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アルベールハッピーエンド あなたと生きる道 ~嫌われ幼馴染の逆転劇~
15 約束は守りたい男たち(ヴィクトリア視点→三人称)
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転生要素あり
***
アンジェはすくすくと成長し、歩けるようになってお話も上手になり、育児も落ち着いたと思えた頃に、アルベールが医師として独り立ちをすることになった。
ヴィクトリアたち一家はロータスやマグノリアたちと別れ、ロータスの紹介で医療の行き届いていない辺境の地へと移住した。
アルベールはまるで、ヴィクトリアと番になる日に約束した「人を殺さない」という条件を必ず守ると主張するかのように、他の医師が匙を投げそうな重篤な患者も、絶対に諦めずにどこまでも救い続けようとしていた。
ヴィクトリアが出した条件は「意図的に殺人をするな」という意味だったし、アルベールもそれはわかっているようだったが、アルベールは自身に出来得る限り最大限の命を救おうと、日々身を粉にして働いていた。
それは、彼がこれまで殺してきた人たちへの、贖罪のような意味もあったのだろうと思う。
もちろん、それで彼が過去に命を奪ってきた人たちが蘇るわけではないが、ヴィクトリアもアルベールの気持ちに寄り添い、ずっとそばで支え続けたいと思っているし、時にはアルベールの要請を受けて治療魔法を使う時もある。
ロータスたちと暮らしていた頃から、ヴィクトリアとアルベールは獣人だとばれないように、姿替えの魔法などを使って容姿を目立たせないように細工していたが、愛称だけは同じになるようにと「アルフレッド」と「ヴィヴィアン」という偽名を使って生活していた。
ただアンジェだけは、「鏡を見ると容姿が変わっているという現象は、成長期の心に良くない」とマグノリアから聞いていたため、カナリアと同じように、獣人的な美しさを隠すことなく、そのままの見た目で生活をさせていた。
娘のこれからについては、親としてしっかり考えていかなければとヴィクトリアは思っている。
ヴィクトリアとアルベールは覚悟して人間に擬態し、人間社会で生活することを選んだが、ヴィクトリアはアンジェにも同じ業を背負わせるのは、どうなのだろうと思っている。
現在のアルベールは居住地の村にいなくてはならない存在になっているので、彼はここから離れることは全く考えていないようだし、ヴィクトリアもそれは同じなのだが、もし、成長したアンジェが望めば、獣人の里に戻すことも一つかと思っている。
アンジェもヴィクトリアと同じように魔法が使えれば、人間社会でも何とか生きていけるのではと考えたこともあったが、マグノリアに「視て」もらった限りでは、残念ながらアンジェに魔法使いの素養はないらしい。
「そんなに深く考え込まないで。先のことなんてまだわからないんだし、なるようになるさ。
アンジェのことは俺も命懸けで守るし、天使が増えた方が俺も嬉しい」
ヴィクトリアはアンジェに兄弟を作ってやりたいと思いつつも、二人目の妊娠に踏み切れないでいたが、真面目な思考に陥りがちなヴィクトリアの心を軽くするべく、アルベールは言葉をかけてくれた。
「子供のことは一人で背負い込まないで二人で考えよう」と言われ、昔に比べればとてつもなく優しくなったアルベールを前に、ヴィクトリアは彼と番になって本当に良かったと、心から思った。
******
ヴィクトリアの第二子妊娠が発覚した頃に、アンジェに新しい友達ができた。
それは公爵家の跡取りだという、アンジェと同じ年の黒髪の幼児で、彼は何と魔法が使えた。
出会いは偶然で、たまたま公爵家の次期当主一家が近くを移動中に、その次期当主夫妻の長男が熱を出して倒れ、急遽アルベールの元へ運ばれてきた。
彼はすごい高熱を出してうなされていたが、翌朝には熱が嘘のように、ケロリと回復していた。
念の為もう一晩泊まって様子を見た後に、次期当主一家は村を去ったが、滞在中に子供同士で意気投合していて、アンジェはその彼ととても仲良くなっていた。
数日後、高熱がきっかけで魔法の力に覚醒したというその公爵家令息が、転移魔法でヴィクトリアたちの家を訪ねてきた。
彼がやたらとアンジェに会いに来るので、「悪い虫が付いた!」とアルベールは警戒するようにもなった。
数年後、公爵家から彼とアンジェの婚約の打診が来てしまって、ヴィクトリアは頭を悩ませ、アルベールは即断ろうとしていたが、「私も彼が好きなの」とアンジェに打ち明けられて、薄々勘付いていたヴィクトリアは、やはり頭を抱えた。
アルベールに至っては、「なんでこんなに早くから娘を取られる父親の気持ちを味合わないといけないんだ!」と大号泣していた。
婚約了承を渋る両親を説得しようと公爵家令息がやってきた際には、アルベールは久しぶりに乱れた情緒になってしまい、「帰ってくれ!」と、相手は貴族なのにも関わらず、思わず叩き出してしまっていた。
――――そして、普段は貴族らしく丁寧な言葉遣いをしている彼が、家の外に出された後に、玄関の扉を困ったように見つめながら、
「俺の娘をもろてるくせに、自分は娘をやりたないなんて、そんなん不公平や……」
と、思わず出てしまったという調子の特徴的な抑揚でぼやいていたことは、ヴィクトリアはのちのち『過去視』で知る。
最終的に追い詰められた彼が、「実は私には前世の記憶があります」と話し出したことで、三人目妊娠中のヴィクトリアが、その内容に驚きすぎて産気付き、てんやわんやな大騒ぎになっていくのだが――――
それはまた別の話。
【アルベールハッピーエンド 了】
***
お読みくださりありがとうございました。
後書きとミニネタを近況ボードに載せています。
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アンジェはすくすくと成長し、歩けるようになってお話も上手になり、育児も落ち着いたと思えた頃に、アルベールが医師として独り立ちをすることになった。
ヴィクトリアたち一家はロータスやマグノリアたちと別れ、ロータスの紹介で医療の行き届いていない辺境の地へと移住した。
アルベールはまるで、ヴィクトリアと番になる日に約束した「人を殺さない」という条件を必ず守ると主張するかのように、他の医師が匙を投げそうな重篤な患者も、絶対に諦めずにどこまでも救い続けようとしていた。
ヴィクトリアが出した条件は「意図的に殺人をするな」という意味だったし、アルベールもそれはわかっているようだったが、アルベールは自身に出来得る限り最大限の命を救おうと、日々身を粉にして働いていた。
それは、彼がこれまで殺してきた人たちへの、贖罪のような意味もあったのだろうと思う。
もちろん、それで彼が過去に命を奪ってきた人たちが蘇るわけではないが、ヴィクトリアもアルベールの気持ちに寄り添い、ずっとそばで支え続けたいと思っているし、時にはアルベールの要請を受けて治療魔法を使う時もある。
ロータスたちと暮らしていた頃から、ヴィクトリアとアルベールは獣人だとばれないように、姿替えの魔法などを使って容姿を目立たせないように細工していたが、愛称だけは同じになるようにと「アルフレッド」と「ヴィヴィアン」という偽名を使って生活していた。
ただアンジェだけは、「鏡を見ると容姿が変わっているという現象は、成長期の心に良くない」とマグノリアから聞いていたため、カナリアと同じように、獣人的な美しさを隠すことなく、そのままの見た目で生活をさせていた。
娘のこれからについては、親としてしっかり考えていかなければとヴィクトリアは思っている。
ヴィクトリアとアルベールは覚悟して人間に擬態し、人間社会で生活することを選んだが、ヴィクトリアはアンジェにも同じ業を背負わせるのは、どうなのだろうと思っている。
現在のアルベールは居住地の村にいなくてはならない存在になっているので、彼はここから離れることは全く考えていないようだし、ヴィクトリアもそれは同じなのだが、もし、成長したアンジェが望めば、獣人の里に戻すことも一つかと思っている。
アンジェもヴィクトリアと同じように魔法が使えれば、人間社会でも何とか生きていけるのではと考えたこともあったが、マグノリアに「視て」もらった限りでは、残念ながらアンジェに魔法使いの素養はないらしい。
「そんなに深く考え込まないで。先のことなんてまだわからないんだし、なるようになるさ。
アンジェのことは俺も命懸けで守るし、天使が増えた方が俺も嬉しい」
ヴィクトリアはアンジェに兄弟を作ってやりたいと思いつつも、二人目の妊娠に踏み切れないでいたが、真面目な思考に陥りがちなヴィクトリアの心を軽くするべく、アルベールは言葉をかけてくれた。
「子供のことは一人で背負い込まないで二人で考えよう」と言われ、昔に比べればとてつもなく優しくなったアルベールを前に、ヴィクトリアは彼と番になって本当に良かったと、心から思った。
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ヴィクトリアの第二子妊娠が発覚した頃に、アンジェに新しい友達ができた。
それは公爵家の跡取りだという、アンジェと同じ年の黒髪の幼児で、彼は何と魔法が使えた。
出会いは偶然で、たまたま公爵家の次期当主一家が近くを移動中に、その次期当主夫妻の長男が熱を出して倒れ、急遽アルベールの元へ運ばれてきた。
彼はすごい高熱を出してうなされていたが、翌朝には熱が嘘のように、ケロリと回復していた。
念の為もう一晩泊まって様子を見た後に、次期当主一家は村を去ったが、滞在中に子供同士で意気投合していて、アンジェはその彼ととても仲良くなっていた。
数日後、高熱がきっかけで魔法の力に覚醒したというその公爵家令息が、転移魔法でヴィクトリアたちの家を訪ねてきた。
彼がやたらとアンジェに会いに来るので、「悪い虫が付いた!」とアルベールは警戒するようにもなった。
数年後、公爵家から彼とアンジェの婚約の打診が来てしまって、ヴィクトリアは頭を悩ませ、アルベールは即断ろうとしていたが、「私も彼が好きなの」とアンジェに打ち明けられて、薄々勘付いていたヴィクトリアは、やはり頭を抱えた。
アルベールに至っては、「なんでこんなに早くから娘を取られる父親の気持ちを味合わないといけないんだ!」と大号泣していた。
婚約了承を渋る両親を説得しようと公爵家令息がやってきた際には、アルベールは久しぶりに乱れた情緒になってしまい、「帰ってくれ!」と、相手は貴族なのにも関わらず、思わず叩き出してしまっていた。
――――そして、普段は貴族らしく丁寧な言葉遣いをしている彼が、家の外に出された後に、玄関の扉を困ったように見つめながら、
「俺の娘をもろてるくせに、自分は娘をやりたないなんて、そんなん不公平や……」
と、思わず出てしまったという調子の特徴的な抑揚でぼやいていたことは、ヴィクトリアはのちのち『過去視』で知る。
最終的に追い詰められた彼が、「実は私には前世の記憶があります」と話し出したことで、三人目妊娠中のヴィクトリアが、その内容に驚きすぎて産気付き、てんやわんやな大騒ぎになっていくのだが――――
それはまた別の話。
【アルベールハッピーエンド 了】
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お読みくださりありがとうございました。
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