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晩餐会より
果物
ディアナは、王女と言えどもとても活発な女性だ。1番目立った例を挙げると、狩猟大会に参加し、カーティス王子に続く成績を叩き出したことが最たる例だ。その中には狩ることが難しいとされる猪もいて、軟弱な貴族令息達は度肝を抜かしたという。
(……私とは正反対よね)
シエラは、活発ではない。太陽の下へ出て狩猟をするくらいなら、屋敷の中で本を読んでいた方がいいし。馬に乗るくらいなら、日傘の下で揺りかごに揺られていたいと思う。
歳は近いが、話はきっと合わない。
シエラはゆっくりとディアナから視線を外して、咀嚼し終えた食べ物を飲み込んで、また別の果物を咀嚼し始める。それがまた小さな口を動かして一生懸命に食べるものだから、リスのようにも見えてしまう。
ふいに、頭上から忍び笑いが聞こえた気がして視線をあげるとグレイがこちらを見て笑っていた。
なぜに笑うのか。
首を傾げると、グレイは堪らずに「ぶはっ」と吹き出した。
「な、なに?どうしたの?」
「いや……まるで小動物のようだと思って」
それは、どういう意味だろう。とシエラは意味が分からずとりあえず口に残った果物をシャクシャクとまた咀嚼する。
それがまた面白いのか、グレイが笑った。
何が可笑しいのかさっぱり分からないが、グレイが面白そうならなんでもいいか。
と、シエラは構わずにみずみずしい果物をシャクシャクと再び咀嚼する。
「美味しい?」
と、グレイが柔しく問いかけてくるのでシエラは「うん」と答えた。別に果物が特別好きなわけではないのだが、グレイを前にすると緊張してしまって何を話していいのかよく分からなくなるので、食べている。
「シエラ」
「ん?」
「王族の方が揃ったみたいだから、そろそろ挨拶に行こうか」
ギクリ。とシエラの肩が強ばる。基本的に人見知りがひどいシエラは毎度晩餐会の主催者に挨拶する時などは緊張してしまって、より無表情になってしまうのだ。
本当に情けなく、なによりグレイに申し訳なく思うのだが、無理に表情を作ろうとしてより酷い事になってしまったことがあるので、下手なことも出来ない。
鏡の前で、グレイの微笑みを真似てみたりもするのだが……それすらも上手く出来なくなってしまった。
染み付いてしまった習性というものは中々元には戻せない。
「分かった」
差し出されたグレイの手を取って、シエラは腹を括り、前を見据える。まるで戦場へ向かう戦士の如く勇ましい瞳である。
しかし、周囲からはより一層距離を取られて、令嬢たちからは「まあ、恐ろしい」と陰口を叩かれる。
自分の表情筋の情けなさに泣けてきたシエラだったが、心中でめそめそと泣いている暇はない。
グレイは公爵だ。
つまり、貴族たちの中では最も位の高い者が彼ということになり、宰相の次に挨拶しなければならない人間ということになる。
国王陛下の御前にたどり着くと、シエラは洗練された動作で挨拶した。
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