あなたの処女、頂きます

鈴田在可

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あなたの処女、頂きます

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「しかし、重大な問題があります。端的に言うと、時間がありません。

 このまま一ノ瀬さんの異常を放置した場合、あなたはあと数時間で、狂人になります。漢字で書くと、「狂った人」ですね。気が狂っておかしくなります」

「えっ?」

(あと数時間で?)

「狂人ではなくて怪人になることもあります」

「怪人」と言われた梓は、子供の頃に見た特撮ヒーローものの、やられ役であるモブ悪怪人みたいな人を想像した。それで合っているかわからないが、とにかく「人間辞めたようなヤバイ感じの人になる」というニュアンスは理解した。

「先ほどF機関は異常事態を数値化することに成功したとお伝えしましたが、一ノ瀬さんの数値が、あまりにも途方もなく悪すぎるんです。正常値に比べて桁が三つくらい違っていて、本当に今すぐ何とかしないと、大変なことになります」

「た、助けてください九条さん! 私、怪人には絶対になりたくないです!」

「もちろんです。F機関としても、狂人や怪人の類を増やすわけにはいきませんので」

 颯真はそう言うと黒スーツの内ポケットからとある物体を三つほど取り出した。手の平にすっぽり収まるくらいのサイズの、正方形の平たい袋の中に、丸っこい窪みが見えた。梓も見たことがある物体だ。

 というか、兄が恋人の七瀬と致していた時に、開封済の袋がベッド脇に落ちていたし、何なら装着中の状態も目撃済みである。

「それは…… コンド「いいえ、『家族計画型F.R.A.M.E.フレーム』です」

 梓の言葉の途中で、颯真が食い気味に被せてきた。

「でも、どう見てもコ「いいえ、『家族計画型F.R.A.M.E.』です」

 颯真はどうあってもそれをゴム的避妊具とは認めたくないらしい。

「『感染症予防型』とかの名前では駄目だったんですか?」

 梓も梓で発情状態により頭がぼーっとしていて、する必要がなさそうな質問をしている。

「それでも良いのでしょうが、以前これを開発した者が『こちらの方が夢がある』と言っていたそうです。
『淫夢』は過去にもデータがあって、今回はそれを元に急遽『F.R.A.M.E.』を製作することができました。
『F.R.A.M.E.』を使えば、『神隠しの部屋』の影響も排除できるはずです」

 そこで梓は、重要なことに気が付いた。

「あの…… その…… 『使う』っていうのは、そのコン…… じゃなくて、『家族計画型F.R.A.M.E.』を使って、現実世界でセックスするってことですか?」

「その通りです」

 ガガーン、と梓は衝撃を受けた。しかし心とは裏腹に、梓の下腹部はキュンキュンと疼きを増し、『早く使って♡』と訴えていた。

 怪人になるくらいならば脱処女の方がマシかと梓は腹をくくった。

「わかりました…… 頑張ってみます」

「では、早急にお相手の方を呼んでいただけますか? 『F.R.A.M.E.』には発動の手順があって、それをレクチャーしなければいけないのと、一般の方が『F.R.A.M.E.』を使用するには制限があって、いくつか書類にサインを頂かねばなりません」

「…………いないです。私、夢の中以外では一度もそういうことをしたことがなくて…… あえて言うなら、冷蔵庫の中の野菜とこれから恋人になります」

 場に沈黙が降りた。梓は恥ずかしくて颯真の顔を見られず、自身に掛けられていたタオルケットを引っ張り上げて顔を隠した。

(確かニンジンがあったはず…… でもあれは結構太かったから、痛そうかも…… キュウリはイボイボがあるから心配だけど、皮を剥けば大丈夫かな?)

「私では駄目でしょうか?」

 どの野菜にするか熟慮していると、そんな声が聞こえて、梓はパッとタオルケットから顔を出した。

 颯真は先ほど会話していた時とほぼ変わらない無表情だったので、梓は幻聴を聞いたのかと思ったが、幻聴ではなかった。

「私では駄目ですか?」

「駄目じゃないです!」

 颯真に提案されたと理解した瞬間、梓は即OKの返事をしていた。

 初体験でイケメンに抱いてもらえるならそれで良いと思った。少なくとも野菜よりは良い。
 


「では、あなたの処女、私が頂きます」



 宣言と共に颯真の顔が近付いて来たが、これまで全く動かなかった表情筋が目の前で動いたことに、梓は驚き、固まった。

 颯真の綺麗な微笑みから目を離せずにいると、さらに距離が縮まる。目を見開いたままの梓は、目を閉じた颯真に唇を奪われた。

 キスは夢の中で兄や雅悟ともしたが、現実世界では一度もしたことがない。

 それが真実、梓のファーストキスだった。


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