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いかせないよ、シーラ (坊ちゃま視点)
おまじない
お昼ご飯を食べた後、劇場へ行って「身分差の恋」を題材にしたお芝居を観て、その後喫茶店でお芝居の感想を言いあったりなんかした後、夕食も食べて……。
「今日は大変な一日だったな」
「そうですね、急に襲われるし」
「結局、警備隊のとこまで事情の説明にいかなきゃいけなくなるしね」
「……ええ、本当に」
今はキースん家の馬車の中で、疲れて眠ってる兄上を起こさないように3人でコソコソ話す。
「荷物どうやって運ぶかなぁ……」
「あ、お手伝いしますよ」
「うん、荷物は任せて。キースは兄上を」
「悪いな、頼む」
思った通り、シーラが手伝うと言ってくれた。
これで予定通り、シーラに怪しまれないで、兄上に呪いをかけてキースと二人きりにする事ができる。
「……」
キースは緊張しているのか、少しだけ震える手で兄上にそっとブランケットをかけて抱き寄せた。
「今日は有難うな、二人とも」
「ううん、僕も兄上に息抜きさせられて良かった。
頑張り過ぎは良くないもん、ね?シーラ」
「ええ、適度に休む事も大事ですから」
シーラが自分のことを棚に上げてそんな事を言う。
本人にしたら、あれで適度に息抜きしてたつもりなのかもしれないけど……
ま、いいか。
これからは僕がいるんだから。
***
本人の許可なく部屋に入るわけにはいかない、と言って、キースは兄上を自分の部屋に運んだ。
「それじゃ、兄上のお呪い解除するね」
「ああ、頼む」
なんてね。
もう怪我除けのお呪いは切れてる。
だから今から掛けるのは……
「……『クリムト兄上が、今より少し欲望に素直になれますように。
……クリムト兄上の心が、今より少し大胆になりますように』」
セイなる呪いの、一番軽いやつ。
即効性はあるけど、ちょっとエッチな気分になるだけのお呪い。
「……『クリムト兄上が、しがらみを捨てて自由に温もりを求められますように』」
長い長い、お呪いの言葉。
軽いやつの方が長いって不思議だよね。
「……兄上、幸せになってね」
兄上の体が少しだけ光って……そして、静かにそれが染み込んでいった。
「……うん、これで、いい。
キース、兄上の事、よろしくね」
「ああ、ありがとな、モートン。
シーラも……また、明日」
この後、兄上が目を覚ませば、きっと……。
「さ、行こうシーラ。
早くしないと、出られなくなるよ」
「……はい」
僕はシーラの手を引いて、キースの部屋を出た。
そうして正門を出るまで、静かに……
「……モートン様」
「なあに、シーラ」
「さっきの、……
いや、何でもありません」
正門で待ってる、キースん家の馬車まで歩いて、それに乗って僕らの部屋に帰る。
ベッドが一つしかない、あの部屋へ。
「シーラは、まだ兄上の事、好き?」
心臓がドキドキいう。
シーラはあれが「解除」じゃない事に気付いてる。
気付いても、何も言わない。
ということは、兄上がキースのものになってもいいと思ってるって事で間違いない……
「ええ、好きですよ。
モートン様もクリムト様の事がお好きでしょう?」
「……そういう意味の、好きなの?」
「ええ、決して他意はございません」
「そう……良かった」
ちゃんと、あってた。
シーラは兄上の事が好き。
だけどそれは、ただの好き。
僕のシーラへの好きは……違う。
「僕は、シーラの事も好きだよ」
「……ありがとうございます」
「シーラの事、ずっとずっと好きだよ」
「10歳からずっと、一緒にいましたものね」
「その頃からずっと、シーラが好き」
そう、真っ暗な夜、手を繋いで、屋敷から抜け出して。
一緒に馬車を待つ時も、馬車に乗ってる間も、手を繋いで、でも。
もう、手を繋ぐだけじゃ足りない。
「好きだよ、シーラ」
「……坊ちゃま?」
貪欲で、強欲で、他の誰にも向けられない、好き。
「ねえ、シーラ。
さっきのお呪いの事、知ってる?」
「っ、いいえ、その、ただ、解除ではないなと」
「……そう」
ばれたからって計画を変更する気はない。
今諦めたら、次は永遠に訪れない。
「あのお呪いで、兄上はキースの本当の心を知るんだ。
キースが本当はどれだけ一途に兄上を愛してるかを、身をもって知る」
「……そう、ですか」
シーラの表情は、読めない。
きっとどんな顔をしたらいいか分からないんだ。
シーラはいつも、表情から感情が伝わるように、僕に接してくれた。
その癖はいまもずっと残ってる……
それは子ども扱い、だ。
でも、今は違う。
感情を隠そうとしてる。
あのお呪いを知ってる事、隠そうとしてる。
何でだかは、分からないけど……。
「シーラの気持ち、知りたい……けど。
シーラにも、僕のきもち、分かって欲しい」
「……?」
そう、僕はもう大人だ。
ダンジョンだって一人で行ける。
お金だって稼げてる。
冒険者ランクだって、もうすぐAになる。
頑張ってSランクになれば、権力だって手に入る。
「だから、シーラにも同じお呪いをかける」
「……え?」
「……『シーラが、素直になれますよう』……、
……『彼の本能よ、その身体に火をつけて』」
「ちょっと、やめてください、坊ちゃま!?」
「……『今まで隠して吐き出したその欲望を、我の前に晒し……求めよ、熱を』」
「坊ちゃま、あ!!」
シーラの身体が、桃色の光に包まれる。
さっきのお呪いとは、少し違うお呪い。
2番目に弱い、お呪い。
「いけません、いますぐ解除を、」
「嫌だ」
「何で!!?」
「シーラの事、好きだから」
「坊ちゃま!!」
シーラが僕につかみかかる。
でもね、ほら……もう、効いてきた。
「ぼっちゃ、ま……おねが、」
「だめ、シーラが悪いんだから」
「は、なんで、おれ……」
「僕が幸せになるまで一緒って言った。
なのに、幸せになる前に、離れた。
約束を破った、だから悪い」
「……そ、れはっ……!」
シーラの手から力が抜ける。
後ろへ倒れそうになるのを抱きよせて耳元で囁く。
「大丈夫、もうすぐ家につくから……ね?」
「ぼ、」
「だめ、モートン、って呼んで?」
「……何で」
「好きだから。
シーラの事が好きだからだよ、シーラ」
「な……、ん、で……?」
何でかって、部屋に戻ったら教えてあげる。
どうしてシーラが好きなのか。
どれぐらいシーラが好きなのか。
その体に、刻みつけてあげる……。
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