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いつかの約束(報告書2)
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【報告職員名】九条 颯真
【報告本文】
報告書番号F-r1756799035-12についての追加報告です。
二階堂家の家政婦、一ノ瀬梓を調査した結果、彼女が「淫夢」の異常事態を身に宿していたことが分かりました。
当初は、キリスト教の「七つの大罪」が名付けの由来であり、死亡することもある例の厄介な「色欲」の異常ではないかと警戒していました。
しかし、監視続行下における一ノ瀬梓の行動に、「色欲」に由来するような異常行動は見られませんでした。
一ノ瀬梓本人から淫らな夢に悩まされていると話があり、念のためと支給されていた「家族計画型F.R.A.M.E.」にて適切に処置したところ、彼女の「淫夢」は完全に終息しました。
≪補足≫
今回の異常では、淫らな夢を見るだけではなく、歩行困難などの身体的異常も確認しました。
通常、「淫夢」は異常数値が基準値を超えない場合もあり、他の異常事態に比べれば穏やかな異常とも言えますが、今回の「淫夢」のケースでは、日常生活が困難になるほどの身体的な悪影響が出ました。
一ノ瀬梓は二階堂邸の「神隠しの部屋」発生時に、邸宅に滞在しています。それを踏まえて、「『神隠しの部屋』の異常が『淫夢』の異常効果を増幅させた」という評価が、分析チームの最終判断です。
《終息後》
「淫夢」の原因は現実世界の欲求不満ですが、現在の一ノ瀬梓は日々満ち足りた生活を送っていて、欲求不満に悩まされることは一切ない様子です。毎日幸せだと言っています。
これから先、一ノ瀬梓が再び「淫夢」に囚われ、異常を宿した人間の末路である「狂人」や「怪人」に変化することは、絶対にないでしょう。
白いタキシードに身を包む新郎は、ようやく漕ぎつけた今日の良き日に、とても満ち足りた表情をしている。
それを見つめる梓も、とても幸せな気持ちになって、これまでの兄の道のりを思い、まだ式が始まったばかりだというのに、ハンカチ片手で目に涙を浮かべていた。
「まだ泣くのは早すぎるよ」
兄煌人の新郎姿と、その結婚相手である七瀬の美しいウェディングドレス姿を交互に眺めて、感動の涙を流しかけている梓に、定番の黒スーツ姿だけど、ネクタイだけはいつもと違う白に変わっている隣の颯真が、声をかけてきて、自分のハンカチでそっと涙を拭った。
天候に恵まれた大安吉日に、梓の兄とその恋人の七瀬は、ステンドグラスの素敵な白い教会で、結婚式を挙げた。
兄に恋をしていた頃は、こんなに祝福に満ちた気持ちで兄の結婚式を見届けることなんてできないと思っていたが、今では真実、兄には幸せな結婚をしてほしいと心から願っているし、ちゃんとした妹として、兄の人生の門出を見送ることができると思っている。
すべては、あの日に恋に落ちた、隣にいる颯真のおかげだ。
もしもあの日、颯真が「淫夢」の異常事態に気付かなかったとしたら、きっと自分は今頃、「おっぱい怪人アズーサ」とか名乗る怪人になって、人間辞めたような身なりや言動で式を滅茶苦茶にぶち壊して、色々と終了していたかもしれない。
自分を助けてくれて、告白までしてくれて、色んな初めてをくれた颯真は、梓の大好きで大切で最愛の人だ。
本日は兄たちの結婚式だが、梓だって、今すぐ颯真に永遠の愛を誓いたいくらいに、彼のことが大好きだ。颯真への愛は、何があっても永遠に変わらないと思う。
「七瀬さん、とっても綺麗……」
新婦入場の最中に拍手を送りながら、梓が純白のウェディングドレス姿を見つめて感嘆のため息をついていると、颯真が耳元に唇を寄せてきた。
「いつか着せるから」
見れば、キスでもしそうなほどに近い颯真の秀麗な顔が微笑んでいる。
梓は颯真の大好きなその笑顔にいつだってドキドキするし、「約束」を告げたその言葉を聞けば、全身から幸福感が溢れてくるのがわかった。
眼鏡を外してコンタクトにした梓の顔にも、自然と笑みが生まれる。
まだ二十歳そこそこである二人の間に、結婚の話は具体的には出てないけれど、梓は颯真が自分と同じ気持ちであることが、とても嬉しかった。
教会の椅子に座った梓と颯真は、お揃いの指輪をはめた手を握り合い、お互いを思う温かな気持ちを胸に宿しながら、式の行方を見守った。
***
これにて完結です。続き書くかもしれませんし、企画用に別の作品出すかもしれませんが、色々未定です。
お読みくださりありがとうございました!
◆マーブルクラフト公式より
「報告書番号F-r1756799035-12」を使いました。
【報告本文】
報告書番号F-r1756799035-12についての追加報告です。
二階堂家の家政婦、一ノ瀬梓を調査した結果、彼女が「淫夢」の異常事態を身に宿していたことが分かりました。
当初は、キリスト教の「七つの大罪」が名付けの由来であり、死亡することもある例の厄介な「色欲」の異常ではないかと警戒していました。
しかし、監視続行下における一ノ瀬梓の行動に、「色欲」に由来するような異常行動は見られませんでした。
一ノ瀬梓本人から淫らな夢に悩まされていると話があり、念のためと支給されていた「家族計画型F.R.A.M.E.」にて適切に処置したところ、彼女の「淫夢」は完全に終息しました。
≪補足≫
今回の異常では、淫らな夢を見るだけではなく、歩行困難などの身体的異常も確認しました。
通常、「淫夢」は異常数値が基準値を超えない場合もあり、他の異常事態に比べれば穏やかな異常とも言えますが、今回の「淫夢」のケースでは、日常生活が困難になるほどの身体的な悪影響が出ました。
一ノ瀬梓は二階堂邸の「神隠しの部屋」発生時に、邸宅に滞在しています。それを踏まえて、「『神隠しの部屋』の異常が『淫夢』の異常効果を増幅させた」という評価が、分析チームの最終判断です。
《終息後》
「淫夢」の原因は現実世界の欲求不満ですが、現在の一ノ瀬梓は日々満ち足りた生活を送っていて、欲求不満に悩まされることは一切ない様子です。毎日幸せだと言っています。
これから先、一ノ瀬梓が再び「淫夢」に囚われ、異常を宿した人間の末路である「狂人」や「怪人」に変化することは、絶対にないでしょう。
白いタキシードに身を包む新郎は、ようやく漕ぎつけた今日の良き日に、とても満ち足りた表情をしている。
それを見つめる梓も、とても幸せな気持ちになって、これまでの兄の道のりを思い、まだ式が始まったばかりだというのに、ハンカチ片手で目に涙を浮かべていた。
「まだ泣くのは早すぎるよ」
兄煌人の新郎姿と、その結婚相手である七瀬の美しいウェディングドレス姿を交互に眺めて、感動の涙を流しかけている梓に、定番の黒スーツ姿だけど、ネクタイだけはいつもと違う白に変わっている隣の颯真が、声をかけてきて、自分のハンカチでそっと涙を拭った。
天候に恵まれた大安吉日に、梓の兄とその恋人の七瀬は、ステンドグラスの素敵な白い教会で、結婚式を挙げた。
兄に恋をしていた頃は、こんなに祝福に満ちた気持ちで兄の結婚式を見届けることなんてできないと思っていたが、今では真実、兄には幸せな結婚をしてほしいと心から願っているし、ちゃんとした妹として、兄の人生の門出を見送ることができると思っている。
すべては、あの日に恋に落ちた、隣にいる颯真のおかげだ。
もしもあの日、颯真が「淫夢」の異常事態に気付かなかったとしたら、きっと自分は今頃、「おっぱい怪人アズーサ」とか名乗る怪人になって、人間辞めたような身なりや言動で式を滅茶苦茶にぶち壊して、色々と終了していたかもしれない。
自分を助けてくれて、告白までしてくれて、色んな初めてをくれた颯真は、梓の大好きで大切で最愛の人だ。
本日は兄たちの結婚式だが、梓だって、今すぐ颯真に永遠の愛を誓いたいくらいに、彼のことが大好きだ。颯真への愛は、何があっても永遠に変わらないと思う。
「七瀬さん、とっても綺麗……」
新婦入場の最中に拍手を送りながら、梓が純白のウェディングドレス姿を見つめて感嘆のため息をついていると、颯真が耳元に唇を寄せてきた。
「いつか着せるから」
見れば、キスでもしそうなほどに近い颯真の秀麗な顔が微笑んでいる。
梓は颯真の大好きなその笑顔にいつだってドキドキするし、「約束」を告げたその言葉を聞けば、全身から幸福感が溢れてくるのがわかった。
眼鏡を外してコンタクトにした梓の顔にも、自然と笑みが生まれる。
まだ二十歳そこそこである二人の間に、結婚の話は具体的には出てないけれど、梓は颯真が自分と同じ気持ちであることが、とても嬉しかった。
教会の椅子に座った梓と颯真は、お揃いの指輪をはめた手を握り合い、お互いを思う温かな気持ちを胸に宿しながら、式の行方を見守った。
***
これにて完結です。続き書くかもしれませんし、企画用に別の作品出すかもしれませんが、色々未定です。
お読みくださりありがとうございました!
◆マーブルクラフト公式より
「報告書番号F-r1756799035-12」を使いました。
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