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三男編
恋の種(ノエル視点)
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ノエルが女装をするようになったのは、シオンのように母ロゼに誘導されたからではなく、受けたくなかった銃騎士養成学校の入校試験を無理矢理受けさせられることへの反発からだった。
最初は、ふざけた格好で受験しに行けばそれだけで落ちるだろうと思ったのだが、悪巧みに便乗したセシルにも手伝ってもらいながら初めて完成した女装姿を見た時に、ノエルの中に雷が落ちた。
当時、年の瀬生まれのため十歳だったノエルは、とてつもなく女装が似合いすぎていた。
ノエルは自分の性別がわからないとかそういったことはなかったが、女装という手段が鬱屈した現状の自分をとても自由にし、「自分とはこういうものだ」ということを周囲に表現する最高の方法だと思った。
元々ノエルは女性を大切にしなければという意識が強かったこともあったが、性別以外の部分で悩んでいた自分の自己同一性を確立させて心を解放させることができたような気もして、ノエルは女装を大変気に入った。
ノエルは入校試験当日、男しか受験資格のない試験会場へ、女装姿で意気揚々と出掛けた。
ノエルはその時に、同じく銃騎士養成学校の試験を受けに来ていたアテナの弟ゼウスにも女装姿を目撃されていて、のちのちアテナ経由でゼウスに会った時には、「かなりの悪目立ち具合だった」と言われた。
試験官に女ではと疑われた時には、スカートをめくり、パンツの中に女子にあるはずのない鎮座する盛り上がりがあることを見せて男だと証明したわけだが、それが大問題となり、試験会場で父兄召喚となってしまった。
銃騎士隊二番隊長の父アークは呆れたのか来てくれなかったが、同じく銃騎士である長兄ジュリアスが現れ、ノエルの女装姿を見るなり額に青筋を浮かべていた。
ジュリアスは普段から弟に惜しみない愛情を向けてくる優しい兄だったが、この時ばかりは、神聖なる入校試験で何をやらかしているんだと恐ろしい雰囲気をまとわせていた。
ジュリアスが現れた後、ノエルは問答無用で女装を解かれ、実技試験が控えていたこともあり動きやすい服装に着替えさせられた。
試験官たちはホッとしていたが、ノエルは帰宅するなり、愚行を止めるどころか悪ノリして手を貸したセシルと共に正座させられ、長兄による長時間の大説教を食らった。
厳正な試験会場において騒がせたことを謝りはしたものの、その「入校試験女装事件」があった後も、ノエルは日常生活において常に、家族が頭を抱えようとも女装をするようになった。
ノエルに甘い次兄シリウスには「大丈夫か大丈夫か大丈夫か! もしお前の心を誑かすような悪い男がいるんだったら兄ちゃんだけには教えてくれ兄ちゃんがそいつをぶっ飛ばしてきてやるからーっ!」と涙ながらに問われた。
「いいえ、私は別に男性が恋愛対象なわけではありません。むしろ、女性が大好きで尊ぶべき存在なのだと気付けたからこそ、この格好をしているのです」
ノエルがそう返事をすると、「ノエが女たらしになってしまったぁぁぁーーっ!」と叫ぶシリウスに余計に泣かれた。
父に窘められても長兄に諭されても次兄に泣かれても、ノエルは頑なに女装をし続けた。
そんな、寝ても覚めても常に女装ばかりだったノエルが、自らの代名詞とも呼べる女装をすっぱりと止めたきっかけは、アテナだった。
アテナはその時、結婚も視野に入れていた恋人アスターと別れたショックで塞ぎ込み、家の中に引きこもって廃人のようになっていた。
銃騎士になる道を蹴り、銃騎士と対立するような職業であるハンターになっていたノエルは、モデルでありながら兼業ハンターをやっていたアテナとパーティーを組んでいて、彼女の家によく入り浸っていた――――というか、あまり実家に帰りたくなかったので、我が家のように住んでいた。
沈み込むアテナをそば見ていたノエルは、ある日突然、女装を止め、長く伸ばしていた髪を短く切って、男物の服を来てアテナの前に立った。
「私がそばにいますから」
なぜそんなことを言ったのか、ノエルもその時の思いを上手く説明できない。
悩みやすい自分とは違って、細かいことを気にせず大らかでいつも明るいアテナのことを、ノエルは大好きだった。
アテナがらしくもなく地獄の底にいるかのように落ち込んでいたから、支えになりたいという思いは強かった。
けれど、その時に恋愛感情はなかったはずだと自分では思う。あったとしても、それは芽吹く前の種のような、ごくごく小さなものでしかなかったと思う。
それまでノエルは、アスターと仲睦まじく過ごすアテナを見ても、嫉妬のような感情は全く起こらず、むしろ二人が幸せになれば良いと本気で思っていた。
けれど、一年という時間をかけて自分は段々とアテナを女として見るようになっていったようで、今では、アスターの事を思い出すとかなり苦々しい思いが込み上げてくる。
アスターは遠い地へ行ってしまったわけだが、二人には二度と会ってほしくないとノエルは思っている。
最初は、ふざけた格好で受験しに行けばそれだけで落ちるだろうと思ったのだが、悪巧みに便乗したセシルにも手伝ってもらいながら初めて完成した女装姿を見た時に、ノエルの中に雷が落ちた。
当時、年の瀬生まれのため十歳だったノエルは、とてつもなく女装が似合いすぎていた。
ノエルは自分の性別がわからないとかそういったことはなかったが、女装という手段が鬱屈した現状の自分をとても自由にし、「自分とはこういうものだ」ということを周囲に表現する最高の方法だと思った。
元々ノエルは女性を大切にしなければという意識が強かったこともあったが、性別以外の部分で悩んでいた自分の自己同一性を確立させて心を解放させることができたような気もして、ノエルは女装を大変気に入った。
ノエルは入校試験当日、男しか受験資格のない試験会場へ、女装姿で意気揚々と出掛けた。
ノエルはその時に、同じく銃騎士養成学校の試験を受けに来ていたアテナの弟ゼウスにも女装姿を目撃されていて、のちのちアテナ経由でゼウスに会った時には、「かなりの悪目立ち具合だった」と言われた。
試験官に女ではと疑われた時には、スカートをめくり、パンツの中に女子にあるはずのない鎮座する盛り上がりがあることを見せて男だと証明したわけだが、それが大問題となり、試験会場で父兄召喚となってしまった。
銃騎士隊二番隊長の父アークは呆れたのか来てくれなかったが、同じく銃騎士である長兄ジュリアスが現れ、ノエルの女装姿を見るなり額に青筋を浮かべていた。
ジュリアスは普段から弟に惜しみない愛情を向けてくる優しい兄だったが、この時ばかりは、神聖なる入校試験で何をやらかしているんだと恐ろしい雰囲気をまとわせていた。
ジュリアスが現れた後、ノエルは問答無用で女装を解かれ、実技試験が控えていたこともあり動きやすい服装に着替えさせられた。
試験官たちはホッとしていたが、ノエルは帰宅するなり、愚行を止めるどころか悪ノリして手を貸したセシルと共に正座させられ、長兄による長時間の大説教を食らった。
厳正な試験会場において騒がせたことを謝りはしたものの、その「入校試験女装事件」があった後も、ノエルは日常生活において常に、家族が頭を抱えようとも女装をするようになった。
ノエルに甘い次兄シリウスには「大丈夫か大丈夫か大丈夫か! もしお前の心を誑かすような悪い男がいるんだったら兄ちゃんだけには教えてくれ兄ちゃんがそいつをぶっ飛ばしてきてやるからーっ!」と涙ながらに問われた。
「いいえ、私は別に男性が恋愛対象なわけではありません。むしろ、女性が大好きで尊ぶべき存在なのだと気付けたからこそ、この格好をしているのです」
ノエルがそう返事をすると、「ノエが女たらしになってしまったぁぁぁーーっ!」と叫ぶシリウスに余計に泣かれた。
父に窘められても長兄に諭されても次兄に泣かれても、ノエルは頑なに女装をし続けた。
そんな、寝ても覚めても常に女装ばかりだったノエルが、自らの代名詞とも呼べる女装をすっぱりと止めたきっかけは、アテナだった。
アテナはその時、結婚も視野に入れていた恋人アスターと別れたショックで塞ぎ込み、家の中に引きこもって廃人のようになっていた。
銃騎士になる道を蹴り、銃騎士と対立するような職業であるハンターになっていたノエルは、モデルでありながら兼業ハンターをやっていたアテナとパーティーを組んでいて、彼女の家によく入り浸っていた――――というか、あまり実家に帰りたくなかったので、我が家のように住んでいた。
沈み込むアテナをそば見ていたノエルは、ある日突然、女装を止め、長く伸ばしていた髪を短く切って、男物の服を来てアテナの前に立った。
「私がそばにいますから」
なぜそんなことを言ったのか、ノエルもその時の思いを上手く説明できない。
悩みやすい自分とは違って、細かいことを気にせず大らかでいつも明るいアテナのことを、ノエルは大好きだった。
アテナがらしくもなく地獄の底にいるかのように落ち込んでいたから、支えになりたいという思いは強かった。
けれど、その時に恋愛感情はなかったはずだと自分では思う。あったとしても、それは芽吹く前の種のような、ごくごく小さなものでしかなかったと思う。
それまでノエルは、アスターと仲睦まじく過ごすアテナを見ても、嫉妬のような感情は全く起こらず、むしろ二人が幸せになれば良いと本気で思っていた。
けれど、一年という時間をかけて自分は段々とアテナを女として見るようになっていったようで、今では、アスターの事を思い出すとかなり苦々しい思いが込み上げてくる。
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