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三男編
初体験回想 ~序~
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また無言になってしまったノエルに抱きしめられながら、波の音を聞いているアテナの脳裏に、自然と、ノエルに船の上で初めて抱かれた時の記憶が蘇る――――――
********
「もし、これから話す事実が受け入れられないのであれば、私はあなたの前から消えます」
夜、アテナは外国で行われていたファッションショーの出演を終えた帰りの船上で、ノエルから一世一代の打ち明け話をされていた。
ノエルの「告白」は、その重い前置きの通り、それまで自分が信じていたものを根底から覆すような、かなり重いものであり、衝撃はそれなりにあった。
けれど、アテナはずっと自分を支えてくれたノエル信じなくてどうするのだと思った。
ノエルは、両親や婚約者だった義兄ウィリアムを殺し、これまでアテナを苦しめてきた者たちとは全く違う。
ノエルは何も悪いことはしていないのに、「存在そのものが悪である」なんて論理でノエルを糾弾するのはおかしいと思った。
その論理はノエルに関して言えばなんの根拠もない、デタラメだ。
自分の正体を晒し、不安そうにしてどこか怯えたようにも見えるノエルを、アテナは自分の胸の中に抱きしめた。
「今まで良く頑張ったね。秘密を抱えて辛かったね。ノエルは偉い」
ノエルの綺麗な蒼碧の瞳から涙がボロボロこぼれ落ちていた。それまで奥に溜まっていたものを全て外へ出し尽くすかのように、ノエルは嗚咽を漏らしながら号泣していた。
アテナもノエルの心に同調し、その背負っている重みを知って、泣いた。
アテナは、昔よく弟のゼウスにそうしていたように、ノエルが落ち着くまで彼の頭や背中を撫でていた。
「好きです」
ノエルはひとしきり泣いた後、こちらを求めるような熱っぽい視線をアテナに向けてきた。
「私は世界で一番アテナが好きです」
「うん。私もノエルが好きよ」
返事をした後に近付いてくる唇を、アテナは拒まなかった。
それは昨夜、初めてキスされた時よりも濃厚な、貪るような激しいキスだった。
そのままノエルへの気持ちが天元突破しそうだった所で、突然、ノエルが服を脱ぎ出して上半身裸になったので、アテナはナニが始まるのかとドキドキした。
けれど、ノエルの鍛えられた色白の胸には、禍々しくも見える黒い花の形をした痣があって、それを見たアテナは驚いた。
ほぼ一緒に暮らしているので、ノエルの上半身裸くらい見たことがあるが、そんな痣を見たのは初めてだった。
ノエルは、それは禁断魔法を使った痕跡であり、これまではずっと他の魔法で痣があるのを隠してきたのだと言った。
ノエルが服を脱いだのは、アテナのふしだらな予想とは違っていて、これまでノエルがアテナに隠していたことを全部説明するためだった。
ノエル自身も命を落とす可能性のある禁断魔法をアテナの親友マグノリアに掛けていることや、アテナの弟ゼウスの恋人メリッサについての真実を…………
アテナはゼウスとメリッサの顛末を聞き、二人の心情を思って胸を痛めた。
アテナは、せめてマグノリアたちに掛けている魔法は解けないのかとノエルに問いかけたが、ノエルが命懸けの魔法を使っているのは、マグノリアたちが殺されないための牽制の意味もあるのだと、ノエルはブラッドレイ家の業の深さをアテナに語った。
「あの…… もしかして、『秘密』を知っちゃった私も、殺される、の……?」
ノエルの話をすべて聞き終えたアテナは、とんでもない可能性に気が付いた。
「いいえ! そんなことは絶対にさせません! どんな手段を使ってでもアテナのことは私が絶対に守ります!」
ノエルがものすごい勢いでアテナに命の危機が発生することを否定してくるので、彼女は押されるようにこくこくと頷き、ノエルを信じることにした。
「『秘密』を話したことでアテナを巻き込んでしまうことは、本当に申し訳なく思っているのですが、すべての事情を理解した上で、私と共にいてくれることを選ぶか、そうでないかを決めてほしかったのです」
不利な情報を隠さず、すべてを伝えた上でアテナの意志を問おうとしているノエルは、誠実だと思う。
「アテナ、私と恋人になってくれますか?」
「喜んで!」
アテナは食い気味に答えた。逡巡なしでアテナが即答したので、ノエルは目を見開き驚いた後に、吹き出すようにして笑い出した。
寝台に座ったままのアテナは、ノエルの綺麗な笑顔を見て自分も自然と笑顔になっていたが、気付いた時には座っていた寝台の上に押し倒されていて、ノエルに組み伏されていた。
「あなたは私の最愛の女性です。だからアテナも、私を愛してください。あなたのすべてが欲しいのです。
――――抱かせてください」
********
「もし、これから話す事実が受け入れられないのであれば、私はあなたの前から消えます」
夜、アテナは外国で行われていたファッションショーの出演を終えた帰りの船上で、ノエルから一世一代の打ち明け話をされていた。
ノエルの「告白」は、その重い前置きの通り、それまで自分が信じていたものを根底から覆すような、かなり重いものであり、衝撃はそれなりにあった。
けれど、アテナはずっと自分を支えてくれたノエル信じなくてどうするのだと思った。
ノエルは、両親や婚約者だった義兄ウィリアムを殺し、これまでアテナを苦しめてきた者たちとは全く違う。
ノエルは何も悪いことはしていないのに、「存在そのものが悪である」なんて論理でノエルを糾弾するのはおかしいと思った。
その論理はノエルに関して言えばなんの根拠もない、デタラメだ。
自分の正体を晒し、不安そうにしてどこか怯えたようにも見えるノエルを、アテナは自分の胸の中に抱きしめた。
「今まで良く頑張ったね。秘密を抱えて辛かったね。ノエルは偉い」
ノエルの綺麗な蒼碧の瞳から涙がボロボロこぼれ落ちていた。それまで奥に溜まっていたものを全て外へ出し尽くすかのように、ノエルは嗚咽を漏らしながら号泣していた。
アテナもノエルの心に同調し、その背負っている重みを知って、泣いた。
アテナは、昔よく弟のゼウスにそうしていたように、ノエルが落ち着くまで彼の頭や背中を撫でていた。
「好きです」
ノエルはひとしきり泣いた後、こちらを求めるような熱っぽい視線をアテナに向けてきた。
「私は世界で一番アテナが好きです」
「うん。私もノエルが好きよ」
返事をした後に近付いてくる唇を、アテナは拒まなかった。
それは昨夜、初めてキスされた時よりも濃厚な、貪るような激しいキスだった。
そのままノエルへの気持ちが天元突破しそうだった所で、突然、ノエルが服を脱ぎ出して上半身裸になったので、アテナはナニが始まるのかとドキドキした。
けれど、ノエルの鍛えられた色白の胸には、禍々しくも見える黒い花の形をした痣があって、それを見たアテナは驚いた。
ほぼ一緒に暮らしているので、ノエルの上半身裸くらい見たことがあるが、そんな痣を見たのは初めてだった。
ノエルは、それは禁断魔法を使った痕跡であり、これまではずっと他の魔法で痣があるのを隠してきたのだと言った。
ノエルが服を脱いだのは、アテナのふしだらな予想とは違っていて、これまでノエルがアテナに隠していたことを全部説明するためだった。
ノエル自身も命を落とす可能性のある禁断魔法をアテナの親友マグノリアに掛けていることや、アテナの弟ゼウスの恋人メリッサについての真実を…………
アテナはゼウスとメリッサの顛末を聞き、二人の心情を思って胸を痛めた。
アテナは、せめてマグノリアたちに掛けている魔法は解けないのかとノエルに問いかけたが、ノエルが命懸けの魔法を使っているのは、マグノリアたちが殺されないための牽制の意味もあるのだと、ノエルはブラッドレイ家の業の深さをアテナに語った。
「あの…… もしかして、『秘密』を知っちゃった私も、殺される、の……?」
ノエルの話をすべて聞き終えたアテナは、とんでもない可能性に気が付いた。
「いいえ! そんなことは絶対にさせません! どんな手段を使ってでもアテナのことは私が絶対に守ります!」
ノエルがものすごい勢いでアテナに命の危機が発生することを否定してくるので、彼女は押されるようにこくこくと頷き、ノエルを信じることにした。
「『秘密』を話したことでアテナを巻き込んでしまうことは、本当に申し訳なく思っているのですが、すべての事情を理解した上で、私と共にいてくれることを選ぶか、そうでないかを決めてほしかったのです」
不利な情報を隠さず、すべてを伝えた上でアテナの意志を問おうとしているノエルは、誠実だと思う。
「アテナ、私と恋人になってくれますか?」
「喜んで!」
アテナは食い気味に答えた。逡巡なしでアテナが即答したので、ノエルは目を見開き驚いた後に、吹き出すようにして笑い出した。
寝台に座ったままのアテナは、ノエルの綺麗な笑顔を見て自分も自然と笑顔になっていたが、気付いた時には座っていた寝台の上に押し倒されていて、ノエルに組み伏されていた。
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――――抱かせてください」
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