ブラッドレイ家の夏休み ~たわわ義妹の水着姿を見て意気消沈した令嬢は完璧彼氏に岩場で育乳され、次期宗主はセクシー脱衣の罠にも嵌められる、他~

鈴田在可

文字の大きさ
20 / 21
エピローグ

遅れて参上

しおりを挟む
 波の静かな夜だった。

 空には雲一つなく、無数の星々が散りばめられていて、今にも天から降ってきそうだった。

 ブラッドレイ家の次男シリウスは、自分の魔法で作り出した絶海の孤島で、愛しい人との思い出を胸に一人休暇を過ごしていた。

 夜の砂浜に篝火を焚き、サマーベットの上に寝転ぶシリウスが考え事をしていると、その隣の誰もいない空間に、スッと人影が現れた。
 
「夜にサングラスとか意味なくない?」

 セシルは美しい横顔を篝火に照らされながら、クスクスと笑っている。

「雰囲気だよ雰囲気」

 シリウスは軽い調子で答えながらサングラスを頭の上に上げ、他の兄弟たちの例に漏れず類稀なる美しい容貌を晒した。

 シリウスは上体を起こし、転移魔法でこの場に現れた弟セシルを見る。

「監視は?」

 獣人の里に潜入し諜報と監視活動を行うのかシリウスの仕事だが、数日前よりセシルに代わってもらい、シリウスは現在夏季休暇中だった。

「今は大丈夫。族長様も酒池肉林パーリナイやってるから」

「油断はするなよ、俺が代わるか?」

「『鳥』は置いてきてるしちゃんとやってるから大丈夫だよ。休暇中くらい仕事のこと忘れなよ。

 っていうか、何でみんなと合流しないでこんな所に一人でいるのさ」

 セシルは婚約者ジュリナリーゼの予定に合わせ、家族とのバカンスは二日目までの参加だったが、以降はセシルがシリウスの仕事を担い、入れ替わるようにして本来はシリウスが家族の集いに参加する予定だった。

「俺は孤独を愛する男だ」

「格好付けたこと言ってないでさ、みんなに会いに行って遊んでくればいいじゃないか」

「ヤダ。行きたくない」

 シリウスは、恋人になる予定の最愛の女性を苦しめ、彼女との破局原因を誘発した父アークに、現在も腹を立てていて、全く顔を合わせようとしない。

 けれど、シリウスが家族に会いに行かない理由はアークだけではなかった。

「別に行かなくてもいいだろう。お前こそ一泊二日しかいなかったそうじゃないか。言い出しっぺのくせに」

「俺はいいの。家族とはみんな仲いいし、恋人とも絶好調だし。

 でも、なかなかこっちに戻って来られないシー兄は、交流図っといた方がいいんじゃないの?」

 シリウスは、少し前に新しく結ばれたすぐ下の弟ノエルの婚約については、ノエル本人からの報告を受けた後、それっきり我関せずといった状態を続けていた。

 両親や他の兄弟たちがノエルの婚約者を歓迎したり、懐いたりする中、シリウスは以降、一度も恋敵の姉には会っていない。

「バカンスの後半戦ならまだ間に合うよ。行ってきなって」

 セシルは『過去視』の力を使い、シリウスの脳内にとある絵を映し出した。










 シリウスは真夏の太陽が燦然と輝く、家族が過ごしている伯爵家の専用海岸プライベートビーチに転移魔法で現れた。

「あっ! シー兄さんだ!」

「シーお兄ちゃん!」

「シーにぃちゃーん!」

 すると、久しぶりに会う下の弟たちがすぐに駆け寄ってきて、シオンとレオハルトには抱きつかれた。

 海辺には年少の弟たち三人と、それから、ノエルとその婚約者アテナがいるだけで、長兄カップルと両親の姿は見えなかった。

「兄さん……」

 ノエルもシリウスの姿を見て、アテナの手を引き近付いてくる。

 ノエルに会うのは、ノエルがシリウスに婚約の報告をした時以来だった。その時にシリウスは心からの祝福を言えなかったが、今なら言える気がした。





『今まで良く頑張ったね。秘密を抱えて辛かったね。ノエルは偉い』





 セシルに見せられた絵の中でノエルはボロクソに泣いていたが、シリウスもそれを見て泣いた。

 その時の気持ちを何と言えばいいのか、兄弟共通で心の奥底に抱えているだろう鬱屈とした気持ちを、女神様に浄化された気分だった。

 本音を言えば、なぜ可愛い弟の伴侶があの男の姉なのだろうと、モヤモヤとした思いは持っていた。

 けれどその絵を見せられたシリウスは、ノエルにとってアテナは真実必要な相手なのだと、ストンと心の中に受け入れることができた。

「二人とも、婚約おめでとう。アテナちゃん、ノエルをよろしくね。君を歓迎するよ」

 あの事件のことをノエルから聞いているのだろうアテナは、婚約後に始めて会うシリウスに緊張した面持ちだったが、シリウスが他意のない満面の笑みを向けてきたことに気付くと、安堵したように微笑んだ。

「ありがとうございます。これから末永くよろしくお願いします」

「敬語とか使わないでいいよ。だって俺たち同じ年じゃん?」

 シリウスが軽快な感じで返事をすると、アテナもつられたように笑って応えていたので、ノエルは義兄妹関係になる二人の対面が無事果たせたことに、心底ホッとしている様子だった。

「よし! 早速海で遊び倒すぞ! 者ども! 俺について来い!」

「わーい!」

 シリウスが頭の上にあったサングラスをかけてから、シオンとレオハルトを抱えた状態で海へ走り出すと、片側にいるレオハルトが楽しそうな声を上げた。

「あれ、お兄ちゃん……?」

 けれどシオンは、シリウスがサングラスで隠した目元に、涙が――――幼い頃から特別大事にしていたノエルが人のものになってしまう寂しさから来る涙が――――滲んでいるのを見てしまった。

「わあっ!」

 シオンは何か声をかけようとしたが、その前にシリウスが海に勢い良く飛び込んだので、驚きの声と共に海中に入った。

「私たちも行きましょう」

 シリウスを追って駆け出したカインに続いて、ノエルがアテナの手を取り走り出す。

 笑顔のノエルを見返すアテナの表情もまた、幸せに溢れていた。

 海辺では、はしゃぐブラッドレイ一家の声が、光り輝く波の狭間で、いつまでも響いていた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?

ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。 一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

おかしくなったのは、彼女が我が家にやってきてからでした。

ましゅぺちーの
恋愛
公爵家の令嬢であるリリスは家族と婚約者に愛されて幸せの中にいた。 そんな時、リリスの父の弟夫婦が不慮の事故で亡くなり、その娘を我が家で引き取ることになった。 娘の名前はシルビア。天使のように可愛らしく愛嬌のある彼女はすぐに一家に馴染んでいった。 それに対してリリスは次第に家で孤立していき、シルビアに嫌がらせをしているとの噂までたち始めた。 婚約者もシルビアに奪われ、父からは勘当を言い渡される。 リリスは平民として第二の人生を歩み始める。 全8話。完結まで執筆済みです。 この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...