暑さなのにも関わらず、へこたれることなくオレンジ色の鮮やかさを放っていた。


 そんなマリーゴールドの横にはブーゲンビリアの華やかさがあった。
 マリーゴールドとは違ってお淑やかに咲いているブーゲンビリアは、ピンクや白、黄色などの色があった。
 どの色も薄くもなく、濃くもないちょうどいい色合い。マリーゴールドの後に見たからこそ、しつこい色味に見えないのだろう。


 まぁ、花を語ったとしてもなんにもならないのだけれど。しかも、これは何となく覚えていただけのもの。自宅の地下の書庫にあった花図鑑を暇つぶし程度に見ていたから覚えていたわけであって、別に自分で進んで調べて覚えた訳では無いのだから。
 多分、一年後ぐらいには忘れると思う。多分だけどね。


 ふと、人の気配が無くなったことに気づいて、辺りを見回す。庭を見ていた俺を置いて、母は先に教会へと入ってしまっていたらしく、俺の近くには誰もいなかった。なんだ、教会に入るのであれば入ると言ってくれればいいのに。
 素っ気ない対応されたのが少し寂しく、ちょっとむくれた顔をしながら教会の入口へと向かう。


 数段ある程度の階段を上がって教会の扉を押した。子供の俺では少しずっしりと重く、両手に体重をかけるようにして少しずつ開けた。
 少し開いたところで、誰かが内側から扉を引っ張ってくれた。さっと中へと入り、開いてくれた人にお礼を言おうと頭を上げて相手の顔を視界に収めた。


「ありがとうございます」
「いいよ。君にはちょっと重たかっただろう」
「少し重たかったです」
「ははっ、そうだろうな。でも、もっと大きくなったら簡単に開けられるようになるさ」


 にかっと陽気に笑う男性。
 とても暑苦しそうな服装でそこに立っていた。確かこれは魔道士が着るローブというものだったはず。こんな季節にも着用していなければいけないとは……。サウナの中で冬用のコートを着させられている罰ゲームか。それともこれも何かの修行とかなのか。
 汗ひとつかかずににこにこ笑っている男性の顔からは何一つ窺い知ることはできなかった。


「海! 早くこっちに来なさい」
「あ、はーい!」
「海? あぁ、君のことだったんだね」
「え?」
「噂には聞いていたよ。この世界で唯一の魔力無しなんだってね」


 男性から放たれた言葉に身体が無意識にビクつく。自分でも驚くほどの体の硬直。母の方に返事をするために向けた顔を、男性の方に戻すのが躊躇われる。
 彼が次になんて言うのかが、恐ろしくて堪らない。いつものように、魔力無しなんてこの世に不必要だと罵られるのだろうか。それとも魔法が使えない可哀想な子だと哀れみを向けられるのか。
 どちらにせよ彼はもう畏怖の念しかない。


「これから大変だろうけど頑張ってね。魔法がなくても生きていけるってことを証明するのは大変だろうけど、君ならできそうな気がするよ」
「え……」


 自分が思っていた言葉とは違う言葉が彼から返ってきた。思わず気の抜けた声を出し、彼の方へと顔を向ける。
 彼は最初の時と変わらず、その顔には微笑みしか無かった。普段見ている気味の悪い顔でもないし、哀れみを含んだ顔でもない。
 ただ、純粋に。笑顔だけがそこにあった。


 きっと俺は間抜けな顔をしていたと思う。
 身構えていた体は脱力している。だらしなくそこに突っ立っているのだ。それほど目の前の男性から言われた言葉に驚き、そしてじんわりと胸が熱くなった。
 魔力無しと言われて生きてきた俺にそんな事を言ってくれ人は、じいちゃんと母以外誰もいなかったのに。


「……ありがとうございます」
「お礼なんていらないよ。そうだ、君が大きくなったら一緒に飲みに行こう。その時に君の頑張りを聞かせてくれ」
「かなり時間かかりますよ?」
「別に構わないさ。君が一人前の大人になったらまた来てくれ。俺はずっとここにいるから。俺は上水流かみずる聡士そうし
「俺は桜樹さくらぎかいです」


 互いに名前を名乗り、いつかまたここで会うための約束をするように握手を交わした。
 彼に胸を張って誇れるような生き方をしよう。彼にまた会った時は、沢山話をしよう。
 いつか来るであろう未来を楽しみにしながら、俺は彼に別れを告げて、母の元へと歩き出した。



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