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『番の呪い』後編
101 『悪魔の花嫁』
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ヴィクトリアはマグノリアと湯船に浸かっていた。
ヴィクトリアは、マグノリアとロータスがリュージュと別れた後の話――――リュージュも知らない話をマグノリアから聞いていた。
ロータスの『悪魔の花嫁』になった後、聖女の存在を消したいと思ったマグノリアは、死ぬことにしたらしい。
『悪魔の花嫁』とは獣人の番になった人間の女性を指す言葉で、特に人間たちによって使われている。男性の場合だと『悪魔の花婿』になる。
死ぬと言っても本当に死ぬわけではなくて、死の偽装だった。
マグノリアは危険の多い職業であるハンターになって、その活動中に自らの死を偽装しようと思いついたらしい。父親はマグノリアがハンターになることを渋ったが、聖女の宣伝にもなるからと何とか説き伏せたそうだ。
「死んだことを証言してくれる人が必要だから、目的は隠して同じ年のハンターの女の子とパーティを組んだのよ。アテナ・エヴァンズって知ってる? アテナ様」
(アテナ様……?)
はて、とヴィクトリアは首を傾げた。
「知らない? 結構有名なモデルでよく雑誌の表紙を飾ってるんだけど、獣人の里までは届いてなかったかしら」
「いえ、そういえば…… 知っているかも」
商人が持ってくる書籍の中には写真が多く載った雑誌もあったが、文字を読むのが好きなヴィクトリアは好んでは買わなかった。
ただ、手にとって見たことはあり、華やかに笑う金髪碧眼の美女の写真がアテナという名前と共に載っていたような気がする。
「その人はハンターをやりながらモデルもやってるの?」
「そう、兼業ハンター。でもアテナはハンターなのに血を見るのが苦手な子でね。最後まで獣人は一人も狩れなかったわ。
ハンターじゃ全然稼げなくて、アテナはモデルは副業だって言ってたけど、そっちが本業みたいなものだったわ。
私としても極悪な獣人は別だけど、ロイの同胞を狩りたくはなかったからそれで良かったんだけどね。
その後、もう一人仲間が増えて……」
マグノリアはそこでなぜだか言い淀んだ。
「……とにかく最後は三人のパーティだったの。
本当はもっと早く『死ぬ』つもりだったんだけど、アテナたちといるのが楽しくてズルズル先延ばしにしてたら、私と離れる生活に耐えられなくなったロイが迎えに来ちゃったのよ。
ロイには安全な場所にいてもらって週に一回は会うようにしていたんだけど、それでも駄目だったみたい。
獣人って重いくらい一途よね。でも浮気男よりはそっちの方が好きだけど」
ロータスのことを思っているらしきマグノリアは、人を食ったような笑顔ではなくて愛情深い表情になっていた。
人間は愛が移ろうこともあるが、マグノリアはロータスに一途なのだろう。レインもそうであってほしいと思う。
「急に来るから『悪魔の花嫁』ってことがアテナにばれちゃって、私はロイと逃げたわ。最後は裏切るような形になってしまったけど、アテナたちは私の意志を汲んでくれて、私は死んだってことにしてくれたみたい」
『悪魔の花嫁』は発覚すれば獣人同様に死罪になる。マグノリアのハンター仲間たちは、彼女を死んだことにすることで生かそうとしたのだろう。
「だけど実家の父は未だに受け入れてなくて、行方不明ってことにしてしまっているみたいなの。『聖女はまだ生きていて獣人との戦いを続けている』って信者たちに吹聴しているわ。
魔法で偽の死体を作って父に私の死を信じ込ませようとしたこともあったけど、娘の死を嘆き悲しむどころかその死体を隠蔽したのよ? あれはもう何しても駄目だわって諦めちゃったわ」
マグノリアは特大のため息を吐き出していた。ロータスのことを話す時よりも冷めた目付きになっている。
「実家にいた頃は色々悩んだりもしたけど、今は幸せよ。ヴィーも幸せになってね。
ヴィーって私の相棒――――アテナに顔付きとか雰囲気とかがどことなく似てるの。何だかあの頃に戻ったみたいでほっとけなくて。困った時はいつでも力になるわ」
「ありがとう」
マグノリアが優しい顔になって微笑んでくるのでヴィクトリアも笑顔になった。魔法使いが力を貸してくれるなんてとても心強い。
たとえ奴隷に堕ちてその後レインに捨てられることになっても、何とかやっていけそうな気さえした。
「ヴィー、シドだけは絶対に選んだら駄目よ」
そろそろ湯船から上がろうかという時に、マグノリアはいきなりそんなことを言ってきた。
ヴィクトリアは一瞬言われている意味がわからなくて瞬きを繰り返した。
「私はヴィーが真剣に考えて納得して決めた相手なら誰でもいいと思っている。だけどシドだけはやめて。あの男を選んだら、あなたはきっと色んなものを失うわ」
マグノリアが言っているのはヴィクトリアの番選びについてだ。脈絡なくシドの名前を聞いたヴィクトリアの顔が強張る。
「私がシドを番にするなんて、それだけは絶対にないわ。確かに実の父親ではなくて血の繋がりもないけど…………
それにシドは明日、処刑されるのよ……?」
「そうね。だけど、人生って何が起こるかわからないから、一応言っておきたかったの。獣人は身体を繋げれば否応なく相手を好きになってしまう生き物だし……
あの男の息の根が完全に止まるまでは、シドだけは絶対に選んではいけないと頭の片隅に入れておいてね」
ヴィクトリアは、マグノリアとロータスがリュージュと別れた後の話――――リュージュも知らない話をマグノリアから聞いていた。
ロータスの『悪魔の花嫁』になった後、聖女の存在を消したいと思ったマグノリアは、死ぬことにしたらしい。
『悪魔の花嫁』とは獣人の番になった人間の女性を指す言葉で、特に人間たちによって使われている。男性の場合だと『悪魔の花婿』になる。
死ぬと言っても本当に死ぬわけではなくて、死の偽装だった。
マグノリアは危険の多い職業であるハンターになって、その活動中に自らの死を偽装しようと思いついたらしい。父親はマグノリアがハンターになることを渋ったが、聖女の宣伝にもなるからと何とか説き伏せたそうだ。
「死んだことを証言してくれる人が必要だから、目的は隠して同じ年のハンターの女の子とパーティを組んだのよ。アテナ・エヴァンズって知ってる? アテナ様」
(アテナ様……?)
はて、とヴィクトリアは首を傾げた。
「知らない? 結構有名なモデルでよく雑誌の表紙を飾ってるんだけど、獣人の里までは届いてなかったかしら」
「いえ、そういえば…… 知っているかも」
商人が持ってくる書籍の中には写真が多く載った雑誌もあったが、文字を読むのが好きなヴィクトリアは好んでは買わなかった。
ただ、手にとって見たことはあり、華やかに笑う金髪碧眼の美女の写真がアテナという名前と共に載っていたような気がする。
「その人はハンターをやりながらモデルもやってるの?」
「そう、兼業ハンター。でもアテナはハンターなのに血を見るのが苦手な子でね。最後まで獣人は一人も狩れなかったわ。
ハンターじゃ全然稼げなくて、アテナはモデルは副業だって言ってたけど、そっちが本業みたいなものだったわ。
私としても極悪な獣人は別だけど、ロイの同胞を狩りたくはなかったからそれで良かったんだけどね。
その後、もう一人仲間が増えて……」
マグノリアはそこでなぜだか言い淀んだ。
「……とにかく最後は三人のパーティだったの。
本当はもっと早く『死ぬ』つもりだったんだけど、アテナたちといるのが楽しくてズルズル先延ばしにしてたら、私と離れる生活に耐えられなくなったロイが迎えに来ちゃったのよ。
ロイには安全な場所にいてもらって週に一回は会うようにしていたんだけど、それでも駄目だったみたい。
獣人って重いくらい一途よね。でも浮気男よりはそっちの方が好きだけど」
ロータスのことを思っているらしきマグノリアは、人を食ったような笑顔ではなくて愛情深い表情になっていた。
人間は愛が移ろうこともあるが、マグノリアはロータスに一途なのだろう。レインもそうであってほしいと思う。
「急に来るから『悪魔の花嫁』ってことがアテナにばれちゃって、私はロイと逃げたわ。最後は裏切るような形になってしまったけど、アテナたちは私の意志を汲んでくれて、私は死んだってことにしてくれたみたい」
『悪魔の花嫁』は発覚すれば獣人同様に死罪になる。マグノリアのハンター仲間たちは、彼女を死んだことにすることで生かそうとしたのだろう。
「だけど実家の父は未だに受け入れてなくて、行方不明ってことにしてしまっているみたいなの。『聖女はまだ生きていて獣人との戦いを続けている』って信者たちに吹聴しているわ。
魔法で偽の死体を作って父に私の死を信じ込ませようとしたこともあったけど、娘の死を嘆き悲しむどころかその死体を隠蔽したのよ? あれはもう何しても駄目だわって諦めちゃったわ」
マグノリアは特大のため息を吐き出していた。ロータスのことを話す時よりも冷めた目付きになっている。
「実家にいた頃は色々悩んだりもしたけど、今は幸せよ。ヴィーも幸せになってね。
ヴィーって私の相棒――――アテナに顔付きとか雰囲気とかがどことなく似てるの。何だかあの頃に戻ったみたいでほっとけなくて。困った時はいつでも力になるわ」
「ありがとう」
マグノリアが優しい顔になって微笑んでくるのでヴィクトリアも笑顔になった。魔法使いが力を貸してくれるなんてとても心強い。
たとえ奴隷に堕ちてその後レインに捨てられることになっても、何とかやっていけそうな気さえした。
「ヴィー、シドだけは絶対に選んだら駄目よ」
そろそろ湯船から上がろうかという時に、マグノリアはいきなりそんなことを言ってきた。
ヴィクトリアは一瞬言われている意味がわからなくて瞬きを繰り返した。
「私はヴィーが真剣に考えて納得して決めた相手なら誰でもいいと思っている。だけどシドだけはやめて。あの男を選んだら、あなたはきっと色んなものを失うわ」
マグノリアが言っているのはヴィクトリアの番選びについてだ。脈絡なくシドの名前を聞いたヴィクトリアの顔が強張る。
「私がシドを番にするなんて、それだけは絶対にないわ。確かに実の父親ではなくて血の繋がりもないけど…………
それにシドは明日、処刑されるのよ……?」
「そうね。だけど、人生って何が起こるかわからないから、一応言っておきたかったの。獣人は身体を繋げれば否応なく相手を好きになってしまう生き物だし……
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